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 ←これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー 平成二十五年八月号 →Journey through the Decade Re-mix 第九話 「警告:カブト暴走中」 フェーズ2
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「二次創作」
エコテロリストプリキュア!

『ハートキャッチプリキュア!』二次創作 エコテロリストプリキュア! 2/4

 ←これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー 平成二十五年八月号 →Journey through the Decade Re-mix 第九話 「警告:カブト暴走中」 フェーズ2
 続きました。
 前回分に比べて文章量はかなり多めです。

・AM.08:20

 此処は何処だ。富士の樹海か、南アメリカの奥地か。天変地異の前触れか。地方都市の一角・希望ヶ丘の街は僅か数十分で怪植物に乗っ取られ、パニック映画の撮影風景と見紛うばかりの光景を呈していた。
 太く強く生長した木の根や蔓《つる》に足を取られ、逆さ吊りにされる者。宿り木に精気を吸われ、蒼い顔で呻き声を上げる者。保健所から脱走した、伝染病持ちの動物たちに追われ、ただただ逃げ回る者。皆一様に助けを求め、代わる代わる声を上げる。市民を護るべき警察や消防は、詰所を木の根に潰され、鎮圧に使えるだけの力は残されていない。
 誰も彼もがさじを投げる危機的状況の中、果敢にも木の根や動物たちに立ち向かう者たちが居た。彼女たちの名は「プリキュア」。かつて悪の組織から地球を守り抜いた四人の英雄だ。

※※※

「あぁーっ、もう! 次から次へとキリがない!」
「弱音を吐かないでくださいマリン、私たちが居なくなったら、誰が皆を護るんですか!」
「うぅ……」
 つぼみとえりか――キュアブロッサムとマリンは、希望ヶ丘の住宅街に降り立ち、蹂躙する植物たちを抑え付け、逃げ遅れた人々の救助を行っていた。
 彼女たちは空から希望ヶ丘の街を見下ろし、その様相に唖然とする。本来木の根を地下に押し留める筈のコンクリートは、その木の根によって微塵に砕かれ、地面の養分だけでは物足りないと人を喰い、車や家屋に巻き付いて圧し潰していた。
 これだけでも十分な脅威であるが、街を襲う災厄はそれだけではない。植物たちから逃げ延びた人間たちを、今度は犬猫などの動物の群れが彼らを襲う。野良だったところを捕縛されて保健所に押し込められ、引き取り手が来るのを待つか、口減らしに屠殺《とさつ》されるかを待つ者たちだ。
 噛みつかれるだけならまだいい。保健所には病気にかかって隔離された犬猫だっているのだ。それが致命傷に至る場合だってある。植物から逃れた人々が野犬たちに追われ、再び植物に囚われる。今とはなっては、ただの人間に逃れる術はない。
 攻撃範囲に秀でるブロッサムが浄化技で植物や動物たちを散らし、小柄で機動力に優れるマリンが、萎れた草木の中に潜り込んで人々を救い、視界の開けた大広場へと誘導する。
 浄化の力で植物たちが大人しくなるのは良いが、敵の数はあまりに多く、こちらはあまりに少ない。人々を助けても避難場所や病院などに連れて行く事が出来ず、増え続ける暴走動植物に対し、何の対策も立てられずにいる。人を救えば救うほど、未解決の問題は山のように積み重なり、二人の双肩に重くのし掛かる。そうした見えない疲弊に気付いのか、木の根や枝は住宅地を去り、一様にどこかを目指して動き出した。
 最初に異変に気付いたのはブロッサムだ。草木の数が減り、住宅街が開けて行く。人命救助をする身としては楽で良いのだが、直接攻撃を受けていない植物たちまで勢いを失ったとなると話は別だ。
「マリン、マリンーッ」声を張り上げ、横転した乗用車の中に潜るマリンを呼ぶ。後部座席のドアを開けるのに四苦八苦しており、ブロッサムの声など聞こえていないようだ。
 仕方無くドアを腕力任せに引き千切り、中のマリンと取り残された人々を引っ張り上げる。ブロッサムの大胆な行動に、車内で苦心していたマリンは目を丸くした。
「ちょっとあんた、何やってんの!? 下手すりゃ弁償モノよコレ!」
「今はそんなこと言ってる場合じゃありません。見てくださいマリン、草木たちがここから一気に姿を消しているんですよ」
「いや、それがあたしたちの目的でしょ? なったんなら万々歳じゃない」
「大人しくしていたなら私だってそう思いましたよ。けれど、あの勢いを保ったままどこかに移動するってことは……」
 そこまで言いかけ、ブロッサムは恐怖に顔を引き吊らせる。植物たちの一団が向かっていたのは他でもない、彼女たちが人々をひとまず避難させた大広場だったのだ。
 これまでの無差別攻撃で希望ヶ丘は大きなダメージを受けた。この先意味無く街を破壊するより、生き残って一ヶ所に集まった人々を襲う方が効率的だ。理に叶っている。
 何故それほどまでに人間を憎む。何故襲う。答えは出ないが、熟考している暇はない。木の根や枝は一つにまとまり、「拳」を象った姿に変貌したからだ。成程、植物が車を潰したカラクリの正体か。マリンは車の中に居るうえ、負傷者を両手に担いでいる。ここは自分が動く他無い。ブロッサムはココロパフュームに赤色の種を填め込んで、自身の体に吹き付けた。
「レッドの光の聖なるパフューム! しゅしゅっと気分でスピードアップ!」
 ブロッサムの体が赤く輝き、風をも追い越す速度で地を駆ける。あっという間に植物の拳の元へと辿り着き、それを受け止めた。
「こん……のッ!」両の手に浄化の力を込めて受け止めるが、ブロッサム一人では巨大な拳を御し切れない。膝が折れ、徐々に体が沈んで行く。
「よっ、と! お待たせ、ブロッサム!」
「マリン!」
 そこにマリンが飛び込み、巨大な拳を二人で支える。安定はしたが、押さえ込んでいるだけで根本的解決には至らない。しかも拳を構成する草木の一部が本体から剥離し、逃げる人々を取り囲んで拳の射程範囲内に押し戻している。自分たちは拳を押し留めるだけで手一杯だ、逃げた人々を助ける余裕は無い。
「こうなったら……、行きますよ、マリン!」
「合点承知!」
 ――プリキュア……大爆発ーッ!
 浄化の力が身体中の毛穴の先から放たれ、強大な光となって彼女らの周囲を蒼と桃色に染め上げる。浄化の力の奔流は拳型のものも、逃げた人々を襲う者も全てひっくるめて包み込み、草木から戦意を奪って大人しくさせた。
 二人のプリキュアは疲れたと息を吐き、腰を下ろしてその場にへたりこむ。
「危ないところでした……。まさか、みんなが一ヶ所に集まった所を狙うだなんて……」
「でも、これではっきりしたね。植物たちを操ってこの街を襲わせてるやつは別にいる。逃げた所を一網打尽なんて、やり口が汚いにも程がある! 海より広いあたしの心も、ここらが我慢の限界よ!」
「ですね。しかし……」
 ブロッサムは不安げな顔で目の前にあるものを見据える。先程までこの場に集まっていた一団は、かの大爆発で戦意を削がれたものの、力の奔流を感じ取った他の植物たちがこの場に集結しつつあったのだ。
 再び大爆発で蹴散らすか。否、大爆発は消費が激しく、連続して放つのは厳しい。加えて自分たちの背後には大勢の希望ヶ丘市民が居る。大爆発を行使して体力が尽きた時、誰が彼らを護るのか。
 止むことの無い増援に、二人のプリキュアは窮地に追い込まれる。しかし彼女らには二つの奥の手があった。一つは大爆発の放った輝きが一筋の光となり、一種の道標となったこと。そしてもう一つ、自分たちにはもう二人、心強い仲間が居ると言うことだ。

 ――サンフラワー・イージス!
 向日葵《ヒマワリ》の花を象った光が広場を覆い尽くし、人々には安堵と希望を与え、植物たちからは戦意を奪って沈黙させる。
 腹部の大きく開いた絢爛な衣装を身に纏った少女は、向日葵の光で落下の勢いを殺し、腰近くまで伸びた金色のツインテールを軽く揺らして広場に降り立つ。陽の光浴びる一輪の花――三人目のプリキュア・サンシャインだ。
「お待ちしていましたサンシャイン。あなたも無事で本当に良かった……」
「んもー、サンシャインったら遅すぎぃ。こちとらもうへっとへとなんだよぉ」
 二人の顔や口振りに驚きは無い。街の一角で大爆発の光を目にしたのなら、必ず此処へ駆け付けてくれると踏んでいたからだ。サンシャインは頭を下げて平謝りをすると、ブロッサムたちが助け出した人々に目を向ける。
「商店街の人たちは皆学校の体育館まで避難させたわ。住宅街の方はどう?」
「彼らで全員の筈です。私たちは事態の収拾に動きたいのですが、あなたには」
「分かってる。避難誘導は私に任せて。街の人たちを送り次第合流するわ」
「助かります。くれぐれも用心してくださいね」
「あなたたちもね」
 やりとりを手短に済ませ、サンシャインは向日葵の光《サンフラワー・イージス》で人々を囲って動き出し、ブロッサムとマリンは未だ暴れ狂う植物たちの鎮圧に乗り出す。自信の周囲十数メートルまで張り巡らされた光なら、暴走する植物たちの力を寄せ付けないと踏んでの判断だ。
 これで全てが上手く行く。ブロッサムがそう思った矢先、広場の遥か遠方にて、爆発音と共に灰色の煙がもうもうと上がった。
「何よ、また爆発!?」もううんざりだとでも言いたげな顔をし、煙の上がった先を見つめるマリン。しかしその場所に取っ掛かりを覚えた瞬間、彼女の顔から血の気がさっと消えた。
「ちょっと、ちょっと待ってよ……! あの場所って……」
 蒼褪めた顔でわなわなと震えるマリンに代わり、ブロッサムが声を上げる。「うちの、方角……!」
 マリンに遅れて、ブロッサムの顔からも血の気が失せる。まだ自分たちの家のものだと決まった訳じゃない。しかし、キュアブロッサム――花咲つぼみの家は花屋だ。植物たちが暴走して街や人を襲う今、最も危ない場所の一つになっているのは間違いない。
 父や母、産まれたばかりの妹は無事なのか。安否が定かでは無いからこそ、彼女の胸に不安が去来する。
 このままではブロッサムがおかしくなってしまう。マリンは彼女の手を強く握り、向かい合った。
「……この人たちの殿《しんがり》はあたしが引き受ける。おじさんやおばさん、ふたばちゃんを助けてあげて」
「マリン。でも……」彼女の顔だって自分に負けず劣らず苦悶に歪んでいる。不安に押し潰され、いつ泣き出してもおかしくない顔だ。
 この状況だ。自宅付近から火の手が上がって不安にならないわけがない。けれども自分たちには街の人々を護らなくてはならない。超常の力を持った自分たちにしか出来ない、誰にも代われない使命がある。
 キュアサンシャインの円形防護壁、サンフラワー・イージスは確かに強力だ。しかし彼女だって万能ではないし、意識を防御に集中させている以上、何処かに綻びがあれば、あっと言う間に崩されてしまうかもしれない。サンシャインを信じていない訳じゃないが、負傷者を含んだ数十人を連れて逃げる以上、過信や慢心があってはならないのだ。
 そんな状況下に於いて自身ではなく、仲間に救助を嘆願する言葉の意味。ブロッサムはそれを「皆を無事連れ帰ってきて欲しい」と受け取った。
「必ず皆助け出して戻ります。信用してください」
「モチのロン! 早いとこお願い!」
 大丈夫、皆はきっと生きている。ブロッサムは歯を食い縛り、泣きそうになるのを必死に堪え、先のレッドの種をパフュームに填め込んで体に吹き付けると、自宅に向かって超高速で駆け出した。

※※※

・AM.8:50

 父は、母は、妹は無事なのか。友の両親は生きているだろうか。考えれば考える程、頭の中で醜悪なイメージが渦を巻く。皆無事だ。あれはただの小火だ。皆が死んでいるわけがない。口に出して呟き、不安を紛わせつつ先へ進む。
 レッドの種の力を得たキュアブロッサムは、全速力のレーシング・カー並みの速さで街を駆け、自宅である『フラワーショップHANASAKI』へとひた走る。途中一軒家の瓦を踏み抜き、方向転換の時に握った電信柱を何本かお釈迦にしてしまったが、気にしている暇はない。そのお陰か全速力のブロッサムが家に帰り着くまで、二分と掛からなかった。

 現実とはいつも辛く苦しいものだ。手に手を取って悲しみを分かち合う者が居ない今のブロッサムに、現実は容赦なく圧し掛かる。彼女の目に映ったのは、何とも知れない植物に食い破られ、小さく火の手をあげる自宅の姿であった。
 床を突き抜けて伸びた強靭な木の根が縦横無尽に飛び回り、家の内と外からめちゃくちゃに壊している。鉢に入れられた花は植物たちによって地中に戻され、切り揃えて袋に詰められたものは、外から伸びた蔓に絡め取られ、養分を吸われて干からびていた。
 想像以上に凄惨な光景を目にし、ブロッサムは声が出ず、自らの肩を抱いてその場に立ち尽くす。加速によって生じた疲労が、遅れて身体中に充満して行く。
 だが、そこで立ち止まる訳には行かない。キュアマリン――来海えりかは、自分のことを信じて送り出してくれたのだ。ブロッサムは拳を握って歯を食い縛り、荒れ果てた我が家に足を踏み入れた。

 至る所に木の根や蔓が伸びており、家財道具の多くが壊されているが、不思議なことに店先の花たちには何の被害も無い。妙だとは思ったが、熟考している暇は無い。彼女の良く知る人物が居間の中で木の根に絡め取られ、蒼褪めた顔をしていたからだ。
「お父さん……!? 待っててください、今助けます!」
 ブロッサムは掌に集めた浄化の力で木の根を緩ませ、父の体から無理矢理に引き剥がす。助け出すのは容易であったが、長い時間強い力で締め付けられていたのだろう。縛られた跡が蒼く変色しており、呼気も相当に荒くなっている。
「お父さん、目を覚ましてください、お父さんッ!」
 自身が「変身」していることすら忘れ、ブロッサムは父の体を激しく揺する。見た目より酷い症状ではなかったからか、揺すられて苦しかったからなのか定かではないが、父は目を覚まし、娘のコスプレ姿を目の当たりにする。
「うぅ……つぼみ、か?」
「はい、そうです! 私は……」そこまで言いかけ、自分がプリキュアに変身していたことに気付き、目を白黒とさせるブロッサム。プリキュアの正体は暗黙の了解で仲間以外の周囲には隠しておく必要があるからだ。尤も、ばらした所でどのようなペナルティが課されているかなど、変身している当人たちには知る由も無いのだが。
「えっと、あの……」
 勢いに任せてばらすべきか、適当に理由をつけて誤魔化すべきか、ブロッサムは視線を辺りに彷徨わせ思案する。しかし当の父は、彼女の姿など気にも留めず、うわ言のように何かを呟く。
「店先の花が心配になって出てきたらこのザマだ。情けないな……。花たちを助けるどころか、実の娘に助けられてるんじゃあなあ……」
「……」どうやら、意識が朦朧としており、自分を「つぼみ」としか認識していないらしい。ばれていなくてほっと胸を撫で下ろすが、安心してばかりもいられない。
「そうだ……、お母さんとふたばは、何処にッ」
「希望ヶ丘総合病院だ。ふたばの検診の日だったからな……、混むと行けないと7時半前には送迎バスに乗って行った筈……」
「バス……ですか」7時半頃と言えば、えりかと共にガーデニング部の花壇の水やりをやっていた時間だ。あの時街には何の変化も無かった。バスが定刻通りに着いたのであれば、この騒動に巻き込まれてはいない筈。
「わかりました。取り敢えず家を出て病院に向かいましょう。お母さんたちを安心させてあげなくちゃ」
「そうだな。そうだよな……」
「ちょっとだけ待っていてください、今えりかの家の方も見に行きますから」
 相変わらず朦朧とした意識のままだが、言葉の意味は理解してくれているらしい。のんびりしている暇はない。急がなくては。ブロッサムは抱き抱えていた父の体をゆるりと降ろし、隣に立つフェアリードロップの方に目を向ける。
 ――きゃあああああッ!
 絹を裂くような女性の悲鳴が響き、窓越しに外を見やる。えりかの母、来海さくらが蔓に体を絡め取られ、木の根に二階から放り出される光景が彼女の目に映った。
 二階からの転落なら、通常打ち所が悪くなければ命に別状はない。しかし、手足を絡め取られ、身動きが取れないとなれば話は別だ。受け身も取れずに落ちたとなれば命に関わる。
 しかし今の自分は父親を抱き抱えている身。彼を置いて助けに行っていては間に合わない。ブロッサムは次に起こる惨劇から目を背けてしまう。
「……あれ?」
 芳しき香りが彼女の鼻孔をくすぐり、風に乗った花弁が吹雪のように吹き荒れる。
 気が付くと、来海さくらの体が何者かに抱き抱えられていた。ショート・ボブの黒髪に黒縁眼鏡、詰襟の学生服を纏った細身の青年。大妖精・コッペが人間に化身した姿だ。
「コッペ様!? どうしてここに……あぁいや、ありがとうございます」
 コッペは無表情で何も喋らず、抱き抱えたえりかの母を地に下ろすと、不意に家の外を指差す。ブロッサムは父を居間に寝かせた後、窓からベランダに出てそれを見る。
「なんとか……間に合ったみたいね」
「お祖母ちゃん!」
 そこにいたのは、つぼみの祖母で先代のプリキュアでもある、花咲薫子。彼女がコッペを連れてここまで来てくれたのだろう。薫子は街の方を見回した上でブロッサムの方へと向き直った。
「大分沈静化してきたみたいね。街の人々に替わってお礼を言うわ。ありがとう、つぽみ」
「そんなことより、お祖母ちゃんはどうしてここに」
「植物園から脱け出して来たのよ。園内全ての植物がおかしくなっちゃって、コッペの力を持ってしても逃げてくるのが精一杯だったわ」
「コッペ様にもどうにも出来ないなんて……、原因は何なのでしょう」
「残念ながら分からないわ。誰かが植物たちに力を与えて、人を襲うようけしかけているのは確かなのだけど……」
「けど?」
「大人しくさせてきたあなたになら分かるでしょう? この事件の犯人が植物たちにある『こころ』を刺激し、「怒り」の感情を増幅させたのは間違いない。けど、そこに悪しき力が感じられないのよ。
 気の持ちようだとかそういう問題じゃない、自らが「正しい行いをしている」としか思っていない者の力よ。あなたたちプリキュアと同じ、ね」
「私たちと……同じ」
 ならば何故、こんな惨いことをするのか。分からないが、自分たちの考えの及ばない相手であることは理解出来た。
「理由が何であれ、犯人が誰であれ、こんな横暴を許してはおけません。早く止めないと……」
 ブロッサムが再び気合いを入れ直した瞬間、遠方より響いた奇妙な「感覚」が、彼女の気合いを吹き飛ばした。
 砂漠の使徒やデザトリアンのような悪しき気配ではない。自分たちプリキュアと似た感覚だ。それでいて自分たちとは違う暗くて冷たい感じがする。間違いなく味方のものではない。気配の元を探って周囲を見回す。先程までマリンたちが居た広場の方向から強く感じる。既に「それ」と交戦しているのか? だとしたら助け出した街の人々は無事なのか。何にせよ、見過ごせる事態では無い。
 元・プリキュアである薫子もそれに気付いたのか、ブロッサムと同じ方を見て唇を震わせる。

「お祖母ちゃん、これって……」
「この事件の首謀者のものと見て間違いないでしょうね。陽一と来海さんは私たちが安全な所まで連れて行くから、あなたは」
「分かっています。くれぐれも、気を付けて」
 ブロッサムは思い切り地を踏んで弾みをつけ、元来た道へと取って返した。

◆◆◆

 話は、ブロッサムが自宅へ向かって直ぐまで遡る。友より街の人々の安否を託された二人のプリキュアは、サンフラワー・イージス《防護壁》の使えるサンシャインを前衛にし、殿《しんがり》にマリンを据え、明道院学園への避難を行っていた。
 一刻も早く街を離れたい所だが、事故による負傷者も多く、足並みは彼女たちの思う通りに進まない。
 家は、家族は無事なのか。もしかしたらこの騒ぎの中で酷い目に遭っているのではないか。不安は募るが、それを彼らに悟られる訳には行かない。救助に来た自分たちが不安がれば、たちまち人々の心に不協和が生じる。ただでさえ負傷者だらけだというのに、心まで折れてしまっては目も当てられない。

「おねーちゃん、どうしたの?」
「う……うん!?」
 殿として周囲を見張るマリンに対し、幼稚園児くらいの少女が声をかけてきた。余程不安そうな顔をしているのだろうか。マリンはどぎまぎしつつも居住まいを正し、ぎこちなく笑顔を作る。
「平気、平気! あたしたちプリキュアがついてるんだから安心に決まってるっしょ。ささ、押さない駆けない喋らなーい」
「わたし、何も言ってないのに……」
 こんな子どもまでも不安な気持ちにさせるだなんて、許せない。一刻も早く「犯人」を見つけ出してとっちめなくては。マリンは決意を新たにし、右拳を強く握り締める。

 そんな中、列の最後尾にマリンの見知った顔が現れる。藤色の長髪に銀のドレス、キュアムーンライトだ。
「えりか……、いや、マリン。どうやら無事みたいね」
「それ、こっちの台詞。ゆりさんこそ今の今まで何処に行ってたのさ。いや、ちょっと待ってよ。なんでゆりさんがここにいるの!?」
「希望ヶ丘の駅で木の根に電車を襲われたのよ。電車自体は押し留めたけど、衝撃で大勢の客が怪我をして病院に運ばれて……」
「電車が……?」そこまで言いかけ、マリンは目を見開いてムーンライトに問う。「ちょっと、ちょっと待ってよ! ゆりさんが乗ってた電車が教われてふしょーしゃ大勢ってことは、もも姉は!? もも姉はどうなっちゃったの!?」
「ももか、は……」ムーンライトは苦虫を噛み潰したかのような表情を見せ、辛そうな口調で答える。「ごめんなさい、私が……私がついていながら、あんなことになるなんて!」
「あんなことって何よ! 変にはぐらかさないで教えて! もも姉は生きてるの!? なんでゆりさんが謝るの!」
「お、落ち着きなさいマリン。ももかは無事よ。命に別状はないわ。ただ、電車の横転に巻き込まれて意識が……」
「横転!? 何その訳わかんない状況! っていうか意識無いのもも姉!?」
「だからもう、落ち着きなさい! あなたは今、街の人々を避難させている最中でしょう!」
 姉の危機に困惑し、自身の役割をも忘れ取り乱すマリンと、自分もそのくらい混乱しつつも、彼女を宥めんとするムーンライト。二人の舌戦は、彼女たちの街の人々が突如足を止め、誰一人として前に進まなくなった所でお開きとなった。

「ちょっとォ、何モタモタしてるの? 後ろがつかえてるんだから早く進みなさいよー」
「……いや、それは無理のようよ。あれを見なさい」
「あれ?」
 ムーンライトに指摘され、跳び上がって列の最前を見やる。そこでは、先頭のサンシャインの前に緑髪にツインテールのあの少女が立ちはだかっていた。早朝で寒かったからか、どこから調達したのか知れない男物のボア・コートを希望ヶ丘の制服の上に着込んでいる。
 ただの少女なら、説得次第で退いてもらえただろう。しかし彼女は普通ではない。希望ヶ丘総合病院でのやり取りもそうだし、何より発せられる冷徹で恐ろしい雰囲気が、サンシャインの第六感に「身の危険」を告げていた。

「病院にいた子……よね? 私たちに何の用?」サンシャインは臨戦の覚悟と構えを取り、平静を繕って彼女に問う。
 緑髪の少女はにんまりと笑みを作り、「そんなに怖がらないでよ」と穏やかな口調で答えた。
「あなたたちプリキュアに用は無いわ。私が用があるのは後ろのお荷物たち。わたしの『友達』がそいつらと遊びたいって聞かないの。もう十分「遊んだし」、良いでしょうって言っても取り合ってくれないから……」
「あなたの……友だち?」
「そ」少女はこれ見よがしに指をぱちんと鳴らす。彼女の求めに応じるかのように、地中からは植物の木の根が、草原や民家からは野犬の群れが、彼女らを取り囲むようにして現れた。
「みーんな私の友達。あぁ、でも全員と遊ぶつもりはないみたいだから、嫌だと言うなら行っても構わないよ。あなたたちの中でほんの四五人、この子たちの遊びに付き合ってくれればそれでいいわ」
 少女の背後にある植物たちを見て、『遊ぶ』の意味が分からない彼らではない。そんな恐ろしいことを悪びれず無邪気に告げる彼女の姿に、怪我で憔悴した街の人々が慌てふためく。少女の方もそれを見て意地の悪い笑みを浮かべる。
「もう一度だけ言うわ。それだけ置いて行ってくれれば、他の人たちは放っといてあげる。この子たちに我が儘は言わせない。さて、どうする? 人間の味方のプリキュアさん」
「そんなの……」
 やはり彼女がこの事件の主犯か。サンシャインは少女の底知れぬ恐ろしさに気圧されぬよう拳を固く握り、もう片方の手で人差し指を突き立てた。
「そんなことさせるものですか。罪もない街の人々にこんな真似をして……あなたは一体何者なの!?」
 サンシャインの反論を聞いた少女は、彼女の方に目をやってにいっと笑う。先程までの愉しげな表情ではない、獲物を見付けて飛び掛かる寸前の、獰猛な野獣のそれだ。
「誰……って、病院でも言ったじゃないの。こころの大樹から生まれた伝説の戦士プリキュア。私はその後継者よ」
「世迷い言を……、プリキュアは私を含めて四人しか居ないし、もしも居たとして貴女のような子がプリキュアになれる訳が無い! だって……」
「人間を酷い目に遭わせている……、から? けど残念ね、それでも私はプリキュアなのよ。証拠が欲しいのなら今ここで見せてあげるわ」
 少女は明道院学園の制服から、つぼみやえりか、いつきたちとは色違いの「ココロパフューム」らしきものを取り出すと、中にこころの種をはめ込まず、そのまま天に掲げて叫んだ。
 ――プリキュア! オープンマイハート!

 少女の叫びに呼応するかのように発せられた眩い光が、希望ヶ丘上空のどんよりとした雲を裂き、彼女の持つココロパフュームを満たす。溜まった光を体の各所に吹き付ける。光は彼女の纏っていた衣服を溶かし、プリキュアのそれへと再構成させた。
 黄緑色のツインテールが解け、腰まで伸びるオレンジ色の長髪となる。衣装の意匠はサンシャインのものと酷似しているが、色は赤と黒を基調としていて腹部は開いておらず、脚周りは黄のカラータイツの下に山吹色のショートブーツ。襟元には変身前に着込んでいたボアコートの毛皮部分が組み込まれている。
 少女の変身を祝福するかのように、彼女の足元から植物が芽吹き、赤い花を咲かせる。幻想的な絵面であるが、それらに家屋を破壊された人々からすれば、身の毛のよだつ恐ろしい光景だったに違いない。
 少女は右腰の袋にパフュームをしまい、意味ありげにその場でくるりと一回転し、サンシャインたちに自身の名を告げる。
 ――大地を総べる地球《ほし》の守護者! キュアノーム!



 プリキュアに変身した緑髪の少女――キュアノームは、衣装の襟を両手でさっと撫で、眼前のキュアサンシャインに人差し指を突き立てる。
「どう? どう!? 自分の価値観が、信じていたものが砕ける様は? 驚いて声も出ないようね。
 あたしはプリキュア、キュアノーム。ヒト『以外』の動植物の為に戦い、全てのヒトを排除する。この星の救世主なのよ!」
「そんなの……!」
 ――認められる訳ないでしょーが!

 キュアノームの勝手な言葉に反論せんとするサンシャインだったが、頭上から降ってきたもう一人に言葉を遮られてしまう。彼女はキュアマリン。列の殿《しんがり》をムーンライトに任せ、ノームに不意打ちめいた飛び蹴りを放ったのだ。
「もも姉の……仇ぃぃぃっ!」
 風をも裂く早さで放たれるマリンの飛び蹴り。目視で避けるのは難しく、まともに喰らえばプリキュアとて暫く立ち上がれないであろう勢いだ。だが標的たるノームは左半身を右に傾けて難なく躱《かわ》すと、左足を軸にして右回し蹴りを放ち、彼女のこめかみに叩き込んだ。
 不意を喰ったマリンは抵抗することすら叶わず、舗装仕立てのコンクリートに半径数メートルほどのクレーターを作り、脳震盪《のうしんとう》を起こして突っ伏してしまう。
「ふぅ……」ノームは長い後ろ髪を手の甲でさっと掻き上げる。
「挨拶中の不意打ちとはやってくれるじゃない。けど、これで底が見えたわね。この程度じゃ逆立ちしたってあたしには勝てやしない。伝説世代のプリキュアのくせに、期待外れもいいとこだわ。
 貴女は――、もう少し骨のある戦いをしてくれるのかしら? 太陽の申し子さん」
 不意にサンシャインの方へと向き直り、不気味な視線を彼女に送るキュアノーム。サンシャインは底知れない雰囲気に圧され、鳴りそうになる歯の根を食い縛って必死に押さえ付ける。
 恐ろしいが、退くわけには行かない。自分の背後には護るべき希望ヶ丘の市民がいるし、何より、親友を侮辱されたのが癪に障る。
 不意打ち《カウンター》とはいえ、敵はマリンを一発で沈めた手練れだ。不用意に近付けば何をもらうか分からない。サンシャインは構えを取ったまま、ノームと一定の距離を保つ。ノームはサンシャインの消極的とも取れるその態度が気に入らず、肩をすくめて溜め息をついた。
「何よその構えは。準備は出来てるんでしょう? 来るなら来るで早くしたらどうなの?」
「……」サンシャインは構えを解かず無言のまま。ノームの言葉に耳を貸すつもりは無いようだ。少女は長く伸びたオレンジ色の髪を指で弄り、眉をひそめて更に続ける。
「もしかして、後ろの奴らが気がかりで本気になれない? そうね、そりゃあそうよね。配慮が足りてなくて御免なさい。だったら、さァ」
 ノームは右手の指をぱちんと鳴らし、人差し指を再度サンシャインたちの方へと向ける。
 瞬間、地中から伸びた何かの木の根が希望ヶ丘市民たちを取り囲み、鳥かごにも似た檻を形作って彼らを閉じ込めてしまう。
「これで戦いを邪魔するものは何もない。彼らの安全はあたしが保証するわ。尤も、『あの子たち』が中の『餌』をどうするかまでは――面倒見切れないけど」
「……このッ!」
 安全を保証するだって? 少なくとも、植物たちの餌として何人か置いて行けと言った者の台詞ではない。彼女を倒し、植物たちから街の人々を解放しなくては。最早一刻の猶予もない。サンシャインはノームの眼前まで一気に踏み込み、目にも止まらぬ拳の連打を放った。
 ガトリング砲のような鈍く素早い音を響かせて放たれる拳の雨。並の相手ならこの一撃で脳天を打ち抜かれ、暫く意識を失う程強烈なのだが、ノームは恐れることなく上半身を左右に軽く傾け、それら全てを容易く躱す。
 このまま続けていても埒が明かない。そう判断したサンシャインは、拳の連撃から足技へと切り替える。敵の目と鼻の先にまで近付いてプレッシャーを掛け、その隙に放たれた右膝蹴りがノームの鳩尾目掛けて飛んだ。しかし、これも寸前にバック転で躱され不発に終わる。
 だが、それはサンシャインの計算の内だった。彼女はノームが体勢を立て直すよりも早く、膝蹴りを空振った右足を軸にして横に一回転。生じた勢いを借りての飛び回し蹴りを放った。
 敵は立ち上がらんと顔を前に突き出している最中だ。幾ら何でもこの状態からでは躱せまい。無防備なノームの顔面に、サンシャイン渾身の蹴りが迫り来る。
 しかしどうしたことか。この一撃までもが空を切り、行き場を無くした回し蹴りはノーム背後の電柱を砕いて、周囲に火花を散らせる結果に終わった。
「そんな! 狙いは完璧だった筈なのに……!」
「あははっ! 悩んでる? 困ってる!? だったら見て御覧なさいよ、今、あたしがどうなっているのかさァ」
 体勢を立て直し、言われるがままに振り返ったサンシャインの目に映ったのは、木の根や蔓に両腕両足を絡め取られ、地面にうつ伏せとなったノームの姿。確かにあれならば回し蹴りを避けられた理由に説明は付く。だが、あまりにも非現実過ぎる。あれも彼女の能力だと言うのか。体勢を立て直さんとする一瞬で、味方の植物に指示を出したというのか?
 渾身の一発を避けられたという精神的動揺も合わさり、困惑で言葉の出ないサンシャインに、ノームは嬉々として話しかける。
「『ヒトの子ら、大地に感謝せよ。称えよ土を』。殴るにしろ蹴るにしろ、地を踏み締め、力を込めなきゃ威力は得られない。如何にして踏み込むかは、その時何を放つかで決まる。それが分かれば後は目視で躱すだけ。それくらいの動体視力はあたしにも、あなたにだってあるでしょう?」
「けど、それだけじゃ……」
「あァそうそう、今の奴ね。はっきり言って、『力』という面じゃ、命懸けで実践を積んだあなたたちにあたしは絶対敵わない。けど、あたしには友達がいる。地中に根を伸ばして振動の微妙な変化を読み取ってくれたり、意識の外から放たれた攻撃からあたしを護ってくれる頼もしい子たちがね」
 ノームの言葉に同意するかのように、地中から伸びた木の根や蔓が不気味に蠢く。サンシャインたちプリキュアは改めて「彼女がこの騒動を引き起こした張本人」だと思い知らされた。
 動揺するサンシャインを尻目に、ノームは軽く首を鳴らして言葉を続ける。
「さァて、手品の種明かしも終わったことだし? そろそろこっちも、攻撃させて……もらうわよッ」
 言い終わるや否や、ノームは地を蹴ってサンシャインの懐に潜り込み、右拳を裏返して上体を沈ませる。サンシャインは危険を感じて飛び退くが、時既に遅し。ノームの右拳がアッパーカットめいた軌道で放たれ、彼女の下顎を上下に揺らした。
「うぐ……ぅ!」
 プリキュア膂力《りょりょく》によって強化された拳は、岩を砕く程に強く、風を切るよりも早い。ノームの右拳はサンシャインの下顎を掠めるに終わったが、それでも彼女の足を封じ、姿勢を崩させるくらいの力はあった。
 無防備となったサンシャイン目掛け、ノームの拳の連打が始まった。一寸遅れて守りを固めようとするも、華奢な腕からは想像出来ない程重く堅いノームの拳は、ふらつくサンシャインのガードを崩し、時にすり抜けて、腹や胸など弱い部分を次々と『突き刺して』ゆく。
 サンシャインが変身を解除し、金色のネグリジェ姿に戻るまで、然して時間はかからなかった。
「何々? 結局この程度なの? 拍子抜けしちゃうなあ。貴女でこれじゃあ、他の子にも期待出来そうにないわね。ねぇ、ムーンライトさん、貴女は……」
 不平不満を言い連ね、後ろを振り向いたその瞬間、ノームの顔面にムーンライトの鉄の拳が突き刺さった。無防備のままそれをもらったノームは、勢いを殺すことも出来ず、住宅二三棟を突き抜け吹き飛んだ。
「卑怯だと怒るかしら? けど、突いてくださいと言わんばかりに隙を見せるあなたにも分があるわよ、キュアノーム」
「いいえ。これはあたしのミス。怒るだなんてとんでもない、貴女たちをちょっと見くびっていたみたい……」
 ノームは直ぐ様起き上がり、歯を見せてにっと笑い、不気味に炯炯とした目を見せる。
「けど、ここから先はそうは行かない。そして断言するわ。キュアムーンライトさん、貴女は蹴り『一発』で沈めてあげる」
「なんですって……?」
 たった一発の蹴りで仕留めるだって? やはり馬鹿にしているのではないか。ムーンライトは体勢を整えたばかりのノームの腹部目掛け、先程よりも重たく、素早い拳を叩き込む。ノームは飛び退いて避けようとするが、間に合わずに喰らい、地面を擦って後ずさる。
 倒れないよう踏ん張り、仰け反りから体勢を立て直さんとするノームに、彼女の顔目掛け追撃の後ろ回し蹴りを打ち込むムーンライト。これにはさすがに耐え切れず、顎を打たれて後頭部を地面にぶつけてしまう。
「あ、イタタタ……。やってくれるじゃないのまったく。おかげでちょっとだけ楽しくなって来たわ」
 だがノームも負けてはいない。額と後頭部の両方を打たれたにも関わらず、即座に体を起こし、滴る鼻血を手の甲で拭う。
 ムーンライトが眼前の相手に『違和感』を覚えたのはこの時だ。渾身の一発を喰らって即座に立ち上がったことではない。その異常なタフさにだ。威力はどうあれ、仰け反り倒れるほどの一発を喰らったのだ、何事も無かったかのように起き上がれる訳がない。だが現に彼女はそれをやってのけている。
 サンシャインを追い詰めた植物たちの力だと言うのか? 否、避けられるのなら最初から避けに注力している筈だ。現にノームは初撃だけでなく、二発目も敢えて受けて鼻血を流している。此方をおちょくっているにしても不自然過ぎる。
 だが、熟考している暇は無い。こうしている間にもノームは眼前に迫っているのだから。一の技で倒せぬ相手なら、十、百、千の技で挑むだけ。見切りとやらも此方の早さにはついて来られていない。ムーンライトは一つ一つがぶれて見える程の早さで拳の連撃を見舞い、ノームの体をよろけさせて行く。
 退こうとすれば踏み込まれ、前に進めばその分破壊力のあるパンチがノームを襲う。雨の様に降り注ぐムーンライトの拳に対し、彼女はどうすることも出来なかった。

 しかしどうだろう。素早さと破壊力を両立した連撃を続け、時間の経過と共に疲れが目に見えてきたムーンライトとは対称的に、それを喰らうノームは殴られた痕はありこそすれ、未だ涼しい顔で彼女の攻撃を受けているではないか。
 そしてムーンライトもここへ来て、ノームの異常なタフさと奇妙な違和感の正体に気付く。一度飛び退いて距離を取り、壁を背負って立つムーンライトに、ノームはおかしくて堪らないと言いたげな顔を浮かべた。
「……貴女、今こう思ってるんじゃあなくって? 何故ここまで喰らって尚、あたしは話が出来るほどピンピンしているのだろう、と。
 いえ、本当はもう気付いてるんじゃないかしら? 貴女の攻撃はさっきから、一発足りとも、あたしの『芯』を捉えていないってことに」
 ノームが発したその言葉に、ムーンライトが抱いていた違和感が瓦解した。拳は確かに彼女の体に当たっていた。だが、ダメージとなって残る程の『有効な』一撃は、何一つノームに響いていなかったのだ。
「『みんな』が感知するより先に攻撃を繰り出せるスピードには敬服するわ。実践経験を積んでいないあたしには出来ないし、かわすだけの技量も無い。
 けどね、目の前に拳が迫って来ていて避けようがないっていうなら、『流す』って選択肢もあるでしょう? 顔面を狙うならわざと首を捻り、お腹を狙うなら微妙に左右に動いて打点をずらす。
 力って言うのは一極集中すればするほど破壊力が増すものなの。狙いが逸れればその分力は分散されて、違うどこかへ逃げて行く。貴女は破壊力を犠牲にし、手数であたしを圧倒しようとした。そんな攻撃が威力を分散されてしまったら……、今更説明しなくたって分かるわよね?」
「くぅ……ッ!」やられた、と後悔し、歯を食い縛るムーンライト。彼女が並みの手練れじゃないことは百も承知だった筈だ。初撃が決まって、自分の中に慢心のようなものがあったことも理解している。
 だが、驚くべきはそれをさも容易く出来たような口振りで話すノーム自身だ。打点をずらして威力を弱めたとは言うが、目視どころか仲間の植物たちにも感知出来ない早さで放たれた連撃を、全て眼前で対応し、いなして捌いている。人間どころか、プリキュアである自分にだって不可能だ。砂漠の使徒が消えた今も、このような強敵が存在しようとは。
「さァーて。説明も済んだことだし? 後はやっつけちゃうしかない……よねッ!」
 言い終わらんがうちにノームの体が跳ねて飛び、ムーンライトの懐に潜り込む。彼女の接近は分かっていた。次に来るであろう不意打ちに備え、守りの体勢も整えている。普段の彼女なら、敵の攻撃を防いだ上で、手痛い反撃を見舞うことも出来たであろう。しかし、極度の疲労と思考を掻き乱された今のムーンライトに、ノームの放つ不意打ちの横蹴りを躱すことは出来なかった。
 ノームが見舞った左横蹴りはムーンライトの鳩尾《みぞおち》を正確に貫き、彼女の呼吸を潰した上で、背負ってしまっていた壁に叩き付ける。ノームはそのまま左足を軸にし、体を右側に捻ると、跳ね返ってきたムーンライトの首筋目掛け、駄目押しの後ろ蹴りを打ち込んだ。
 発泡スチロールの衝撃緩和材を手で力一杯引き千切ったかのような音が響き渡り、変身が解かれ、桃色のネグリジェ姿へと変貌する。白目を剥いて前のめりに倒れるムーンライト――月影ゆりの体を、ノームはそっと抱き寄せ、耳元で申し訳無さそうに囁く。
「蹴り一発でやっつけるって言ったけど……、ごめんなさいね、あれは嘘なのでした。まあ、どっちにしろ倒れたんだし、結果オーライよね。そうね、そういうことにしておきましょう」
 ノームは呼吸が出来ずに蒼い顔をするゆりの体を手近な壁に寄り掛かからせると、踵を返してある場所へと向かう。

「何よ……、どうなってんのよ、こいつは……!」
 脳震盪から回復したキュアマリン――来海えりかが目にしたものは、成す術無く地に伏す仲間二人と、蔓の檻に囚われた希望ヶ丘の住人たち。気絶していた彼女が如何にしてそうなったかは分からないが、少なくともあの「キュアノーム」にやられたのだろうと言うことだけは理解出来た。
「そうだ、あいつは……」
 首謀者の顔と名前を思い出し、奴は何処に行ったのかと周囲を見回す。偶然か必然か、マリンの視界にノームの顔が入り、彼女は声を上げる間も無く、前髪を掴まれ、無理矢理に引き上げられた。
「えーりーかーちゃーん、もう起きたかなー?」
「うぅっ……! アンタ、サンシャインとムーンライトに何したの!?」
「あの二人が心配? 大丈夫よ、プリキュアはそう簡単には死なないわ。ていうかね、変身に用いる『こころの花』が貴女たちを殺させない。
 こころの花は貴女たちの心そのものであり、プリキュアの力の要。こころが萎れて枯れない限り、多少の負傷はこころの花が治療してくれるの。あの子達を見てご覧なさい。立ち上がるのはまだ無理そうだけど、取り敢えず息はしているでしょう?」
 言い終わるが早いか、サンシャインとムーンライトの方に顔を向けさせられるマリン。ノームの言う通り、両者共に辛うじて息があり、再び立ち上がらんともがいていた。二人の無事に安堵するマリンだが、すぐにノームの方へと向き直らされてしまう。
「なんで貴女だけ動ける状態で放置しておいたか分かる? 先の飛び蹴りの時、気絶した貴女のお腹に踵落としを打ち込んで、サンシャインちゃんよりも酷い目に合わせることだって出来たんだけど」
 マリンは唇を結んで何も答えない。ノームに激しい怒りを感じているのもあるが、嬉々としてそんなことを語る彼女が、全くもって理解の及ばぬ存在だったからだ。
「何か言ってよ。じゃなきゃクイズにならないでしょ。まぁ、答えないならそれでも構わないけどさ。今の貴女たちじゃ、逆立ちしたってあたしには勝てない。それはよぉーく分かったでしょう? 何度歯向かったって痛い目に遭うのがオチよ。やるだけ無駄よ、無駄。だから、ね」
 ノームはマリンの頬から唐突に手を離すと、今度は彼女の両手を自身の手で包み込み、目を輝かせて続ける。
「あたしと友だちになりましょう、えりかちゃん。あたしのお友だちも紹介するわ。満開のお花畑の中でずっと、ずうっと遊びましょう。この星六十億人近くのヒトたちを滅ぼしてさァ」
「ふ……ふざけないで!」友だちになろうだって? こんな事件を起こしておいて何を言っている。あまりの理不尽と支離滅裂さに、マリンの怒りが爆発した。
「友だちになるっていうなら、お願いするより先にやることがあるでしょうが! あたしはプリキュアである以前にヒトだし、あんただってそうでしょ!? 無茶苦茶言うのもいい加減にしなさいよ!」
「はぁ……」ノームは失望したとでも言いたげな表情で溜め息をつく。
「どうも話が噛み合わないなあ。あたしも貴女も”プリキュア”でしょう。ヒトな訳ないじゃない。それにね、今でこそあたしは貴女に『お願い』している訳だけどさ、これを『命令』に変えることだって出来るのよ。穏便に済ませた方が良いと思うんだけどな」
「くっ……くく!」
 語気を強め、首を掴んで絞め上げるノーム。彼女はマリンが苦悶の表情を浮かべ、口内から少量の泡を噴き出すのを見計らい、再びマリンに問い掛ける。
「あたしは別に強要しないよ。嫌なら嫌だと言えばいいし、無理矢理友だちになったってつまらないものね。さ、そろそろ答えて貰おうかな。イエスかノーか、言葉じゃなく態度で示してもらいましょうか」

 表面的には穏便に選択を迫っているように見えるが、今までの彼女の行動を省みれば、答えはイエス以外にあり得ない。いや、首を縦に振るまで、ノームは決して自分を許さないだろう。
 了承したくないし、実際する気も無い。だが、サンシャインとムーンライトを戦闘不能に追い込んだ相手を前にして、そうする以外に逃れる手立てが見つからないのだ。
「つぼみ、いつき、ゆりさん……。ゴメン、あたし……」
 目を涙で一杯にし、震えながらにノームの手を取らんとするマリン。躊躇いながらも徐々に伸びて行くそれは、最早マリン自身の意思では止めようがない。頼れる仲間は完膚なきまでに叩きのめされ、植物たちに囚われる人々は慌てふためくばかりでマリンの方を見てすらいない。周りにそれを頼むのも不可能だ。

 いや、この状態で唯一、伸び行くマリンの手を止められるべき者が。彼女と約束を交わし、家族の安否を任せたあの少女が。
 不意に、マリンの伸ばした手が何者かによって掴み取られる。マリンが、ノームが、突っ伏していたサンシャインとムーンライトまでもが、その手の主へと目を向ける。
「あなたの狼藉――、このキュアブロッサムが許しません!」
 ノームからマリンを引き剥がし、彼女の手を強く握り締める桃色の髪の乙女。大地に咲く一輪の花・キュアブロッサムの登場だ。

※※※

 桜の花弁を思わせる鮮やかな桃色の長髪、白を基調としたドレス、ヒールのついたロングブーツ、大地に咲く一輪の花・キュアブロッサム。マリンへと飛んだノームの拳を受け止めたブロッサムは、その腕をぐるりと捻ってノームを地面に叩きつけ、震えるマリンに肩を貸し、飛び退いて距離を取る。
「遅れてすみません。えりかのお母さんは無事です、安心してください」
「ブロッサム……!」マリンは感極まって彼女の胸に顔を埋め、大きな声で泣き出してしまう。
「ゴメン、ゴメンねブロッサム……、あたし、あたし……」
「マリン!? 一体どうしたんですか!」
「あたし、アイツの言うことに耳を貸しそうになっちゃったの………。いつきやゆりさんをボコボコにするようなヤな奴なんかの言うことをだよ。
 ヒトを見捨ててプリキュアとして生きろ、友だちになって一緒に人間を滅ぼそう、って滅茶苦茶な言葉にだよ!? みんながやられて、怖くなって、心細くて……。あたし、プリキュア失格だ……」
 泣きながらにそう訴えるマリンに対して、ブロッサムはただ胸を貸すことしか出来なかった。サンシャインとムーンライトが倒されているこの惨状を目の当たりにすれば、マリンが首を縦に振らざるを得なかった事情は容易に想像できる。キュアノームとはそれほどの相手なのだ。ブロッサムは泣きじゃくるマリンの肩を抱き、赤子をあやす母のように穏やかな声で囁いた。
「あなたのせいじゃありません。それに大丈夫、あなたと私で倒しましょう、彼女を」
「倒す……って、ゆりさんやいつきが勝てなかった相手なんだよ!?」
「でも、諦めたらそこで終わりなんですよ。大丈夫です、二人でなら、きっと……」
「あら。早かったのね」二人の会話にノームが割って入る。「もう暫くかかるんじゃないかって思ってたけど」
「あなたが……この事件の首謀者、ですね?」
「そ。あたしの名前はキュアノーム。貴女の大事なお仲間二人にしたことは謝るわ。けど、二人揃った所で、貴女たちに出来ることなんて何も無いでしょう? 大人しくあたしのともだちになった方がいいんじゃないかなあ」
「お断りします。それに貴女は私たちの力を見くびっているんじゃありませんか?」
「かもね。プリキュアとやりあったのは初めてなんだもの。けれど、もうあたしに遊びは……」
「それが自惚れだと言ってるんです。もしも本気を出せていたならば、サンシャインやムーンライトが負けるわけがない。そして今教えて差し上げます。『ふたり』揃ったプリキュアの力が、如何なものであるかを」
「ほぉーっ? 見せてもらおうじゃないのさ。見せられるものならね」
 言い終わると共に、地を蹴ってノームが間を詰める。ブロッサムはマリンの体を起き上がらせ、並び立って言った。
「私に考えがあります。呼吸を合わせてください」
「呼吸を合わせるぅ!? そんなこと無理無理……って、うぉわっ!」
 ノームの突撃を側転でかわした後、大きく飛び退いた上で体勢を立て直すマリン。悠長に考えている暇は無い。兎に角今はこいつを倒さなくては。
 ブロッサムの求めに応じ、マリンは彼女の背にぴったりとついて駆け出す。あたかも一人しか居ないかのようにぴったり揃った足並みは、ノームに味方する植物たちの感覚を困惑させた。
 ヒト一人分の距離まで踏み込んだところで、二人は左右に分かれ、ほぼ同時に跳ぶ。マリンの踏み込みが半歩遅い。ブロッサムの初撃は囮、怯んだ隙をマリンに突かせる算段か。
 ノームは顔の前で腕を十字に組み、防御の構えを取る『フリ』をする。殴打にしろ蹴りにしろ、当たる瞬間に構えを解いてブロッサムを盾にし、マリンの追撃を相討ちにさせようというのだ。
 高度も伸びきり、後は落ちて行くだけ。いつでも来いと腕を組むが、ブロッサムは空中で前転をし、ノームの頭を踏んで彼女の背後に着地した。
「くぅっ……」視界を奪われ、僅かに仰け反るキュアノーム。だがマリンの追撃に備え、直ぐに体勢を立て直す。
 読み通り、マリンは空中で拳を振り被っていた。落下の勢いを借りての一撃だ。まともに受ければ大ダメージは免れないだろう。距離が近くてかわすのは間に合わないが、いなして威力を殺すには十分だ。
 マリンの右拳がノームの頬を捉えた。タイミングを合わせ、殴られる方向へと首を捻る。順番は狂ったが、これで渾身の一発も無駄になる。反撃はその後すればよい。だが、マリンの拳が頬を打つ瞬間、地中の植物たちの囁きが、ノームに別種の危機を知らせてきた。
「これなら、どうだああああっ!」
 ノームの背後を取ったブロッサムが一気に間合いを詰め、横回し蹴りを放ってきたのだ。軌道はマリンの拳をいなそうとしている方向と逆。これではダメージを殺しようがない。
「くっ……」
 動揺するノームの胴を、地中から生えてきた木の根が絡め取り、彼女を無理矢理ブリッジの体勢にさせる。これなら双方を同時に避けられるだけでなく、同士打ちのおまけまでついてくる。にやりと口元を吊り上げるノームだが、それは拳を放つマリンも同じであった。
「ブロッサムの言う通り……。二人でなら見えるかも……、この子の弱点!」
 狙いが反れようが、同士打ちになろうがお構い無しにと、拳の軌道をずらして振り抜くマリン。強引な軌道修正による威力の低下は体内のエネルギーで補う。接触と同時に弾けたエネルギーは、凄まじい衝撃を生じさせ、ノームの顔を地面に叩きつけた。
「今よ、ブロッサム!」
 殴り付けると同時に飛び退き、相棒の後ろ回し蹴りを躱すマリン。叩き付けられた反動で体を起こしたノームのこめかみを再び強烈な一撃が襲い、彼女を十数メートル吹き飛ばした。

 呻き声を上げ、たたらを踏んで起き上がるノーム。二人のプリキュアは再び呼吸を合わせ、彼女の懐に飛び込んだ。
 植物たちからの警告も出ており、どのように避ければよいかも分かっている。それまでのノームであれば、躱した上で同士打ちを狙うことも出来ただろう。しかし、頭を打たれたダメージが多分に残った今のノームに、二人の追撃を躱すことは出来なかった。
 二人の拳が鳩尾に深々と突き刺さり、ノームの体がくの字に曲がる。仰向けに倒れまいと踏ん張り、再び体を起こした所をブロッサム・マリンの横蹴りが炸裂した。
「こんな……馬鹿な! 一人増えたくらいで、あたしが………」
 立ち上がって悪態をついて見せるが、目の焦点が合わず、膝が大きくぐらつく。この隙を逃すブロッサムではない。
「マリン、今です!」
「おうさ!」
 ――集まれ! 二つの花の力よ!
 ――ブロッサムタクト! マリンタクト!
 胸の宝石に手をかざし、こころの花の力できらびやかな指揮棒を生じさせる二人のプリキュア。切っ先にエネルギーを集束させ、アルファベットの「f」の軌道を描く。
 ――プリキュア! フローラルパワー・フォルテッシモ!
 青と桃色の光に包まれた二人のプリキュアは、二色に光の矢となってタクトと共にノーム目掛けて突進し、ノームの腹部にハート型の跡を残して貫く。ハートの中から二色の花弁が生え、キュアノームは巨大な花に囚われる格好となった。
「はああああっ!」
 タクト中央部に取り付けられた結晶・クリスタルドームを回し、花の力を放出させる。浄化の力でノームの体が浮き上がり、背の花弁が勢いよく回る。花弁の拘束が解ける頃には、ノームは仰向け大の字になって倒れていた。

「やったね……、とうとう、やったんだね」
「えぇ……」
 倒れたまま動かないノームを見て緊張の糸が切れたのか、膝をついてへたり込み、互いに抱き合う二人のプリキュア。問題は山積みだが、兎も角戦いは終わった。目の前の人々を避難させ、いつきとゆりを病院に連れて行こう。
 頭の中ですべきことを取りまとめ、立ち上がろうとしたその瞬間、そうした考えは脆くも崩れ去った。必殺技を受けて大の字になっていたキュアノームが、まるで何事も無かったかのように起き上がってきたからだ。

「嘘……、嘘よ! なんで!? なんでアレを受けて立ち上がれるワケ!?」
 フローラルパワー・フォルテッシモに殺傷能力は無いが、悪しき心を浄化し、戦意を奪う力はある。そうして骨抜きとなった者が即座に行動を起こせる訳がない。マリンたちの困惑は尤もだ。
 ノームは軽く首を鳴らすと、慌てふためく二人のプリキュアの元へと詰め寄り、素早く拳と蹴りを叩き込んで二人を散らす。指を鳴らして木の根でブロッサムをがんじがらめにし、マリンには顔に左右のワンツーパンチ、怯んだ所にボディを狙っての蹴りの連打を浴びせ、地面に突っ伏した所でとどめの正拳突きを顔面に食らわせる。マリンは一切抵抗出来ずにネクリジェ姿に戻り、死んだ魚のような目をして突っ伏した。

「マリン! マリーン! ……くぅ、うっ!」
 マリンの名を呼び、木の根を引き剥がそうと力を込めるが、木の根は微動だにしないばかりか、逆にブロッサムの体をきつく締め付ける。その姿は投網に捕まってもがく魚のようだ。
 マリンに制裁を加え終えたノームが、ブロッサムの方へと歩を進める。彼女はここで漸くノームの体の変化に気付くことが出来た。マリンと二人であれだけ与えたダメージが、今のノームにはまるで無いのだ。肌にも衣服にも怪我らしい外傷は何もない。そもそもあれだけの攻撃を受けて、何故即座に反撃出来る。
 ノームは驚き戸惑うブロッサムの前に立ち、彼女の前髪を掴んで無理矢理自身の目の前に顔を向けさせた。

「なんでこのキュアノームは必殺技を食らってぴんぴんしてるの? って言いたげな顔ね。だったら教えてあげる。
 貴女たちの必殺技は悪しき者共やデザトリアンを浄化するためにある。そんなエネルギーをプリキュアであるあたしに送り込んだところで、倒せるわけ無いでしょうが。
 さっきも言った筈よね。あたしは貴女たちと同じこころの大樹に選ばれたプリキュアだって。それとも、ダークプリキュアみたいに、『あたしの中の邪なこころが浄化されれば倒せる』みたいなこと考えてた? どっちにしたってくだらない。あたしには無意味で無駄な行動だったってことよ」

 ブロッサムは言葉を無くし、ただただ茫然とする他無かった。人々を襲い、自分たちのしてきたことと相対する彼女が、本当にプリキュアとして同種の存在だと言うのか。
 彼女の脳裏に、祖母・薫子の言葉がこだまする。自らが”正しい行いをしている”としか思っていない者の力――。ヒトに恐怖と絶望を与えるこの力がプリキュアと同意だとしたら、プリキュアとは一体何なのか? 自分たちが信じて疑わなかった正義はまやかしなのか? だとすれば、ヒトとはそこまで罪深き生き物なのか?
 答えの出ない自問自答を繰り返すブロッサムに対し、ノームはにんまりと笑みを漏らし、耳元で囁く。
「野暮ったい話は終わりにしましょう。『花火』を見逃してしまうわ」
「……花火?」
「あたしのともだちが報せてくれたの。あたしにとっては念願の成就、貴女たちにとっては更なる絶望の幕開け、ってところかしらね」
「絶望って、あなたたちはこれ以上何をしようと……!」
 ブロッサムが全て言い終わらないうちに、遠方のどこかで爆発音がし、火の手が上がる。自発的に目を向けずとも、彼女を縛り付ける木の根がブロッサムをそちらへと向けさせた。
「あの方角は……まさか!」
「わざわざ説明しなくても分かるだなんてさすがね。そ、あれは『S市の発電所』。あぁも派手に煙を上げてちゃ、街に電気を送るのは無理っぽいわね。そう思うでしょ? 貴女も」

 ブロッサムの顔がみるみるうちに蒼褪める。普段希望ヶ丘近辺の電力需要の殆どはN市の火力発電所によって賄われているのだが、それが今朝、謎の事故で稼動を停止したばかりだ。ただでさえ電力が不足しているのに、臨時で希望ヶ丘に電気を回しているS市の発電所までも機能を停止してしまえばどうなるか。
 問題はそれだけではない。希望ヶ丘はノームと彼女の息のかかった植物たちの手によって交通網は麻痺し、数千数百の怪我人が総合病院で治療を待つ散々たる有り様なのだ。
 行き場を無くした怪我人たちはどうなるか、元居た病人たちはどうなってしまうのか。答えなど知りたくも無かったが、そうは問屋が下ろさない。ノームが指を鳴らすと同時に、吊り鐘のような形をした蕾たちがブロッサムの周りを取り囲んだ。
「な、何なんですか、これは」
「糸電話みたいなものよ。希望ヶ丘直通のね。面白い話が聞けるんじゃないかと思ってね」

 ――「重病人がいるんです! どうか、どうか診てやってください先生!」「申し訳ありませんがうちにこれ以上患者さんを受け入れる余裕は……。他の病院に行ってください」「病院を移るったって、電車やバス、車だってまともに動かせないってのにどうしろって言うんですか!?」

 ――「糞ッ、電気は、電気はまだ復旧しないのかッ」「自家発電にも限界があります。先生、ご決断を」「……現在手術中の患者及び重病者以外の電力供給を全面カットせよ。繰り返す、全面カットだ」「そんな……! 電気が無いと生命維持すら出来ない患者が大勢いるというのに!」

 ――「やめてください! これ以上怪我人を増やしてどうするんですか!?」「うるさい! 分かってるんだぞ、お前らにこれ以上患者を受け入れる余裕がないことぐらいな! 死ぬ! みんな死んじまうんだ!」

 聞こえてきたのは苦悩や悲痛な叫び、そして怒り。呼吸器を外されて苦しみながら息を引き取る老人や、ろくに治療もされず痛みに苦しみ悲鳴を上げる人々。街を離れられず、一ヶ所に集まった不平不満は、いつ爆発してもおかしくなかった。
 その上、希望ヶ丘総合病院にはつぼみの母みずきと妹のふたばが、脱線事故で搬送されたえりかの姉ももかが、ブロッサムは知らなかったが、いつきの兄さつきまでもが居合わせている。このような状況の中、彼女らは無事でいられるか――。
「もうやめて! やめて……ください!」
 とめどなく溢れ出る怒りや憎しみに耳を塞ぎたくなる。しかし絡み付く木の根はそれを許さず、ブロッサムの体を締め付ける。彼女が苦悶の表情を浮かべている中、ノームは同じものを聴いて愉しげに声を上げた。

「醜いものよね。口では世界平和だの自然保護を謳っていながら、自分たちの命が危機に曝されると、途端に醜い本性が露わとなる。こんな奴ら……護る価値なんてあるの?」
 認めたくはないが、こうした状況に身を置いてみると、正論だと思いたくもなる。しかし、それらは全て彼女が仕組んだことではないか。認めてたまるか、屈してなるものか。
「ふざけないでください。仕向けたのは……あなたじゃありませんか」
「そりゃあそうよ。あたしの目的はヒトの口減らしだもの。他の動植物の生活を踏みにじり、自己満足でみんなを飼い慣らす人間に罰を与えるためにね」
 自信満々に言い終えたノームは、ブロッサムの耳元にまで顔を近付け、更に続ける。
「ここまでやれば、貴女たちじゃあたしを止められないことは分かってくれた筈よね。けど、それだけじゃ足りないの。たとえどんな巨大な敵だろうと、互いに手を取り合い、励まし合って立ち上がるのが貴女たち。そして、その中心に居るのはキュアブロッサム、貴女よ」
「だから……なんだって言うんです」ブロッサムにもこの後の展開が読めてきた。逃れんと体をくねらすが、微動だにしない。
「つまり、貴女こそが全てのキー。貴女さえいなくなれば他の三人があたしに歯向かうことは無くなるの。恨みは無いし、こんなことでもなければ貴女とだって友達になりたかったわ。その気持ちだけは本当よ。それだけは理解してほしい。それじゃあ、さよなら」

 瞬きする間も無く放たれたノームの手刀は、ブロッサムの胸を衣装越しに刺し貫き、容易く心臓にまで到達した。いや、刺し貫いたのではなく、自身の手をブロッサムの体と同化させ、無理矢理侵入して言ったとでも形容すべきか。
 ブロッサムの心臓を掴んだノームは、恐るべきプリキュア腕力でそれを握り潰し、臓器が本来持つべき機能を停止させる。ブロッサムの顔から赤みが消え、全身を痙攣させる。同時に植物たちの拘束が解け、膝をついて崩れ落ちた。

「つぼみ……! そんな、なんで……なんでよッ、なんでなのよ!」
 昏倒から覚めた来海えりかが最初に目にしたものは、ネクリジェ姿となって倒れ込むキュアブロッサム――、花咲つぼみの姿だった。駆け寄って無事を確認したいが、動けるほど回復しては居ない。立ち上がれずに歯噛みするえりかの前に、かのノームが立ちはだかった。
「グッドタイミングよえりかちゃん。見ての通り、花咲つぼみさんはもう立ち上がれないわ。これ以上抵抗したって無駄よ無駄。あたしはもう少しだけこの街に居るから、気が変わったのならいつでも言って頂戴ね。それじゃあ」
 それだけ言い残し、廃墟と化した街の中へと消えて行くキュアノーム。各所で上がる火の手。行き場を無くし、立ち上がれない自分たちを悲壮な目で見つめる百人近い希望ヶ丘の市民たち。痙攣が止み、ぴくりとも動かない友の姿。薄れ行く意識の中で来海えりかは確信した。

 自分たちプリキュアは、あの得体の知れぬ侵略者に、完全に敗北したのだと。
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