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 ←Journey through the Decade Re-mix 第九話 「警告:カブト暴走中」 フェーズ1 →これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー 平成二十五年六月号
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「Journey through the Decade Re-mix」
Journey through the Decade Re-mix(2)

Journey through the Decade Re-mix 第八話 「超モモタロス、参上! 鬼ヶ島の戦艦」 二両目

 ←Journey through the Decade Re-mix 第九話 「警告:カブト暴走中」 フェーズ1 →これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー 平成二十五年六月号

 ※前月に掲載された「カブト編」の続きではありません。
 電王編その一はこちらから飛んでください。

 約半年ぶりの更新になるでしょうか。一週間~ひと月のペースで掲載していた「なろう」時代が懐かしい。

 本編に関わる話なのでここで先に書いておきますが、色々な都合で、予告にあった「桜井侑斗とデネブ」のシーンは消えました。彼らは本話・電王の世界には登場しません。
 なお、今回に限り「起承転結の四部構成」ではなく、五部構成での完結になりそうです。
 すみません、収まりが悪くて……。



◆◆◆


 先頭車両を切り離され、運行不可能となったデンライナーは、地球の重力に従って今もなお落ち続けていた。このまま地表に激突すれば、多くの人や物を巻き込んであの世へ直行だ。ディケイドは額に汗を溜め、人魂たちを問い詰める。
「おい! 何とかならねぇのか、このまま地面と接吻は御免だぜ」
「出来ないことは無いよ。さっきみたいに『体』があれば、電王に変身して僕たちの車両を連結出来る」
「俺の体を貸せってか。まさか、そのまま奪おうってんじゃないんだろうな?」
「そこは僕を信用してもらうしかないね。このまま何もしなけりゃ、どの道みんなお陀仏だよ」
 人魂の言い分は尤もだ。彼がこうも落ち着き払っているのは、ディケイドが条件を呑む他無いと分かっているからに違いない。自分を殺そうとした相手にすがるのは御免だが、現段階ではそうする他に道はない。ディケイドは憤怒を堪えて壁を叩き、ゆっくりと首を縦に振った。
「そうこなくっちゃね。安心していいよ、悪いようにはしないから」
 ――ROD FORM

 ディケイドに取り憑いた青の人魂はデンオウベルトを腰に巻き、電王・ロッドフォームに変身。不敵にぱちんと指を鳴らす。彼の呼び掛けに呼応するかのように、デンライナーの隣を並走する一両の列車が現れた。青一色で、デンライナーの四分の一程の大きさしかないその車両は、一気にスピードを上げてデンライナーを追い越すと、牽引車両の無くなったデンライナーに連結し、ブレーキをかける。

 だが、相手は自身の三倍もの車体と重量を持つ車両なのだ。たった一両で落下を抑えられる訳がない。それでもなお青人魂は余裕の笑みを崩さない。
「ま、こうなるよね。それじゃ、後は任せるよ」
 ディケイドの体に更に金と紫の人魂が入り込み、複眼の色が不気味に点滅し始める。同時に金色と紫色の車両がデンライナーの横に並び、青の車両に連結した。落ち行く車両は三、牽引車両も三。重量はほぼ同じ。3つの車両はブレーキではなくエンジンを噴かし、落ちかけたデンライナーの進路を上方へと向けさせた。

「ひゅーっ。間一髪やで……」
「わーい、わーい! あぁ、面白かったァ。またやろーね」
「悪いけどこれ以上は勘弁してほしいね。二度と御免だよ」
 危機を乗り越え、安堵する3つの人魂たち。だが彼らに取り憑かれながらも意識を保っていたディケイドは、無理矢理ベルトを外して変身を解除し、人魂たちを体内から追いやった。
「ちょっとちょっと、何するのさ! まだ話は途中……」
「冗談じゃねぇ、助かったんならとっとと出て行け! それに三人がかりで俺の体を乗っとるなんざ話が違うぞ!」
「お陰でみんな助かったんだ。僕たちを責めるのはお門違いなんじゃないかな」
「せやで。男のくせに終わったことをぐちぐちと……。女々しい奴っちゃ」
「はははーっ、女々しいんだ、女々しいんだァ」
「お前らなあ……、人が黙ってりゃ勝手なこと言い連ねやがって……!」

 ――皆さん、その辺にしておいてください。
 デンライナーが安定してレールの上を走れるようになってすぐ、奥の客車から一人の男が現れた。青年と言うほど若くなく、老人と言うには老けきっておらず、やや前髪が後退し綺麗な額を晒している。
 男は物怖じせず士の前に立ち、わざとそうしているのかと思うくらい低く威圧感のある声で言った。
「お待ちしていましたよ。世界の破壊者・ディケーイド君」
「初っ端からゴアイサツだな。お前も俺を踏ん縛ろうってのか? そこの人魂たちと同じように」
「……」
 男は少し考え、威厳たっぷりに言葉を返す。「今まではそのつもりでした。ですが、どうやらそれは勘違いだったのかも知れません。もしかすると、貴方もまた被害者なのかも知れない」
 謝罪の言葉を口にしつつも、その声その態度に媚びや反省は見られない。かといってそれを糾弾するつもりにはなれなかった。男の鋭い眼光が反論を躊躇わせたのだ。
 士は彼に不気味な底知れなさと、どうしようもない腹立たしさを感じていた。
「まあ、そう興奮しないでください」ディケイドのぎらついた目をものともせず、男が言う。「貴方と私たちの敵は同じ筈。まずは情報交換と行きましょう。客車にて美味しいコーヒーをご用意しています」
「冗談じゃない、人を叩きのめそうとした奴らと茶なんぞ」
「何、美味いコーヒーだと!?」
 士の言葉を遮り、名無しのイマジンに憑依されたままのクウガが割って入る。
「丁度コーヒーが飲みたかった所だ。おいオッサン、早く連れてけよ早く」
「宜しい。ではご案内しましょう」
 連れであるクウガの了承を士の承認であると解釈し、男は身を翻して客車へと向かう。ここで気に食わないのは士だ。彼は去ろうとするクウガの首根を掴み、自分の側に引き寄せた。「こんな時くらい食い意地は抑えろ! 罠だったらどうするつもりだ!」
 クウガが狼狽えた様子で答える。「お前の言うことはよくわかる。けどよ、何故か放って置けねぇんだ。俺の中の何かが、こいつのコーヒーを求めてンだよ!」
 士の制止を振り切り、変身を解いて誰よりも先に客車まで駆けて行く。こうなっては、自分一人居残っていてもしようがない。
「くそッ、待ちやがれてめぇら!」
 揃って俺をコケにしやがって、この借りは必ず返してやる。そんなことを呟きながら士は男たちの後を追った。

◆◆◆

 客車というより見世物小屋だな、こいつは。
 それが、門矢士がこの客車に対して持った最初の印象だ。
 赤と白を基調とした明るい空間、向かい合う形の座席の間に置かれたテーブル、部屋の端に位置する、調理場を兼ねたであろう甘い匂いを漂わせたカウンター。ここだけ切り取って別の場所に移し替えた時、どれだけの人々がここを“列車の客室”だと理解出来るだろうか。
「”オーナー“にウラちゃん・キンちゃん・リュウちゃん、みんなみんなおかえりなさーい」
 この場の匂いよりも甘ったるい声の女性が、戻ってきた男を出迎える。肩出しのタイトな制服と、アップで纏めた髪型からちらりと覗くうなじが妙に色っぽく、黒髪の中に一ヵ所だけ存在する時計の秒針のようにぴんと伸びた赤毛が、士の目を引いた。
「ナオミ君、私と客人たちにコーヒーをお願いします」
「はぁーい。直ぐにお持ちいたしますね」
『ナオミ』と呼ばれた女性は、男の求めに従ってカウンターの中へと消える。どうやら彼女がデンライナーの客室乗務員なのだろう。
 その様子を見ていて、今更ながら士は気付く。ナオミの言う“ウラ・キン・リュウ”とは誰だ。自分の隣には美味いコーヒーを求めて鼻をひくひくとさせるユウスケしかいない。男は奴を含め、“客人たち”と言ったのだと思うが、自分たち二人をつかまえて、たちと呼ぶのは少し妙だ。俺たちの他にそんな奴がいるだろうか。
 不審に思う士の背後から、芳醇な磯の香りを漂わせる長身の何かが身を乗り出して来た。
「ナオミちゃーん。僕たちにもコーヒー、いつものやつね」
全身水色の体に亀の甲羅のような体表。赤い目をした怪人だ。何だ何だと戸惑う間もなく、その後ろから恰幅の良い何者かが現れる。
「俺もいつもので頼むでぇ、ナオミ」
 目に当たる機関がV字で、両肩に斧のような衣裳が見られ、下半身には金と黒の縞模様が入った怪人だ。
 立て続けに、かつ何の前触れもなく現れるため、士は困惑しっぱなしであるが、同時にこの二人の“声”に聞き覚えがあると気付く。
 その疑惑が確信に変わるよりも早く、紫色の何かが士を押し退け、小さな子供の様に言う。
「二人ともずるーい。ナオミちゃん、僕も、僕も。いつものやつー」
「はいはーい。みんな、ちょーっとだけ待っててくださいねえ」
 今度は辮髪《べんぱつ》頭に竜の顔をした怪物だ。耳のヘッドフォンで何を聞いているのか知らないが、狭い客車の中でリズムを刻んで楽しげに跳ねている。
 この異様な風景を遠巻きに眺めていると、不意に士の視界に妙なものが混ざり込む。怪物たちにコーヒーを配って回っていた給仕の女性だ。彼女は子どものように無邪気な目で士の顔を眺めた後、彼に湯気の立つ暖かなコーヒーを差し出した。
「お近付きの印にどうぞ。世界の破壊者さん専用コーヒーでぇす」
「俺専用の……コーヒー?」
 どんなものかとカップを手に取り、繁々と見る。妙に甘ったるい香りの時点で気付くべきだったのだが、このコーヒーは香りからして何かが違う。桃色の液体が表面を覆い尽くし、中央部には緑色の二つの目、六つの黒い縦線。「ディケイド」の顔を模したものに間違いなさそうだが、これをコーヒーと呼ぶには些か疑問がある。
 冗談じゃない。士はこんなゲテモノを飲めるかと盆の上にカップを戻すが、ナオミなるデンライナーの客室乗務員は、彼の顔を上目遣いに見る。放っておきたいが、ナオミは視線を外そうとはしない。無視するのは非常に困難だ。
 これを飲まなければならないのか。カップの中に広がる混沌とした風景をじっと見つめていると、横から現れた人間の腕にそれを引ったくられてしまう。
「何だよ、飲まねぇのか? だったら俺に寄越せ」
「あ……、こら、勝手に飲むな!」
 ユウスケに取り憑いたイマジンは湯気の立つコーヒーを一気に半分程胃の腑に落とし込み、咀嚼を繰り返して口の中に広がる風味を楽しむと、麦酒を一気飲みしたサラリーマンのように満足げな溜め息を漏らした。
「かーッ、うめぇ! 美味過ぎる! おい女ァ、このコーヒー気に入ったぜ。お代わりくれ、俺専用の奴だ!」
「はいはーい。でも人のコーヒーを奪って飲むのはいけませんよ。あたしのコーヒーは飲んでくれる人ひとりひとりに対してのオーダーメイドなんですから」
「そうか。そりゃあ悪かったな。おいノッポ、口を開けろ」
「何だよいきなり……って、うおおッ」
 ユウスケはカップに半分残ったピンク色の液体を士の口内に一気に流し込む。吐き出そうにもコーヒーの風味が口全体に充満し、舌だけでなく喉を通過して鼻孔の中にまで広がった。

「……こいつは」見てくれはさておき、味は思ったほど悪くない。舌が麻痺しそうなほど甘いシロップ類の下に隠れた、濃厚で甘味のまるでないブラックコーヒーとのコントラストが見事に嵌まっており、何度も飲めば味の虜になってしまいそうな魅力を持っている。
 士が一息着いたのを見計らい、ユウスケ用のコーヒーを持って戻ってきたナオミが話し掛けてくる。
「どうです? イケるでしょ?」
「……ヒトもコーヒーも見た目じゃないってことか。後もう一口」
「ストップ。そろそろ本題に入りましょうか、門矢士君」
 士の眼前に、またも不意打ちで無表情な初老の男性の顔が現れる。この妙な見世物小屋の家主、デンライナーのオーナーだ。音も気配も感じさせず、自分の目と鼻の先にまで近付いてきたこの男に、士はぎょっとして後ずさる。
「そうか、本題はそっちだったな」
「分かっていただけましたか」オーナーは一歩引いて踵を返す。「まず、我々が貴方を狙っていたことから、説明しないと行けませんね。
 この車両は時の列車・デンライナー。過去や未来を自在に行き来できる乗り物で、過去を壊して未来を変えんとする者たちを処罰し、そのせいで世界からあぶれた人々を救うため、頼もしい仲間と相応の力を持って時間の中を走り続けています」
「待て待て、ちょっと待て。説明台詞が過ぎんぞ。もう少し噛み砕いて言えないのか」
「そうですね……では」
 オーナーは上着のポケットから白いハンカチを取り出すと、士の持つコーヒーの上に載せて続ける。
「仮に、そのコーヒーカップが過去。中身の飲み物が未来――としましょう。当然のことですが、カップがなくては中に注がれた飲み物は存在出来ません。もしも無くなってしまえば……」
 言い終わるが早いか、カップに被せた布をさっと取り払う。どんなカラクリを使ったのか不明だが、士の手からカップだけが消え、残っていたコーヒーが彼の手に降りかかった。
「熱……熱ぅッ! この野郎、なんてことしやがるッ!」
「これは大雑把な例えですが、時間を変える・変わるとはこういうことなのです。故に我々は時間の動向を常に監視し、イマジンたちの動きに目を光らせているというわけです。お分かりになられましたか?」
「いや、お前……」これだけで理解しろと言われても無理がある。だが再び問い質せるような空気でもない。士は煮え切らない表情を浮かべて首を縦に振った。
「取り敢えずお前らが何のために動いてるのかは分かった。けどな、それだけじゃ俺が追われてたことの理由にはならねぇだろう。その辺をはっきりさせようぜ」
「良いでしょう。ナオミ君、例のものをここへ」
「了解でーす」
 オーナーの求めに応じ、給仕のナオミが持ってきたのは、持ち運びの出来るタッチパネル式の小型液晶テレビ。彼はそこから「録画データ」なる項目に触れた。
「少し前、我々時の運行を守る者たちの拠点・《ターミナル》にて、厳重に保管されていた『あるもの』が盗まれました。犯人は警備の者を皆始末した上で逃亡。目的、逃走経路、共犯の有無は目下捜索中。
 直接顔を見た人は居ませんでしたが、ターミナルの従業員用通路に備えられたカメラに、それらしき人物の姿が収められていました。それがこちらです」
 再生ボタンを指でなぞり、記録された映像が液晶画面に映し出される。真白い床が一面に広がる通路の中で、十数人の警備員が一人の男に掴み掛かった。
 男は山のように覆い被さる警備員たちを力任せに振り払うと、彼らの急所に蹴りを入れ、怯んで動けない所に拳銃を放って命を奪い、それでもなお襲い来る者の首をへし折って、画面の外へと消えて行く。
 男の顔が大写しになったのは警備員の首をへし折る一瞬だけだったのだが、それを目にした士は驚きのあまり言葉を無くし、唇をぶるぶると振るわせる。それもその筈。映像の中で警備員の首をへし折った男とは、紛れもない『自分自身』だったのだ。
 あまりのことに口をつぐむ士に対し、オーナーが無表情のまま話しかける。
「……これは自分じゃない。似た顔の別人じゃないのか。貴方は今、そう考えているのではないですか? しかし、今そこに映っていた人物は、紛れもなく貴方なのですよ、門矢士君」
「何を馬鹿な。証拠はあるのか!」
「えぇありますよ。ついさっき手に入ったものがね」オーナーはそう言うと、何処からともなく先程消えた士のコーヒーカップを取り出して掲げる。取っ手部分に白い粉のようなものが撒かれており、吹き払うと共に士の指紋が浮かび上がった。
「ターミナル内の金庫とカップについていた指紋とを照合しました。結果は百パーセント一致。映像にも手を加えられた形跡は無し。つまり、金庫に侵入したのは貴方でなければおかしいのです」
「待てよ……、ちょっと待て」いつの間に指紋を照合したのかは置いておくとして、こんな馬鹿な話があるものか。「俺は今の今までそのターミナルどころか、デンライナーの存在すら知らなかったんだ。それに俺はさっきまで街中をうろついていた! 行けるわきゃあねぇだろう」
「さっき、とはいつのことです? 何時何分何秒ですかな?」
「何だその子供じみたやり取りは。眉間に拳入れられてェのか」
「大真面目な話です。貴方にそれが証明出来るのですか? 街の散策を何時何分何秒に行っていたのかと」
「それは……」
「そもそも、我々時の運行を守る者たちにとって、時間によるアリバイなど有って無いようなもの。ましてや貴方は「世界の破壊者」。何を仕出かしても不思議じゃあありません」
「ふざけんな! 全部手前ェらの都合だろうがよ、関係無い俺を巻き込むんじゃあない!」
「では、関係が無いという証拠を出していただきましょうか。貴方にそのようなものがあれば、になりますが」

「……ッ」すぐにでも反論したかったのだが、否定する要素は何も無い。士は苦虫を噛み潰したような表情を見せると、俯いて悔しそうに舌打ちした。
 笑いもせず怒りもせず蔑みもせず、ただ無表情に士の顔を見るオーナー。彼と目を合わせることすら出来ない士。デンライナーの食堂車を気まずい沈黙と異様な雰囲気が包み込む。

「うンめェー! ここのプリンもコーヒーもグンバツじゃあねぇか! コーヒーがプリンを、プリンがコーヒーの味を引き立ててやがるッ! 何なんだ!? 何なんだァこいつはよォーッ! おいウェイトレス、お代わりだ、早くお代わりを持ってこい!」
「持ってこいって言われたって、それもあたしのオーダーメイドなんですよぉ。そんな直ぐには出来ませんー。それに暴力とか大きな声で威嚇するようなヒトにはプリンもコーヒーもあげませんよ。没収しちゃいます」
「何ぃ!? 待て、待ってくれ! そいつだけは勘弁してくれよ、まだ二口目なんだぞ! なっ? なっなっなっ!?」

「ねぇねぇ、カメちゃん、クマちゃん。あいつは何なの? 自分ばっかりナオミちゃんにコーヒーやプリン作ってもらったりしてさ」
「さあ。なんたってあのディケイドが連れてきた奴だからねぇ。イマジンに憑依されてるみたいだけど」
「リュウタ、よう覚えとき。あぁやって女にばかり働かせて、自分はなんもせんで飯を待っとる男のことを『ひも』って言うんや。あぁいう風にはなっちゃあアカンで」
「うん!」

 しかしそんな雰囲気も、ユウスケに憑依したイマジンと、それを取り巻く者とのやり取りで掻き消える。あまりの朗らかかつ馬鹿馬鹿しさに、対立していることすら阿呆らしく思えてしまう。
 士は肩をすくめて溜め息を着き、オーナーは軽く咳払いをして場を仕切り直すと、「ですが」と話を続けた。
「貴方が犯人だとすると、それはそれで腑に落ちない点があります。奪われた『宝』は何処に行ったのか? デンライナーを奪っていったあのイマジンは何なのか? そして、行方不明になったリョウタロウ君は……」
「リョウタロウ?」
「デンライナーのイマジンたちと共に、時の運行を守る青年です。それは兎も角。このまま貴方を捕縛しても事件は解決しそうにありませんし、かと言って野放しにしておく訳にも行きません。
 そこで、貴方にはもう暫くこのデンライナーに留まってもらい、事件への捜査協力をしていただきます。貴方の手並みは先程拝見しましたし、何より、貴方にも彼らを追わなければならない訳がある。断る理由は無いでしょう?」
「断れない、理由……」言いかけて、士の脳裏に夏海の顔が浮かぶ。鰐のイマジンは時の列車を奪って何処への時間へと消えた。ディケイドの力を持ってしても、自力で彼らを追うのは不可能だろう。
 夏海の為ならば仕方がない。士は諦めてオーナーの差し出した手を握り締めた。
「癪だが、四の五の言ってられないのは確かだからな」
「良いでしょう。ではそろそろ我らも自己紹介をしませんとね。皆さん、皆さん」
 オーナーの呼び声に反応し、食堂車内のイマジンたちが此方を向く。
「手前の青色の彼はウラタロス君。頭の切れる我らの参謀です」
「君のことを信用し切ったわけじゃないけど、利害が一致しているのなら仕方無いね。宜しく色男君」
 士は彼の言葉に不機嫌そうな顔で「そうかよ」と返す。オーナーは更に奥側のテーブルに目を向けさせた。
「巨体の黄色い彼はキンタロス君。気は優しくて力持ち。その気になれば大型トラックだって持ち上げられる怪力の持ち主です」
「少しの間やけど、まあ仲良うやろうや。ここはひとつよろしゅうな。どすこォい!」
 言って四股を踏み、力強さを誇示するキンタロス。士も「宜しく頼む」と挨拶を交わす。
 そして、オーナーの目は食堂車の最奥で遊び回る紫のイマジンの方へと向いた。
「入り口の前で客室乗務員のナオミ君と遊んでいるのはリュウタロス君。まだ子どもですが、身のこなしと射撃の腕は天下一品です」
「皆は許しても、僕は絶対に許さないからね! お前なんて、こうだ!」
 軽やかなステップを踏みつつ不意に士に近付いたリュウタロスは、わざと彼の足を踏みつけ、目を剥いて舌を出す。怒りに燃える士は紫のイマジンに掴みかからんとするが、オーナーの手にした杖で眉間を打たれ、その場に蹲ってしまう。
「躾《しつけ》がなってねぇぞ躾が……! 一発殴らせろこの野郎!」
「まだ紹介の途中ですよ。リュウタロス君には後で私からきつく言って聞かせますので、ここは怒りを収めて、収めて」
 杖と威圧感ある言葉で士を御したオーナーは、気取ったお辞儀の後、「そして」と言葉を継ぐ。
「私がこのデンライナーの管理責任者。時の運行を護る者です。どうぞお見知り置きを」
「肩書きはもう知ってる。名前は何なんだよ」
「あぁ、これは失礼。私の名前は――」
 大袈裟に間を取り、息を吸うオーナー。彼が自身の名を言わんとしたその時、イマジンに憑依されたユウスケが、プリンの皿で士の頭を何度も叩いた。
「おいノッポ、ノッポってばよォ」
「うっとおしいな。取り込み中だぞ」
「やばそうな奴らが来るぜ。ずらかる気なら早い方がいい」
「なんでそんなことがお前に分かる」
「勘……、と『匂い』だ。雑多な匂いが一ヶ所に固まって、頭の上で陣取ってやがる」
「匂いだァ? 何を馬鹿な」
 話を遮られて不機嫌だからか、士はユウスケの話にまともに取り合おうとしない。しかし、逆にオーナーはその話を聞いて眉を吊り上げ、険しい表情を作った。
「興味深い話ですねぇ。宜しい。では我々も後ろの車両に避難しましょうか」
「おいおいアンタ、そいつの話を信じるのか?」

「ディケイドの言う通りやでオーナー。たかだか匂いで臆病な……」
「そうそう。『あの人』じゃあるまいし」
 イマジンたちも概ね士と同じ反応だ。見ず知らずの同胞に何が分かるというのか、という所だろう。しかし紫のイマジン・リュウタロスだけは、不思議そうに首を傾げる。
「ねぇねぇ。カメちゃん、クマちゃん。なんか変じゃない?」
「変? 何が変なの、リュウタ」
「音だよ、おと。デンライナーの汽笛。いっつも奥の方から響いて来るじゃない。けど今は、もっとこう……上の方から聞こえて来るような」
「ハハハ、何言うとるんやリュウタ。デンライナーの一両目は盗まれたんやで。汽笛なんか聞こえる訳が……、訳が……? んん?」
 そこまで話していて、キンタロスも漸くこの話の違和感に気付く。デンライナーの一両目は鰐イマジンに盗まれたのだ。汽笛など聞こえる訳がない。それが何故、自分たちの耳に届くのか。キンタロスとウラタロスは同じ結論に思い至り、全てを悟る。だが既に時遅し。デンライナー両側面の窓を蹴破り、総勢八体の怪物が乗り込んで来たからだ。

 驚いて車窓から空を見上げると、奪われたデンライナーの牽引車と、その後ろに車輪付きの『籠』らしきものが数両ついた奇妙な電車が、士たちの乗る電車たちの上にぴったりとついている。あの鰐イマジンの部下であることは間違いない。念には念を入れて、自分たちを始末しに来たと言うのか。

「ほぉら見ろ、言わんこっちゃねぇ!」
「文句なら後で聞いてやる。それより今は迎撃だ、来るぞ!」
 士とユウスケはそれぞれ仮面ライダーに変身し、客車を荒らすイマジンたちを迎え撃つ。蠍、鯨、蜂、蜥蜴、飛蝗、蟹、海月、雪男。一人一人は大して強くないものの、さほど広くない客車の中で、ここまで大人数が暴れられればそれだけで脅威になりうる。

「こんの……野郎!」ディケイドはライドブッカーをソードモードに組み替え、眼前のイマジンに向けて振るうが、刃は敵の体ではなく壁に突き刺さり、そのまま抜けなくなってしまった。
「何っ、このッ、くそッ! 抜けねぇぇえっ」
 押しても引いてもライドブッカーは微動だにしない。その上、隙を狙って敵イマジンたちも襲い掛かってくる。ディケイドは剣を抜くのを諦め、右横蹴りで蠍のイマジンを退けつつライドブッカーの柄を握り、振り子の要領で反動のついた後蹴りで鯨のイマジンを遠ざけた。

「あぁ、もう! うっとおしいなァ、大人数の釣りは、趣味じゃないんだけどっ!」
「全くや。雑魚ばかりこないな数……騒々しくて眠れへん」
「もーっ! お前ら邪魔! あっちいけあっちいけあっちいけ!」
「ちょ、ちょっとリュウタ! ここデンライナーの中だよ! 銃はダメ、銃は!」

 苦戦を強いられているのはデンライナーのイマジンたちも同じだ。自前の武器を使って立ち回れない以上、ディケイドたち以上に部が悪い。このまま戦っていても埒が明かない。ディケイドはデンライナーの車窓から現在の高度を確かめ、皆に向かって声を張り上げた。

「まともに相手したって無駄だ。増援がかかる前に奴らを客車から引きずり出せ! それくらい出来るだろ!」
 言うが早いか、ディケイドは蟹イマジンの顔に肘鉄を打って怯ませると、そのまま肩に担ぎ、デンライナーの客車から放り投げる。苦戦する四人のイマジンたちは、情けない悲鳴を上げて落下する蟹の姿を目にし、「成る程な」と手を叩く。

「せやな、デンライナー壊すよかよっぽど楽や」
「力ずくなのは僕の趣味じゃないけど、それが一番手っ取り早そうだ」
「ダメージ溜めてぶっ飛ばせー! いぇいいぇいいぇーい!」
 四人のイマジンはそれぞれの特技や体術を活かし、穴の開いた壁から敵イマジンを放り出して行く。雑兵イマジン軍団はあっという間にその数を減らし、雪男ただ一人となってしまった。
「ちょっと、ちょっとォ! もお私一人しか居ないんですかァ!? 援軍、援軍ー!」
「後は手前だけだなニンジンっ鼻。大人しくここから出てけってんだよ!」
 無抵抗の雪男目掛け、手にした剣を振るうクウガ。雪男は恐怖に駆られ頭を両手で覆うが、突如何者かに背中を引かれ、あっさりとデンライナーから落下してしまう。自滅か? 否、これは外部の手の者の仕業だ。その証拠に穴の開いたデンライナーの壁に手をかけ、何者かが車内に強引に押し入った。

「おうおう、派手にやってくれるじゃあねぇか! 手間ァかけさせんじゃねぇぞ、はぐれもん!」
 謎の闖入者はイマジンではない。歌舞伎の演目に出てきそうな勇ましい着物を身に纏い、一抱えもある鈍色《ニビイロ》の棍棒を背負い、鬼の角めいた特異な形の冠を被った若い男だ。着物の下からでも分かる筋骨粒々とした体躯とぎらついた目付きから、男の職業とデンライナーに乗り込んで来た目的の察しはついた。
 士は、ここの誰もが疑問に感じているだろうことを口にする。
「……お前も、あの鰐野郎の知り合いか?」
「答える必要は無い。お前と……そこの赤色腰抜けは、たった今! ここで! 俺が叩き潰してやるんだからな!」
 男は背負った棍棒を引き抜き、天に向かって振り上げる。力自慢にデンライナーの屋根を破壊したのだろうか? 否、屋根には傷一つついていない。
 着物の男が棍棒で砕いたのは、彼の頭上にある『空間』だ。今の今まで「そこ」に映っていたものが割れたガラスのようにぱらぱらと散る。
 そうして生じた、雷鳴轟く別次元の空間から、着物の男目掛け、何かが降りてくる。「それ」は男の体にまとわりつき、異形の怪物の姿を形作って行く。全ての「何か」が男を覆い尽くした時、彼の姿は鈍い銀色に輝く武者の鎧に身を包む、異形の怪物へと変化していた。
「あぁ、あああ……あれは!」
 真っ先にそれに反応したのは、ディケイドでもクウガでも、他のイマジンたちでもなく、車内の奥で事の成り行きを見守っていたデンライナーのオーナーだ。彼は噛み締めて紫に染まった唇を震わせる。
「『シルバラ』の鎧……! 彼らの計画は、もうそこまで……!」
「何ブツブツ唸ってんだよオッサン! 知っていることがあるんなら俺たちに」
「いいや、お前たちが知る必要は無い」オーナーの代わりに、鎧の男がクウガの問いに答える。「お前たちは! 今この場で! 死ぬのだからな!」
「お前……たち!?」
 鈍色の鎧武者は背中の棍棒を振り上げ、床へと一気に叩きつける。衝撃が客車全体を伝い、一直線に地割れが生じた。
 地割れを伝う衝撃によって客車の壁の一部が吹っ飛び、大穴が開く。穴の先にあるのは街ではない。空っ風の吹く広大な荒野だ。車体を襲う衝撃も手伝い、ディケイドとクウガはデンライナーから放り出されてしまう。
「おぅ!? おおおおおおおおっ! 落ちる! 落ちる! 落ちちまうぅ!」
「おいコラ手前ェ! 俺の肩を掴むな! 離せ!」

「オーナー……。ディケイドさんともう一人、落っこちちゃいましたよぉ」
「あの鎧が敵の手中に渡ったと言うことは……。しかし何故、『あの情報』が外部に……、いいや、ありえない。内通者など……」
「オーナー? オーナー! 無視しないでくださいよぉ」
 乗務員ナオミの声も意に介さず、目を剥いて早口で何かを呟くオーナー。深入りせずそっとしておきたい所だが、そうは問屋が卸さない。デンライナーの上に陣取るハリボテ列車からの攻撃は尚も続いているのだから。
 大将たる着物の男がディケイドたちを追って消えたのを皮切りに、更に多くのイマジンが客車に乗り込んで来た。落とせばいいとは言うが、座椅子や机をひっくり返し、散々たる有り様となった客車の中ではそれすらも厳しい。加えて急激な重量の増加により、徐々にデンライナーの高度が下がっている。本来の牽引車・一両目『ゴウカ』でない今のデンライナーに、ここまで大多数を載せて高度を維持するのは不可能なのだ。

 イマジンたちの激しい取っ組み合いと出力不足により、デンライナーの客車が左右に傾き、激しく揺れる。あまりの揺れと墜落の危機に、ようやくオーナーが我に返った。
「おやおやこれは……。大変なことになっていますねぇ」
「さっきからずっと大変です! どうするんですかオーナー! このままじゃデンライナーはみんなと一緒に墜落しちゃいますよぉ!?」
「デンライナーは私たちの攻撃の要。落とされる訳には行きません。と言うわけで」
 オーナーはどこからともなく取り出した杖を振り上げ、誰を指すでもなく右へ左へさっと動かす。それに呼応するかのようにデンライナーの車体が激しく左右に振られ始めた。
 無賃乗車のイマジンたちはあっという間に放り出され、デンライナーのイマジンたちも壁にしがみつき、落ちないようにするのが精一杯だ。
 あまりの激しさに敵の急造列車の方が根負けし、デンライナーから遠ざかって行く。再び時を越えたため、牽引車両を取り戻すことは叶わなかったが、取り敢えず急場は凌げたらしい。

「あはは、あいつら逃げてくよー! だらしないのー」
「凄いじゃないオーナー。あんなこと出来るんなら最初っからやってくれればいいのに」
「せやでせやで。切り札はとっとくもんちゅうても、使わんで宝の持ち腐れになっちゃあ元も子もないやんか」
「貴方たちは何か勘違いをしているようですね」オーナーは渋い表情で頭を横に振る。「使わなかったのではありません。出来れば使いたくなかったのですよ。出力不足で墜落しそうな時は、特にね」
「……墜落?」
 オーナーの説明と呼応するかのように、デンライナーの進行が停まってしまう。進路方向に発生する線路もそこでぴたりと止み、空中で完全に静止してしまった。
 そのまま立ち往生だというならまだよかったのだが、デンライナーは走行の度に進行方向に線路を作り出し、通過後はすっと消えて行く仕組みとなっている。それが途中で止まるとどうなるか。後はもう墜ちる他あるまい。

「うわ、うわあああっ! 落ちる、落ちるぅぅう!」
「アカン! このまま落ちたらひとたまりもないでぇ!」
「すごいすごーい! ジェットコースターだー!」
「オーナー! なんとかしてくださいよぉ!」
 堕ち行くデンライナーの中で各々に叫ぶ乗務員の面々。彼らを執り纏めるオーナーは険しい顔つきで眉一つ動かさず、ステッキを前に差し出した。連結された三つの牽引車が暴れ牛めいた唸りを上げ、車体を上向きにして姿勢を整える。落ち行く客車は間一髪、落ち着きを取り戻した。

「激突だけは免れたみたいだね……危なかったァ」
「えぇ、最悪の事態は免れました、が」オーナーは渋い顔で続ける。「貴方がたに悪いニュースがあります。今のでイスルギ・レッコウの燃料が切れました」
「燃料が切れた!?」
「てェことは、つまり……」
「ここから一歩も進めない、と言うことです」
「そそ、そんなァ……」


◆◆◆

 純白の砂が延々と滴り落ち、海外のモニュメント・ヴァレーにも似た荒涼とした渓谷。他時間への通り道、「時の砂漠」と言われる不可思議な空間に飛ばされたディケイドとクウガは、鈍色鎧武者との戦いを続けていた。

「なかなか頑張るじゃあないか。 思ったより骨があるじゃねぇの、腰抜けェ」
「うるせェ! 手前ェに褒められたってちっとも嬉しかねぇんだよ!」
 自身の顎を撫でて感心する鎧の男と、逆撫でされて激高するクウガ。ディケイドは落下の衝撃を庇い、ライドブッカーを支えに立ち上がる。
「お褒めに預かり光栄だね。折角だから聞かせてくれよ。何故俺やその雑魚イマジンを狙う。あんたの上司はデンライナーの牽引車両奪って何を企んでんだ」
「聞きたいか?」鎧武者はクウガの「誰が雑魚だ」という言葉を遮り、声高々に言う。
「いいだろう、冥土への土産話に知るがいい。俺と『兄ちゃん』の目的は! お前たちの乗り物と『鍵』とで錠を外し! 世界最大最強の『戦艦』を手に入れることよ! どぉだ、すごいだろう!」

「戦艦だぁ!? ンなもん手に入れて何しようってんだよ!」
「『兄ちゃん』、ねぇ。兄弟揃ってこんな厄介な事件を起こしたって訳か。ならついでにもう一つ。俺やこの馬鹿を殺そうとする理由は何だ」
「深い訳なんて無ぇよ。兄ちゃんの俺の夢のために! お前ら邪魔な奴らを! ぶっ潰すだけなんだよ!」
 シルバラの鎧に身を包んだ武士の男は、手にした棍棒を頭上で振り回し、勢いよく地面に叩きつける。衝撃によって地表が割れ、砂が嵐のように舞い散り、周囲数メートルに渡って亀裂が走る。
 棍棒の重量も凄まじいが、何より恐ろしいのは涼しい顔でそれを操るこの男だ。あれだけの重量の棍棒を振り回していて、軸足が微動だにしていない。相当の手練れだ。
 ディケイド――門矢士は思案する。敵の腕力は圧倒的だ。力比べで対抗するのは得策とは言えない。となれば速さか。相手を撹乱し、隙を突くのが一番だ。

「となれば、適役はコイツだな」
 ディケイドは右腰のライドブッカーから一枚のカードを選び出す。仮面ライダー555《ファイズ》の『アクセルフォーム』だ。十秒間だけではあるものの、通常の約千倍の速度で活動出来る『必殺』の能力を宿している。
 しかし、その負荷は直接ドライバーに掛かり、使用後数分は他のフォームライドカードを使用出来なくなるデメリットを抱え、万が一発動中に破られでもすれば、加速の負荷と衝撃がディケイドを襲う。あの鎧武者は油断ならない強敵だ。下手を打てば逃げることすら不可能になる。
 だから何だ。逃げて何になる。そもそもこの時の砂漠をあてもなくさ迷ったとして、助かると言う見込みなどない。何としても勝つしかないのだ。
 心の中で自身を鼓舞し、カードをバックルに装填せんとしたその時、恐らく自分と同じことを考えていたであろう「単細胞」が、ディケイドの背後から飛び出した。
 ディケイドはカードを装填するのも忘れ、鎧武者シルバラに飛び掛かるクウガの制止に回る。敵の懐に飛び込んだのが彼に憑依したイマジンだとしても、その体は小野寺ユウスケその人のものだ。不意に手を出して四散でもしたら目も当てられない。
「飛んで火に入る夏の虫! 一石二鳥とはこの事よ!」
 シルバラの振り上げた棍棒が横薙ぎに振るわれた。クウガは回避行動すら取れず、そもそも棍棒が放たれたことすら気付かず突進を続ける。あわや当たるかと思われたその時、横っ飛びに体当たりをぶちかましたディケイドによって最悪の事態だけは避けられた。
「おい、何しやがんだ手前ェ! ……って、棍棒ゥ!?」
「闘争本能丸出しでぶつかるのは結構だがな、ちったァ取り憑いてるそいつの体の心配をしてやれよ。あんなモンを喰らったら一発でぺしゃんこだぞ」
「ぐぬぬ……」棍棒の威力を肌で感じ、クウガにもようやくその脅威が理解出来た。だが、彼とて何も考えずに飛び出したのではない。彼には彼なりに「作戦」があったのだ。
 クウガはディケイドを強引に振り払って立ち上がると、シルバラに掴みかかり、彼の頭を殴打し始める。成る程、ここまで至近距離でならあの棍棒とて無用の長物。殴り合いか掴み合いを行う他無い訳だ。
「馬鹿のくせに面白いことを考えるじゃあねぇか。なら、俺はこいつだ」
 ――KAMEN RIDE 「RYU-KI」
 ディケイドは先ほどまでとは別のカードをバックルに装填。両側から鏡のようなものに包まれ、仮面ライダー龍騎《りゅうき》へと姿を変える。
「こいつを喰らいな鎧野郎!」
 ――ATTACK RIDE『STRIKE VENT』
 続けて挿入したのは、契約モンスターの体の一部を武具として顕現させる『ストライクベント』のカード。ディケイドは右手に填められた龍の顔型の手甲・ドラグクローに炎の力を宿し、シルバラの脇腹に強烈な一撃を叩き込む。
 シルバラの顔が鎧兜の奥で苦悶に歪み、嗚咽を漏らして後ずさる。クウガはその隙を突き、お返しだとばかりに鎧越しにシルバラの左頬に拳を叩き付けた。彼の首が捻れ、あらぬ方向に曲がる。
「どぉだ鎧野郎! これが俺の、俺……のッ、痛ててててッ!」
 纏った鎧の堅牢さに、クウガは拳を痛め必死に患部をさする。対するシルバラは捻られた首を気合いで戻し、怒りにぎりりと歯を軋ませる。
「おのれ……、腰抜けと青瓢箪《あおびょうたん》の分際で、生意気なッ!」
 言って棍棒を抜き、バックステップで距離を取らんとするシルバラ。あれを使わせる訳には行かない。ディケイドは彼の懐に一気に潜り込むと、頭突きで一瞬怯ませた上で、右と左、両の脇腹にフックを打ち込んだ。
 逆流した胃液が兜の中に充満し、焦げ付いた臭いが鼻を突く。炎を纏ったディケイドの攻撃は、鎧越しでも確実にシルバラの体力を削っている。
「小さく、細かく、早く! そして、こいつが、トドメだッ」
 右と左のジャブで敵の足をふらつかせ、左ストレートでシルバラの体をくの字に曲げさせる。ディケイドは生じた隙を逃さぬよう右手を振り被り、ドラグクローに炎を集束させた。充実した炎と共に、くの字に曲がったシルバラの腹にアッパーカットを叩き込む。あまりの威力にシルバラの体が地面から一メートルほど宙に浮いた。

 いや、待てよ。「一メートル」だって? ディケイドは思案する。確かに超至近距離のドラグクロー・ファイヤーは強烈無比だ。しかし相手は途方もない重量の棍棒を振り回す豪傑だぞ。こうも簡単に打ち上げられるものだろうか。
 ディケイドの予感は彼にとって最悪な形で的中した。シルバラは彼の攻撃で一メートルも浮き上がったのではない。自ら拳の衝撃を借りて「飛び上がった」のだ。
 まずいと思い拳を引き戻すも時遅し。シルバラの両腕がディケイドの右手を掴み取り、それ以上後ろへ引かせない。だが、それが何だと言うのか。動きを抑制されただけいるだけではないか。彼の目的は別にあった。
 不意にディケイドの視界が暗く染まる。太陽が雲に隠れたか? 否、この世界に『雲』など無い。ならば今、自分の視界を制しているのは何だ。ディケイドがその正体を認識するよりも早く、彼の眼前から現れた『それ』は、動けないディケイドの眉間をぶん殴り、砂山に叩きつけた。
「ぐお……っ!?」頭蓋を揺らされ、ディケイドの視界が霞みにかかったようにぼやける。その先に立っていたのは他でも無い、鎧に身を包んでいたあの若者だ。
「残念だったな世界の破壊者! このシルバラの鎧は! 俺の意思で! 自由に着脱して操ることが出来るンだよ!」
「おいおい、冗談じゃあねぇぞ……」ディケイドが毒ついたのは、シルバラが言った鎧の着脱と操作についてではない。「生身であの腕力かよ……。反則じゃねぇか!」

 鎧を脱いだシルバラは、ディケイドの頭を鷲掴みにし、先程自身が喰らったのと同じかそれ以上のボディブローを腹部に打ち込む。ディケイドのアーマー(厳密には仮面ライダー龍騎のそれなのだが)越しに放たれたそれは、アーマーに元々備わっている筈の衝撃吸収能力すら看破し、門矢士のあばら骨を軋ませた。
 二打目で拘束を解かれ、自由を得たディケイドは痛みを堪えてドラグクローでシルバラを殴り付けようとするも、敵に半身を引かれて空振り、たたらを踏んでしまう。それに合わせて放たれたストレートがディケイドの右こめかみに突き刺さる。稲妻に撃たれたかのような痛みが身体中を駆け巡り、ディケイドの膝が産まれたての子馬のようにがくがくと揺れた。
「オイ、何やってんだノッポ! しっかりしろッ」
 生身の人間相手になすすべもないディケイドを心配し、駆け寄ってくるクウガ。シルバラはそんなクウガを疎ましく感じ、彼に向かって右人差し指を突き立てた。
「邪魔するんじゃあないぞ腰抜けェ、お前の相手はこいつで十分だ!」
 シルバラの求めに応じ、ディケイドの前に立っていた鎧が勝手に動き出し、クウガの前に立ちはだかる。「邪魔」だと怒鳴り、どけよと掴み掛かるも、脱け殻となった鎧にはクウガの打撃は一切通じず、逆に叩き伏せられてしまう。
 余所見をして鎧とクウガとの殴り合いを眺めつつ、シルバラは不満の溜め息を漏らした。
「なんだいなんだい、兄ちゃんの言ってたことと話が違うぜ。世界の破壊者ってのは、何千人もの兵より強いんじゃあなかったのかァ? 食い足りないにも程があるぜ」
「そいつは……どうかな!?」
「あァん?」
 シルバラが自分から関心を失った隙に、ディケイドは「ファイナルアタックライド」カードをバックルに装填し、跳び上がる。
 ――FINAL ATTACK RIDE『Ryu-Ryu-Ryu-RYUKI』
 バックル中央部の宝玉から現れた、無双龍・ドラグレッターの炎の勢いを加算させ、シルバラ相手に必殺の飛び蹴りを見舞う。その構えだけでそれが何やら危険な代物であることを理解したシルバラは、クウガを叩き伏せている鎧に向けて左手を掲げ、「戻れ」と吠えた。
 鎧は一瞬にして男の体に纏われ、仮面ライダー龍騎のドラゴン・ライダーキックを両手で受け止めた。反発によって生じた衝撃が地表を激しく軋ませ、純白の砂粒を津波のように舞い上がらせる。

 この打ち合いに勝利したのはシルバラだ。彼は有り余る腕力でディケイドの蹴りを強引に押し返して吹き飛ばしてしまったのだ。渾身の力で放った蹴りを返されたディケイドは、変身も解除されてしまい、無惨に地面を転がる。
 鎧の男は足元に転がったディケイドライバーのバックルを蹴って放ると、必死になって体を起こす士を目にし、鼻で笑った。
「イタチの最後っ屁ってヤツか。ビビったがよ……、今のが正真正銘、最後の一発だったみたいだ、なァ?」
 シルバラは背中の棍棒を引き抜き、地面に擦らせつつ、ゆっくりと士の方へと近づいて行く。
「……俺と兄ちゃんはガキの頃から戦場を駆け回って来た。血生臭くて嫌な場所だったが、楽しみもあった。戦えなくなって動けないでいる奴らを得物の棍棒で叩き潰すことさ。
 どいつもこいつもがたがた震えて、『助けてくれ』とのたまうんだぜ。今の今まで他の奴らを虐げてたくせに、いい気なもんだよなァ。お前はどうだ? 世界の破壊者さんよ。手前はどんな顔して、如何な台詞を並べて、どんな音で潰されるんだァ?」

「や、やめろ……。来るな、こっちに来るなッ!」
 変身しようにもバックルはシルバラの背後。イマジンの憑依したクウガも先の攻撃から立ち直れず伸びたままだ。最早打つ手は何もない。士はシルバラの行く手を遮らんと、ライドブッカーからカードを手当たり次第に抜き出して、手裏剣の要領で投げ付ける。
「おいおい、何の真似だこいつは。死に際の悪足掻きは格を下げるだけだぜ?」
「黙れ! 来ンな! 俺に近寄るんじゃねぇ!」
「……つまんねぇ奴だな。やっぱり俺の見込み違いだったか。もういい、俺が、今すぐ、お前をぺしゃんこにしてやるよ」
 士の無様な姿に愛想を尽かしたシルバラは、再び背中の棍棒を引き抜くと、半月を描く軌道でそれを振り上げ、両手で棍棒を握り締める。棒の先端に青い光が灯り、周囲の砂がもうもうと巻き上げられて行く。

「あ、あれは……」
 辛うじて体を起こし、士の窮地を目の当たりにするクウガ。青白い光を発して棍棒を振り上げるシルバラの姿を見、彼の脳裏に何かの風景がフラッシュバックする。

 ――××タ××、ダメだ! 逃げようよ!
 ――馬鹿野郎、何寝惚けたこと言ってんだ●●●●●ウ! 今ここでケリ付けねぇでどうすんだ! アイツだって相当弱ってんだ、チャンスは今しかねぇんだよ! 行くぜ行くぜ行くぜーッ!

「今のは……」
 その光景に見覚えは無く、誰に向かって言った言葉なのかも分からない。ただ、その先に明るい未来は無い。それだけは分かっていた。

 士は腰のブッカーに手を添え、シルバラの攻撃を待っている。彼には彼なりの算段があるのだろう。放っておくべきか。否、放っておけば彼の身に何か良くないことが起こる筈だ。見過ごせるわけがない。

「ノッポ、避けろ!」
「うぉぉぉっ!?」
 クウガは後先考えず、士に体当たりをぶちかます。彼ら二人は砂まみれになって数メートル地面を擦った。
「馬鹿野郎、何しやがんだ! 折角の反撃のチャンスがパァになっただろう!」
「アレは喰らったらヤバいんだ! 逃げねぇと、ねぇと……」
「ンな曖昧な記憶で俺の邪魔をしたってのか? お前、いい加減に……」
 そこまで言いかけ、士は彼が何故こんなことを仕出かしたのかを唐突に理解する。先程まで自分が居た場所は、棍棒が直撃したその場所は、まっさらで何もない空間へと変貌していたからだ。
「何だ……こりゃあ……?」
 ただ地面を叩いて砂を巻き上げただけでこんな風になる筈がない。何か超常の力が働いているのは確かだ。あれをまともに喰らっていたら自分も同じ道を辿っていただろう。
 だが何故、このはぐれイマジンは、棍棒の危険性を知っていたのだろう。俺を誘き出して殺すために派遣された鰐イマジンの刺客か。そうであれば始末の大一番で自分を救ったことに説明がつかない。
 必死に思案するも、理由が綺麗にまとまらない。それよりも今は眼前のこの男だ。士は反撃すべく左腰に手を伸ばすが、そこにライドブッカーは無い。クウガに突き飛ばされた際、この広大な砂場の何処かに消えてしまったようだ。
 探し出してベルトに収めたいところだが、眼前には体勢を立て直し、棍棒を肩に担いだシルバラが迫る。すんなりと通してはくれないだろう。
 今度こそ正真正銘の手詰まりだ。士とクウガはどうしようもなくただ前を見つめる他無い。
「鬼ごっこは終いにしようや。なぁ、お二人さんよォ!」
 シルバラは肩に担いだ棍棒を振り上げ、青い光が再び渦を巻く。最早これまでか。諦めに目を瞑る二人の背後から、籠を牽引したデンライナーが現れ、いきり立つシルバラを飲み込んで消えて行った。

「消え、た……?」
「何にせよ、助かったらしいな」
「助かった? 馬鹿言ってんじゃねぇよ、これのどこが! 助かったって言うんだ!」
 士と、変身を解いたクウガ――ユウスケの目の前に広がっていたのは、見渡す限り砂しかないだだ広い空間であった。

◆◆◆

 寄せては返す波の音が幾度となくこだまする岩場の洞窟。シルバラの鎧を纏ったあの男は強奪された籠デンライナーに無理矢理乗せられ、自身の出身時間軸へと強制的に送り返されていた。
 時は室町時代末期。「応仁の乱」によって政局が大いに混乱していたこの時代、民衆にその名を轟かす強盗団がいた。海辺の洞窟に居を構えた彼らは、時々村や町に赴くと、人を襲って金や物を奪うだけでなく、敵対した者たちを囲んで棒で叩きのめした上、見せしめに皮を剥いで軒先に並べるという残酷極まりない殺しを行っていた。彼らはその強さと悪辣な仕打ちから、平安時代より伝承されてきた怪物に準《なぞら》え、「オニ一族」と呼ばれ、恐れられた。
 シルバラの鎧のこの男はオニ一族首領の弟、豪腕のミミヒコ。強盗団のナンバー2にして、一族きっての怪力の持ち主だ。彼は今、その怪力を周囲の壁や配下のイマジンたちに向けていた。
「クソッ、クソオォッ! 何でだ! 何でなんだ! なんで俺を連れ帰った!」
 止めの寸前で標的たちから引き剥がされたのだから、その怒りは相当なもの。付き合わされるイマジンたちはいい迷惑だ。ミミヒコに殴られて岩壁にめり込む者、踏みつけられて地べたを這いずる者。中途半端に口を出して彼の逆鱗に触れ、砂になった者さえ居る。
 果たして、オニ一族の根城は彼一人の力で壊滅してしまうのだろうか。否、そうなっては困る男が一人、暴れ狂うミミヒコの右頬に拳骨を食らわせ、彼を地に伏せさせる。
「この阿呆が! 俺に何も告げずに何をしているッ!」
「あっ、あぁ……。『兄ちゃん』!」
 ミミヒコの兄にしてシルバラの対となる鎧・ゴルドラを持つ男、策謀のクチヒコ。筋骨隆々とした体躯の弟とは違い、ひょろりと長く、肉付きもあまり良くないが、彼の放った拳骨は弟・豪腕のミミヒコの纏う鎧にヒビを入れる程に強大。ミミヒコは数歩たたらを踏んだ後、いたずらが見付かって項垂れるかのような声を上げた。
「な、何するんだよ兄ちゃん!? 俺が何したってんだよォ」
「えぇい、黙れ黙れィ」兄・クチヒコは険しい顔つきで目を血走らせ、弁解せんとするミミヒコの左頬にもう一発の拳骨を打ち込んだ。
「何故ディケイドに手を出した! 奴らはもうおしまいだ。いちいちちょっかいを出す必要など無い!」
「でもよ、でもよ兄ちゃん」先程までとは打って変わって、弱々しい調子と口調でミミヒコが言う。「あいつらまだ死んでねぇんだろ。兄ちゃんいつも言ってたじゃねぇか、『襲った家のモンは金目のものだろうが命だろうが根こそぎ奪え』って」
「奪うも何も、あの連中は砂漠の真っ只中で一生立ち往生だ。いちいち探して殺しに行くなど、時間と人員の無駄だ」
「兄ちゃん……、ここ最近何だか変だぜ。『でかい戦艦を奪いに行く』って言った途端、気味の悪い連中をぞろぞろ連れて来るわ、変な乗り物でどこの国だか分からねえ場所に行っちまうわ……。そもそも俺や兄ちゃんが着ているこの鎧! こいつは一体何処で手に入れたんだよ!」
「馬鹿の癖にいけしゃあしゃあと……。黙れ、黙れィ!」
 激高し、自身の弟を平手打ちにする兄・クチヒコ。何故彼は唯一無二の兄弟に冷たく当たるのか。そもそも鰐イマジンと何の関わりも無い彼らが他のイマジンを操り、デンライナーを利用しているのか? 否、関わりならある。鼻息荒く弟をいたぶるクチヒコの瞳を良く見て欲しい。『緑色』に輝くそれはどう見ても普通ではない。如何な方法を使ったかは不明だが、あのイマジンはデンライナーを乗っ取り、この時間軸でクチヒコに『憑依』して彼の体を乗っ取ったのだ。
 無論、弟のミミヒコは兄がそうなったことに気付いていない。知った所で彼に理解出来る筈も無い。

「……ひゃうっ!?」
 クチヒコ(に憑依した鰐イマジン)の声を訊き、驚いて声を上げた人物はミミヒコだけではなかった。彼らの居る場所の更に奥、オニ一族の牢獄に閉じ込められている光夏海もその一人だ。鰐イマジンに捕らわれた時点で殺される筈だった彼女は、鳴滝の助言によって命を繋ぎ、穴倉に鉄の棒を填め込んだだけの粗末な牢屋に投獄されている。見張りは居ないが人一人が脱け出せる隙間など無く、粗末とはいえ女性の力で引き抜けるような代物ではない。脱走は不可能だ。

「さっきのは一体……? っていうか、ここは何処!? 牢屋!? 岩場!? 海水!? 蟹!? 何なんですかここ! 出してください……出して、出してーッ!」
 夏海は牢屋の鉄棒を掴み、無実を訴え激しく揺らす。だが、その叫びは叱咤を受けているミミヒコや折檻を行っているクチヒコ、その他部下のイマジンたちには届かない。当然だ。

「ひっ! ひいいい……いっ」
 否、反応した人物が一人だけいた。光夏海の必死の叫びに恐れを感じ、情けない悲鳴を男が居る。何処に? 夏海と同じ牢屋の中に。何故ここに? それは誰にも分からない。
 痩せて線が細く、どこか幸薄そうな雰囲気を漂わせた青年は、自分以外の存在を認めて驚き戸惑う夏海に対し、申し訳なさそうに問いかける。
「えっと、その。あのう……。『僕』は、誰なんでした、っけ?」
「……は、あ?」
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