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 ←Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 C-part  →アギトの世界・世界観および設定まとめ
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「Journey through the Decade Re-mix」
Journey through the Decade Re-mix(2)

Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 D-part

 ←Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 C-part  →アギトの世界・世界観および設定まとめ
飛ばして本文をお読みになられる方はこちらよりどうぞ。


○G3及びG3-Xの兵装一覧○

 GM-01、GK-06を除き、G3-Xの常用マシン『ガードチェイサー』に装備されており、敵に奪われることを想定し、班長である八代の許可(及びロックコードの解除)が必要となる。
 なお、後述するGX-05及び『ギガント』は八代の許可があっても、近隣地域への被害を考慮し、半径50m以内に人がいる際は使用できない。

GM-01 スコーピオン
 対未確認生命体用の突撃銃。装弾数は72発。弾丸には警官たちの使う神経断裂弾の約二倍の炸薬が綴じ込まれており、常人が打つと肩の骨が砕けてしまう。
 階級の低い未確認相手ならこれを数弾撃ち込んだだけで駆逐できる。
 普段は右足に携行している。

GG-02 サラマンダー
 着弾すれば戦車一台粉々にする程の威力を誇るグレネードランチャー。前述のGM-01と連結して使用する。装弾数は三発。劇中では海東が未確認第三十九号 (メ・ギノガ・デ)を倒す際に使用した。

GS-03 デストロイヤー
 チェーンソーに似た超高周波振動ブレード。当たりさえすれば未確認を真っ二つにする程の切れ味を誇るが、その威力ゆえに取り回しの良さは犠牲となっており、命中率はすこぶる悪い。

GX-05 ケルベロス
 G3-X開発と同時に製造されたガトリング砲式機銃。特殊鉄甲弾を一秒間に30発発射する。
 携行の際はアタッシュケースの様な形を取り、使用時は三ケタの解除コードを入力することでガトリングモードへと手動で変形させる必要がある。
 神経断裂弾すら効かない”G群”と呼ばれる未確認をも駆逐出来る強力な兵器であるが、反動も相応に桁違いであり、G3-Xで強化された人間であっても、二本の足で大地を踏み締めて使わなければ正面に撃つことすら出来ない。
 弾薬に神経断裂弾は使用していないが、未確認の再生能力を上回る速度での銃撃により、彼らの抹殺を可能にした。
 G3-Xにおける被害の殆どがこの武器の誤射によるものであり、現場で一度使用する毎に八代及び一条が警察上層部に始末書を提出している。

GK-06 ユニコーン
 左腕の二の腕に装備されたコンバットナイフ。G3-X本体から電力を供給することで電磁ナイフとしての使用も可能。
 G3-Xは豊富な重火器を用いて敵を駆逐するため、基本的に緊急時のサブウエポンとして用いられる。
 海東大樹に大方の装備が奪われた際に接近戦用の武具として使用。この際八代の発案で両足の爪先に装備され、暗器としても使われた。

多目的巡航四連ミサイルランチャー「ギガント」
 八代及び開発班が陸上自衛隊の協力を得て開発したミサイルランチャー。
 四基の小型ミサイルを装填しており、本体から伸びたケーブルをベルト左側に装着し、右側のスイッチを捻ることで発射。
 その威力は着弾周囲・半径30mを焦土に変える程であり、G3-Xを持ってしても反動を殺すことは出来ず、腕及び脚に大きな負担を強いることとなる。
 GX-05と同じく、携行時はそれよりも一回り大きいアタッシュモードを取っており、三ケタの解除コード(3・3・5)を入力して使用する。

GM-01改・四式
 GM-01の改良型。フルオート式を採用しており、引き金を引いたまま連射が可能。
 ギガントと共に、ユウスケがオルフェノク達の戦いの際に使用。


G4チップ
 厳密には武器ではないがここに記載。
 組み込むことでG3-Xと装着者のシンクロ率を更に高め、装着者の意思や運動能力の有無とは関係なく、その場に於いて最善とされる動作を取らせることが可能になる。
 有用な装着者が現れないことへの苛立ちから製作されたものの、装着者の力量・身体能力に関わらず”最善とされる”行動を取る危険性を危惧し、八代自身の手で封印された。


◆◆◆

「人間は愚かだ。力を得れば――必ず間違った道を選ぶ。人は我々が護る。力など必要ない。おぞましき力を持った者達よ、我が手で主の御元に還るがいい」
 牛頭の怪物は手にした槍を強く握り、二人を押し潰す十字架に、さらに圧を掛ける。
 士は潰されまいと、なんとかして押し返そうとするが、逆に圧され顔を地に擦り付けるばかりで、脱け出すことは敵わない。ショウイチも加勢して十字架を押そうとするも、過去のトラウマからか手が震え、上手く力を引き出せずにいた。
「畜生、何故だ、何なんだ! なんで力が出ない! 俺はッ、こんな所でッ、死ぬわけにはいかないんだぞ! あぁくそッ、動け……動きやがれッ」
 ショウイチの鬼気迫る叫び声に、何かを感じ取った牛頭は、それを思い出そうと彼の顔を繁々と眺め、「そうか」と一人頷く。
「貴様……、あの時の。然らば尚更生かして置くわけにはいかぬ。まず貴様から主の元へ送ってくれよう」
 ショウイチを危険分子と判断した牛頭は、振り上げた槍の矛先を彼の方へ向けて構える。十字架の重心がショウイチの方へと傾き、彼に悲鳴を上げさせた。
 問答も慈悲も無用。牛頭は手にした槍でショウイチの眉間を貫かんと大きく振り被る。どうにもならないと、目を閉じかけたその時。士の「諦めるな」という一喝に、閉じかけていた目を再び見開いた。
 見ると、眼前の牛頭は槍を振るうことも忘れ、何かに驚いたように固まっている。それもその筈、二人を押し潰している十字架型のエネルギーの塊が、ほんの僅かではあるが、徐々に押し戻されているのだから。
 重心がショウイチ側に傾いており、掛かる圧が弱いのは分かるが、だからと言って、ただの人間に十字架を押し返せる筈がない。動揺を隠せない牛頭に一瞥をくれつつ、士は「お前の言う通りだ」と言葉を紡ぐ。
「確かに人間は愚かだよ。死んだ女の面影を追って、全てを捨てようとしてみたり、大切な人を巻き込まないために、一人でずっと逃げ続けたり。そいつらを助けるために、爆発に巻き込まれ、十字架に潰されちまったり……。奴らときたら、人生という道で何度転んでも、寄り道脇道を繰り返してドツボに嵌まってばっかりだ。まっすぐ進みゃあもっと楽に生きられるってのによ」
 ショウイチとユウスケ、加えて自分の姿を省みて笑い、士は背筋で踏ん張って体を浮かせ、両手と両膝に砕けんばかりの力を込める。不思議なことに、彼の体は徐々に起き上がっていった。
「けどよ、それが間違っているとは言わせねぇ。俺の旅の行き先は俺が決める。間違っていようがいまいが、お前たちに道案内してもらう必要はない!」
 語気と共に体に込められる力は増し、確実に十字架を押し上げて行く。
 足の裏を地に付け四つん這いになれたところで、今度はショウイチの方へと顔を向けた。
「過去に何があったのかはだいたい分かった。嫌になって投げ出したい気持ちも分かる。
 でもよ、悔しいとは思わねぇのか? こんな牛の化け物なんかに、自分の生き方決められて、挙句「主のために死ね」だなんて言われてよ。過去に何をしようが、手にした力がどんなものかなんざ、この際どうだっていい。お前は強い、俺も強い。ぶっ倒してやろうぜ、こんなふざけた野郎なんかよ」
 意気消沈のショウイチを、そう言って励ます士。何か思うところがあったのか、彼の言葉を聞いたショウイチは、顔を上げて目を見開いた。

 奴は何だ、何者だ。十字架の拘束を跳ね退けつつある士に驚き、脅威を感じた牛頭は、槍を硬く握りしめ、十字架に掛ける力を更に強めて士を押し返す。
 なけなしの力を振り絞り、無理矢理起き上がろうとしていた士がそれに耐えきれるはずもなく、彼はあっさりと圧し負け、再び地面に顔を擦り付けてしまった。体勢を崩し、抵抗できない士の体に、さらに圧の掛かった十字架が迫る。
 しかし、士がそれに押し潰されることはなかった。彼の言葉に奮起したショウイチが、士の代わりに十字架を背負い、起き上がっていたからだ。
「どうした? 気合と根性が足りてないんじゃあないのか」
「馬鹿言え、暫く休憩していただけだ。二人分を一人で支えてたんだからよ」
「そりゃあ済まなかった。もういい、後は俺がやろう。休んでおけ」
「御冗談。お前みたいな奴に借りを作ってたまるか」
 よろめく士に軽く微笑み、腰に掛ける力を更に強めていくショウイチ。士もそれに触発されて力を取り戻し、三度踏ん張り、十字架を押し上げる。十字架のエネルギーは、彼ら二人によって弾き飛ばされ、虚空へと消えた。

「こんなことがあっていい筈がない。なり損ないのアギト如きに何故、このような力が……」
 ”主”から絶対的な力を与えられた自分が、たった二人のアギトもどきをも滅ぼせないという事実、今までの者たちと目の前の二人、一体何が違うと言うのか。牛頭は驚き狼狽え、どういうことだと目を凝らす。
 門矢士にあのような力があるのかは分からない。しかし芦河ショウイチに関しては読めてきた。彼の腹部に、ギルスのものとは違うベルトを見たからだ。
「おのれ……、いつだ! いつの間に目覚めたのだッ、『アギト』!」牛頭が怒りを込めて声を荒らげる。「私のミスだ、やはりあの時主の御許にお返しすべきだったのだ。今度こそ我が手で滅ぼしてやる、『アギト』!」
「なんだこれは、俺の体に一体何が……」
 湧いて出た不思議な力に戸惑うショウイチに対し、士は手元に並んだ『三枚のカード』に目をやりつつ、と彼の肩に手を乗せ、楽しげに口元を歪ませた。
「ショウイチ、それがお前の本当の力だ。もう恐れることはない、思う存分解き放ってやりな。俺たちの道を塞ぐ奴なんざ叩き潰してやろうぜ」
 ショウイチは士の言葉に黙って頷き、両腰のバックルに手を触れて目を閉じる。今まで忌み嫌うだけだったこの力を誰かのために、そして自分の道を切り開く為に使う時が来ようとはと、心の中で苦笑いながら。
 ――変身!
 隣り合う士がカードをドライバーに装填するのと同時に、ショウイチはバックルに触れた手に力を込める。彼の体は昇る朝日よりも眩い光に包まれ、金色の体に炎のように燃え盛る赤き目の戦士、『仮面ライダーアギト』へと姿を変えた。
 更なる変化に戸惑う暇すら与えず、牛頭は多数の蟻を引き連れてアギトたちに襲い掛かる。
 雑兵である蟻たちを相手取るよりも、頭目の牛頭を仕留めるべきだと判断したディケイドは、牛頭の槍をライドブッカーの柄で受けると、そのまま彼を押して駆け、蟻たちの一団から引き離した。
「この牛は俺がやる、雑魚共は任せたぜショウイチ」
「任せたったって……おい、ちょっと待てッ」
 ディケイドが呼び止めた所で彼が聞き入れる筈もなく、アギトは十体の蟻に円形に囲まれてしまう。
 蟻たちが一斉に飛び掛かってきた。アギトは蟻たちの攻撃を腰の動きだけでかわし、斧を持つ蟻を腕でいなして、がら空きとなった横っ腹に拳を叩き込み、背後の者には素早く切れのある後ろ蹴りで巧みに引き剥がし、相手に反撃の暇を与えない。アギトは群がる蟻たちに全く引けを取らず、それどころか彼らを易々と蹴散らしていった。
「見える、見えるぞ。奴らの動きが、はっきりと……」
 何故一対複数で引けを取らないか。アギトには蟻たちの行動を予見でき、どこから何が来るか分かっているからだ。ギルスの時は不安定だった力が、アギトに覚醒したことで最大限に還元され、ショウイチの体に更なる能力を与えたのだ。
 だが、それだけでは蟻たちは倒し切れない。倒れはしたが直ぐ様起き上がり、頭の上の光の輪から片手斧や青銅の剣を呼び出して構えたのだ。
 徒手空拳だけでは力不足と感じたアギトは、左腰のバックルを押し込んで、ベルトから青い薙刀・ストームハルバードを引き出した。同時にアギトの体が青色に染まり、彼の胸部と左肩が青色の装甲で覆われる。“風”の力を宿したアギト、『ストームフォーム』だ。
 アギトはハルバードを両手で握り、右へ左へと振り回す。嵐と見紛う程激しい突風が吹き荒れ、風に煽られた蟻たちが徐々に引き寄せられて行く。
 ハルバードの両端の刃が開いた。アギトは引き寄せられて射程に入った右と左の六体を、回転の勢いを借りて横薙ぎに、続いて目の前の二体を袈裟に斬り、そのまま右足を軸にして振り返り、背後の二体を逆袈裟に斬り裂く。蟻たちは皆、頭頂部から天使の輪のようなものを生じさせ、消え去った。

「さすがはアギト……僕のものになるべき力。素晴らしい、流石だ。そうでなくちゃあ……手に入れ甲斐がない……はは、あはは、はは」
 最早蟻たちはアギトの敵ではない。圧倒的な強さを誇るアギトの強さを、草葉の陰から遠巻きに見つめる一つの影があった。『ギガント』の爆発で四散した筈のタイガーオルフェノク――百瀬シュウジだ。
 百瀬の体は確かに吹き飛んだ。しかし彼は衝撃で体が四散する瞬間、虎の額に貼り付いた上半身を切り離し、爆発から逃れていたのだ。
 しかし左腕と下半身を失って無事で済むわけがない。百瀬の体は傷口から崩れかけており、消滅は時間の問題だった。
 遠い目をしてアギトの方へと手を伸ばす百瀬。力を得たい一心で伸ばしたその手は、彼の背後から現れた蟻たちに踏み潰され、一瞬で灰に変わった。

 蟻たちの数は増える一方。十数人を相手取っても負ける気はしないが、こうも数が多くては倒すのが億劫だ。そんなアギトの背後に、他の蟻よりも絢爛な衣服を纏い、三又の槍を持った『女王蟻』が飛び掛かってきた。
 超感覚で女王蟻の襲撃を察知したアギトは、目の前の蟻を蹴り付けて振り返り、振り下ろされた槍をハルバードで受け止める。しかし、女王蟻の桁違いの力と振り下ろされた勢いに負け、受けたハルバードごと一直線に斬られてしまった。
 即座に体を起こし、女王蟻の追撃をかわす。超感覚で次の行動を予測しているものの、女王蟻の動きは彼の予測よりも更に早く、今まで優勢だったアギトもペースを奪われ、瞬く間に劣勢に追い込まれた。
「何なんだこいつは……、強すぎるッ」
 苛立ちに舌を打つが、状況は何も変わらない。それどころか足を取られ、仰向けに倒されてしまう。
 倒れた隙を狙い、女王蟻の槍がアギトの首に向かう。そうはさせまいと両手で三又の槍を防ぐも、穂先に掛かる力は凄まじく、刃は徐々に首筋に迫る。引き剥がそうと腹を蹴りつけるが、女王蟻の体は微動だにしない。助けを求めようにも、ディケイドは牛頭と戦うので精一杯。救援は望めそうにない。
 このままでは間違いなくアギトの首が飛ぶ。最早誰にも止められないのか。

「俺は……なんでこんな所で寝てるんだ?」
 時を同じくして、虫の息だったユウスケが目を覚ました。息も絶え絶えに周囲を見回し、自分が何故こんな所にいるのかを探る。
「あっ、あれは……、何だ?」
 ユウスケの目に、首をはねんと槍に力を込める女王蟻と、そうはさせまいと必死のアギトの姿が留まった。
 ギルスがアギトへと変わったことを知らないユウスケには、襲われている人物が誰なのかは分からない。しかし多数の蟻たちに囲まれ、助けを必要としていることだけは理解できた。
 ディケイドの助けを当てに出来ない以上、彼を助けられるのは自分しかいない。体を動かそうとすればするほど激痛が走る。目覚めただけでも奇跡だというのに、その上立って戦うなど不可能だ。そもそも、死にかけの自分が加勢したとして何が変わるというのか。ユウスケの心中に様々な言葉が去来する。
「何やってんだよ俺……、何弱気になってんだよ俺! 苦しんでいる奴がいるんだぞ、苦しめている奴がいるんだぞ! 立てよ、立って戦えよ! あねさんと約束したんだろう!」
 それでも尚ユウスケは、弱音を吐く自分に強く言い聞かせ、声を張り上げて立ち上がる。愛した人との誓いを守るため、約束を交わした己に嘘をつかぬために。
 歯を思い切り食い縛って、今にも倒れそうな体に鞭打って走り出し、両手を腹部の前で構える。右腰の突起物を裏手で押し当て、道を塞ぐ蟻たちを飛び越えたユウスケは、アギトを襲う女王蟻の頬に拳を叩き込んだ。
 槍にかかる力が消えたことに気付いたアギトは、首を挟む槍を放り、自分を助けた人物に目を向ける。
 自分を見降ろし、肩で息をする男の姿を目にして、アギトは一瞬言葉を失った。
「そんな……まさか、なんで、こんなところに……未確認生命体、『第四号』!」

 アギトの眼に映ったのは、金色の角に赤い眼。筋骨隆々とした体躯の赤き戦士。幾多のグロンギを葬り、人々に希望を与えた伝説の存在、未確認生命体第四号その人だ。彼が継ぐ言葉に迷うのも頷ける。
 しかし当の『四号』は、「それは違う」と首を振り、アギトに手を差し伸べた。
「それはきっと、俺じゃない四号だ。でも今はそんなことどうだっていい。俺もあなたも、あの化け物共と戦う”仮面ライダー”のはずだ。一緒に戦ってくれ、ショウイチさん」
「仮面ライダー……? 君はまさか、小野寺君、なのか?」
 その問いにクウガは黙って頷いた。これ以上余計に詮索する必要はないだろう。彼の言う通り、自分たちはあの蟻たちから人々を守る戦士なのだから。アギトはすまないと一言かけ、クウガの伸べた手を力強く握り締めた。
 堅い握手を交わしたアギトたちの前に、槍を構えた女王蟻が迫る。相手の素早い体捌きに、見切りに秀でたアギトと満身創痍で立ち上がったクウガは、かわすばかりで攻めに転じることができない。
「ちきしょう、蟻のくせに、蟻のくせにッ!」
「いや待て、小野寺君、危ないッ!」
 アギトの叫びに一時遅れ、女王蟻の口から無色無臭の“酸”が放たれ、取っ組み合いをするクウガを襲う。クウガは彼の声に応じて体を左に振るが一瞬遅く、彼の左肩の先に当たった酸は、クウガの頑強な装甲を溶かし、気化してしまった。
「うおぉっ!? 何だよこれッ、俺の体が溶ける……溶けるぅ!」
「落ち着け小野寺君、焦っていては勝てるものも勝てないぞ」
 怯えるクウガに落ち付けと声をかけるアギト。
 彼らが慌てふためく様を見、女王蟻は酸がライダーたちに有用であると理解する。酸を吐いて威嚇しつつ、槍を振るって二人を襲い始めた。槍のせいで徒手空拳の間合いに入れず、懐に入り込んだとしても、ライダーの外装甲をも溶かす強酸を吐かれては、倒すどころか近づくことすらままならない。
 どうすればいいんだと頭を抱えるアギトの目に、クウガ――ユウスケが装着していたG3-Xが、戦いの中で落としたコンバットナイフGK-06が留まった。
 それを見て閃いたアギトは、攻め手なく疲弊するクウガの肩を俺に任せろと言わんばかりに叩いた。
「俺に考えがある。ほんの十秒でいい、奴の動きを止めておいてくれないか」
「無茶な、たかが十秒止めた所で何が出来るんです」
「一緒に戦おうと言ったのは君だぞ。信じてくれ、小野寺君」
「……」そうまで言われて、何もしないクウガではない。アギトの閃きに乗ったクウガは、何も言わず頷いて女王蟻に掴みかかった。
「どうだい虫けらぁ、取っ組み合いじゃあ自慢の槍も使えねぇだろうが……よッ!」
 体と体がぶつかり合う中では槍は何の意味も成さない。しかし、槍はなくとも強酸はある。女王蟻はまとわりつくクウガを引き剥がそうと、彼の背中目掛けて酸を吐き、槍の根本を持って、柄の部分で彼の腹を何度も突いた。
 溶けて剥き出しになった背中に棒が何度刺さろうとも、クウガは女王蟻の体を離さない。アギトに何か策があるのなら、何も出来ない自分に出来るのは、女王蟻を押し留めることだけだったのだから。
 アギトが左手にGK-06を握って戻って来た。迷いなくに向かい来るアギトに”何か”を感じた女王蟻は、まとわりつくクウガを蹴り付けて引き剥がし、アギトを突かんと槍を構える。
 槍の切っ先がアギトの目と鼻の先に迫る。先んじてそれ予見したアギトは、寸での所で身を屈め、槍をかわすと同時に、屈んで踏み込んだ反動を利用して一気に伸び上がり、女王蟻の下顎にGK-06を刺し入れる。
 コンバットナイフは下顎を貫通して上顎にまで達した。吐きかけていた酸が女王蟻の口内を溶かして、絹を裂くような甲高く、不気味な悲鳴を上げさせた。
 怒り狂った女王蟻は槍を握り直し、アギトの胴を裂こうと横薙ぎに槍を振るう。
 女王蟻の表情からまだ何かあると踏んだアギトは、そこから更に一歩退いて刃から逃れ、向かい来る槍の柄を自身の左腕と脇腹で挟み込む。
「小野寺君、今だッ!」
「はいッ!」
 同時に今だと声を張り上げ、体を起こすクウガに檄を飛ばす。彼はアギトの右肩を踏み台にして飛び上がり、女王蟻の右頬に勢いの乗った拳を叩き込んだ。
 女王蟻は握っていた槍を離して地面に叩きつけられ、溶解する顎を押さえつつ、よろよろと起き上がる。並び立った二人のライダーは、これで決めると目配せ合い、力と気合いを充実させた。
 アギトの角が二本から六本に展開し、彼の足元に六本角を描いた紋章が現れ、エネルギーとなって彼の右足に満ち満ちて行く。並び立つクウガは一歩退き、ベルトに填まった霊石アマダムの力を右足に集中させ、自身の足元を真っ赤に染め上げる。
 アギトが跳び、クウガが地を駆けた。勢いをつけて跳び上がったクウガは、空中でアギトと合流し、女王蟻の胸部目掛けて、必殺の飛び蹴りを叩き込む。
 さすがの女王蟻もこの一撃には耐え切れず、吹き飛ばされて数メートル地面を磨った後、頭から光の輪を発し、胸部から走った亀裂が、腹部に巻かれたバックルにまで達したことで、首を掻き毟りながら吹き飛んだ。
「勝った……んですよね? 俺たち」
「いいや、まだ大本が残っている。とびきり強い奴がな」
 アギトはそう言って瓦礫の先、小川を指差した。敵の頭目、牛頭の怪物とディケイドが一進一退の攻防を繰り広げている様が彼らの目に映る。
「そう、でしたね。早く行かなくちゃ、あいつが……」
「行こう。三人であいつを倒す。まずはそれからだ」

◆◆◆

 牛頭との戦いを一手に引き受けたディケイドは、奴の持つ三又の槍に対しライドブッカーを振るい、一進一退の攻防を続けている。
 牛頭の槍捌きはディケイドに負けず劣らず素早くて重い。受けていなすのが精一杯で、ディケイドは攻め手を作れずにいた。
「面倒臭ぇなあもう。お前、一体何者なんだよ」
「それは此方の台詞だ。何故私と互角に戦うことができる。アギトでなければ人間でもない。貴様は一対何者なのだ」
「通りすがりの仮面ライダーだ。それ以上でも以下でもねぇ」
「答えになっておらぬ」
 ディケイドの端的だが的を射ない返答に、牛頭は怒りを覚え、手にした槍に尚一層の力が入る。あまりの勢いにライドブッカーを弾かれ、ディケイドの真正面にほんの一瞬だけ隙が生じた。
 その隙を牛頭は逃さなかった。ディケイドの体に槍を突き立てんと持ち手を左手に変えたのだ。間一髪、ライドブッカーの逆刃で受けられたのだが、どうしたことか、牛頭の槍とかち合った刀身は、まるで石ころのような材質に変化してしまったのだ。
「何だこいつは……くそぉッ!」
「主から授かった槍……至高のトリアンナ。刃に触れたものは何であろうと石に変わる。通りすがりの仮面ライダーとやら。君も直ぐに変えてやろう」
 驚くディケイドに対し、容赦なく槍を振るう牛頭。石に変わったライドブッカーの刃で仕方なく受けるも、あっさりと砕かれてしまう。
 ディケイドは半身を退いてその後来る一撃をかわし、ライドブッカーをガンモードに変えて牛頭に撃ち込むが、銃弾は槍の刀身に弾かれ、石となって地面に突き刺さった。
「おいおい、こんな近くでも避けられんのかよ。無茶苦茶だぞ」
 このままではまずいと判断したディケイドは、槍の柄を腕でいなしがら空きとなった腹を蹴り付けて距離を取る。
 槍の射程から逃れることは出来たが、これといった対策はない。牛頭を睨み付け、どうするべきかと思案を巡らせるが、ディケイドが自分に対して何も出来ないことを悟った牛頭は、口元を嫌らしく歪ませた。
「残念ながら、君はここで終わりだ」
 槍を振り上げ、空中に十字架を生じさせる。ディケイドはバックステップでそれを難なくかわすが、そうなると分かっていたかのように、牛頭は振り上げた槍を左右に振った。
 瞬間、ディケイドの両端から十字架が現れ、壁となって彼を押しつけ始めた。
「なかなか面白いこと考えるじゃねぇの。でもよ……そんなもので俺が……ッ!」
 ディケイドはそれが何だと両腕で十字架を押し込むが、牛頭は上空から大量の十字架を送り込み、彼を無理矢理押し潰す。
 重なり合った十字架同士が火花を散らし、形が崩れ始める。ディケイドがそこから逃げ出すよりも早く、十字架は連鎖爆発を起こし吹き飛んでしまう。

 もうもうと煙を上げる様を見て、「勝った」とほくそ笑む牛頭だったが、黒い影が頭上を覆い、それが徐々に大きくなっているのに気付く。それが何か認識するよりも前に、空から現れたアギトによって左の頬を殴られ地面を擦った。
 起き上がれず小刻みに震える牛頭を、悠然と見つめるアギト。燃え盛る炎の中からはクウガが、左の頬を地面に擦り付けるディケイドの元へ向かう。
「ったく、何てことしやがる。他に何かやりようはなかったのか」
「助かったんだから文句言うなよな。むしろ褒めて欲しい位だ」
「誰が褒めるかよ、誰が」
 ディケイドに手を貸し、立ち上がらせて並び立つクウガ。その隣にアギトが立ち、三人の仮面ライダーが出揃った。
「お前の部下の蟻たちは全部片付けたぞ。もうお仕舞いだな」クウガは人差し指を突き立てて叫ぶ。
「主とやらの御元に還るのは俺たちじゃない。お前だ」と牛頭に言い放つアギト。
「だから言ったろう」立てた親指を下に向け、勝ち誇った口調でディケイドが言う。「俺たちはお前みたいな奴に道案内してもらう必要なんかないってな」
 三人に見下ろされる形となった牛頭の化物は、歯噛みをして握り拳で地面を叩いた。
「消し損ねただけでなく、斯様《かよう》な仲間を連れてここまで強くなるとは……貴様はいずれ主をも脅かす存在になるやも知れん。そうなる前に私が始末してくれるッ」
 怒りに燃えた牛頭の瞳が赤く輝く。槍を天に掲げ、天を仰いで一吠えした牛頭の化物は、背中から純白の翼を生やして空に飛び上がった。
「おいおい、なんだありゃあ。牛が空を飛んでるぞ」
「見りゃ分かる。だから何だ。倒せばいいだけの話だろう」
「言い争っている場合か、来るぞ!」
 驚き戸惑うディケイドとクウガの間を縫って、槍を構えた牛頭が空から迫る。アギトのお陰で接触は避けられたが、目で追い切れない程の速さに二人はただただ唖然としていた。
「素早く動けるからって調子に乗るなよ! 喰らいやがれッ!」
 ――超変身!
 圧倒的な速さで空を舞う牛頭に対し、クウガは緑の力ペガサスフォームに変身し、G3-Xの際に用いていた小銃GM-01改をペガサスボウガンに変質させた。
 ペガサスフォームの超聴覚により、目ではなく音で牛頭の接近を感知したクウガは、すかさず弓を引いて牛頭の脳天を狙い撃つ。
 しかし放たれた弓矢は槍によって阻まれ、牛頭を撃ち抜くことはなかった。地に足を付けて隙だらけのクウガに向かい、槍を構えた牛頭が襲い来る。
「小野寺君、危ない!」
 クウガの窮地を救ったのはアギトだ。弓を弾かれて無防備となったクウガを突き飛ばし、間一髪の所で避けさせる。
 しかし代償も大きかった。クウガを救うべく牛頭の前に躍り出たアギトは、槍の一撃をかわしきれず、左足の膝から下を石に変えられてしまったのだ。
「ショウイチさん!? すみません、俺のせいで、こんな……」
「かすり傷だ。どうということはない」
 責任を感じて項垂れるクウガを気遣ってか、アギトは大した怪我じゃないと体を起こす。口ではそう言うが、目にも止まらぬ速さで空を舞う相手に、足を潰されるとどうなるか。分からないクウガではない。
 超感覚の緑の力でも御し切れず、この状態ではアギトの見切りも使えない。どうすればいいんだと頭を抱える中、ディケイドは全く動じることなく、クウガたちの元へ駆け寄って、いつもの調子で彼を叱咤する。
「何ボヤボヤしてんだ。あんな牛、とっとと片付けるぞ」
「無茶言うなよ、俺の緑の力でもダメだったし、ショウイチさんだって今の状態じゃ」
「あぁだこうだと五月蝿い奴だな。安心しろ、切り札ならここにある。取って置きの奴がな」
 ――――FINAL FORM RIDE 「a-a-a-AGITO」
「ショウイチ。ちょっとくすぐったいぞ」
「くすぐったい? お前、俺に一対何……を」
 アギトの紋章を象った「ファイナルアタックライド」のカードをドライバーに装填したディケイドは、嫌がるアギトの背に無理矢理両手を突っ込み、中に綴じ込められていたものを引き摺り出した。
 バイクの座席部分のようなものがアギトの頭部に被さり、二輪車のマフラーが飛び出して彼の両腕にくっつき、両足の脛から飛び出した装飾物が、両足が重なることでバイクのフロント部分を形作っていく。
 仮面ライダーアギトは、バイク型の高機動マシン『アギトトルネイダー』へと姿を変えた。
「これで良し。乗れ、ユウスケ」
「乗れってお前……これは、ッ!」
 ディケイドに引っ張られ、クウガはトルネイダーの後部座席に強引に立たせられてしまう。彼らに向かい、牛頭の十字架が飛んだ。先んじて飛んだトルネイダーは自身を狙って飛んできた十字架を巧みにかわし、牛頭に体当たりを喰らわせる。
 寸でのところで身をかわした牛頭だったが、トルネイダーの素早さを見誤り、身を退くだけではかわし切れず、右の脇腹を切って空中で蹲《うずくま》る。
「やってくれたなアギトめ、だが負けん!」
 牛頭の攻撃は止まらない。彼は純白の両翼を羽ばたかせ、空高く飛ぶトルネイダーに向かい、無数の十字架を放った。
 トルネイダーは無限に広がる青空を縦横無尽に飛び回り、挟み込もうとするもの、押し潰そうとするもの、速さに任せて突っ込んでくるものを全てかわし、牛頭を翻弄して彼の周りで円を描いた。
 彼を愚弄するだけが目的ではない。牛頭がトルネイダーの速さについて来られないことを理解したディケイドは、後ろで振り落とされないよう必死にしがみつくクウガに「何をしている」と檄を飛ばした。
「馬鹿野郎、何のためにお前をここに乗せたと思ってる。とっとと撃てって」
「何だよ撃てって……、あぁ、そうか!」
 この条件下なら牛頭も自分の攻撃をかわせまい。自分たちを追うので精一杯の牛頭を見てそう考えたクウガは、空中で牛頭とすれ違ったその瞬間に、手にしたペガサスボウガンの弓を引き、彼の体ではなく、彼の持つ槍を撃ち抜いた。
「ぬ……ううッ!」
「士、ショウイチさん! 今だッ」
[言われなくとも]
「分かってンだよ!」
 ――――FINAL ATTACK RIDE 「a-a-a-AGITO」
 牛頭が驚き狼狽えている隙に、ディケイドは『ファイナルアタックライド』のカードをドライバーに装填。瞬間、アギトトルネイダーは牛頭の視界から完全に消え去った。
 どこに行ったかと周囲を見回す牛頭の真下から、錐揉《きりも》み回転をするトルネイダーが迫る。フロント部の角を六本に生やしたトルネイダーは、牛頭が真下からの接近に気付いた瞬間に急停止し、その反動で後部座席を跳ねさせ(赤色に戻った)クウガとディケイドを牛頭の元へと飛ばした。
 飛び蹴りの体勢のまま放たれた二人のライダーは、牛頭の胸部と腹部を蹴り込んで空中で一回転し、その下を飛んでいたトルネイダーに着地して、そのまま工場跡地の瓦礫の下に降り立った。
 強烈な蹴りを叩き込まれた牛頭が、昇る太陽を背にして落ちてきた。牛頭は円を描きながら徐々に速度を増し、周囲に半径数メートル程の亀裂を走らせ地面に激突した。
 立派な純白の翼は千切れ、頭蓋のてっぺんが裂けていながらも、牛頭は立ち上がり、震える声で彼らに言う。
「私の完全なる敗北だ。だがこれは始まりに過ぎない。私が倒された今、我が主はさらに強力な使徒を遣わすだろう。貴様たちアギトに生き延びる術などないのだ。もう一度言うぞ、これは終わりではなく、始まりなのだ」
 そこまで口にした牛頭の頭上に光の輪が現れる。命の終わりがやって来たのだ。牛頭は恐怖に駆られることも、ディケイドたちに恨み節を連ねることもなく、警告と取れる言葉を残し、この世から消え去った。彼の部下と思しき雑兵の蟻たちも、牛頭の消滅と共に、地面の中に潜り、一斉に逃げ去って行く。
 仮面ライダーの勝利だ。ディケイド、アギト、クウガの三人は牛頭の消滅を見届けると、大きく息を吐いて変身を解いた。
「やりましたね、ショウイチさん」
「ありがとう小野寺君、それに……」
「士だ、門矢士。この機会にしっかり覚えとけ」
「そりゃあ失礼。しかし後にしてくれないか。ちょっと……」
 言って、ショウイチは遠くを指差す。自身の背後、工場跡地の瓦礫の先に見えるものが何なのかに気付いた士は、ならば仕方ないと目を伏せて道を開けた。
 ショウイチの視線の先にいたのは、崩れた高速道路を抜けて現場に馳せ参じた八代淘子だった。
 余程の悪路を一心不乱に駆けてきたのだろう。茶色いストッキングは伝線どころか所々裂けており、スカートの裾も汚れてぼろぼろになっている。
 向かい合った二人は言葉を交わすことなく向かい合い、ショウイチが先に口を開いた。
「ただいま、八代。えぇと、その。済まなかったな、お前の気も知らないで勝手に……」
 今まで身を隠していたことへの負い目からか、言いたいことは山ほどあるのに、いざ当人を前にしたショウイチは、その気持ちを上手く言葉に出来ず、有り体な台詞ばかりを口にしてしまう。
 そんなショウイチを目の当たりにした八代は、眼に一杯の涙をため、彼の胸に顔を埋める。
「いいのよ。戻って来てくれたんだもの。お帰りなさい、ショウイチ」
 やはりこんな弁解では駄目かと落胆するショウイチだったが、背中に腕を回して肩を抱き、優しげな口調で囁く八代の姿を見、そうではなかったのかと実感し、自身も彼女が肩を抱き返した。

「こっちもようやく解決か。めでたしめでたし……だな」
「あぁ。ショウイチさんと八代さんが無事で、本当……に」
「よかった」と口にしようとした瞬間、ユウスケの体は支えを失い、その場に大の字になって倒れてしまった。この戦いで一番深い傷を負ったのはユウスケだ。力尽きて倒れてしまうのも仕方がないだろう。
 ユウスケを抱き抱え、彼が高いびきをかいて寝ていることに気付いた士は、「呑気な奴め」と悪態をつき、抱き合う二人に声をかけた。
「おぉい、感動の再会も結構だがよ、こっちにゃ怪我人がいるんだ。どこかで休ませちゃあくれないかね」
「怪我人って……小野寺君!? っていうか、あなたは一体何者なのよ」
「通りすがりの仮面ライダーだ。まぁ、んなことはどうでもいい。このぼろ雑巾をどこかで休ませてくれって言ってんだよ」
「答えになってないわ。何なのよあんた……」
 正体不明の青年の、掴み所のない態度と言動に戸惑う八代。二人の会話が平行線を辿る中、ショウイチは二人の間に割って入り、「もういいだろう」となだめ透かした。
「まずは小野寺君だ。彼が何者かなんて後でいいだろう、八代」
「そうは言うけど、どうやって彼を病院まで連れて行けってのよ」
「少しは自分の仲間、というか組織を信用したらどうだ? ほぉら、到着したみたいだぞ」
 八代は何がと問うて、ショウイチの指差す方向に顔を向ける。彼女の目に、高速道路を迂回して工場跡地に辿り着いたGトレーラーの姿が留まった。
 トレーラーのコンテナから、一条が息を弾ませやってくる。八代は向かい来る一条に「遅い」と一喝して彼の頭を軽く叩いた。
「何をするんです。折角ここまで来られたのにこんな……」
「細かいことは後になさい。小野寺君が重症なの。トレーラーで救急病院に向かうように言って」
「小野寺ユウスケ君が何ですって……? いや、そんなことより八代淘子さん、貴女の隣に立つ彼は」
「まどろっこしい。ほらほら、さっさと行った行った!」
 八代に気圧され、一条は事情も聞けぬままトレーラーに戻されてしまう。傷付いたユウスケたちを乗せたトレーラーは病院に向け一直線に走って行った。

「成る程ね。あれがG4チップより大切なお宝か。大層なものだが、僕の風呂敷包みには収まらないな」
 そんな彼らを遠巻きに見つめる者がいた。昨晩ガードチェイサーとそこに積まれていた装備を盗んだ海東大樹だ。
 アギトたちと牛頭の一団との戦いの一部始終を見ていた彼は、ショウイチが変身したアギトの力こそが、この世界で一番のお宝だと気付くも、形のないものは盗めないと、やや悔しげな溜息を漏らした。
「まぁいいさ。僕は僕で移動用の足が手に入ったしね。悪くはないかな。あなただってそう思うだろう? 鳴滝さん」
 鋭い目つきで、自分の背後に立つ者にディエンドライバーの銃口を構える。そこに立っていたのは薄茶色のフェルト帽に煤けたクリーム色のコートを纏った壮年の男性、自称・世界の救世主の鳴滝だ。
 眉間に銃口を突き付けられているのにもかかわらず、鳴滝は眉一つ動かさず、じっと海東を見つめる。何をするでもない鳴滝を不審に思った海東は、ディエンドライバーを腰のホルスターに収め、「何か用かい」と問いかけた。
「僕のことが憎いんだろう? 気乗りはしないが、戦うと言うなら相手になるよ」
「いつもならな。今日は君などに興味はない。“実験”の結果を見に来ただけさ」
「実験、ねぇ。オルフェノクの彼、せっかく世界を渡って来たってのに、士たちに手も足も出なかったようだけど? あんなものが実験なのかい」
 海東の何気ない問いに、鳴滝は軽く鼻を鳴らして答える。
「君が心配することではない。用が無いならとっとと失せろ、貴様の顔など見たくもない」
「その上から目線。気に食わないが……僕の方も“時間”だし、そうさせてもらうかな」
 この世界での“滞在時間“限界が来たからか、一々戦うのも面倒だと思ったからか、特に争い合うこともなく、海東は踵を返してガードチェイサーに跨り、何処へとなく去って行く。
 鳴滝はその様子を無感情に見つめて、誰に言うでもなく「計画は順調だ」と呟いた。
「順調さ、順調だとも。全ては計画通りだ。待っていろ夏奈、それに我が“息子”海斗――」

◆◆◆

 牛頭たちと戦った高速道路沿いとは別の街外れ、小高い丘の上に所轄暑の警察病院はあった。士の頼みで病院に搬送されたユウスケは、手術を行わず簡単な手当てを施された上で、院内のベッドで大いびきをかいていた。
 あれ程の傷を負ったのだから手術すべきだという声もあったのだが、内傷の殆どは霊石アマダムの力で治癒されており、外傷についても徐々に治りつつあったため、点滴で栄養を与えて寝かせておこうと士が提案したからだ。
 工場跡地の深夜から明け方にかけての一件は、未確認生命体とG3-Xとの戦いであると報道各所に通達し、詳細は伏せられた。この目で見た自分たちですら訳の分からない状態で有りのままを伝えても、市民に余計な不安と混乱を与えかねないと考えたからである。
 ユウスケが眠りこけている間、ショウイチと士は院の待合室にて、八代に対し今まで何が起こっていたのか、何故身を隠さなければならなかったのか説明していた。
 突飛で抽象的な表現も多かったが、八代はそれを妄想だと笑うことも否定することもなく、ただただ彼らの言葉に頷き、真剣な眼差しで彼を見つめていた。
 八代は彼らが話終わったのを見て、穏やか顔をして口を開いた。
「そういうこと……だったのね」
「何も言えなくて済まなかった。嫌に……なったか?」
「そんなことないわよ、あってたまるもんですか。まぁでも、強いて言えば……」
 優しい言葉を掛けられ、気の緩んだショウイチの襟首を、八代は思いきり掴んで自分の方へと引いた。
「もっと私たちを頼ってよ。あなたが抱え込む必要なんてないの。戦いましょうショウイチ、奴らが何であろうと関係ない。あなたはもう一人じゃないんだから」
 凛とした表情に澄んだ目をした八代を見て、ショウイチは染々と昔を思い出していた。
 そうだ、八代はそういうやつだった。ちょっとやそっとじゃ挫けない、とてつもなく芯の強い女だったなと。彼女の顔を見ていると、一人で逃げて塞ぎ込んでいた自分が馬鹿らしくなる。ショウイチは今までの自分を省みて笑顔を浮かべた。
「何笑ってるのよ。馬鹿みたいって言いたいのかしら?」
「いいや、馬鹿だったのは俺の方さ。ごめんな八代。これからはずっとお前の傍にいる。死が俺たちを別つまでな」
「何真顔で恥ずかしいこと言っちゃってるのよ、もう……っ」
 ショウイチの偽らざる気持ちと真っ直ぐな言葉に赤面した八代を、彼は優しく抱き寄せる。
 目と目を合わせ向かい合い、唇が重なりそうになったその時、二人の唇を一枚の紙切れが遮った。
「傍にいるだけでは彼女を護ることは出来ませんよ、芦河ショウイチさん」
「一条……、さっきからいないと思ったら、あんた何処に行ってたのよ」
 二人の間に割って入ったのは、先程まで姿の見えなかった一条トオルだった。一条は彼女の問いに対し、差し出した書類に目を通すよう促す。
「さっき言った通りですよ。決意だけじゃあ人は護れない。芦河ショウイチさん。貴方に八代淘子さんを護る気持ちがおありなら、此方の書類にサインを頂きたい。そういうことです」
「何よこの、細々とした文字だらけの書類は」
「未確認生命体対策班・G3-X装着者、芦河ショウイチの復職手続きの書類。上の承認済みです。手続きが済めば芦河ショウイチさん、貴方はまた装着員として働けますよ。現装着者の補欠……という扱いではありますが」
 二人は一条の得意気な言葉に興味を惹かれ、改めて書類に目を通す。小難しい規約や何だが一条の几帳面な字でびっしりと埋められている。見ているだけで頭が痛くなりそうだ。
 ショウイチたちが書類に目を通す中、一条は「いいですか」と言葉を継ぐ。
「貴方は我が兄に次ぐ警視庁の英雄です。警察各局だけでなく、市民からも期待されている人材だ。復職したからには、相応の活躍を見せて頂かねば納得しませんよ。上も市民たちも、そしてこの私も」
「なぁに無駄に格好付けてんのよ。でも意外ね、あんたがショウイチの復職の手助けをしてくれるなんて」
「彼のためではありません」一条は首を横に振りつつ答える。「芦河ショウイチさんが復職できなければ、きっと貴女はまた余計な無茶を仕出かすでしょう。ただでさえ危うい立場にいる貴女を、これ以上苦しめたくないだけですよ。これも私の許嫁である貴女の為です。八代淘子さん」
「呆れた。あんたまだそんなこと言ってるの? そんな気はないって何度言えば分かるのよ」
「無論、貴女が首を縦に振るまでです」
 一条の馬鹿としか思えない言葉に辟易し、八代は溜め息をついて彼を引き離す。何故そうなるんだと文句を垂れる一条の右肩を、ショウイチは優しく叩いて頭を下げた。
「ありがとう、本当にありがとう。ええと……金剛地君」
「礼は素直に受け取りますがね、誰ですか“金剛地”とは。私の名前は……」
「ははは。警視庁の英雄の弟の名前を忘れる訳がないじゃないか。今のは少し間違えただけだよ、三条君」
「一条ですよ一条! 貴方本当に忘れたんですか!」
 天然ボケなのか本気なのか分からないショウイチの態度に、一条は思いきり当たり散らした上で、頭を抱えて項垂れる。
 その様子を遠巻きに見つめていた士は、二人に説教を続ける一条を押し退け「良かったじゃねぇか」と割って入った。
「これでまた公僕の仲間入りだ。一年間逃げ回ってた分精一杯働くがいいさ」
 士は振り返って背後の自販機に人差し指を突き立てると、「それよりも」と言葉を継いだ。
「お前はンな所で何してる。言いたいことがあるんなら、こっちに来て言やぁいいだろう、ユウスケ」
 言われて、自販機の影から小野寺ユウスケが顔を出す。自分たちの話に夢中で彼がいることに気付かなかった三人は、不意を付かれて声を上げる。八代は直ぐ様居住まいを正して、大丈夫なのかと彼に問い掛ける。ユウスケは「クウガですから」と返して首を縦に振った。
 いまいち意味が分からないが、元気ならそれで良いし詮索する必要もない。八代はユウスケの手を優しく握り、ありがとうと言って頭を下げた。
「月並みの言葉でしか応えられなくてごめんなさい。本当に、ありがとう。小野寺ユウスケ君、あなたを正式にG3-Xの装着員として認めます。これからも一緒に戦って……くれないかしら」
 謝辞の言葉を述べて微笑み、両手で彼の右手を包んで握る。
 八代の暖かな微笑みに“何か”がぐらつきそうになるが、ユウスケはその手を握り返す代わりに、残った左手を載せ、「お気持ちは嬉しいのですが」と頭を下げる。
「俺……、自分に出来る何かを探す“旅”の途中でした。ここで立ち止まってたら、怒られちゃうんですよ。それを約束した人に。だから……すみません」
 ユウスケの唐突な発言に、八代は驚いた顔をして口を閉ざしてしまう。そんな彼女の代わりに、隣で聞いていた一条が「認められるか」と声を上げた。
「ふざけるのもいい加減にしなさい。貴方はG3-Xの装着者なんですよ。貴方の体は今や自分一人のものじゃないんです。断じて認められません」
 一条からは思い切り反発され、八代からも認められないという目で見られるユウスケ。予想していたこととはいえ、こうなると胸が痛む。どう反論してよいか思い悩むユウスケに対し、ショウイチは彼の肩に手を載せ問いかけた。
「一つだけ聞かせてくれ小野寺君。君と約束した人っていうのは、君にとってそれほど大切な人……なのか?」
 ショウイチから問いかけられた言葉に、ユウスケは黙って頷く。二人の間にこれ以上言葉は必要なかった。ショウイチはいきり立つ一条と戸惑う八代の肩に手を載せて言った。
「なぁ八代、一条君。ここは彼の好きにさせてはどうだろうか」
「え、えぇっ!? いきなり何を言い出すのショウイチ!」
「彼には彼の行くべき道があるんだ。向かうべき道が見えているのなら、俺たちがそれを阻むべきじゃない」
 最初こそ驚きの声を上げた八代だったが、ショウイチの問いに対する彼の答えと、彼の決意の籠った瞳を目の当たりにし、彼女もとうとう折れた。
「分かった、分かったわよ。あなたたちがそこまで言うのなら……」
「自分から志願しておいて、本当にすみません。でも……」
「あなたがそうしたいと思って言ったんでしょう? だったら謝らないで。自分の決断に自信を持ちなさい。でないと、私が許さないから」
「は、ははは、はいッ!」
 八代に凄まれ、竦み上がって背筋を伸ばすユウスケ。士はそんなユウスケを笑いつつ、彼の襟首を掴んで八代たちに言った。
「んじゃま、俺たちはそろそろお暇しようかね。あばよ」
「おい、おいおい士、ちょっと待てよ。待ってくれよ」
 ユウスケはそれはないだろと士を振り払い、凛とした表情でショウイチの右手を両の手で握り、彼の顔を見据えて言う。
「ショウイチさん。この世界を……八代さんを、宜しくお願いします」
「あぁ、任せてくれ」
 ユウスケの決意に満ちた態度と言葉に、ショウイチは彼の両手の上に自身の左手を載せ、彼に負けず劣らず凛とした表情で答える。二人の決意に満ち満ちた顔に感銘を覚えた士は、首から提げたトイカメラを覗き込み、右斜め先にいた八代も映り込むようにしてシャッターを切った。
 ユウスケはショウイチの答えに満足したようで、それ以上何も語ることなく、もう一枚写真を取ろうとする士の手を退いて、さっと身を翻した。
「おいおい、待てって言ったくせにもういいのかよ」
「いいんだよ、もう。さぁ行こうぜ士」
 ユウスケはそれだけ呟くと、八代たちに一礼し、病院を後にする。
 それでもどこか未練があったのか、ちらと振り向いて彼らを見るユウスケ。優しげな表情を浮かべ、堅く手を握り合う八代とショウイチの姿を見たユウスケは、少しだけ物憂げな表情を見せ、今度こそ病院から去って行った。

◆◆◆

 警察病院を去った士とユウスケは、それぞれの愛機に跨り(士は手近なバイクをマシンディケイダーに変えたものだが)光写真館へと走らせている。
 士はやや遅れて並走するユウスケの顔をちらと見る。病院を出るまでは凛とした顔つきだったのだが、そこでやる気を使い果たしてしまったのか、非常に気の抜けた顔をしていた。
「蟻共はまだ沢山いそうだが、問題はなさそうだ。ショウイチの奴がなんとかしてくれるだろうしよ」
「うん」
「それにしてもあの一条とかいう刑事は傑作だったな。変に格好付けているのに酷い扱いでよ。まるで戦っていない時のお前を見ているようだったぜ、ユウスケ」
「おぉ」
「見ろよユウスケ。“なるとが自慢のラーメン屋”だってよ。そういやもう昼だ。写真館に帰る前に少し食ってかねぇか」
「あぁ」
「そうかそうか。んじゃあ代金は全部お前の奢りで頼むぜ。一番高い奴にトッピング全部載せだからな。ちゃんと払えよ」
「断る」
 心ここに在らず。ユウスケの気の抜けた回答に苛立ちを覚えた士は、「うっとおしい奴だな」と並走するユウスケのバイクに、自身の車体を軽くぶつけ、彼のバランスを狂わせた。
 軽く当たっただけものの、呆けていたユウスケにとってはかなり効いたらしく、慌ててブレーキを踏んでハンドルを切り返し、同時に道路脇に停車した士に食ってかかった。
「いきなり何すんだ! 事故ったらどうすんだよ!」
「んなことはどうでもいい。自分から身を引いたくせに、いつまでもイジイジ引きずってんじゃねぇよ。そんなに大事なら、ショウイチと敵対してでも奪えばよかったんだ」
 乱暴だが尤もな言葉に、ユウスケは「そんなんじゃない」と返した。
「あの人を護り導くのは俺じゃない。あねさんの話を聞いて、実際に拳を合わせて、一緒に戦って……。俺には無理だ。ショウイチさんみたいにはなれない」
「分からないな」士は納得しかねるとユウスケの話を遮った。「だったら、八代の気に入るような男になりゃあいい。人は順応してナンボの生き物だぜ」
「分かってないな、士」ユウスケはそうじゃないと言い返す。「それじゃあダメなんだよ。そりゃあ、ショウイチさんの真似をすれば気は引けるかもしれない。でもそれはあの人の影を追ってるだけだ。俺を、小野寺ユウスケという人間を好きになってもらわなきゃ、何の意味もないんだよ」
「よく言うぜ」士はユウスケの答えに対し、溜め息混じりに言葉を返す。「それが割り切れたって思ってる男の顔かよ。未練タラッタラで見苦しいんだよ」
「それはその……、別にいいだろ、顔くらい!」
 この世界の彼女は「八代淘子」であって、ユウスケの良く知る「あねさん」ではなく、芦河ショウイチという想い人もいる。二人の繋がりが如何に深いかも知った。彼女たちの間に割って入るなど出来る筈がない。となれば潔く諦めて、二人の前途を応援するのが一番だ。ユウスケはそう考えた。
 しかしそれは言葉の上での話だ。心の底から納得した訳ではない。二律背反した思いが心の中でせめぎあい、彼の表情に暗い影を落としているのだ。
 彼の気持ちを「だいたい」察した士は、俯《うつむ》くユウスケの目の前に、親指を立てた自身の右手を見せた。
「何だよ、この立てた親指」
「知らないのか? ”サムズアップ”とは、古代ローマで『満足出来る』、『納得できる』行動をした者にだけ与えられる仕草で……」
「いや、起源がどうだって話はいいよ。なんでそんなことするんだって言ってんの」
「褒めてやってんだよ。惚れた腫れたなんざ知ったこっちゃねぇが、お前はあの二人の笑顔を取り戻す為に、自分の想いまで犠牲にしやがった。誰にでも出来ることじゃあない……って、何呆けてんだよお前は」
 士の口から称賛の言葉が出るとはと、ユウスケは目を白黒とさせて呆けてしまう。士は彼の額を軽く小突くと、「だから」と言葉を継いだ。
「こいつの似合う男になりな。世界中の人々を笑顔にするってお前の目標、ありゃあもう八代の義理立てでやってることじゃあない筈だ。過去を一々振り返るな。前に進み続けろ。お前の下した決断が間違いじゃなかったと証明するためにもな」
 顔を合わせれば憎まれ口を叩くあの士が、自分に励ましの言葉をくれた。ユウスケはあり得ないこと続きに戸惑いつつも、どこか吹っ切れた表情を浮かべ「当たり前だろ」とぶっきらぼうに返した。
「やってやるさ。あぁ、やってやるとも。そいつが俺の夢なんだからな」
「そうかい」楽しそうに少し口元を歪ませ、士が言った。「んじゃあ帰るか、夏ミカンたちが首を長ぁくして待ってるだろうしな」
「あぁ」
 二人の男は帰るべき居場所に向かい、愛機に跨がってエンジンをかける。アクセルを噴かせて走り出す刹那、ユウスケは後ろを振り返って、どこか物憂げな表情でこう呟いた。
 ――さようなら、あねさん。
 言って士の後を追い、勢い良くアクセルを噴かして去っていくユウスケ。彼の密やかな呟きは、愛機トライチェイサー2009の排気音に掻き消され、空の青へと溶けて行った。

◆◆◆

「今帰ったぞー。飯はないのか飯は」
「あぁ、お帰り士君。お昼は……まだちょっと時間がかかるかな」
「そもそも、帰るなり何ですかその言い草は。手伝いもしないで心配ばかりかけておいて」
「わかった、分かったよ。飯が出来るまで現像室に籠っててやるから」
「そういう問題じゃありません……って、あぁあ」
 光写真館に帰るなり、夏海たちの取り付く島なく食事を要求する士。腐った小豆しか食べていない今、彼がそこまで要求するのも仕方がないが、夏海はそれにしてもこの態度は何だと憤慨して士に食って掛かる。
 景気良く戻って来るつもりが、完全に出鼻を挫かれたユウスケは、不機嫌そうな顔で現像室を見つめる夏海におずおずと声をかけた。
「な、夏海ちゃん。えっと、その……ただいま」
「ユウスケ? もう、いいんですか? 八代さんのことは」
「よくはないよ」晴れやかな顔でユウスケが言う。「良くはないけど、俺には世界中の人々を笑顔にするって目標がある。ここで立ち止まってる訳には行かないんだよ」
 爽やかな笑顔を浮かべ、どこか吹っ切れたようにそう語るユウスケを見て、夏海は「良かった」と微笑む。彼らの間に何があったのかは分からないが、笑顔でいられるのならそれで良し。
 一時はどうなるかと思ったが、ユウスケがいつものまま戻って来たことが、夏海にとっては一番嬉しかったのだ。
「ユウスケ!? 戻ったの、どこよっ、どこどこッ!?」
「あぁ、キバーラ。ただいま。今日からまた、宜しくな」
「キバーラの為に戻って来てくれたのねぇ。嬉しいッ! と言うわけで、かぁぷさせて頂戴、かぁぷ」
「おい、馬鹿やめろ! 俺ぁ今腹減ってんだよ、血が足りねえんだって!」
 ユウスケの声を聞きつけ、何処からともなくキバーラが現れた。感極まって彼の血を求め、彼の周りをぐるぐると回る。ユウスケは首筋を狙うキバーラを手で払い除け、ソファの上に腰を下ろして鼾《いびき》をかき始めた。
 光写真館に、いつもの日常が戻って来た。

「どれもこれも像がぼけてぐっちゃぐちゃ。予想はしていたが、やはりここも俺の世界じゃなかったか」
 昼食後の穏やかな昼下がり。門矢士は一人ソファに腰掛けて、現像から上がったこの世界の写真たちを見つめ、いつものように溜め息をついていた。
「巡った世界は六つ、力の戻らないカードは……残り三枚。本当にあるのか? 俺の居るべき世界なんてものは……」
 不自然に歪む写真たちを見つつ士は思う。謎の青年から半ば押し付けられて始まった、いくつもの世界を巡る旅。
 ライダーたちの力も半分以上取り戻し、折り返しに入ったものの、未だに自分自身が何者なのか、居るべき世界の手掛かりは殆ど掴めていない。破壊者悪魔と罵られ、それ以外のことは何も分からないことに、士は苛立ちを感じ始めていた。
 自分はどんな世界の人間なのか、そこで何をしていたのか、そもそも、居るべき世界など自分にはあるのか……。いつしか士は、写真たちとしかめ面で勝ち負けのないにらめっこをしていた。
 そんな士を滑稽だと思ったユウスケは、彼の背後から写真をひょいと奪い取る。
「何難しい顔してんだよ、士」奪い取った写真を流し見し、ユウスケが言う。「相変わらず酷いもんだなぁ。どうすればこんな写真が撮れるんだ?」
「知るもんか。分からないからこそ撮り続けてんだよ、俺は」
「そういうものなのか……。おぉっ、おいおいおいおい、何だよ士、こんな写真見せて驚かそうだなんて、人が悪いにも程があるぞ」
「何言ってんだ。さっぱり訳が分からん」
「分からないならこれを見ろよこれを」
 手渡された写真を見、士は成る程なと呟く。
 ショウイチとユウスケが握手を交わし、その上に八代淘子の顔が映り込んだもの。それだけならばいつもの歪んだ写真のうちの一枚だが、これが他のものと決定的に異なるのは、ユウスケの肩に、何者ともつかない謎の手が添えられていることだ。
 顔や体の向きや角度からして、ショウイチや八代のものではあり得ない。とすると、ここに映り込んだ手は一体誰か。ユウスケが心霊写真と気味悪がるのも頷ける。
 何故こんな映り方をするのか、これは一体誰なのか。映り込むくらいなのだから、そこには何か理由がある筈だ。士はそう考え思案を巡らせた上で、一つの結論に至った。
「全く……、励ましに来てくれたってぇのに、酷いこと言うのな、お前」
「えっ! お前、誰だか分かるの!? 誰なんだよこの手」
「そういう言い方しか出来んお前には教えん」
「何だよ、頼み方が悪いっての? 教えてください、お願いします!」
「俺じゃねぇよ、この手に言いな」
 士はそんなことも分からないのかと溜め息をつき、ユウスケは何なんだと食って掛かる。争うばかりで平行線を辿るばかりの二人の前に、大きめの白いお皿を手にした夏海が割って入った。
「まあまあ、二人とも落ち着いて下さい。はい、どうぞ」
 白い皿に数枚並べられて出てきたのは、手のひらに収まる位の大きさのクッキー。形こそやや歪なものの、焼き色はしっかりとしており、乾燥フルーツやデコレーションチョコなどで人の顔が表現されており、見た目にも楽しい作りとなっている。
「うわぁ、凄い。これ、夏海ちゃんが作ったの?」
「はい。意外と簡単に出来ました。それで、この形はですね……」
「俺にお前にユウスケに爺さん。写真館の面々の顔でクッキーを作ったようだが、大きさ的にもデザイン的にも自分を美化し過ぎだぜ、夏ミカン。俺はこんな面長じゃあねぇ。ついでに言っておくが……味はもっと美化しろ」
「なっ、なな、な……」
 自分が言おうとしていた事を全て言われてしまい、かつ出来を辛辣な言葉で貶されたことで、夏海は継ぐべき言葉に詰まってしまう。しかしすぐに怒りがこみ上げ、熟れた林檎のような赤い顔で士に詰め寄った。
「じゃあ食べないでくださいよ。せっかく作ったのに何ですか、その言い草」
「事実を言ったまでだぜ。俺の舌を唸らせたかったら、もっとちゃんと練習するんだな」
「むうう、もう我慢なりません! 光家秘伝、笑いのツボ!」
 士の横暴な態度に、夏海の堪忍袋の緒が切れた。親指を構えて襲いかかる夏海を、士は腰の動きだけでかわしつつ、近くにいたユウスケの襟首を掴んで盾にし、身代わりに笑いのツボを受けさせた。
「うぉわわっ! 士、てめぇ……あは、あはははははは」
「あっ、士君あなた、何てことを」
「そう何度も喰らってたまるかってんだ。悪ぃなユウスケ」
「この……あはは……野郎、はは、は……よくもッ! ひひっ、ひひ……」
 不気味に顔を引き吊らせて笑うユウスケは、口ばかりの謝罪を述べ、そそくさと去ろうとする士の肩を力を込めて掴む。するとどうしたことか、彼に釣られて士までもが気味の悪い表情で笑い始めたではないか。
「なんだこりゃ……はは、ははは……何で、俺まで……あはははは」
「夏海ちゃん……ここまでパワーアップしてるだなんて……はは、ひはははは」
 笑いのツボの効力増強に驚きつつ、肩を組んで笑い合う二人。表情そのものは引きつっていて、気味が悪い事この上ないのだが、傍から見れば仲の良い友達同士にも見える。
「まったく、仲が良さそうでいいですね。男の友情、ってやつですか?」
「誰のせいでこんなことに……はは、ははは」
 これには夏海も苦笑い。肩を組んで客間をふらつく二人を冷やかした。お前がやったのにそれは何だと笑いつつ、彼女に詰め寄ろうとするも、バランスを崩し二人揃ってタペストリーの掛った壁にぶつかってしまった。
「痛て、ててて……あぁもう、ようやく治まったか」
「士君、ユウスケ。大丈夫ですか?」
「大丈夫も何も、元はと言えばお前が……」
 こけたのはお前のせいだと、士は手を伸べる夏海に悪態をつくが、ちらと見た背景ロールを見た途端、そんな気持ちも吹き飛んでしまった。
「電車……だよな?」
「電車、ですね」
「でも、なんで電車?」
 垂れ下がってきた背景ロールに描かれていたのは、荒野をひた走る赤と白を基調とした電車の絵。
夏海とユウスケが何故電車なのかと首を傾げる中、士はなるほどなと一人頷いた。
「『電王』の世界か——」



※※※


◎次回、「Journey through the Decade Re-mix」!

 ――言ったはずだぜ。俺様は最初から最後まで徹底的にクライマックスだってな!
 ――……わけがわからん。お前は一体、何者なんだよ。
 ――んなこと知るか! こっちが聞きてぇぐらいだ!

 ――キミ、“世界の破壊者”ディケイド、だよね?
 ――ちょっと倒させてもらうけどいいよね? 答えは聞かないけど!
 ――俺たちの強さは、泣けるでぇ!
 ――えぇい、うっとおしい。こうなったらとことんやってやる!

 ――化け物諸君、それと士。この“デンライナー“は僕が貰っていくよ。
 ――うわぁ、凄いぞユウト! トレインジャック、トレインジャックだ!
 ――馬鹿、楽しんでる場合か、追うぞ!

 ――しゃあねぇなぁ、こうなったらやけくそでクライマックスだ! てめぇら、行くぞ!

 次回、『超モモタロス、参上! 鬼ヶ島の戦艦』に、ご期待ください。

 ※セリフはあくまでもイメージです。予告なく変更される場合がございます。




 足かけ半年にも渡る修正掲載作業もこれにて終了。電王編? なろう掲載時、投稿数日後において検索から外されていたので実質ノーカン……
 電王編もすぐに投稿したい……ところなのですが、現時点において制作が殆ど進んでいないこともあり、当分の間掲載されないかと思います。目途が立ちましたらツイッターなり、映画レビューの端っこにでも記載させていただきます。
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~ Comment ~

不満解消、これぞ公式! 

 先日はどうもお世話になりました。という訳で、アギト編の感想をこちらに書き込みに参りました。いやはや驚きましたよ、何度も何度も戦闘描写でお世話になった章なのに、まだ感想を書きこんでなかっただなんて。……不覚ッ!(私自身は書き込んだものと思ってました)


 総括して、やはり見事の一言ですね。リ・イマジネーションキャラクターの数は本編を遥かに上回りますし、動かし方も素晴らしい。本編ではあまり語られなかったクウガとの関係性もきちんと描写されてましたし、“ゲゲリンガル”というオリジナル要素も見事でした。
 しかし、それでも本編の流れを上手く残しているのがまた凄い。ユウスケを軸に、士とショウイチ、海東、G3-X関係者、しかもこの作品ではそれに更にオルフェノクですからね(元ネタはHERO SAGAかな?)。これだけ多くの派があるというのに、上記のように本編の流れを不自然にすることなく、綺麗に纏めている。凄いを通り越して、うらやましいです。どうすればそのようにキャラを動かし、綿密な話を展開できるのでしょうか。
 そして何といってもアギトとクウガの共演ですよ。コレに関しては、本編で残念どころか怒りを感じたことで、まだ覚えています。「何でそんな燃えるシチュをやらねーんだよ」、と。
 二大ライダーによるダブルライダーキック。このシーンはもう世代者である私からすると感涙モノ。タイトルにも記しましたが、もうこれが本編で良いと思います。

 ――という訳で、アギト編の感想になります。遅くなって申し訳ありませんでした。
 さて、ちょっと宣伝になってしまいますが、ウチももうすぐカブト編の1話目を掲載する予定です。もしよろしければ、またお暇な時にでもご覧になって下さい。
 それではこれにて。満足にサムズアップ!
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