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 ←Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 B-part →Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 D-part
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「Journey through the Decade Re-mix」
Journey through the Decade Re-mix(2)

Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 C-part

 ←Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 B-part →Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 D-part
 恐らくこれまでで一番詰め込んでいます。

 ゆっくり、じっくり読んでいただければなあと。

「……ただいま」
「おぉ、おかえりなさい夏海。夕飯の準備はできてるよ」
「夏海ちゃーん、おっかえりー」
 士が廃れた乾物工場を見つける数時間前。彼の手によって光写真館に送られた夏海は、取り付く島もないままにディケイダーの助手席から降ろされてしまったため、仕方なく写真館の門を叩き、祖父の栄次郎に帰宅を告げていた。
 夏海の心情を知ってか知らずか、栄次郎とキバーラは彼女を暖かく迎え入れ、夕飯の並んだ居間に彼女を通す。
 今晩の夕食はキュウリ、レタス、人参、パセリ。色鮮やかな野菜を刻んで作ったベジタブルサラダと、牛肉と牛蒡《ゴボウ》の炒め物。出来て少し時間が経っているからか、湯気は無くほんの少し冷めていた。

「いやはや、ここの畑はいい野菜が採れてねぇ。今日は私の自信作なんだよ。ささ。食べて、食べて」
 促され、テーブルの右端の席に座る夏海。目の前には『四つ』の取り皿が並んでおり、今ここにいない二人の分は裏返しに置かれている。
「そういえば、士君はどうしたんだい? さっきまでここにいたようだけど」
「探しものがあるから、とか言って一人で行っちゃいました。わたしは”付いてくるな”って」
「ふぅん。まぁ、士君はいつもそうだから気にしないけど、ユウスケ君はどうなんだい」
「ユウスケ。ユウスケは……」
 栄次郎の何気ない問いに、夏海は上手く言葉を継げず俯《うつむ》いてしまう。
 いつものように食卓に並ぶ四つの皿を目にし、「彼はもうここには戻らない」ことを改めて実感してしまったのだ。
 理由は分からずとも、孫の微妙な心境の変化を察した栄次郎は、問いそのものを打ち切って、夏海の皿にサラダと肉の炒め物を盛りつけた。
「そんな顔していたらせっかくのご飯がまずくなる。私たちだけで先に食べてしまおうか」
「そう……、ですね。そうですよね」
 盛りつけられたサラダと肉の炒め物を見、いつまでも塞ぎ込んでいてもしようがないと納得した夏海は、栄次郎お手製の胡麻ドレッシングをサラダにたっぷりとかけて、いただきますと手を合わせた。
「ねぇ、ねぇねぇ夏海ちゃん。ユウスケは? ねぇユウスケは? ねぇ、ねぇねぇねぇ!」
「……少し黙っててください。キバーラ」
「んもう! そんなに邪険に扱うことないじゃない! まさか女!? 女でも出来たのッ!? あらやだッ、アタシというものがありながらッ! んもーッ! 何よ、何なのよーッ」
 当たらずとも遠からず。キバーラのお小言を無視し、光家の二人は黙々とサラダを口に運んで行った。

◆◆◆

 ――変身!
 ――KAMEN RIDE 「DECADE」!!
「冗談じゃねぇ、こんな所で死んでたまるか」

 襲い来るオルフェノクたちを軽くいなしつつ、バックルを腹部に押し付け、ディケイドのカードを装填。変身と共に左腰からライドブッカーを引き抜いて、オルフェノクたちにたらい回しにされ行くショウイチを追う。
 敵の数は非常に多く、捌きながら追っていては間に合わない。ディケイドは運ばれ行くショウイチに向かい、声を張り上げた。
「何やってんだショウイチ! その力をモノにするんじゃなかったのか? 八代の元に帰るんじゃなかったのか!」
「そうは言うが、また暴走でもしたら……俺は」
「阿呆、”もし”だの”たら”だの”れば”だの……、やる前から失敗することばかり考えてどうする! 男なら気合いを見せろ、気合いを」
「いい加減にしてくれ! お前に俺の何が分かるんだ、俺は……」
「人を喰ってしまったのだぞ」と言いかけた矢先、ショウイチの胸にオルフェノクたちの爪や牙が襲い来る。もう無理だ。自分を抑えていられない。
 瞬間、ショウイチの体はあの緑の獣へと変わり、自分をたらい回しにしていたオルフェノクたちに鋭利な爪と、固く握り締めた拳を放った。

 次々にオルフェノクを散らし行くギルスを見、そら見ろ。なんとかなったじゃないかと安堵するディケイドだが、そうは問屋が卸さない。ギルスはオルフェノクたちを引き剥がした上で、味方であるはずのディケイドに爪を向けたのだ。
 自我を持って力を制御することに失敗し、本能のままに暴れ回っているのだろう。こうなってしまえば、ディケイドも敵のうちの一人でしかない。
「あぁくそっ、やっぱりダメだったか……仕方ねぇ、もう一回気絶させ……てっ!?」
「どこを見ているのかな。君の相手は、彼らだよ」
 ギルスを止めんと駆け出したディケイドの前に、四体のオルフェノクが立ちはだかる。
 フクロウ、ウサギ、ゾウ、蛇。見てくれこそ他のオルフェノクたちと変わりないが、驚くべきはその力。徒党を組んでいるとはいえ、上位集団《ラッキークローバー》でもない雑兵相手に、ディケイドが手も足も出せないでいるのだ。半端な強さではない。
「なんなんだよこいつら、雑魚のくせに……やりやがるッ」
「手こずっているようだね。まァ、当然だろう。彼らはこの世界で集めた”精鋭”なのだから」
「精鋭だぁ? そいつは一体どういう……」
 言いかけて敵の姿を見、ディケイドはあることに気付く。灰色の体表に何らかの動植物を模したその体、紛れもなくオルフェノクだ。しかし、そうなると彼らの体には一つだけ、妙な部分がある。
 彼らの腰に巻かれた、腹部の刺々しい装飾品。ファイズの世界の彼らは、あんなものなど着けていただろうか。覚えがあると思い返し、周囲を見回す。ギルスを襲うオルフェノクたちに、このような装飾品は見られない。
 敵の攻撃をいなして防ぎつつ、それが何であったかと思案を巡らせる。装飾品の正体に気付いたディケイドは、仮面の下で目を剥いた。
「お前! まさか、こいつらは……」
「察しの通り。彼らは”あの”化け物さ。この世界では『未確認生命体』なんて呼ばれていたかな。僕程じゃあないけど、強いよ」
 自信満々にそう語る百瀬を見上げつつ、ディケイドは「やってくれるぜ」と舌を打つ。
 未確認生命体——グロンギは、霊石『アマダム』が腹部に埋め込まれてはいるものの、体の構造は殆ど”人間”と変わりのない生き物だ。人と同様にオルフェノクになったとしても、何の不思議もない。
 オルフェノクの力にアマダムのそれが上乗せされているとなれば、手強いのも頷ける。
 ディケイドはこの状況を打開せんと、カードを抜いてドライバーに装填しようとするが、百瀬の声に応じたオルフェノクたちに邪魔された。
「野郎、何しやがるッ」
「以前学習したからね。そいつは使わせないよ」
 カードを使うライダーを潰すには、それ自体を使わせないことが一番手っ取り早い。ディケイドは仮面の下で苦々しい顔をし、舌打ちをするも、同時にこのオルフェノクたちの、”兵隊”と呼ぶに相応しい行動力に感心してもいた。

「あぁくそっ、どうすりゃあいいんだよ、こいつは……」
 ギルスを救おうにも、目の前の火の粉を払うのが精一杯。当のギルスも今は健闘しているが、敵の数がこうも多くては、いつ力尽きてしまうか分からない。状況は悪くなる一方だ。
 彼らの耳に不可思議な音が入ったのはその時だ。それが何だかは分からない。しかし耳に届く何かが爆ぜるようなこの音。どう聞いても普通じゃない。
 ここに留まるのはまずい。直感でそれを確信したディケイドは、同じく野性的な本能で危険を察知したギルスと共に、道を塞ぐオルフェノクたちを振り切り、窓を突き破って工場の中から飛び出した。

 二人の判断は正しかった。彼らが工場から飛び出した瞬間、一抱えもある誘導弾が工場の中に撃ち込まれたのだから。
 誘導弾は窓を破って工場に入り込み、中にいたもの全てを巻き込んで爆ぜる。古びた乾物工場は内部から吹き飛んで、瓦礫の山と化した。
「命中。繰り返します、命中です。やつらの動き、一切ありません」
「――了解。小野寺君、体の方は大丈夫?」
「ものすごいパワー……でしたけど、歯を食い縛れば行けそうです。問題ないっす」
 数十メートル離れた場所で小型のロケットランチャーを担ぎ、無線に応じる青い仮面の戦士。海東の代わりにG3-Xを装着した小野寺ユウスケだ。
 彼がオルフェノクたちに向けて放ったのは多目的巡航ミサイル『ギガント』。四発装填されているうちの一発だ。本来はG3-Xの後継機G4が使用するはずだったものを、八代が武器庫から引っ張り出してきたのだろう。
 破壊力は凄まじいが、G3-Xを装着していても尚、歯を食い縛らなければ立っていられない程の衝撃がユウスケを襲う。G3-Xを纏っていなければ、腕ごと千切れて誘導弾と一緒に飛んでしまっていたかもしれない。
 Gトレーラーの八代と一条は、G3-Xのカメラ越しにギガントの破壊力を見、一人は溜め息を漏らし、もう一人はやるじゃない、と声を上げた。
「考えかあるって、これのことだったのですか。こんな物騒なもの、一体いつの間に」
「陸自から招へいの話があった際、研修目的であちらに出向いた時に作ったの。心配しないで、あっちには作ったことを知らせてないし、設計図も私の頭の中にしかないから、悪用される心配は無いわ」
「……ミサイルの密造と隠匿、始末書程度で済む問題じゃありません、分かっているのですか!?」
「夜中で目撃者も少ないし、平気よ。それに、こういうことのために、あなたがいるんじゃない。面倒事の始末、よろしくね」
 まさか、自分はこの為だけに呼ばれたのか。逃げようにも自分は最早八代の共犯者だ。それに一人だけ逃げようものなら、彼女は躊躇なく自分に罪を擦り付けて来るだろう。彼女はそういう女だ。
 一条は、彼女に話を振ったのが運の尽きだと、溜め息を吐いて項垂《うなだ》れる。
 そんなトレーラー内のやり取りを知ってか知らずか、現場のユウスケは肩に担いだギガントを、愛機トライチェイサー2009の荷台に降ろし、腰のホルスターから連発式《フルオート》の突撃銃『GM−01改』を抜き、無線にて八代に連絡を入れた。
「これより、工場跡地に潜入します」
「――あ、あぁ、了解。十分注意して」
 メインカメラに備え付けられた照明を点灯させ、引き金に指をかけたままゆっくりと近付いて行く。
 左前方、一際多くの瓦礫が積まれた場所に僅かな動きがあった。ユウスケは咄嗟に銃口をそちらに向けるが、自分が見た限り目立った動きはない。
「気のせいか」と銃を降ろし、視線を他に向けたその瞬間、瓦礫の中からギルスが飛び掛かって来た。
「うぉわっ! なんだこいつ! 離せ、離せっての!」
 緑の獣は自分の足でユウスケの胴を挟み込み、G3-Xの装甲ごと彼の肩を噛み砕かんとする。銃で引き離そうとするも、構えた直後に足で叩き落とされてしまった。
 このまま噛まれているわけには行かない。ユウスケは左の二の腕からコンバットナイフGK-06を抜いて逆手に持ち、ギルスの首筋を袈裟に裂いて引き剥がす。
 ギルスは赤黒い血を噴いてうずくまるが、それもほんの一瞬だった。首筋の傷は瞬く間に塞がり、直ぐに立ち上がって物々しい雄叫びを上げる。
 これには現場のユウスケ以上に、トレーラー内の二人が声を上げた。
「緑の獣……、小野寺ユウスケ君が先程遭遇したという、あの」
「左肩に重度の損傷……、未確認や例のオルフェノクたち以外にこんな化け物がいたなんて。小野寺君、状況は?」
「――肩をちょっとやっちゃいましたけど、まだやれます。問題ありません」
 ユウスケはGM-01を拾い上げ、再びギルスに向けて構える。幸い利き手の右は無事だったので、発砲に支障は無い。

 荒々しい叫び声を上げてギルスが跳ぶ。それを撃ち落とさんと、引き金を引くユウスケ。
 引き様に放たれた数発の銃弾はギルスの腹部に着弾し、野太い悲鳴を上げさせ、彼を再び地面に叩きつけた。
 奴の再生能力は驚異的だ。叩き落としただけでは油断できない。ユウスケはギルスの両手両足にさらに銃弾を撃ち込み、彼の動きを抑制させつつ、じりじりと近付いて行く。
 うつ伏せになったギルスを見下ろし、彼のこめかみに銃口を近付ける。陸に上がった魚のように動いていたその体も、銃弾を撃ち込まれ続け、ぴくりとも動かなくなった。

「誰だか知らないが、これで終わりだ。覚悟しろッ」
 今一度引き金に指をかけ、ギルスの頭を撃ち抜かんとするユウスケ。しかし、今まさに撃ち抜こうとした瞬間、彼の右手人差し指に、『クウガ』のライダーカードが当たり、阻まれる。
 一体何だと周囲を見回すユウスケの背後に、瓦礫の下敷きになって動けないでいるディケイドの姿があった。
「士!? お前、何でこんなところに!」
「ンなことはどうだっていい。そいつを撃つな、ユウスケ! 撃てば一生後悔することになるぞ」
「後悔するって、一体どういうことだ……よッ!?」
 ディケイドとの会話に気を取られた、ほんの一瞬の出来事だった。
 ギルスの目に色味が戻り、ユウスケを突き飛ばして起き上がると、鋭利な鉤爪でG3-Xの装甲ごと彼の体を斬りつける。その上で体重の乗った拳でユウスケの胸部に打ち込み、馬乗りの体勢から両の拳で滅茶苦茶に殴打を始めた。
 装甲の至るところから火花が散り、出力がみるみるうちに低下さて行く。G3-Xに於ける出力低下は、戦闘能力のみならず、機械の力で強化した本体の防御能力低下にも繋がる。
 このままでは戦えなくなるどころか、ユウスケの命が危険だ。八代と一条が必死に呼び掛けるも、彼の耳には届かない。

 危機的状況に追い込まれ、すぐにでも意識を失ってしまいそうな中、ユウスケの頭にある疑問が過る。
 何故あの時、士は自分に向かって”撃つな”などと言ったのだろう。自分を殴り付けているこの獣は、一体何者なんだ。考えども悩めども答えは出ない。

 ――輸送船の周りだけ突然嵐に襲われただの、ショウイチが化け物に変わっただの……
 ――そいつを撃つな、ユウスケ! 撃てば一生後悔することになるぞ。

 薄れ行く意識の中で脳裏に浮かんだ二人の言葉。どちらも単体では意味を成さないが、この二つが重なることで、事の重大さがユウスケにも読めてきた。
 この化物の正体が”彼”だと言うのなら。成る程、身を隠さねばならなかった理由にも得心が行く。だからといってこのままにしてはおけない。八代淘子とこの男。例え結果がどうなろうと、決着をつけなければ前に進めないのだから。こんなところで何をしている。何を寝ている。今自分がすべきことは何だ。約束を果たすのではないのか。

 ユウスケは拳を固く握り締めると、右足の踵を地面にぶつけて、足先に仕込んであったもう一本のコンバットナイフを飛び出させ、思い切り足を振ってギルスの左腿に突き刺した。
 痛みに耐え兼ね、呻き声を上げるギルス。ユウスケはよろけて座り込んだままのギルスの襟首を掴んで、彼の顔に固く握り締めた拳を叩き込んだ。
 叩きつけられて一度バウンドしたところを、サッカーボールを蹴るかのように荒々しく蹴り付ける。脇腹を叩かれて呻くギルスに向け、GM-01で追撃。赤い血と緑の肉片が周囲に散った。

 しかし、ギルスもただやられているだけではない。ユウスケが再び引き金を引くよりも早く、両腕から触手を伸ばして彼の首を絞め始めた。
 物凄い力にアーマー内の計器類が火花を散らして悲鳴を上げる。今G3-Xが破壊されてしまえば、ユウスケの首は易々と千切り飛ばされるだろう。
 己の身が危ないのは分かった。しかし、ここで引き下がるのは得策ではない。ユウスケは首を絞めつける触手を、引き剥がすどころか逆に思い切り引き、ギルスを自分の方へと引き寄せた。
「あんたが、”あの人”だってんならよぉ……いい加減、目ェ覚ましやがれぇえッ!!」
 引き寄せられ、体勢を崩したギルスの胸部目掛け、左肩からもう一本のナイフを抜いて叩き込む。ギルスは狂った豚のような悲鳴を上げ、ナイフを抜こうとのたうち回る。
 なんとかナイフは引き抜けたものの、度重なる戦いとその疲労からか、力を使い果たしてショウイチの姿に戻っていた。
「なん……なんだ!? 俺は、一体何を……」
 ややあって、ショウイチは辺りの様子を伺い、身体中の傷を庇いつつ起き上がる。ギルスの驚異的な再生能力の賜物か、胸の傷は殆ど塞がっていた。
 この瓦礫の山は何だ。何故自分はこんな傷を負っている。答えを求めて周囲を見回すショウイチの目に、ナイフをその場に放って佇むG3-Xの姿が留まった。
「G3……? どうしてこんなところに! 何者だ、何者なんだッ」
「落ち着いてくれ、俺は小野寺ユウスケ。芦河ショウイチさん……だろ? あんたを迎えに来たんだ」
「迎えだと!? 何の迎えだ。俺の命を奪いに来たのか? 警視庁でそういう命令が下ったと言うのか!?」
 傷の影響もあり、取り乱してユウスケに掴みかかるショウイチ。自分が何を言おうと無駄だと判断したユウスケは、彼を引き剥がすことなく、内部無線の電源を入れて、ボリュームを最大に引き上げた。
「――ショウイチ……、ショウイチ! 本当に、本当にあなたなの!?」
「その声。お前、まさか……八代か!?」
「――そうよ、その八代よ。何よ、その、貧相で髭面の格好……は」
 聞き覚えのあるその声に、痛みも忘れ、目を見開いて声を上げるショウイチ。肩まで伸びた汚ならしい髪に痩けた頬、ショウイチの変わり果てた姿を見、八代はそれ以上継ぐ言葉を持たなかった。
 モニターに映る男の姿を目にし、目に涙を溜めて八代は思う。芦河ショウイチは生きていた。自分がしてきたことは無駄ではなかったのだと。
 同時に、無線口の声を聞きつつショウイチは考える。彼女は待っていてくれた。長い間行く先も告げず、ただただ逃げ続けていた自分を。G3を改良し続けてまで、こんな自分のために。
 自分は八代にここまで想われていたのだ。迷惑をかけたくないと、理由も話さず逃げ続けていた自分が恨めしくなった。
 俺は今まで何をしていたんだと項垂れるショウイチの襟首を、ユウスケは思い切り力を込めて掴む。
「これで分かっただろう、あねさんが……八代さんがあんたのことを待ってるんだ。自分の力に怯えてしまう気持ちは分かる。けど、その身体はあんた一人のものじゃないんだ。もう一度言うぞ。八代さんが、あんたの想い人が、あんたの帰りをずうっと待っているんだぞ!」
 彼がどのような境遇に居たのか、かつて未確認生命体として世間から迫害されていたユウスケにはよく分かる。だからこそ彼はショウイチに対し「八代の元へ戻れ」と怒気を強めて促すのだ。そのような境遇に立たされて尚、”仮面ライダー”として戦うことができたのは、八代の言葉と献身があったからこそ。大切な人が傍にいてくれたからだ。
 そんなユウスケの気持ちが直接心に届いたからか、ショウイチは迷いを振り切って、彼に対し礼の言葉を口にした。
「……あっちのピンク色にも同じようなことを言われたよ。全くもってその通りだ。俺はまだ、心のどこかで迷っていたのかも知れないな。もしも今戻ったとして、皆が俺を受け入れてくれるのか、本当にそれでよかったのか……。だが、迷うのはもう止めだ。そいつは自分の居場所に戻ってから、散々悩むとするさ」
 痩けた頬を吊り上げ、ぎこちなく微笑むショウイチ。ユウスケは仮面の中で同じように微笑むと、倒れたままのショウイチにそっと右手を差し出した。
「警視庁に戻りましょう、ショウイチさん。八代さんが首を長くして待ってますよ。今だって……」
「それ以上言わないでくれ。後はあいつに会って直接聞くさ。どうせ、お小言ばかりだろうからな」
 お小言は嫌いだと、軽口を言って差し出された手を握るショウイチ。その様子と彼の微笑む姿を見て、ユウスケは思う。
 この人は凄い。自分と同じか、もっと酷い境遇に遭っていたというのに、彼の微笑む顔からは、そう言った辛さが全く感じられないのだ。
 八代の声を聞いたのもあるだろうが、自分が今、ショウイチと同じ境遇に立たされた時、こうして笑うことができるだろうか。こうした強さを見せられるだろうか。
「この人になら八代を任せてもいい」とは言いたくないが、彼が八代の想い人で本当に良かった。そう思いつつ、ショウイチの手を強く握り返した。

「一時はどうなるかと思ったが……結果オーライだな。雨降って地固まるってやつか」
 瓦礫の中から這い出したディケイドは、笑顔で手を握り合う二人の男を遠巻きに見つめ、ほっと胸を撫で下ろす。
 双方随分と怪我を負ったがこれなら大丈夫。そう思い、二人を冷やかしてやろうと考えたディケイドは、瓦礫を払って彼らの方へ向かおうとするが、同時に自分の足首を何者かが凄い力で掴んでいることに気付く。
「痛てぇな、何しやがるんだこの野郎……おっ!?」
 彼の足首を掴んでいたのは、先の爆発で吹き飛んだはずの、未確認生命体を素体としたオルフェノクたちだった。あの爆発を受けて尚、殆ど無傷のこの四体に、ディケイドは恐れるどころか「なんてやつらだ」と驚嘆の声を漏らす。
 そして同時にこうも考える。下っ端の彼らが無事だということは、親玉である百瀬も生きているのではないか、と。彼の考えは的中した。一際高く積まれた瓦礫の下から、オルフェノク姿の百瀬がそれらを払いのけ、唸り声を上げて顔を出したのだ。
「たかが人間の分際で小賢しい真似を……。雑魚たちなら兎も角、この僕を吹き飛ばすには、ちょっと火薬が足りなかったようだね」
 月明かりと爆発の残り火に照らされ、妖しく輝く百瀬。その身体には、誘導弾やその破片を浴びて傷付いた形跡は殆ど見られない。
 彼は最初、人の姿で工場上部の高台にいた。建物の上部に位置していたことで直撃を避け、かつ爆発の瞬間オルフェノクに変化することで、負傷を最小限に留めたのだろう。
「今のはちょっとムカついたかな。門矢君の始末はやつらに任せてあるし、君は僕が直々に処刑してあげよう。なぁ、青いアーマーのキミ」
 怒りに満ち満ちた表情でユウスケを睨み付け、人差し指を突き立てて「殺してやる」と言い放つ百瀬。
 ユウスケは挑むところだと銃を構え、引き金に指をかけるが、隣に立つショウイチに手で制されて止められた。
「何をするんですかショウイチさん。喧嘩を売られたのは俺……」
 ユウスケの言葉も聞かず、ただ下がっていろと促すショウイチ。ユウスケが折れて引き下がるのと同時に、百瀬の方へと向き直り、敵意を込めて睨み付ける。
「君の話は聞いているぞ。俺の力を奪い、何の罪もない人々を私兵に変え、何をしようって言うんだ!」
 あえて”君”と呼んで問い掛けるショウイチに対し、百瀬は「決まっているだろう」と鼻で笑う。
「アギトの力は進化の力。無限に進化し続けるその力を得て、僕は世界の王になるんだよ。君は今、やつらのことを”何の罪もない”と言ったね。それはとんでもない間違いだ。何もしないからこそ奴らは罪深い生き物なんだよ」
 声高らかにそう語る百瀬に対し、分かるものかと吐き捨てるショウイチ。百瀬の顔から笑みが消え、「分からない奴だな」と声を荒げた。
「何もしない、何も出来ない馬鹿というのは、存在そのものが罪だ。この星の資源を浪費し、腐らせるだけの病原菌さ。僕は奴らとは違う。この世界には、圧倒的な力で世界を統べる確固たる存在が必要なんだよ。犠牲なくして変化無し。人間なんてこの地上に六十億はいるんだ、少し減ったところで何だと言うんだい」
 同じような力を持ちながら、ここまで考え方が違うものなのか。ショウイチは百瀬の横暴とも思える考えに怒りを覚え、歯が軋んで音を立てる程に食い縛った。
「自分だけの都合のために、何もかもを犠牲にしたというのか。この力には何の未練もないが、君には、君だけには絶対に渡さん!」
「そんな問答に意味はないよ。君を取り込んでしまえば、アギトの力は僕のものになるんだからね!」
 言い終わるが早いか、ショウイチに向かって飛び掛かり、自慢の爪を彼に見舞う百瀬。
 喰らえば決して無事ではいられないその一撃を、ショウイチは右手で掴んで受け止める。
 いくら力を込めようとも、捕まれた腕が全く動かなくなり、百瀬はどうしたことだと狼狽える。それと同時に、彼はショウイチの隣に、彼と全く同じ動きをする、ギルスのような幻影を見込んだ。
 幻影はショウイチの体と重なり、彼を一瞬でギルスへと変える。遠巻きにその様子を見ていた士とユウスケは「また暴走するのではないか」と不安を覚えたが、緑の獣に姿を変えたショウイチは百瀬の手を振り払い、二人の方へ向き直って軽く頷くと、顔の前で両腕を交差させて思い切り吠えた。

 瞬間、胸板の厚い筋肉を突き破り、黄色く輝く楕円形の宝石が顔を出した。同時にギルスの両肩両手の先から、禍々しい鉤爪が生え、背中の肩甲骨から赤黒い触手が伸び、両腕の付け根に巻き付いて行く。
 ショウイチの決意が、八代の存在がギルスを変えた。今の彼はかの”緑の獣”でありながら、その力を『心』で制御できる段階に到達し、『エクシードギルス』へと進化を遂げたのだ。
 冗談じゃない、負けてなるものかと、百瀬の鋭い爪がギルスに伸びる。ギルスはそれを自身の腕に生えた鉤爪で受け止め、力押しで強引に薙ぎ払う。
 腕を払い除けられてよろけた百瀬の後頭部を、ギルスのもう一方の爪が襲う。血の代わりに多量の灰が噴き出し、瓦礫の山を白く染めた。

「冗談じゃない、冗談じゃあないぞ……、貴様なんかに、僕に吸収される貴様なんぞに、負けてなるものか!」
 頭を抉られて横たわる百瀬と、無言でそれを見下ろすギルス。彼のあまりの強さに、百瀬の顔から余裕が消え、焦りの色が見えてきた。しかし彼はギルスの不意を突いて、右手人差し指の先から触手を伸ばし、ギルスの首を千切らん勢いて締め付ける。
 ギルスは触手を引き剥がすので手一杯となり、腹部から胸元にかけてが無防備となる。百瀬はその隙に上体を起こし、起死回生だと言わんばかりに残された左手を振るうが、ギルスの意思とは関係なく動いた、彼の背中の”鞭”に思い切り肋骨を叩かれ、苦しげな吐息を漏らしつつ再び地面に額を擦り付けた。
 背から伸びた触手は百瀬の首に巻き付いて力強く締め上げ、彼の体を軽々と持ち上げると、残ったもう一方の触手で百瀬の体を何度も何度も叩く。
 百瀬の体が左右に揺れ、焼けた餅のように腫れて行く。なんとかしなければと首に巻き付いた触手を掴むが、背や胸を叩かれて弱った百瀬に、太く硬い触手を引き剥がすことは出来なかった。

「これで終わりにしてやる、覚悟しろッ」
 ギルスは百瀬の首に巻き付けた触手の拘束を解き、それを百瀬の両腕の付け根へと回す。
 同時にギルスの両踵の鉤爪が伸び、それを百瀬の体に叩きこまんと跳び上がった。
 あれを喰らってはまずい。それは理解している。だが散々痛めつけられ、両腕を根元から絞め上げられている今の百瀬に、それを振り払うことはできなかった。

 百瀬は心底悔しげな顔で「仕方がない」と呟くと、力を振り絞って体を反らせ、自身の左腕をギルスの鋭く尖った踵の接触部に向けさせる。
 彼の左腕は根元から千切れ、右腕も無事では済まず、脱臼で在らぬ方向に曲がってしまったが、触手の拘束から抜け出し、距離を取ることは出来た。額に一杯の脂汗を歯を食い縛って痛みを堪えつつ、必死な目で彼を睨み付ける。
「やったな……やってくれたな! だが負けん、アギトの力は……僕のものだ!」
 残された右腕を支えに立ち上がり、街外れから街中にまで聴こえる程の大音声で吠える百瀬。
 ここまで弱った彼に何が出来る。その様子を眼前にしていたギルスも、オルフェノクの軍団相手に奮戦しているディケイドたちも同じことを思った。
 だが、百瀬渾身の叫び声を聞き付けて、工場跡地の草場の影から、またも多数のオルフェノクが顔を出した。
「なッ、この期に及んでまだ何か出るのか!?」
「先程集めた奴らが全部だと……、誰が言った? それに”お楽しみ”は……ここからだよ!」
 彼らが問うよりも早く、百瀬は身体中の毛穴全てから触手を伸ばし、辺りに群がるオルフェノクたちを次々に串刺しにする。
 仲間割れか、と思ったがそうではないらしい。串刺しにされたオルフェノクが百瀬の体に取り込まれて行くうちに、彼の体は少しずつ大きくなって行く。
 百瀬に集められた者、ユウスケを襲う者、未確認から造られ、ディケイドと交戦中の者。集めたオルフェノク全てをその身に取り込んだ百瀬は、それら全てを体として再構築し、額部分に自身の上半身を載せ、彼らが見上げる程巨大な、四足歩行の虎の化け物へと姿を変えた。

「見たか!? 見たか! これこそ王たる者だけが持つ力! 世界の理を越えた者だけが持ち得る、超常の力なんだっ」
「おニューの力を手に入れてはしゃぐのは結構だがよ、ここいらで終わりにしようぜ……、生徒会長さんよォ!」
 未確認製オルフェノクたちから逃れられたディケイドは、ライドブッカーを構えて跳び、化け物の額に陣取る百瀬に斬りかかる。
 思い切り勢いをつけて跳んだのだが、百瀬の本体には僅かに届かず、虎の太く大きく逞しい前足に蝿叩きの要領で叩かれ、もんどり打って瓦礫の山まで飛んだ。

「ちきしょう……なんつぅ馬鹿力だ」
「凄いのは”力”だけじゃないよ門矢君。折角だ、今ここで見せてあげよう」
 言うが早いか、虎の化け物は気味の悪い声を響かせ、喉の奥から丸まった灰色の大玉を引っ張り出すと、ディケイドに向けて勢い良く放った。
 猫が吐き出す毛玉のようにしか見えないが、食らうべきではないと判断し、側転で瓦礫の山を転がってかわすディケイド。
 彼の直感は当たっていた。行き場を失って空を切って飛び、遠くの道路にぶつかった毛玉は、接触箇所を一瞬で白い灰に変えたのだ。
「なんだ、こりゃあ……」
「驚いたかい。これが僕の新しい力さ。何もかも灰に変えて粛清する……。王に相応しい力だとは思わないかい?」
「あぁ、確かに相応しいかもな。お山の大将気取るにはよ」
 虎の喉に溜まった毛玉(より厳密に言えば、体内に取り込み、吸収し損なったオルフェノクの残骸だろうか)を飛ばし、物体を問答無用で灰に変える能力。
 そんな恐るべき力を目にしても尚、余裕の態度と軽口を崩さないディケイドに、「どこまで愚弄すれば気が済むんだ」と怒り、虎の前足で彼を蹴りつける百瀬。
 かわしきれずそれを喰い、前のめりに体勢を崩したディケイドを踏み潰さんと、逞しい両の前足を振り上げる百瀬。今まさにディケイドを踏み潰さんとしたその足を、ギルスの触手が絡め取った。
「君には悪いが、その男はやらせはしない!」
「小賢しい。こんな弱っちい触手で、何が出来る!」
 百瀬は前足に絡み付いたギルスの触手に毛玉を吐きかけ、灰に変えて引き千切った。
 張力を失って前のめりによろけるギルス目掛け、勢い付いた虎の長い尻尾が飛ぶ。その素早く重い一撃を喰ったギルスは、石膏が砕けるような音を響かせ、遥か遠方に撥ね飛ばされた。
「馬鹿め、今までとは力が違うんだよ、力が! アギトだろうが何だろうが、もう僕の邪魔はさせないぞ」
「成る程……、桁は違うな。けどな、突破口ならとっくに見えてるンだよ、猫野郎!」
 吹き飛ばされたギルスの代わりに、ライドブッカーをソードモードにして構えたディケイドが向かう。ギルスの触手が虎の前足を一瞬止めたおかげで、踏み潰されずに済んだのだ。
 わざわざ声を上げて向かって来たディケイドに対し、三度喉の奥から毛玉を吐いて撃ち出す百瀬。それをかわすことなく、一直線に真正面から駆けて行くディケイド。
 毛玉が目と鼻の先まで迫ったその瞬間、ディケイドは足下に散らばっていた硝子の破片を手に取り、毛玉と自分との間に割り込ませた。
 硝子の欠片は一瞬で灰へと変わり、風に舞って周囲に散って行く。百瀬の視界は舞い散る灰に阻まれて遮断されてしまう。
「うぅっ、下らん小細工をっ」
「馬ァ鹿。小細工ってのはよ、こういうことを言うんだぜ」
 灰に目をやられた百瀬に対しそう言い放ったディケイドは、灰煙に紛れて彼の右側に回り、空からライドブッカーを振り下ろして、百瀬本体と虎の右目を斬り付ける。
 予期せぬ反撃を喰った百瀬は、本体の右目を押さえ物々しい悲鳴を上げる。しかし、彼もそれだけでは終わらない。”匂い”でディケイドの位置を探っていた百瀬は、斬り付けられた瞬間、咄嗟に虎の右前足を振り、着地寸前だったディケイドを、サッカーボールのように蹴り飛ばした。
 再び瓦礫の山に落下し、虎の前足で踏み付けられたディケイド。変身も解除されてしまい、巨大な虎の馬鹿力が、士の体に直接圧し掛かる。
「甘い、甘いよ門矢君。こんなもので僕を倒せると思っているのかい? アギトといい君といい、世界を渡った僕の力を侮り過ぎなんじゃあないかな」
「……侮る? 俺ァ別に侮っちゃいねぇよ。言ったろ、俺は小細工をしただけだってな」
 生身になっても尚この軽口。あとほんの少し、この足に力を込めさえすれば、あっという間に挽き肉の仲間入りだと言うのに、門矢士は何故、こうも軽口を言えるのだろう。
 いくら負けず嫌いと言えど限度がある。士の余裕に何か嫌なものを感じ取った百瀬は、辺りの灰を吹いて散らすが、士は仰向けになりながら煙の先を見て「もう遅い」と呟いた。
「虎はアフリカのサバンナに帰んな。ここはお前の居ていい場所じゃねぇ」
 灰煙の、百瀬の視界の先に立っていたのは、愛機の隣で『ギガント』を担ぐG3-Xの姿だった。
 ギルスたちが百瀬と戦っている間に、彼は一人トライチェイサーを停めた場所まで戻り、ギガントを撃つ準備を整えていたのだ。
 ユウスケは百瀬の言葉を聞き入れることなく、バックル側部のスイッチを回し、誘導弾を撃ち込む。
 衝撃に体が耐え切れず、尻餅をついて倒れてしまったものの、放たれた誘導弾は、ディケイドが傷付けた虎の右目に着弾し、先程以上の灰煙を巻き上げた。

「よっし! よぉし、よしよしッ! 八代さん、一条さん、俺やりました! 仕留めましたよっ!」
「――やった……やったのね小野寺君。凄い……あなた、最高よ!」
「あんな物騒なものを撃ち込んだんです。当たって上手くいかない訳がないでしょう」
 余りの嬉しさに、ギガントの発射装置を放り投げてガッツポーズを決めるユウスケ。無線口の八代はそれを自分のことのように喜び、一条は「当たり前のことだ」と冷やかに返した。
「――後の処理は任せるわ。それと……」
「分かってますよ八代さん。ショウイチさんのことでしょう? さっき遠くの方まで飛ばされていたから、多分大丈夫だと思います」
「――ありがとう。灰のせいで視界が開け切っていないから……十分注意してね」
「了解」
 八代と会話を交わした後、灰煙舞う中に単身乗り込むユウスケ。舞い散る灰が霧のように周囲に降り注いでおり、視界はすこぶる悪い。しかし、先の一撃で誘爆したからか、起き上がって襲い掛かるような輩は一人もいなかった。
 撥ね飛ばされたショウイチは兎も角、生身の士は無事なのだろうか。ユウスケは銃を片手に周囲を見回し、灰と瓦礫の中に士の姿を探した。
 不意に、ユウスケの頭上が何かに覆われ、暗くなった。いきなり何だと見上げるも、それが段々大きくなって行くばかりで、何なのかは分からない。
 士の捜索に集中していたからか、はたまた「既に倒した」と確認もせずに過信していたからだろうか。ユウスケは銃を片手に周囲を見回し、灰と瓦礫の中に士の姿を探した。
 不意に、ユウスケの頭上が何かに覆われ、あっという間に暗くなった。いきなり何だと見上げるも、それが段々大きくなって行くばかりで、何なのかは分からない。
 士の捜索に気を張っていたからか、はたまた「既に倒した」と確認もせずに過信していたからだろうか。ユウスケは降ってきたそれに『踏み潰され』、色鮮やかな火花を散らす。
 彼の頭上から降ってきたそれは、ギガントの爆発をも耐え切った百瀬だったのだ。
 虎の額の本体、及びその四肢は無事だったものの、健在とまでは言い難く、誘導弾を直接喰らった虎の顔の右半分は崩れて粉々に砕けていた。
「いい加減くどいんだよ。この僕がッ! そんな安っぽい花火なんかに! やられる訳がないだろう! えぇ? どうだ、どうなんだッ?」
 虎の方にも痛覚が通っているらしく、怒りを痛みに変えて、両の前足に思い切り体重を掛けてユウスケを踏みつける。
 これには装着員のユウスケよりも先に、G3-Xの胸部アーマーが悲鳴を上げた。
「胸部各所に亀裂発生。装着員小野寺ユウスケのバイタルサイン低下……。このままでは彼の命が」
「分かってるわよそんなこと! あぁもう、あぁもう! まだ現場に着かないのッ!?」
 いくら危険信号シグナルが鳴り響こうとも、それで現場到着が早まる訳ではない。シグナルの点滅が早まり、ブザーの音が強まる中、八代は何も出来ない歯痒さに唇を噛んで悔しがる。
 一刻も早く現場に向かいたい。ユウスケの力になりたい。半ば祈るようにそう呟いていたのだが、そんな八代の思いを踏みにじるかのように、彼女を載せたトレーラーは、突如高速道路の真っ只中で停まってしまった。
「ちょっと……ちょっと! なんでこんな所で停まっちゃうのよ。小野寺君がどうなるかって時に!」
「落ち着いて下さい。あれが原因ならば……我々にはどうしようもありません」
「あれって何よ、何があったって言うの」
 予想外の出来事に狼狽える八代に対し、一条はトレーラーの外に出て冷静に答えを返す。
 彼に促され外に出た八代が見たものは、進行方向にぽっかりと穴の開いた道路と、それを通過出来ずに穴の前で立ち往生し、クラクションの大合唱を奏でる数台のトラックだった。
 この道路は舗装されて間もないはずだ。何故こんなことになっている。八代はあり得ないと何度も叫んで当たり散らすが、自身の眼下に見たことのない”灰”を見込み、「そんなまさか」と声を上げた。
「映像にあった虎の化け物……確か、『何でも灰に変える』能力を持っている……んだったわね?」
「その通り。彼らの会話の中に『道路が抜け落ちた』という旨の会話もありました。恐らくは」
「オルフェノクが消し去った道路というのが、ここだったってわけね……。どう考えても」
 この結果は偶然だ。百瀬が意図してやったことではない。それは解っている。しかしそれでも、八代は「余計なことを」と漏らして、トレーラーの壁を何度も何度も殴り付けた。
 もう、見ていられない。八代はトレーラーを離れ、抜け落ちて崖のようになった道路の穴の縁に手を掛けた。
「な、何をしているんです八代淘子さん! トレーラーに戻って下さい」
「下に落ちた車を伝って行けば大丈夫よ。目的地は目と鼻の先、走ったって行けるわ」
「目と鼻の先って、トレーラーから見た話でしょう! 引き返して迂回します、早く乗って下さい」
「迂回なんかしてたら間に合わなくなるわ。あんたも見たでしょう? 小野寺君を見殺しにするつもり!?」
「そうは言いますが、貴女が行ったとして、一体何になるんです!」
 道路から降りようとする八代を、危ない、無駄だと必死になって引き留める一条。
 八代は一条の手を強引に振り払い、崩れた陸橋の瓦礫の間に足を掛けて言った。
「出来るかどうかなんてどうでもいい! 今行かなきゃ一生後悔するのよ、小野寺君もショウイチも、それに……、私も!」
 足を掛けられる場所を探し、フリークライミングとは逆の要領でするすると下へ降りていく。
 一条は八代のそんな姿を目にし、やめておけと忠告しつつ、彼女にあそこまで心配されるユウスケとショウイチの二人を羨ましく思っていた。
「人の気も知らないで無茶ばかり……。少しは私の身にもなってもらいたい。あぁ、あ」
 滅茶苦茶だが、行ってしまったものはしようがない。一条はそう言って息を吐くと、トレーラーに戻って、運転手に迂回するよう促した。


 百瀬によって羽交い締めにされ、動くことすらままならないユウスケは、いよいよもって窮地を迎えていた。虎の爪はG3-Xの胸部外装を貫き、アンダースーツを裂いて、ユウスケの素肌にまで達しようとしている。
 なんとかして脱け出したいところだが、拳銃はこのいざこざで行方知れず。足先の仕込みナイフでは百瀬に手傷を負わすどころか、引き剥がすことすら叶わないだろう。
 アーマー内では危険信号の赤ランプが忙しなく点滅し、それを鬱陶しいとすら思えない程に疲弊し、虫の息のユウスケ。周囲の状況がどうのではなく、彼自身が何も出来なくなっていたのだ。
 百瀬もその事を認識しているらしく、ユウスケの口から漏れ出る弱々しい吐息を耳にし、愉しげに口元を歪ませると、爪を立てて彼を踏みつけるのをやめ、代わりに大口を開けて、鋭い牙がびっしりと生えた様をユウスケに見せ付けた。
「遊びは仕舞いだ。世界の帝王たる僕の糧となるがいい、人間」
 生温い涎が顔にかかり、獣臭い吐息が迫る。あの口の中に飲み込まれたらひとたまりもないだろう。
 こうなっては最早どうすることも出来ない。意識も薄れて行く一方だ。ユウスケは仮面の下で唇を噛み、これで終わりなのかと顔を竦める。
 しかし、どうしたことか。眼前の虎は粘りの強い涎を垂らすばかりで、まるでお預けを喰らった犬のように、食らい付こうとしないのだ。それもその筈。食らい付いて口を閉じようにも、下顎から生えた立派な二本の牙が、長く太い触手に絡め取られ、動かせなくなっていたのだから。

「もう戻ってきたのかアギト……。いい加減しつこいぞ!」
「言っただろう、やらせはしないと!」
 虎の牙を絡め取っていたのは、ギルスの触手だった。背中のもので虎の牙を、両腕のもので前足を縛り、百瀬の動きを押さえ込んでいる。
 とはいえ、そこは見上げる程大きな獣と、等身大の怪物相手の綱引きだ。どちらが優勢なのかは目に見えている。ギルスの両足は地面にめり込み、百瀬の方へと引っ張られて行く。
 虎の顔を左右に激しく揺らしつつ、おかしいなと百瀬は思う。ギルスは何故、こんな意味のない綱引きを続けようとするのだろう。力比べで勝ち目がないことは分かっているはずだ。現に、牙や前足を縛る触手には所々に傷が生じており、踏ん張っている足も、重量に耐え切れず小刻みに震え、足の裏に至っては裂けて流血し、地面を赤黒く染めているではないか。
 引き切れなくなるのも時間の問題。ユウスケを助けるにしても、一時の時間稼ぎにしかならないはずだ。こんなことに何の意味があるのか、全く持って理解に苦しむ。
 ――”時間稼ぎ”。脳裏に過ったその言葉を反芻し、百瀬は何かに気付く。ギルスの目的はただユウスケを助けるだけではなく、何か別の目的があるのではないかと。
 ギルスは触手で自分の足止めをしているだけ。士は蹴り飛ばされて瓦礫の山に突っ込み、動く気配はない。となると、ギルスは何を狙っているのか。
 振り払おうと首を振り続ける中、百瀬の目に仰向けのまま、『ギガント』を構え、虎の口の中に発射装置を押し込むユウスケの姿が留まった。
「まっ、まさか……まさか! 待て、やめろ、やめてくれッ!」
「”待て”と言われて待つ奴がどこにいるんだ。喰らいやがれッ」
「してやられた」と額に冷や汗を浮かべ、尋常ではない焦りを見せる百瀬。体を覆う皮膚は(右半分の視覚野と聴覚を奪いはしたものの)爆発を凌ぐ程頑丈に出来ているが、口内となると話は別。誘導弾の炸薬は体組織の全てを内側から焼き払い、跡形もなく消し去ってしまうだろう。
 虎は先程以上に暴れて首を振るが、ギルスの触手の拘束は強く、口内の発射装置を噛み砕くことは叶わない。
「やめろ、やめるんだ! こんな所で爆発させてみろ、君たちだって巻き添えだ。無事で済む筈がないんだぞ! それでも撃つと言うのか、そうなのか!?」
 怯えて早口で捲し立てる百瀬の問いに、ギルスは首を縦に振り、ユウスケは「当たり前だろ」と吐き捨てた。
「あんまり人間を舐めんなよ、それと覚えとけ。お前は負けたんだ。お前が見下し続けた、人間の叡知《えいち》と度胸にな」
 言い終えると共に、ユウスケは左腰のスイッチを回し、残った二発の誘導弾を虎の化け物の口内に叩き込み、同じタイミングでギルスも下顎の牙に伸ばした触手を引き下がらせる。二発の爆弾は虎の腹の中で接触して爆発し、その何もかもを焼き付くした。
 瞬間、虎の体がヘリウムの詰まった風船のように膨れ上がり、周囲のものを巻き込んで弾け飛ぶ。四散した肉片は内部の炸薬を伴って燃え上がり、灰となって風に浚われて何処へと飛び去って行く。
 乾物工場跡地は、そこにあった瓦礫の山すら残さず吹き飛んで、草一本生えない荒涼たる更地へとと姿を変えた。
 芦河ショウイチは、小野寺ユウスケは、どうなってしまったのか。

◆◆◆

 宵闇が地平線の向こうへと去り、代わりに朝日が顔を出し始めた頃。瓦礫の中で目を覚ました門矢士は、積もった灰を払い除けて立ち上がった。
 虎の化け物に踏み付けられて痛む鳩尾を優しく擦りつつ、瓦礫すら綺麗に片付いた跡地周りを見回す。赤茶けた土の中から、痩せこけた頬に伸び放題の髭の男、芦河ショウイチが顔を見せた。
「おい、おい! 何土の中でオネンネしてるんだ。恋人の元に、自分の居場所に帰るんじゃなかったのか? とっとと目ェ覚ませ」
「…… 君、か」芦河ショウイチがまどろむ頭に鞭打って、気のない声を上げて体を起こす。「奴は、虎の化け物はどうなったんだ?」
「死んじまったんだろ。お前らが生きてるってことはよ」
 今まで視界全てを支配していたオルフェノクたちも、今となっては何処にもいない。先の爆発で百瀬共々吹き飛んだのだろう。士はショウイチに手を貸し肩を支え、彼をゆっくりと起き上がらせた。
「にしても。お前、すげぇ奴だったんだな。俺無しであの虎野郎を片付けるとはよ」
「俺の力なんかじゃないさ。そうだとも、俺のことはどうだっていい。それよりも彼だ、小野寺君を」
「あぁ、あいつのことなら心配するな。そこにいる」
 士に促され、彼が指差した方向に目を向けるショウイチ。スーツ類が砕けて割け、虚ろな目で空を見つめるユウスケの姿がそこにあった。G3-Xのマスクは爆発の衝撃で粉々に砕け、全身を覆うアーマーも、その殆どが砕けて使い物にならなくなっている。
「あぁ、ああ。酷くやられちまったもんだな。白目剥いてら」
「大丈夫……なのか? というか、心配じゃあないのか。友達なんだろう?」
「落雷浴びて黒焦げになっても平気だったんだ。奴にとっちゃこれくらい屁でもねぇよ」
「落雷って……何があったんだ、君たち二人に」
 士の突拍子もない話に戸惑い気味に言葉を返すショウイチ。
 そこまでユウスケを信頼しているのか、単に取るに足らない存在なのか。演技でも見栄でもなく、驚く素振りを微塵も見せない士の姿を見て、ショウイチはただただ困惑してしまう。
 士はユウスケの耳元に顔を近付けて呼吸の有無を見、大丈夫かと頬を軽く叩く。意識ははっきりしなかったが、微かな息遣いが士の耳に届いた。
「ほらみろ、平気だったじゃねぇか。ショウイチお前、携帯電話持ってねぇか? 救急車を呼ばなきゃな」
「何故それを俺に聞く。答えは分かりきっている筈だろう」
「何故も何も、お前らが公衆電話も何も全部吹き飛ばしちまったからだよ」
「それしか方法がなかったんだ。仕方がないだろう。助けなら、八代たちの乗ったトレーラーがこっちに向かっている。問題はないだろう」
「どうだか。こいつがくたばる前に間に合えばいいがね」
 彼らのことは殆ど何も分からないが、確かなことが一つだけある。この男——門矢士は相当に口が悪いということだ。士のぶっきらぼうで無配慮な態度に苛立ちを感じたショウイチは、それはないだろうと士に詰め寄るも、彼にその苛立ちが伝わることはなかった。
 オルフェノクたちとは違う、腰に赤い霊石の填まったベルトを巻いた集団が、いつの間にか自分たちの周りを取り囲んでいたからだ。
「悪いなショウイチ、救急車も八代と会うのも後回しだ。まだ戦えるか?」
「何……なんだ。何でやつらがここに!」
「大方、あの虎野郎の置き土産って所だろうな。頭目が死んじまって、統制の利かないただ怪物に成り下がったってこったろ」
「”未確認”? 奴ら“まで”ここに来ているのか……? こんな時に!」
「おいおい、までとは何だ、”まで”とは」
 新たに出現した未確認を前に、再びベルトを巻いてディケイドのカードを構える士。しかし、ショウイチは怯えた顔つきで身を震わせるばかりで、士の言葉に対する反応も妙に噛み合わない。
 オルフェノクたちとの戦いを経て満身創痍なのは分かるが、それにしてもこの無反応は何だ。まるでこちらはおろか、眼前の未確認たちをも見ていないかのようだ。
「おい、どうした。何をそんなにビビってやがる。今のお前なら未確認なんて物の数じゃ……」
「そうじゃない、そうじゃないんだ。これは、この脳味噌を引き千切られそうなこの感覚は……ッ!」
 やはり何かがおかしい。どういうことだと問いかけても、要領を得ない言葉ばかりでさっぱり分からない。何故このような事態が起こっているのか。士がそれを理解するよりも早く、異変は彼の目に見える所に現れた。士たちを取り囲む数体の未確認が、どこからともなく現れた漆黒の怪物に一人、また一人と倒され、彼らの視界から消え始めたのだ。
 額から二本の触角を生やし、大きな上顎をたくわえた「蟻」のような怪物の『殺し』は、思わず目を覆いたくなる程凄惨なものだった。ある者は手にした斧で標的の体を一直線に裂き、ある者は標的の頭を掴み、それを脊柱ごと引き抜いて投げ捨て、またある者は口から酸を吐きかけて標的を「窒息」させ、士たちを取り囲んだ未確認たちを、あっという間に全滅させた。
 怪人が怪人を、見るも無残な方法で滅ぼした。これは一体どういうことだ。この蟻たちは自分たちの味方なのか? 訳も分からず戸惑う士の脳裏に、夕刻芦河家の玄関先で戦った、三体の豹頭の怪人の姿が過ぎる。
 グロンギ語が全く通じず、(ショウイチの話に因れば)木のうろに人間を押し込んで殺すなどという、人間には到底実現不可能な殺しを行う謎の生物たち。そういえば奴らが現れた時も、ショウイチは偏頭痛に苦しんでいなかっただろうか。とすれば、彼らは——

「似ても似付かねぇが、あの豹頭の仲間ってわけか。まさかこんなにいやがったとはな……」
 黙々と未確認を殺して回る蟻たちを目にした士は、たった三体倒すのに苦心したのに、今度はこれだけの数を相手にしなければならないのか。嫌になる、と面倒臭そうに息を吐いた。
 戦わずに済ませたいものだが、蟻たちの鋭い眼光は「次の獲物だ」と言わんばかりに、士たちの方に向かっている。戦闘は避けられないだろう。
「ギラついた目で睨んでンじゃねぇ。戦いたきゃ相手になるぜ。どうした? かかってこいよ!」
 しきりに挑発して見せるが、蟻たちは何の反応も示さず、ただただこちらを見つめるばかり。
 痺れを切らし、来ないのならこちらからと殴りかからんとするが、突如空から降りてきた”十字架”の形をした何かに、傍に立っていたショウイチ共々押し潰され、地に這い付くばらされてしまう。
「何しやがる! どけろ、この厄介なもんを今すぐどけろ!」
 身動き一つ取れない士は、自分たちを囲う蟻たちに向かい威勢良く吠えるが、彼らは意思のない人形のような目で士を見るばかりで、やはり何の反応も示さない。
 それでも尚冗談じゃない、ふざけるなと必死に抵抗を続ける士の前に、蟻たちとは違う出で立ちの何者かが現れた。
 まな板の上で跳ねる魚のように、じたばたと虚しい抵抗を続ける士の姿を見た彼は、手にした槍を天に掲げて振り下ろす。瞬間、士を押し潰していた十字架から稲妻が走り、士の体から抵抗する意欲を失わせた。
 稲妻に焼かれ、抵抗する意欲を失った士を見、彼はさらに歩を進め、彼らを見下ろしつつ口を開く。
「それくらいにしておけ。”主”の元へ還るべき命、それ以上磨り減らすな」
「主ぃ? 何言ってやがるんだてめぇは……」
 自分たちからは足先しか見えない上に、”主の元へ還れ”などと訳の分からない言葉を吐く謎の存在。
 彼が何者なのかも勿論気になるが、それ以上に士の興味を引いたのは、その声を聞いて今まで以上に怯えた様子を見せるショウイチだ。
 彼は以前、ギルスの力を得た際『牛の未確認』に襲われ、殺されかけたと言っていた。
 ショウイチのこの怯え様から察するに、彼を始末しようとしたのが、十字架の形をした何かを自分たちに押し付ける、この声の主だと言うことか。
 そう考えるのが妥当だが、ならば何故、この状況で襲って来たのか。ショウイチが力を発揮した場面は何度もあった筈だ。見付けるのに苦心したとは思えない。
 蟻たちによって惨たらしく殺された未確認たちの姿が、士の目に留まる。そういえば、蟻たちは自分たちよりも、未確認の方を先に始末していた。標的がショウイチならば、オルフェノクとの戦いで弱った自分たちを狙うべきだろう。
 蟻たちは本当に自分たちを狙って現れたのか? もしかしたら自分たちは二の次、大挙して現れた未確認たちを始末しに現れたのではないか。十字架の声の主は徐々に歩を進め、自分たちの元へと迫って来る。
「人は人のままで在れば良い。人ならざる者達よ、我が手で主の元に送り還してくれる」
 周囲が明るくなるにつれ、徐々にその姿が露になっていく。頭上から横に伸びる雄々しき二本角に、蟻たちとは違う法衣にも似た黒金の鎧。切っ先が金色に輝く三又の槍を持った、”牛”の怪物がそこにいた。
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