スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー 平成二十四年九月号 →Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 B-part
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


総もくじ  3kaku_s_L.png Journey through the Decade Re-mix
総もくじ  3kaku_s_L.png これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー
もくじ  3kaku_s_L.png 観た映画の感想
もくじ  3kaku_s_L.png 自作のアレな絵
もくじ  3kaku_s_L.png わかめ新聞雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー 平成二十四年九月号】へ
  • 【Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 B-part】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「Journey through the Decade Re-mix」
Journey through the Decade Re-mix(2)

Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 A-part

 ←これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー 平成二十四年九月号 →Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 B-part
12.12.18 更新
 FC2ブログの「カテゴリ表示制限」により、「アギトの世界」の途中以降の話が「作品もくじ」内に表示されなくなっていました。
 このため、「ブレイドの世界」までと、今回の「ファイズの世界」以降とでカテゴリを分割させることとします。

 ブレイド編以前の作品は「Journey through the Decade Re-mix」より、
 それ以降の作品は「Journey through the Decade Re-mix(2)」のもくじからご覧くださいませ。






『仮面ライダーアギト』。

 平成ライダー二作目にして、あらゆる意味で今日までの平成作品群の礎となった作品ですね。

 主役級のライダーが三人も登場し、各々が各々を影響し合い、進行していくストーリー。
 一つの謎がさらなる謎を呼び、最後まで視聴者を飽きさせない展開設定。
 達人然としたアギト、我武者羅で努力家なG3、課された過酷な運命に抗う、荒々しく野性味溢れるファイトスタイルのギルス――、キャラクタの個性が遺憾なく発揮されたライダーアクション。
 アクション、シナリオ運び、謎の引っ張り具合。今見てもワクワクします。

 そしてそのリ・イマジネーションであるアギトの世界編。
 パラレルワールドという設定を活かし、クウガの世界と地続きとも取れる世界設定、クウガとしての登場はなかったものの、別世界の八代との邂逅によるユウスケの成長、士とユウスケの友情。本編最後の會川脚本ということもあり、個人的思い入れが非常に強い一作です。


 555の世界同様、『なろう』連載時からの大きな修正はありませんが、どうでもいいところや細かい部分でちょこちょこいじっています。既に原本が削除されているので比較しようがないのですが……。


 実は筆者自身にもどこをどう書き直したか分からないというのはナイショです



◆◆◆

 ――警視庁より各局。未確認生命体『四十七号』を確認。対未確認用特殊装備の使用を許可する。

 潮が香り、海鳥たちが楽しげな声で囀《さえ》ずって、朝焼けが波間を美しく染める、穏やかな波止場。
 防波堤が無造作かつ無数に置かれたこの場所を今、数台のパトカーが丸く取り囲み、警官たちが険しい表情で拳銃を構え、引き金に人差し指をかけている。
 打ち寄せる波の中から何かが飛び出した。人のような姿をしているが、雪のように白い肌に茶色い褌という異様な出で立ち。そして何より”イカ”の上半身がそのまま貼り付いたような顔が、ヒトではなと訴えかけてくる。
 警官たちは班長の号令に従い、イカ頭の体に銃弾を撃ち込んだ。

 この日、この時間。警視庁未確認生命体対策班の面々は、”ゲゲル”と称して数名の民間人を殺害し、街中を逃げ回る『第四十七号』を、海沿いの波止場まで追い込んだ。
 後手は踏んだが、お陰で相手の行動パターンも潜伏先も完璧に特定。追い込んだ先に警官隊を用意して待ち伏せ、未確認が動き出した瞬間に狙い撃った――と言う訳だ。
 警官隊の銃撃をその身に浴びたイカ頭の怪人は、線香花火が弾けるような音を響かせ倒れ込む。
 釣られて陸に上がった魚のごとく、手足を痙攣《ケイレン》させて起き上がれない怪人の周囲を、盾を構えた警官たちが取り囲んだ。

「神経断裂弾、全弾命中。効果大です」
「もう動けないな。『あれ』を持ってこい。他の奴らの”遊び”のことが分かるかもしれん」
 警官たちの班長らしき人物は、ディスプレイのついた、掌に収まる大きさ黒いボイスレコーダーを部下に持って来させ、訳の分からない言葉を喚くイカ頭に近付ける。
 マイクを用いて未確認生命体の言葉を録音し、再生と巻き戻しを数度繰り返してそれを分析。解析終了を告げるブザーと共に、翻訳された彼らの言葉がディスプレイの上に躍《おど》った。

「″ゲゲリンガル″、解析結果出ました。こちらです」
「『くそったれのリントの皆さま、私どものゲゲルの邪魔をしないで下さいますか』だぁ……? ふざけやがって、お前たちの遊びで、民間人がどれだけ死んだと思ってやがる。総員、神経断裂弾再装填。この害獣を速やかに駆除しろ」
 班長の命令に従い、警官たちは一斉にイカ頭の脳天に向け、拳銃を構える。
 引き金に指を掛けて撃ち抜かんとしたその時、イカ頭の顔は空より放たれた、ボーリング玉程の大きさの鉄球により、赤色の体液を撒き散らして弾け飛ぶ。
 どこから飛んできたのかと周囲を見回す警官隊。空に敵影はない。ならばこれはどこから降ってきたのか。
 彼らがその答えを見つけ出すよりも早く、波間から”亀”を模した、奇妙な生き物が上がってきた。
「ギヂゾブン《一族の》ザジガサギレガ 《恥さらしめが》……、ビゲソ《消えろ》!」
 頑健な肉体を持った亀の未確認生命体は、イカ頭の体を石膏が砕けるような音を響かせ踏み潰す。同じ種族でありながら、標的である人間に倒されかけているという無様な姿が、彼には許せなかったのだろう。
 しかしだがそんな事情など、相対する警官たちには何の関係もない。予期せぬ闖入者の登場にうろたえつつも、警官たちは装填した神経断裂弾を未確認に向けて放った。
 亀の未確認は避けることなく銃弾全てをその身に浴びるが、そんなもの効くかと言わんばかりに両腕を振り上げ、雄叫びを上げた。
「ボシャブバ《小癪な》。ゴセザ《俺は》ギイガドパ《ギイガとは》ヂガグ《違う》」
「な、ななな、なんだこいつ。神経断裂弾が全然効いてないじゃないか」
「そうか、こいつが噂の未確認生命体”G群”……」
 未確認生命体G群。
 神経断裂弾の破壊力にも耐えうる耐久力を持つ、未確認の中でも取り分け戦闘能力の高い集団の総称だ。遭遇例は全国区を合わせても指で数える程度だが、未確認退治に於いて、神経断裂弾に頼らざるを得ないこの状況では、脅威以外の何物でもない。
 神経断裂弾の雨をも物ともせず、周囲を囲む警官隊に襲い掛かる亀の未確認。万事休すかと息を飲んだ班長の耳に、自分たちのものとは違うサイレンの音が響く。何事だと振り向いた班長の目に映ったのは、白バイを駆って現れた、青い体に赤き瞳、頑強な甲冑を身に包んだ戦士の姿だった。
「班長……あの角にあの赤い目は、まさか!」
「じ、G3-X……! また出てきたのか」
 青い甲冑の戦士を目にした班長は、心底嫌そうな顔で苦々しく吐き捨てる。現場の職員たちも概ね似たような反応を返した。
 助けに来たと言うのに、帰ってくれと言わんばかりのこの態度。白バイを降りた甲冑の戦士は、そんな様子に辟易して溜め息をつきつつ、仮面の中に仕込まれた無線で、どこかに通信を入れた。
「なんなんですかこの雰囲気。初の実戦なのに、なんでこんなに同僚にニラまれなきゃいけないんです、班長ぉ」
 やる気無さげに呟く甲冑の装着員に対し、無線口の女性は″甘えるな″と一喝したうえで、怒気を込めて言葉を返す。
「――賞賛や好意は誰かから与えられるものじゃない、自分の力で勝ち取るものよ。分かったらとっとと行きなさい。G3-Xの力は完璧だってことを、あなたの力で、上の奴らに証明するの!」
「はっ、はは……はいッ!」
 無線口の言葉に取り付く島もなく、甲冑の男——G3-Xは、周囲を囲む警官たちを押し退け、亀の未確認生命体と向かい合った。
 警官たちとは全く違う姿のG3-Xに戸惑うも、倒すべき相手であると理解した亀の未確認は、警官隊の包囲を突破し、彼に向かって飛び掛かってきた。
「――来たわよ。GS-03、使用許可。接近戦用意!」
「りょりょ、了解!」
 G3-Xは白バイに携行していた剣を右腕に装着し、刃をチェーンソーのように回転させて、飛び掛かる亀の未確認目掛け勢いよく振るった。回転する刃は未確認の胸や腹に横一文字の刀傷をつけ、その体を地に伏せさせる。
 勿論、それだけでは致命傷には至らない。苦痛に顔を歪ませてはいるが、未確認はすぐさま起き上がり、腕力にものを言わせ、今度はこちらの番だと言わんばかりに、両腕でG3-Xの体を締め付け始めた。
 その衝撃で剣を落とし、身動き一つ取れず、G3-Xは鎧の各所から火花を散らして苦しがる。
「いっ、いだだだだだっ! やばいですよ班長、まずいですよ班長ぉ! たす、助けてぇ」
「――男のくせに何を狼狽えているの。GK-06、使用許可。膝蹴りで相手の脇腹を叩いて、距離を取ったら左腕のナイフを使いなさい!」
「引き裂くって、そこに転がっているブレードは」
「――拾っている暇があなたにあるの? 戦いとは臨機応変よ。あたしの部下なら、さっさと順応なさい」
 そんな無茶なと漏らしつつ、無線口の言う通り、未確認の脇腹に膝蹴りを浴びせかける。
 亀の未確認が痛みに耐え兼ね、拘束が緩まった隙をつき、奴と人一人分の距離を取ったG3-Xは、左腕の二の腕からコンバットナイフを取り出して構え、未確認の腕の筋や関節など、弱い部分を重点的に裂き、亀の化け物に悲鳴を上げさせた。

 現場に居合わせていないのにも拘わらず、無線口の指示は的確だ。どうしてこうも的確なのか。装着員の彼はちらと疑問に感じたが、未確認を地に伏せさせた高揚感が先立ち、その疑問は頭の隅に放られた。
「やった、やりましたよ班長!」
「――すぐに起き上がるわ。それくらいで浮かれないで。近接戦闘ではあいつは倒せない。GM-01、アクティブ。射撃準備!」
 装着員の彼は少しくらい賞賛があってもいいんじゃないか、と肩を落とすも、怒気のこもった顔で起き上がる未確認を目にし考えを改めた。
 怒りに震えた亀の未確認は、自分の首にかかった装飾品を千切って空に放り投げる。宙を舞う装飾は、あっという間にボーリングの玉程の大きさに変質し、雨のように周囲に降り注ぐ。
 そんなものが降られてはたまったものではない。警官たちが我先にと逃げ出す中、G3-Xもそれに続こうとしたが、無線口の声に止められた。
「――馬鹿、あなたまで逃げてどうするの!」
「いや、いや、あんなのモロに喰らったら、G3-Xだって……っていうか、自分も危ないですって!」
「――なら喰らわなければいいだけのことでしょう。発砲を許可するから、死ぬ気で全部撃ち落としなさい」
「そんなセッショウな……!」
 この場にいない人間に文句を言ってもしようがない。装着員の彼は右足のホルスターから小型の小銃を取り出し、降ってくるボーリング玉を狙い撃つ。10口径の反動により、撃ち漏らしやあらぬ方向に当たることもあったが、玉の殆どを撃墜し、周囲への被害を最小限に留めた。
「――なかなかやるじゃない。GX-05、アクティブ。それと使用許可。一気に片付けなさい」
「05……って、あれを! あれを使うんですか!? まずいですよ、さすがに」
「――あなたの指揮官は私よ。口応えは許さない。さぁ、早く!」
「あぁもう、分かりました! 知りませんよ、どうなっても!」
 ボーリング玉を撃ち落としつつ、白バイの元へと戻ったG3-Xは、バイクの荷台からアタッシュケースの様なものを取り出して、三ケタの暗証番号を入力。ケースから機銃へと組み替えた上で、未確認の体に照準を合わせて構えた。

「おぉ、おい! まずい、まずいぞ! ”あれ”が来る!」
「総員、退避! 退避ーッ! とばっちりを食うぞッ」
 G3-Xが機銃を手にし、未確認に向けて構えたのを目にした警官たちは、その誰もが建物の中や物陰に一目散に身を隠す。この先どうなるか、彼らにも分かっているのだ。
 警官隊が皆どこかに隠れたのを見届けたG3-Xは、自棄を起こして引き金に指をかけ、数百発近い銃弾を未確認の体に撃ち込んだ。
 亀の未確認は、危険を感じて背を向けるも、もはや後の祭り。機銃より繰り出される特殊徹甲弾は、未確認の頑強な甲羅を易々と貫き、腹部に仕込まれた霊石『アマダム』ごと、彼の体を吹き飛ばした。

「――状況終了、お疲れ様。なかなかやるじゃない。百点満点中……、四十三点あげるわ」
「なんでそんなに微妙な数字なんですか……それに」
 褒められはしたものの、装着員の彼は素直に喜べない。
 撃ち損じた玉やその破片が、パトカーのフロントガラスやボンネットをことごとく破壊し、そこらかしこで火を噴き、もうもうと煙を上げていたからだ。怪我人が出ていないことが不幸中の幸いか。
 警官たちの罵声が飛ぶ。未確認を倒したと言うのに何だ、という彼の声も、彼らに耳には全く届かなかった。やりどころのない不満を抱きつつ、装着員の彼の初陣は幕を下ろした。

◆◆◆

 ――テレビの前の皆様、御覧ください。未確認を見事駆除したG3-Xが、仲間である対策班の面々に対し、罵声を浴び、頭を下げています。
 ――未確認生命体を駆除するためとはいえ、これ程の銃撃や過剰な武装を持ったG3-Xには、近隣の住民から不安の声も高まっており――。

「そうさな、奴が居りゃあ四号なんざ必要ないわなァ。こいつは傑作だぜ」
「士君、失礼ですよ」
「これが笑わずにいられるかってんだ。阿呆にも程があるぜ、あれで仮面ライダーかよ」
 時を同じくし、テレビ中継にてG3-Xと未確認との戦いを観戦していた光写真館の面々、取り分け士は、G3-Xの情けない戦いぶりに声を上げて笑っていた。
 そんな中ユウスケは、信じられないとでも言いたげな面持ちで、食い入るようテレビの画面を見つめている。
「俺のいた世界じゃ、グロンギはもう現れないはずだし、あんなロボットだっていなかった。どうなってんだよ、こいつは」
「簡単だ。ここはお前の世界じゃねぇ、ってことだろ」笑い疲れた士は、呼吸を整えた上でユウスケの疑問に答える。
「俺たちは幾つもの世界を旅しているんだ。出てくる化け物が似通った世界があったって、別に不思議じゃあないだろう」
「そりゃあまぁ、そうだけど。そう、なんだけど……さ」
 何ともし難い疎外感を覚えたユウスケは、気を紛らわそうと、リビングのあちこちに目をやった。

 中継に動きがあったのはその頃だ。
 未確認撃破から遅れること数分、G3-Xを指揮する大型車両「Gトレーラー」が、パトカーや報道車両を押し退け、波止場に姿を見せた。
 トレーラーの助手席から、薄茶の長髪を後ろで縛り、警察の制服を身に纏った女性が降りてくる。何の気なしにテレビを見たユウスケは、不機嫌そうな顔で画面に映る、その女性を目にし唖然とした。
「あぁ……、あぁあぁあ!」
「耳障りだな、何なんだよ」
「新しい未確認でも現れましたか?」
「何だもヘッタクレもねぇよ! お前らもテレビ見ろよ、テレビ!」
 ユウスケに促され、士と夏海はテレビ画面に目を向ける。報道陣のカメラやマイクに囲まれ、苦悶の表情を浮かべるその女性に、彼らは見覚えがあった。それもその筈、そこに映っていたのは――。
「――未確認一体倒すのにこの火力。近隣への被害も懸念されていますし、このような過剰武装が必要なのですか? 『八代』班長」
「私の部下は、対策班の警官たちが物陰に隠れたのを確認してから発砲しました。パトカーへの被害だって元を正せば、あの未確認の攻撃に因るもの。G3-Xが非難を浴びる云われはないと思いますが?」
「――当局の世論調査では、約七割の人々がG3-Xは不要だという結果が」
「世論調査ったって、みみっちい街頭調査や、イエスかノーしか答えのない電話アンケートか何かでしょう? そんなものが通用すると、本気で思っているの?」
「――しかしですね、G3-Xが危険な代物であることは明らかで」
「兎に角、G3-Xは完璧です! 未確認だって強化を重ねているんです、神経断裂弾に頼るだけでは奴らを駆逐出来なくなっているんですよ! それが分からないと言うのなら、これ以上あなた方と話すことはありません」
 ”八代”と呼ばれた女性警察官は、報道陣に対し自身の言いたいことだけ言い切ると、トレーラーの中に戻り、車を走らせ足早に波止場を去っていく。
 ユウスケはその様子を茫然と見つめていたが、士にテレビのチャンネルを変えられて我に帰った。
「馬鹿野郎、何を呆けてやがる」
「お、俺は冷静だよ士。えぇっと、警察の制服着てたよな。この辺に警察署があるのかな。班長だって言ってたし、それと、それとっ」
 何が冷静だ、と士が頭を平手で叩くも、ユウスケは意に介さない。夏海はそんな中、ここにいた誰もが感じていたことを口にする。
「あの人って……、八代さん、ですよね。あの」
「そうだよ、そうなんだよ夏海ちゃん! あねさんなんだよ、あの!」
 八代《やしろ》藍《あい》。未確認生命体対策班の刑事にして、ユウスケが”あねさん”と呼んで慕っていた、彼の想い人だ(実際はユウスケの片想いだったのだが)。そんな彼女が何故、この世界に存在しているのだろう。クウガの世界に逆戻りしてしまったのだろうか。
 しかしユウスケは、それらを疑問に思うことすらなく、誕生日のプレゼントを心待ちにする子どものようにはしゃぎ、写真館の中を忙しなく動き回る。
 士は、そんなユウスケの様子を見かね、動き回る彼の頭を掴んで無理矢理座らせ、きつい口調で彼に言う。
「いい加減にしろユウスケ。いくら似ていようが、あいつはお前の好きだった八代刑事とは別人なんだぞ」
「そんなの……そんなこと、分かるもんか」
「分かるさ。ここはお前のいた世界と似てるだけ。だから八代刑事が生きていて、お前の代わりに、あんなロボットが未確認と戦っているんだ。いいか、よぉく思い出せユウスケ。お前の大好きだった『あねさん』は、八代藍はもう、死んだんだよ」
 反論する暇すら与えず、士の口から言い放たれた言葉。
 八代藍はクウガの世界に於いて、未確認に腹部を刺されこの世を去った。ユウスケのみならず、士も夏海も彼女の最期を看取っている。
 死んだ人間は生き還らない。となれば、ここがクウガの世界であるはずがない。
「そんな言い方しなくても……。ユウスケが可哀想です!」
「可哀想なもんか。どのみち分かることだぜ。後々塞ぎ込まれる方が見てられねぇっての」
 士の言うことは的を射ている。口は悪いが、彼なりにユウスケを気遣っての言葉だったのだろう。
 とはいえ、ユウスケがはいそうですかと受け入れるはずもなく、頭を押さえつける士の腕を振り払い、玄関のドアノブに手をかけた。
「やめろユウスケ、お前の知る八代刑事はもう、どこにもいないんだぞ。行ったって無駄にがっかりするだけだ」
「それでも……あねさんは、あねさんなんだ! ほっといてくれ!」
 腕を掴む士を振りほどき、愛車のトライチェイサー2009に跨がって、警視庁へ向かいバイクを走らせて行くユウスケ。
 馬鹿野郎と吐き捨て、ユウスケの後をを追おうとするも、彼の姿はみるみるうちに小さくなっていく。
 士は追うのを諦め、玄関の前に腰を降ろすと、目の前に広がる(誰が作ったとも知れない)野菜畑を眺めて溜め息をついた。
「あの馬鹿。自分から進んで傷つきに行って、何になるんだよ」
「……心配、なんですね。ユウスケのことが」
 頬杖をついて愚痴をこぼす士に、優しげに微笑んで彼の隣に座る夏海。
 図星だったのか、士は立ち上がると共に「そんなわけあるか」と、ぶっきらぼうに言葉を返した。
「あいつの物語はあいつだけのもんだ。それに、暗い顔して帰って来られちゃ、こっちも気分が悪い」
「そんなこと言って、本当はただ、″友達″が傷付くのを見てられなかったから、なんじゃないですか」
「友達ぃ? 馬鹿言うな。あいつは一緒に旅をしているだけの仲であって、それ以上でもそれ以下でもない」
「一緒じゃないですか。仲間も友達も」
「違う違う、全く違う。あぁもう、ニヤけ面でこっちを見るな。鬱陶しい」
 隣で楽しげに笑う夏海を手で御し、違うと弁解を続ける士。
 引き離されて視野が広がったから、だろうか。夏海は士の格好が、既にこの世界の『役割』に則したものに変化していることに気が付いた。

「ところで……、今回は『郵便屋』さんですか? 士君」
「郵便屋? 一体何を言ってんだ、夏ミカン」
 指摘され、自分の体を見回す士。いつの間にか、郵便番号の赤い記号がプリントされた帽子を浅く被り、“日本郵便”とロゴの入った、藍色の制服を身に纏っている。役割は″郵便配達員″と言ったところか。
「郵便屋ねぇ。しかし、届ける手紙も、配達用のバイクもないぜ」
「バイクはありませんけど……、手紙ならほら、ポケットの中に」
 夏海に言われ、士は制服の左ポケットからはみ出ていた、飾り気のない白い封筒を手に取って、まじまじと見つめる。“芦河《あしかわ》ショウイチ様”と宛名書きされ、住所も読みやすい字で綴られているが、どういうわけか『転居先不明』の赤印が押されている。
「つまり……こいつを届けろってか?」
「でもこれ、転居先不明になってますよ?」
「見りゃあ分かる。どうしろってんだよ、こいつを」
「どうするも何も……、届けるしか、ないんじゃないですか」
「それができなくて困ってんじゃねぇか」
 住所が分からなければ届けようがない。かと言って、この手紙以外に動き出すきっかけもない。
 士は白い封筒を睨み付け、どうすればいいんだと頭を抱えた。
「しかし、ま。ここでうだうだ言ってても仕方がないわな。行くか」
「行くって士君、どこにですか?」
「郵便局の本局だ。とりあえず手がかりだけでも見つけないとな。動きようがねぇ」
 頭を抱えたままでは何も始まらない。士は夏海を連れて情報収集に乗り出した。

「ところで、本局ってどこにあるんですか」
「知らん。街に向かってりゃそのうち着くだろ。とりあえず右、次は左ってな」

◆◆◆

 陽が高く昇った昼下がり。小野寺ユウスケは人づてや地図を頼りに、この街の警察署に辿り着く。
 山間の片田舎だった自分の街のそれよりも、遥かに大きいことに驚くが、違う世界だからと納得し、一人で頷く。
 八代《あねさん》が席を置くと思しき、未確認生命体対策本部を探すべく、バイクを押して地下駐車場へと進む。彼がそこで目にしたのは、顔を真っ赤にし通路を駆け降りる若い男性警察官と、逃がさないと言わんばかりに彼の袖を掴む、件の八代の姿であった。
 ユウスケは八代に挨拶しようと身を乗り出すが、男性警察官を追う彼女の物凄い剣幕に怯え、思わず柱の影に身を隠してしまった。
「ちょっと、ちょっと! どこ行こうって言うのよ! まーちーなーさーいー」
「もう無理っす! 勘弁してくださいよホント」
「何が無理だっていうのよ。今日だって立派に戦えていたじゃない」
「確かに未確認は倒しましたけど、マスコミのバッシングは凄いし、上司からこっぴどく叱られるし、こんなことになるなんて聞いてません! 自分には無理なんすよ、失礼します」
「あん、もう! 待って……待ちなさいッ」
 八代の制止も聞かず、彼女の手を振りほどいて去って行く男性警察官。
 追うのを諦めた八代は、思い切り壁を蹴り付け、右足首をぶつけて痛め、その場にうずくまった。

「これで十三人目。装着してその日に辞するとは……、最短記録更新ですね、八代淘子《とうこ》さん」
 落胆しうなだれる八代の背後に立ち、彼女の肩を優しく撫でる謎の男。
 それが誰なのか気付いた八代は、うんざりとした表情を顔に浮かべ、黒地に白縞の入ったスーツに赤ネクタイ、うなじが隠れる程度の短髪に、人を小馬鹿にしたような目つきで自分を見る、いけ好かない男の方へと向き直った。
「気配を消すのがお上手ですこと。全然気付かなかったわ、伝説の刑事の”弟さん”」
「その言い方は止していただきたい。私には『一条トオル』という名前があるのですよ、八代淘子さん」
「あぁ、そう。それで? 未確認生命体言語解析課きっての、超が付くほどエリートのあなたが、始末書まみれのこの私に、何の用かしら?」
「僕の許嫁たる貴女を慰めに……、というのは建前で」
 一条と呼ばれた男は、上着の内ポケットの中で、丁寧に四つ折りされた紙を取り出して、八代に手渡した。
「陸上自衛隊深海一尉からの招聘《しょうへい》ですよ。何度も言ってますがね、今貴女の力を必要としているのはここじゃない。天才の居場所は適材適所であるべきなんですよ。いつになったらお分かりになるんです」
「……いつって? そんなの決まってるじゃない」
 手渡された紙に目を通し、一条の言葉を聞いた八代は、その上で「来ないわよ、そんなもの」と滅茶苦茶に紙を裂き、一条の顔に投げ付けた。
 一条は呆れ顔でまたですかと呟くと、残念そうに溜め息を漏らした。
「互いにいい歳ですし、子ども染みたやり取りはやめにしましょう。僕は貴女のことを思って言っているんですよ。署内にG3-Xのなり手はもう居ませんし、神経断裂弾が全国区の警察に配備された今、無理にG3を強化する必要性は無いのでは」
「御冗談。あなただって知っているでしょう。交通課の巡査が、休暇中に乗った車ごと行方をくらましたり、コンクリートの壁に埋め込まれた人間が見つかったり……、首から上が砂となって消失、街中の往来で『窒息死』……未確認の仕業じゃ片付けられない事件が全国各地で発生しているのよ」
「未確認ではない謎の存在、《アンノウン》のことですね。噂には聞いています。ですがあくまでも都市伝説。居るのか居ないのか不確かなものに、国も警察もお金は出せませんよ」
「誰が何と言おうと、私はここを離れるつもりはないわ。だいたい、許嫁って何よ。家同士の見合いがあっただけじゃない。私は認めませんからね」
「強情なお人だ。まだ、“あの人”のことを引きずっているのですか」
 あの人。一条の言葉からそれを聞き取った八代は、一瞬どこか物憂げな表情を見せ、それは違うと静かに呟いた。
「彼はまだ生きているわ。もう死んだような物言いはやめなさい」
 一条にというよりも、自分自身に言い聞かせるように放たれたその言葉。
「しかし」と言葉を挟む一条を無視し、八代は自身の上着のポケットから、くしゃくしゃに丸められた一枚のチラシを取り出して、彼の目の前に突き付けた。
「署内にいなけりゃ、それ以外の場所から募ればいいだけのことでしょ。自衛隊員、消防士、プロレスラー、何だったら一般人だっていい。今から控え室に集めた十人の様子を見に行くの。あなたも一緒に来る?」
 転んでもただでは起きないとはこのことか。一条は八代の行動と切り替えの早さに舌を巻く。
 八代はその上で、ユウスケが身を隠す柱を見、さっと人差し指を突き立てた。

「ところで、あなたは何者? ここは関係者以外立入禁止だって、出入口に書かれていなかったかしら」
「えっ!? あっ、えっ……」
 どうして分かったんだ、とでも言いたげな表情を浮かべ、ユウスケは宿題を忘れて先生に叱られる子どものように、背中を丸めて姿を現す。遅れてユウスケがいることに気付いた一条は、目を見開いて驚きを顕にするも、すぐに佇まいを直して彼に問い掛けた。
「どうやら、関係者ではなさそうですね。何かご用命なら、警察署中央窓口までどうぞ」
 このままでは、何もしないまま突き返されてしまう。かと言って、八代たちの気を引ける話などありはしない。どうするべきかと頭を抱えるユウスケの目に、八代が手にしたビラが留まった。
「あぁ、そう……そう! その装着員募集! 俺、それを見てここに来たんです」
「あなたが……これに?」
「はいっ。あぁ、心配御無用、体力には自信ありますから、俺」
 にこやかな顔でそう語るユウスケを前にし、八代と一条は互いに顔を見合せ、疑問符を浮かべて再び向き直る。殺しどころか、喧嘩すら躊躇いそうな程屈託のない笑顔。鎧を装着して戦うには不釣り合いな細い筋肉。彼は面接会場を間違えたのではなかろうか。一条は彼の存在に疑問を覚え、今一度彼に問い掛けた。
「このチラシに書かれているのは、G3-Xの装着員募集の告知。ハンバーガーショップのアルバイト広告じゃありませんよ」
「しつこいなぁ。それで間違いありませんって」
 別の何かと間違えたわけではないらしい。しかし本気で装着員になろうと言うのだろうか。無謀すぎて逆に気になった八代は、一条を遮ってユウスケに問い掛けた。
「参考までに聞いておくけど、あなたの以前、もしくは今の職業は?」
「職業って言っていいのか分からないけど……クウガ、あぁいや”未確認生命体第四号”やってます」
 こいつは自分たちを馬鹿にしているのだろうか。八代と一条は顔を見合せ溜め息をひとつ。
「悪いけど定員の十人、もう集まっちゃったから……。また次の機会に、ね」
「えぇえっ、そこを! そこをなんとか……」
「さすがに無理よ。決まりだもの」
 募集に定員などかけていないが、これ以上は付き合い切れない。
 心の底から落胆してうなだれるユウスケを目にし、少し良心が痛んだが、それでも彼をここから遠ざけることに決めた。どう見ても装着員に向いた人間には見えなかったからだ。
 八代の狙い通り、ユウスケは頭を垂れてこの場を去って行く。体良く追い払えたかと安堵の溜め息を漏らすが、ユウスケの行く手に一人の男が立ちはだかった。

「その候補生たちなら、とっくに帰りましたよ、八代刑事」
「……海東さん!? 何でこんなところに」
 彼の行く手に立っていたのは、薄茶色のジャケットを身に纏い、青色のジーンズを穿いた端正な顔立ちの青年。ユウスケは見知った顔に声を上げ、八代と一条は予期せぬ闖入者の登場に、驚きの声を上げた。
「あなた、一体どこから……というか、何故そんなことが分かるの」
「装着員募集の候補者だからですよ、勿論。先に控室で待っていたんですけどね、遊び半分で周りの人たちを小突き回していたら、彼ら泣いて出て行ってしまいまして」
「泣いて出て行くって……、現役の自衛官やプロレスラーもいたのよ? そんな馬鹿なことが」
「なら御自分の目で確かめるといい。信じようが信じまいが、あなたの自由です」
 自信に満ち溢れた言葉にこの態度。真偽の程は不明だが、彼が只者ではないことだけは確かだ。
 彼を目にして戸惑う八代に対し、海東は彼女の右手を優しく掴んで言った。
「僕は海東《かいとう》大樹《だいき》。職業は強いて言えば……、トレジャーハンター、ですかね。どうぞ、お見知りおきを」
「え、あぁ……、どうも」
 自分たちを小馬鹿にしているのかと思いきや、打って変わって紳士的なこの態度に、八代は上手く言葉を継げないまま彼の手を握り返した。
「さ、行きましょう八代刑事。時間が勿体無いですし」その手を伴って、八代を連れて行かんとする海東。ユウスケは冗談じゃないと声を上げた。
「待ってください、だったら俺も一緒に。欠員が出たんでしょう?」
「まだ言うのですか。八代淘子さんもおっしゃっていたでしょう。貴方は必要ないと」
「でも、でもでもっ! やってみなきゃ分からないじゃないですか、役に立つかどうかなんて」
「しつこいですね。無理なものは無理と何度言えば……」
 両者一歩も譲らず、平行線を辿るユウスケと一条のやりとりに、横から割って入った海東が口を挟んだ。
「彼の言う通りだ。テストもせずに装着員になっては、彼や他の候補者たちに失礼ですし、張り合いがなさすぎる。僕からも是非お願いします、八代刑事」
 海東が発した意外な言葉に、他の三人は驚いた顔で彼を見つめる。
 一足先に我に返った八代は、仕方がないかと目を伏せて、改めてユウスケと向かい合った。
「分かったわ。あなたも来なさい。ええと、あなたの名前は?」
「ユウスケ。小野寺ユウスケです。宜しくお願いしますあね……あぁいや、八代さん!」
 八代との接点が出来たことに、ユウスケは手を上げ声を上げて嬉しがる。一条はそれでいいのかと疑問を呈するが、「この件の責任者は私よ」と言う言葉の前に、継ぐべき道理を持ち得なかった。
「さ、そうと決まれば登用試験、ちゃっちゃと始めるわよ。二人ともついてらっしゃい」
 八代の求めに応じ、駐車場から訓練場へと向かう二人の青年。
 ユウスケはその最中、自分を候補者に推薦してくれた海東に謝辞を述べる。
 海東は照れくさそうに顔をしかめると、「大したことじゃない」と返した。
「僕と君は装着員の枠を争い合う関係、言わば敵同士だよ。お礼を言われたところで、一切手を抜かないから覚悟しておきたまえ、小野寺君」
「もちろん、望むところです。お互い頑張りましょうね、海東さん」

 ――お礼を言いたいのは、むしろこっちの方なんだけどね。
 嫌らしく口元を歪ませて呟いたその一言に、ユウスケが気付くことはなかった。

◆◆◆

「結局、ここに行き着いちゃいましたね」
「急がば回れ、というか骨折り損のくたびれ儲けだな。これじゃあよ」
 陽が傾き、周囲を美しい夕焼け色に染める日の入り時。
 門矢士と光夏海は一通の郵便物に振り回され、家という家を散々回った挙げ句、結局封筒に書かれていた住所の場所へと足を運んでいた。

 年季が入ってはいるものの、古めかしさを感じさせない西洋風の家屋。
 長らく人が立ち行っていないらしく、庭に置かれた白いテーブルと椅子は、野晒しにされて灰色にくすみ、玄関前の棚に入れられた薪は、その一つ一つから新芽が伸びていて、使われていた形跡はない。
 夏海はその不気味さに及び腰となるが、士は遠慮なく柵を潜って庭に入り、玄関の扉を強く叩いた。
「ショウイチさーん、芦河ショウイチさァん」
 家の隅々まで聞こえるような大声で叫んでみるも、反応はない。ドアノブを握り、回してみる。錆びていて動きが悪いが、鍵はかけられていないらしい。
「鍵がかかってねぇのか。だったら手紙だけ置いて帰ろうぜ。他に手掛かりもなさそうだしよ」
「それって不法侵入じゃないですか。よくないですよ」
「こんな立派な家を、鍵をかけないで何年も放置している方が悪いんだよ」
 夏海の制止を振り切って、強引に家の中に押し入る士。
 彼らの予想以上に室内は荒れ果てていた。所々に亀裂の走った木製のテーブルに、硝子が割れ、中の食器が床にぶちまけられている食器棚。長い間使われていないことを示すかのように、そのどれもが埃《ホコリ》を被って灰色に染まっている。

 こんな場所に人が住んでいるのだろうか。やはりここにはいないんじゃないかと呟く夏海を尻目に、士は床に落ちていたものを拾い上げしげしげと見つめた。
「どうしたんです士君。りんごなんかじぃーっと見つめて」
「よく見ろ。こいつはただのりんごじゃねぇ」
 士に促され、手渡されたりんごを今一度見つめる
 他のものはことごとく埃を被るか、腐っているというのに、このりんごだけは(かじり口が外気に触れ、黒く変色しているものの)瑞々しく食べ頃の状態を保っている。
 しかもそれだけではない。よく見るとこのりんご、まるで雑巾絞りでもされたかのように、左回りにきつく捻られている。そういう模様なのかと触ってみるが、捻りによって生じた凹凸がはっきりとしている。何故そうなっているか分からないが、このりんごは何らかの力で捻られた。そう考える他ない。

「なんなんですか、これ……。どう見ても普通じゃありませんよ。それに、以前どこかで似たようなものを観た気が……」
「昔のことなんか放っておけ。それより問題なのは、このりんごがまだ食える状態で残ってて、ご丁寧にかじった跡までついてることだ。この手紙の主かは分からないが、家ン中かこの周辺、誰かいるぜ」
「誰かって誰です。怖いこと言わないでくださいよ」
「それを今から探すんじゃねぇか。俺は一階のリビング周りを当たる。お前はそこの階段を登って、二階の奥を探ってこい」
「嫌ですよそんなの。何が出てくるか分からないんですし、士君が行ってください」
「化物やら不審者が、リビングの奥や近くの茂みから出てくる可能性だってあるんだ。危なっかしさで言やぁどっこいだろ」
 何でわたしがとぼやきつつ、士に丸め込められ、二階に続く階段を登る夏海。
 夏海に上の階を任せ、リビングの奥へと進む士は、その途中で窓の先に、何か奇妙なものを見込んだ。士が腕を回しても、掴みきれないほどに太い木の幹。そのうろから“人の腕”のようなものが、だらりと垂れ下がっているのだ。
 見間違いかと瞼を擦るが、腕は相変わらずそこにある。趣味の悪い造形物かと、うろの中をさらに覗き込む。苦悶の表情を浮かべ、既に事切れた男性の姿がそこにあった。明らかに人間業ではない。この家の住人、芦河ショウイチとは一体何者なのか。
 士がその事を疑問に思った矢先、突如二階の奥の部屋から赤黒い触手が伸び、階段を登る夏海の体を縛り付けた。
「きゃあっ!? な、ななな、なんなんですかこれ!」
「おい、どうしたんだ夏ミカン!」
 予想外の出来事に驚き戸惑う二人。そんな彼らの前に、二階の奥の部屋から一人の男が現れ、敵意を剥き出しにして睨みつける。
 手入れが行き届いていない虱《シラミ》混じりの髪に、顎髭をもみあげとくっつく程、長く濃く生やし、所々に虫食いの入った衣服を身に纏った不気味な男。それだけでも十二分に怪しいが、特筆すべきは右腕の袖から伸びて、夏海の胴を締め付ける赤黒い触手だ。
 捻れたりんご、木のうろに押し込まれた男性。そして今度は腕から触手を生やす変質者と来た。
 一連の謎の鍵はこの男が握っているに違いない。一人でそう結論付けた士は、佇まいを直して髭の男と向かい合う。
「残念ながらその夏ミカンは、絞ったってオレンジジュースにゃならねぇぜ」
 男は士の軽口には全く応じず、憤怒のこもった声で答える。
「何故ここに人がいる。何をしに来た」
「見て分からないか? 俺はあんた宛ての手紙を届けに来ただけだぜ、芦河ショウイチさん」
 言って、これ見よがしに封筒を掲げる士。男は少し驚いた様子でそれを見るも、すぐに冷たい目付きと態度に戻る。
「わざわざご苦労なことだな。だがそんなものはいらん。もう用は済んだだろう? とっとと出て行け」
「そうは行かねぇ。庭の木のうろに押し込まれたあの男、ありゃあお前の仕業か?」
「何の話だ。そんなものは知らん」
「知らないだぁ? そんなわけあるかよ」
 男の声や態度に嘘をついている様子はない。本当に知らないのだろうか。真偽を確かめようにも、この男がすんなり教えてくれるとは思えない。
「これ以上話すことはない。二度と俺に近付くな」
「分かった分かった、そんなに一人が好きなら出て行ってやるさ。でもな、うちの連れを返してくれなきゃ、帰るに帰れねぇ」
「ならばまず玄関を出ろ。お前が家から出たところで離してやる」
「オーケー、オーケー。すぐ出て行ってやるから……よッ!」
 男の求めに応じ、身を翻して大人しく立ち去ろうとする士。
 だが士は男の予想に反し、体だけ振り返ると同時に、ライドブッカーから抜き出した一枚のカードを、男の右腕に向け、手裏剣のようにして放った。
 髭の男は痛みに耐え兼ね触手の拘束を緩ませる。階段の中ほどにいた夏海が、支えをなくして仰向けに落ちるが、士によって抱き止められた。
「大丈夫かよ、夏ミカン」
「えぇ、なんとか……。ありがとうございます、士君」
 無事を確認し、安堵の溜め息を漏らす士。しかしどうしたことか、士に抱き止められた夏海は、目を見開き、唇を震わせている。
「おい、どうした。何をそんなにビビってやがる」
「だって、あれ、あれ……」
「あれ?」夏海の指差す方へ顔を向ける。士の目に映ったのは、両手で頭を押さえ、苦悶の表情を顔に浮かべる髭の男の姿だった。
 苦しそうに首を掻き毟りながら、彼の腕や脚の筋肉が異様に盛り上がり、体中が緑色に染まって行く。
 髭の男――、芦河ショウイチは、赤い複眼に緑色の二本角、筋骨隆々とした体躯の異形の怪物へと姿を変え、天を仰いで野獣のような雄叫びを上げた。
「おいおい、何がそんなものは知らんだ。これでシロだって方がおかしいだろ」
「というより、危ないですよ、士君ッ」
「分かってる。離れてろ、夏ミカン!」
 階段の桟から飛び降り、自分を襲おうとする緑の獣の姿を見、士は夏海に離れるよう指示。次いで振り下ろされる手刀を側転でかわし、上着のポケットからディケイドライバーのバックルを取り出した。
「別にお前と戦うつもりはないんだがな、話して止まりそうもねぇか。仕方ねぇ」
 ————変身
 ————KAMEN RIDE 「DECADE」!!
 続け様にバックルを腰に取り付け、ディケイドに変身。飛びかかってくる獣の一撃をかわし、代わりに自分の拳を獣の脇腹に叩き込む。気味の悪い呻き声を上げ一瞬よろけるも、体勢を立て直し、両手の鋭い爪を突き立ててディケイドに襲いかかった。
 顔の前で両腕を組んで防ぐも、獣の凄まじい腕力に圧倒され、徐々に腕を下がってゆく。
「ちきしょう……なんつぅ力だ、この野郎」
 とんでもない馬鹿力に苦しむディケイドだが、緑の獣はさらにそこから牙を剥き、がら空きになった彼の首筋に噛みついた。首筋から火花が散り、悲鳴が飛ぶ。異形の怪物の鋭利な牙は、ディケイドの特殊スーツ越しに彼の体をも貫いたのだ。
 緑の獣の猛攻は止まらない。ディケイドが腕を降ろした隙を狙い、両腕の爪で彼の胸部を十字に斬り裂いた。斬られた衝撃で宙を舞い、もんどり打って倒れ込むディケイド。彼は獣の圧倒的な力に対し、今までにない驚きと戸惑いを見せた。

「化け物の分際でやってくれるじゃねぇの。いいぜ、獣にゃあ獣だ」
 ————KAMEN RIDE 「KIVA」
 ディケイドの姿のまま戦うことに限界を感じ、体を起こしつつライドブッカーから「キバ」のカードを取り出して、バックルに装填。笛の音が周囲に響き渡ると同時に、彼の体はコウモリを模した赤と黒を基調とする仮面ライダー「キバ」へと変わった。
 姿が変わったことを認識しているのかいないのか、緑の獣はディケイドに向かって一吠えし、拳を突き出し飛び掛かる。
「突きの速さ比べか? 面白ェ、相手になろうじゃないの」
 退くことなく両の拳を握り締め、プロボクサーのように胸の前で拳を構えて迎え撃つ。二人の拳が克ち合い、突き合った。両者共に一歩も引かず、素早い拳のやりとりが続く。

 ディケイドは一瞬の隙を突き、拳の突き合いを擦り抜け、獣の左の頬に拳を叩き込んだ。
 先程のものと違い、今度はカウンター。地面に叩きつけられた緑の獣は、ぴくぴくと体を震わせるばかりで、簡単に立ち上がることは出来ない。
 受けたダメージから立ち直り、辺りを見回すも、そこにディケイドの姿はない。
 低い唸り声を立て、右に左にと視線を動かす獣の頭上から、電球の傘にぶら下がり、逆さになったディケイドが現れ、さらに激しい拳の連撃を見舞う。
「どうだい、ケダモノ大将! こいつは効くだろ……おぉ、っと!」
 だが獣の方も負けてはいない。連撃の隙を突いて右手を伸ばし、そこから放たれた触手によって、ぶら下がるディケイドを叩き落としたのだ。
 思わぬ反撃を喰い、受け身を取ることも出来ず、背中から倒れ込むディケイド。緑の獣はそんな彼に向け、右踵の鉤爪を伸ばして跳ぶ。咄嗟に側転したことで、致命傷には至らなかったが、彼に怒りを植え付けるには十分すぎる一撃だった。
「ちきしょう……! やりやがったなこの野郎、堪忍袋の緒が切れた!」
 ————KAMEN RIDE 「FAIZ」
 怒りに燃えるディケイドは、ライドブッカーから「ファイズ」のカードを取り出してドライバーに装填。赤い閃光に包まれ、顔を覆い尽くす程大きな黄色い複眼の戦士へと姿を変えた。
「いい加減……大人しくしろッ!」
 ————FINAL ATTACK RIDE 「Fa-Fa-Fa-FAIZ」
 獣の右手刀をかわしてカードを取り出し、左手の突きを自身の右腕で受け止めつつ、カードをバックルに装填。ラップ音が鳴り響くと同時に、獣の腹を右足で蹴りつけ、右脛のポインターの照準を合わせ、そこから発射された光線で獣を引き剥がす。
 放たれた光線が円錐状の光を形作ったと同時に、そこに向かい飛び蹴りを見舞うディケイド。円錐状の光は、回転したドリルのように獣の腹に深々と突き刺さり、ディケイドがそれを潜り抜ける頃には、緑の獣は野太い悲鳴を上げ、”Φ”の記号を浮かび上がらせ吹き飛んだ。

「ずいぶんと手こずらされたが、今度こそ終わりだ。さぁてと、あんたの知っていること、全部話してもらうぜ」
 痛む左腕をさすりつつ、ディケイドは獣から元の浮浪者姿に戻った髭の男に歩み寄る。
「やめろ……、呼ぶな、俺を呼ぶな……」
「何の話だ。うだうだ言ってねぇで質問に答えろ」
 首根を掴んで尋ねてみるも、髭の男は虚ろな目をして、うわ言のように何かを呟くばかりで、何の返答も得られない。
「あぁ、あぁ。こりゃあ駄目だ。完全に意識が飛んじまってる」
「士君が強引すぎるんですよ。今のはちょっと酷すぎです」
「それが命の恩人に言う言葉かよ。急所は外しておいたし、大丈夫だっての」
「急所って、士君に分かるんですか? この人の急所がどこにあるか」
「さぁな」
「さぁなって何ですか、さぁなって」
 夏海はディケイドのいい加減さに呆れ、ディケイドは結局骨折り損のくたびれ儲けか、と溜め息をついて頭を垂れる。
「さてと、こいつから引き出せる情報も無さそうだし、どうすっかな」
「この人を病院まで運んで……、写真館に帰りましょう」
 ディケイドはそうするしかないかと首を縦に振り、変身を解こうとバックルに手を触れる。
 彼が只ならぬ気配を感じたのはその時だ。バックルに触れていた手を握り、構えを取って玄関の方へ体を向けた。
「ど、どうしたんですかいきなり」
「どうしたかと聞いたな。じゃあ俺からも質問だ、あいつ……お前には何に見える?」
 言われ、開け放されたままの玄関に目を向ける夏海。彼女の目に映ったのは、古代ローマの歩兵の様な出で立ちで、豹のような顔の異形だった。豹の異形は黙したまま、右手の人差指で左手の甲に何かの”サイン”を描くと、こちらへと歩を進めて行く。
「……未確認《グロンギ》!? どうしてこんなところに」
「またくだらねぇ”ゲゲル”でもやってんだろ。そこの髭男は任せたぜ、夏ミカン」
 自分の言葉に夏海が頷いたのを見計らい、ディケイドは向かい来る豹頭の異形に掴みかかり、窓を破って強引に外へ連れ出した。

「ボンゾバ《今度は》ゾンバ《どんな》ゲゲルザ《ゲゲルだ》? ゴギゲデブセジョ《教えてくれよ》」
 出で立ちは少し違うが、こいつもグロンギの一人だろう。そう思い、グロンギたちの言葉で問いかける。しかしどうしたことだろう。豹頭はディケイドの問いかけに応じることなく、低い唸り声を上げて殴りかかってきたのだ。
「サンドグザバ《乱暴だな》、ゴセパダザ《俺はただ》、ザバギグギダギザベザ《話がしたいだけだ》」
 聞こえなかったのかと再び問いかけるも、返ってくるのは拳ばかり。
 自分の発音や言い回しが悪かったのかと首を傾げるが、程無くして、そうではなかったことを理解する。何故なら目の前の豹頭は、頭上から光の輪のようなものを生じさせ、そこから二本の剣を引き抜いて構えたのだ。クウガの世界のグロンギたちにこんな力はない。だとすればこの異形は一体何なのか。グロンギとは違う生物なのか?
「あぁもう、面倒臭ぇ」考えても分からないのなら、とりあえず倒してしまえば良い。この上なくシンプルだ。ディケイドは拳を硬く握りしめ、豹頭が剣を振るうよりも早く、それを相手の右頬に叩き込んだ。腰を揺らしてよろける豹頭。彼はすぐさま体勢を立て直すと、手に持った剣の柄と柄を合わせて鋏状にし、ディケイドを挟み込もうと大きく振った。
「おぉわっ、なんつぅもんを持ってんだよ!」
 寸での所でかわし、事なきを得るディケイド。
 しかし、かわした先に生えていた、かの人が埋まった大木が、たった一撃で斬り倒されてしまっている。相当な斬れ味だ。あんなものを喰らっては、胴から下を真っ二つにされるのは避けられない。
「やってくれるじゃねぇの。でもな、ンなもん喰らうかよッ」
 思い切り鋏を振るう豹頭を飛び越え、ついでに彼の後頭部を蹴りつけ背後に回るディケイド。確かに強力だが、ここまで大振りでは、逆に当たる方が難しいと言うもの。
 空振りし、後頭部を叩かれよろける豹頭に向け、ディケイドはライドブッカーをガンモードに組み替え、引き金に手をかける。
「これで決まりだ……って、なんだお前ら、邪魔をするなッ」
 だが近くの茂みの中から、ディケイドの両腕を掴み、羽交い締めにする者が現れた。
 彼が今目にしている豹頭と同じ、なれど体色が異なる黒と白の異形。振りほどこうにも力が強く、こちらから振り払うのは難しい。ライドブッカーも落としてしまい、反撃のしようがない。
 しかも眼前の豹頭が、再び鋏を握って自分の胴を狙っている。このままではまずい、非常にまずい。
「こんにゃろう……舐めんじゃねぇッ!」
 しかし、ここで手詰まりになるディケイドではない。羽交い締めにされたことを逆に利用し、両足蹴りで鋏を持った豹頭を蹴り付け、残る二体には肘鉄を喰らわせ、上手い具合に拘束から逃れたのだ。
 足元に落ちたライドブッカーを拾い、ひとまず距離を取るディケイド。危機は脱したものの、三体一の不利な状況は未だ続く。
 二体一なら余裕だが、腕を怪我した今、一度に三体を相手にするとなると少々厳しい。ライドブッカーをブックモードに戻し、付かず離れずの距離を保つディケイドの目に、一台の古ぼけたバイクが留まった。
 それを目に留め、今の自分の姿を省みる。顔全体を覆う黄色い複眼、全身に走る深紅のラインの戦士。尾上タクミ——仮面ライダーファイズの姿だ。ファイズ、そしてその愛機とは何か。何だったか――。
「そうか、その手があったか。助かったぜ」
 ————ATTACK RIDE 「AUTO BAZIN」
 ディケイドは、飛び退いて豹頭たちの攻撃をかわしつつ、ライドブッカーから「オートバジン」のカードを抜き出してドライバーに装填。
 埃だらけの古ぼけたバイクは、Φのマークを潜り抜けると同時に、鈍い銀色に輝く新品のバイクに変身。そこから人型のロボットに変型して空を飛び、ホイールが変型してできたガトリング砲で、豹頭たちを散らして回った。
 地面に降り立ったオートバジンは、銃撃でよろめく豹頭たちに向かい、強烈な拳を叩き込む。
 ディケイドのものより強力なそれは、豹頭たちを易々と奥の茂みへ吹き飛ばした。
「形勢逆転。今度こそ、チェックメイトだぜ」
 ————FINAL ATTACK RIDE 『Fa—Fa—Fa—FAIZ』
 オートバジンの左肩からハンドルグリップを引き抜いたディケイドは、Φのマークが入った金の縁取りのカードを装填。ラップ音が鳴り響くのと同時に、彼が手にしたハンドルグリップが伸び、赤く輝くエネルギーブレードへと変わった。
 ブレードを右手に構えたディケイドは、丁度良く縦に並んだ三体の豹頭目掛けて走り出し、ブレードを振って手前の白豹の右脇腹を斬りつける。
 続いて手首を返し、その後ろの黒豹の左脇腹を裂き、残る黄色の豹頭、その右肩に刃を刺し、両手でブレードの柄を掴んで、思い切り力を込めて袈裟に振り切った。
 豹頭たちは皆、頭に光の輪のようなものを生じさせ、叫び声を上げることなく四散した。

「ったくよ、余計な手前かけさせやがって……」変身を解除し、ようやく片付いたかと、安堵と疲れの入り雑じった溜め息を漏らす士。
 そんな士の元に、心配そう表情を浮かべた夏海が駆け寄って来た。
「つか、士君! 大変です、大変なんですッ」
「そんなに慌てて、何がどう大変なんだよ」
「ひげの人……芦河さんが、芦河さんが逃げちゃったんです! そこの壁を突き破って!」
 そんな馬鹿なと、家の方へ駆け戻る士。
 一階のリビングに芦河ショウイチの姿はなく、夏海の言う通り、壁に人一人が通り抜けられそうな程の大穴が、ぽっかりと開いている。獣の姿をしていたとはいえ、必殺の飛び蹴りをその身に浴びて、すぐに動けるはずがない。

「何にせよ、得体の知れない化物だってことは確かだな」
「すみません士君、わたしがもっときちんと見張っていれば……」
「見張っていたとして、お前にどうにかできたとは思えん。気にするな。さぁてと」
 ――ATTACK RIDE 「MACHINE DECADER」
 士は再びベルトを巻いて、ドライバーにマシンディケイダーのカードを装填。オートバジンをマシンディケイダーへと変えて跨がり、ハンドルを握った。
「追うぞ。この世界のことについて、あいつはきっと何か知っているはずだ」
「あぁっ、ちょっと待ってください。ならわたしも一緒に……」
 フルフェイスのヘルメットを被り、夏海を後部座席に乗せた士は、緑の獣——芦河ショウイチが逃げて行った方向へとバイクを走らせた。

◆◆◆

「よく頑張ったね小野寺君。けど、もう終わりだ。諦めたまえ」
「あと一回……、後一回だけお願いします! 海東さん、八代さん!」
「……もういい、もういいわ。二人とも、お疲れ様」
 士が豹頭の異形と戦っていたのと時を同じくし、小野寺ユウスケは海東大樹と共に、G3-X装着者登用試験、その最終審査に臨んでいた。
 内容はG3-Xの量産機G3・MILD《マイルド》を装着しての能力テスト。走力、敏捷性、重火器の扱い。全く同じアーマーを用いての審査となったが、ユウスケはその全てで海東に数歩及ばず、散々な結果となった。
 対する海東は重火器に対する造詣も深く、テスト機とはいえ、総重量30kgにも及ぶアーマーを身に纏って楽々と走った上、宙返りまで披露する余裕ぶり。もはや装着者は決まったようなものだ。
 それでも諦め切れないユウスケのために、本来想定されていなかった四番目の審査『格闘戦』が行われたのだが、意気込み虚しく完膚無きまでの大敗。八代の方から審査中止を宣告されて、今に至ると言うわけだ。
「ちょっ……ちょっと待ってください! 俺はまだ、まだやれますって」
「見苦しいですよ、小野寺ユウスケ君。何をそんなに必死になるのですか。もう結果は出たんです、諦めなさい」
 このままじゃ終われないと八代に詰め寄るユウスケを、一条が呼び止め、やめなさいと割って入る。ユウスケは「あなたには関係ないでしょう」と、苛立ち混じりに言葉を返した。
「俺はまだやれる。まだ、やれるんだ……。こんなんじゃ、まだ、まだ終われない!」
「終われないも何も、あなたと海東大樹とでは力量が違うんです。やれるだとか、やれないだとかの問題ではないでしょう」
「横で見ていただけのあんたには関係ないだろ! 俺は八代さんに言ってるんだ」
 一条が何と言おうと、諦めるつもりはないと一点張りのユウスケ。
 その頑固さに八代の方がとうとう折れ、自身とユウスケの間に入った一条を押し退け、「仕方がないわね」とユウスケの肩を叩いた。
「曲がりなりにもG3を動かせていたわけだし……。いいわ、採用してあげる。『補欠』の装着員としてだけど」
「ほ……本当ですか!? ありがとうございます、ありがとうございます!」
 補欠でも何でも、八代の傍にいられる。ユウスケは大喜びで八代の手を握ろうとするが、「握るならスーツを脱いでからにして頂戴」と突き返された。
「さ、二人とも。シャワーでも浴びてらっしゃいな。応募しなければ良かった、って思うくらいしごいてあげるわ」
「それは光栄だ。では、お言葉に甘えて……」
「おっ、俺もそうさせてもらいます」
 二人は八代に一礼してアーマーを脱ぎ、訓練場を出た先のシャワー室へと向かう。

「おめでとう小野寺君。補欠とはいえ、装着員に合格するとはね。僕の予想以上だ」
「いやでも、俺なんて……。海東さん程じゃあ」
 小野寺ユウスケと海東大樹。二人の男はシャワーを浴びつつ、薄い壁を隔てて互いの健闘を褒め合っていた。海東を褒めるのと同時に、ユウスケの心に一つの疑問が浮かぶ。いくらディエンドに変身できるとはいえ、ここまで身体能力に差があるのだろう。自分だってクウガに変身できるのだ、この差のつき方はおかしくはないだろうか、と。
 ユウスケはさりげなく、何故なのかと問いただしてみるが、「トレジャーハンターだから」の一言で片付けられ、詳しいことは分からなかった。

 シャワーで汗を流し、ユウスケはタオルを腰に、海東は胸元まで巻いて個室を後にする。
 地続きになっているロッカールームに入った二人は、濡れていた体をタオルで拭いてパンツを穿き、未確認生命体対策班の制服が入ったロッカーに手を伸ばす。
 海東のロッカーには何もなかったが、ユウスケが手を伸ばしたロッカーには、先任者と思しき人物の妙にくすんだ色の制服が、丁寧に畳まれて入れられていた。
「支給された制服にしちゃあ……古臭い、っていうかカビ臭いけど」
 何だこれはと制服を取り出し、広げてまじまじと見る。
 畳まれたまま、ずっとこの中にしまわれていたのだろう。辺りにほんのりと埃が舞い、それを吸って咳払いを一つ。
 ユウスケは制服右胸のネームプレートに目線を移すが、突如ロッカールームに入ってきた八代によって阻止され、書かれた名前をはっきりと見ないうちに、それを奪われてしまった。

「ちょ、ちょちょちょ! 何やってるの小野寺君! あなたのロッカーはそこの斜め上、そこじゃないわ!」
「いや、八代さんこそ何やってるんですか! ここ、男子更衣室ですよ!? シャワー室と繋がってますし、俺たちシャワー浴びたばっかりですし」
「あ。あぁあ、あぁ……」
 ややあって自分が何をしたかに気付き、うつむいて頬を赤らめる八代。しかし自身がここにやってきた理由を思い出し、すぐに佇まいを正した。
「緊急通報よ。未確認が街に現れたわ。海東大樹。G3-Xを装着し、直ちに出動。小野寺ユウスケ、私と共にGトレーラーで現場に向かいます。復唱の要なし」
 未確認生命体の出現。それを聞いた二人の顔が強張る。
 海東は短く「了解」とだけ返して、対策班の制服に着替えてロッカールームを後にし、ユウスケもそれに続く。
 ――制服をひったくったあねさんのあの態度。何かある。絶対何かあるぞ。
 ――体誰なんだ? ”芦河”って人は……。

 一つの疑問を、頭の中に抱えたまま。
スポンサーサイト
総もくじ 3kaku_s_L.png Journey through the Decade Re-mix
総もくじ 3kaku_s_L.png これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー
総もくじ  3kaku_s_L.png Journey through the Decade Re-mix
総もくじ  3kaku_s_L.png これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー
もくじ  3kaku_s_L.png 観た映画の感想
もくじ  3kaku_s_L.png 自作のアレな絵
もくじ  3kaku_s_L.png わかめ新聞雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー 平成二十四年九月号】へ
  • 【Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 B-part】へ

~ Comment ~

NoTitle 

更新お疲れ様です!!!自分は最近になって(アギト面白いな。)と思い始めたので、機会があれぱディケイド版アギトをもう一度観てみようかなと思っています。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー 平成二十四年九月号】へ
  • 【Journey through the Decade Re-mix 第七話 「覚醒、魂のトルネード」 B-part】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。