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 ←Journey through the Decade Re-mix 第六話 「555つの顔、一つの宝」 二時間目 →Journey through the Decade Re-mix 第六話 「555つの顔、一つの宝」 四時間目
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「Journey through the Decade Re-mix」
Journey through the Decade Re-mix(2)

Journey through the Decade Re-mix 第六話 「555つの顔、一つの宝」 三時間目

 ←Journey through the Decade Re-mix 第六話 「555つの顔、一つの宝」 二時間目 →Journey through the Decade Re-mix 第六話 「555つの顔、一つの宝」 四時間目
 今までと比べ、今月半ばから妙に更新ペースが速くなったのですが、これは単に「555編」より文章の基本フォーマットがこれまでの作品のものと同じになり、大きく修正する箇所が無くなったからです。

 555編、アギト編に関しては剣編以前のような大掛かりな加筆修正はありません。ちょこっとずつ文章を詰めたり切ったり貼ったりしているくらいでしょうか。
 以前の文章が削除されているのでアレですが、「なろう」時代からお読みになられている方は、その辺の違いも見ていただければ面白いかな、と。

 なお、以前に比べて前書きが淡泊になったのは、正真正銘のネタ切れです。

◆◆◆

「あっ。ケイタロウ君、由里ちゃんが目を覚ましたみたいです」
「ホント!? あぁあ、由里ちゃん大丈夫!? どこか痛いところとかない?」
「……ここ、は」
 友田由里が再び目を覚ましたのは、光写真館応接間のソファーの上だった。
 由里は微睡《まどろ》む体に鞭を打ち、かけられていたタオルケットを払い除け上体を起こす。
 何故こんなところにいるのかと周りを見回す由里の前に、温かな湯気と芳しい薫りの一杯のコーヒーが置かれた。
「光写真館へようこそ。さぁさ、温かいうちにどうぞ」
 由里は戸惑いながらも栄次郎の差し出したコーヒーに口をつけ、軽く口の中で転がして飲み込んだ。
「砂糖もミルクも入っていないのに……。何これ、すごくおいしい」
「そうかそうか。それは良かった」
 栄次郎の淹れたコーヒーを飲んで深呼吸をし、気持ちを落ち着けた由里は、壁に寄りかかる夏海とケイタロウに、何があった、何が起こったのかと問いかける。ケイタロウは自分にもよく分からないと困った顔をして答えた。
「俺たちを降ろした後、たっくんは何も言わずに行っちゃったんだ。追ってみたけど俺たちの足じゃあ……とても」
「彼が降ろしてくれた場所が偶然うちの近くだったので、わたしとケイタロウ君でここまで運んだんです」
「そうなんだ……。ごめんね、余計な手間かけさせちゃって」
「いえいえ。困ったときはお互い様、ですから」
 そう言って会釈し、コーヒーに軽く口をつけて押し黙る由里。応接間の中に気まずい沈黙が漂った。
「で、でもでもっ。俺、びっくりしちゃったよぉ。どうしてたっくんはオルフェノクなんかになっちゃったんだろうねえ」
 気まずい沈黙を紛らわすようにケイタロウの口から漏れ出た一言。誰かが答えを与えてくれるとは彼も思っていなかったが、ただ場が暖まりさえすればそれでよかったのだろう。
 だが由里はそんなケイタロウの言葉を遮って立ち上がり、怯えや不安を包み隠すように大声で言った。
「やめて、やめてよ! アイツの、タクミの話は……」
「どうしたのさ由里ちゃん……、大声なんて出して、怖いよ」
「どうしたもこうしたもないわよ。あいつの話はやめてって言ってるの。タクミは、あいつはオルフェノクだったのよ? あんたやあたしを殺そうとしたやつの同族なのよ!? それを隠してずっとあたしたちと一緒にいて……許せない、絶対に許せない!」
「わわわ、落ちついてよ由里ちゃん。そもそも襲われたのは由里ちゃんであって俺は別に」
「うっさい、うっさいうっさい! あたしは冷静だ! 冷静なのッ」
「そう言っている時点ですでにおかしいでしょ! あぁもうッ……助けて! 光さん」
 タクミがオルフェノクであったことに困惑し、冷静さを欠いて当たり散らす由里。
 夏海は自分にすがるケイタロウに大丈夫と一言かけて引き剥がすと、応接間の隅に無造作に置かれた”士のダメ写真入れ”から数枚の写真を引き抜いた。
「由里ちゃん。これを見てもらえますか?」
「何よこれ。像がぼやけたり歪んだり……、こんな写真、誰がどうやって撮ったの? っていうか、これが何だっていうのよ」
「これは、士君が“普通に撮った”写真です。士君が撮影した被写体はどれもこれもこんな風に歪んでしまって。なんでそうなるのかは……、わたしも士君も分からないんですけどね」
「何よそれ、話が見えないんだけど」
「信じてもらえないかもしれませんけどそれ、全部わたしを写した写真なんですよ。撮る度に違う歪み方をするから、一枚としてまともに撮れたことがなくて」
「だから何だって言ってるの。確かにどれもこれも違うように見えるけど……」
 何だそれはと困惑する由里に対し、夏海は像の歪んだ写真を彼女の掌に優しく収めて答えた。
「今のは極端な例ですけど、人の顔なんてそんなものなんじゃないかなってわたしは思うんです。同じ場所や同じ気分の時に写しても、いつも違う顔が映る……。コピー機じゃあるまいし、全く同じ顔なんて誰にも写せないんですよ」
 夏海は由里の両肩に手を乗せ、穏やかな顔つきで彼女の目を見て言葉を続ける。
「由里ちゃん、転校してきたばかりのわたしにこんなことを言う資格がないのは分かっています。あなたがオルフェノクのことを嫌っているのも分かりました。
 けど……、ファイズとしてそんなオルフェノクと戦ってきたのも、タクミくんの”顔”の一つじゃないんですか? まずは話を聞いてあげましょうよ。怒るのも怯えるのも、それからでいいと思います」
 言うだけ言ってにこやかに微笑む夏海に対し、二の句を継ぐことができずに押し黙り、頭を抱えてうずくまる由里。
 そんな様子を見て、自分のせいで由里をさらに追い込んでしまったのではないかと思い、謝ろうとする夏海だったが、彼女の予想に反し、由里は突然頭を上げて大声で叫んだ。
「あー、もう! あぁもぉ、あぁもお、あぁ、もう! ……何やってんだろ、あたし」
「どうしたんだよ由里ちゃん。いきなりそんな声を出されたらびっくりするじゃないか」
 由里は自分に詰め寄るケイタロウにうるさいと一言叩きつけ、深呼吸をして気持ちを落ち着けると、今度は自分から夏海と向かい合った。
「光さん、あなたの言う通りかもね。うん、悩んだり怯えたりするのは後にする。あいつの顔に、一発パンチを入れた後でねっ」
 自分の中でそう結論付けた由里は、目を見開き、唇を固く結んで凛とした表情を作ると、立ち上がって栄次郎に空になったコーヒーカップを返し、応接間を出て玄関のドアに手をかけた。
「そうと決まれば善は急げ。タクミと会って直接話を聞いてくるっ」
「待ってよ由里ちゃん、話を聞くったって、たっくんが今どこにいるかわかるの?」
「あいつの考えそうなことぐらい分かるわよ。どうせ”いつもの場所”でしょ。おじいさん、コーヒーありがとうございました。それじゃっ」
 ケイタロウの制止も聞かぬまま、光写真館を出て駆けて行く由里。
「あぁあ、行っちゃった……。まったく、気分の浮き沈みが激しいんだからもう。にしても光さんはすごいなぁ。俺なんてあたふたしているだけだったのに」
「別にすごくなんかありませんよ。どうしようもなく不安で、怖くてたまらなくて……、大丈夫だって誰かに言ってもらいたかっただけなんです。わたしも……つい此間《こないだ》まではそうでしたから」
「光さんも? なんで」
 夏海は剣の世界での士とのやり取りを思い出し、遠くを見つめて一人小さく頷いた。
 門矢士は本当に破壊者なのだろうか。それはまだ分からない。だが彼自身はそれを肯定した上で、そうはならないと自分の前で言い切って見せた。夏海にとってはそれだけで十分だったのだ。
 だからこそ夏海には由里の気持ちがよく分かる。彼女も自分と同じで、答えを出せずにただ迷っていて、誰かにそれは違うと自信を持って言ってもらいたかっただけなのだと。
「あぁいや、気にしないでください。それよりも由里ちゃんを追いかけなくっちゃ」
「そ、そうだね。由里ちゃんのことだし、”いつもの場所”だってことは……」
「分かるんですか?その、いつもの場所ってところが」
「街外れの川沿いの橋だと思う。たっくん、落ち込むといつもあそこで川の流れをじぃっと眺めてるからさ。おじいさん、コーヒーごちそうさま! おいしかったです。ささ、行こう夏海ちゃん」
 会釈をし、夏海の手を引いて写真館を出るケイタロウ。栄次郎はまたおいで軽く手を振って見送ると、窓の外を見つめて一人つぶやく。
「それにしてもキバーラちゃん、一体どこまで遊びに行っちゃったのかねぇ。せっかくキバーラちゃん用のカップも用意したと言うのに……」
 ガムシロップの容器を半分にして作った小さなカップにコーヒーを注ぎ、栄次郎は溜息をついて座椅子へと腰かけた。

◆◆◆

 光写真館にて由里が目を覚ます少し前。
 日が落ち始め、街を夕焼け色に染める中。尾上タクミは一人、街外れの橋の上にて、重々しい表情で縁に寄りかかっていた。そんな彼に近寄る者がいる。由里でもケイタロウ達でもない。彼の愛機、可変オートバイの”オートバジン”だ。
 彼のことを心配しているのだろうか、ゆっくりとタクミの元へと歩み寄って来る。体に触れそうな距離まで近づいたところで、タクミはこれ以上寄ってくるなと合図した。
「僕を慰めようっていうのか? そんなものいらない。あっちに行ってよ」
 タクミは手と口で寄るな、離れろと合図したが、分かっているのかいないのか、オートバジンは首を横に振ってその場を離れようとしない。
 ロボットでありながら自分の意に背くオートバジンに苛立ちを覚えたタクミは、足元の小石を拾ってバジンに投げつけた。
「離れろって言ってるんだよ、このポンコツ! 僕の言うことが聞けないのか!」
 石を投げつけられて彼の心境を察したのか、それともただ諦めたのか。オートバジンは軽く頷いた上でその場を離れ夕焼け空へと消えた。
 大切な友達に、大好きな人に、今までひた隠しにしてきた正体を知られてしまった。彼女の眼は自分への怯えと拒絶に満ちていて、何を言っていいのかすら分からない。
 タクミはやりどころのない怒りや悲しみを噛み潰し、泣き出してしまいそうなほど曇った表情で夕焼け色に染まった川のせせらぎを見つめた。

「えぇっと、ポカリ四本にセブンアップ三本……ゴクリ二本にダカラ五本……あぁもう、なんで俺が使いっ走りにされなきゃならねぇんだよ、もう……」
 時を同じくして橋の向かい側。教師・小野寺ユウスケは、先の体育の一件以来自分の受け持つ生徒にすっかり舐められてしまい、彼らの水分補給用の飲み物を買いに走らされていた。
 授業を始める前から”全国大会出場経験がある”と生徒たちに自慢していながら、経験者でない士にぐうの音も出ないほどの敗北を喫した以上、彼に教師としての威厳などないに等しかったのだ。
 ユウスケは500mlのペットボトルがぱんぱんに詰まったビニール袋を両手に提げ、どうしてこんなことに、とぼやいて溜息をひとつ。
「……ん? あれは、どこかで……見覚えが」
 そんな彼の目に一人の男子生徒が止まった。物憂げな表情で川を見つめるタクミの姿に不安を覚え、ユウスケは彼の前に近寄った。
「ねぇ、ちょっと君。どうしたの」
「えっ、わっ! わっ……。来ないで、こっちに来ないでください……」
「そんな顔して橋の下で何やってんの。危ないよ」
「だから、その……来ないで、来ないで……」
 ユウスケにして見れば、それは興味本位から来た行動以外の何物でもなかった。
 しかし、タクミにとっては自分自身へと抱いた恐怖に、いつ近づくものを傷付けてしまうかという恐怖を上乗せされる行為以外の何物でもなかった。
 タクミはそれ以上寄るなと身振り手振りで伝えるも、何も知らないユウスケは彼を心配して歩を進めて行く。正気を失って追い込まれたタクミは天を仰いで一吠えし、顔に狼の模様を浮かび上がらせオルフェノクへと変身した。
「これ以上近寄らないで。近寄ったら……あなたを殺す、かも……しれないから」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! これは何の冗談だ」
「この爪が、この牙が見えないの? 僕は化け物だ。怪我したくないでしょう? したくなきゃ早く僕から離れてよ!」
 鋭い爪と牙をちらつかせ、ユウスケに早く立ち去るよう促すタクミ。タクミの捨て鉢のような態度に恐怖を覚えつつも、ユウスケの脳裏にはある疑問が過ぎっていた。
 ――彼はこの世界の怪人だ。それは間違いない。
 ――だったら威嚇して離れろって言わずに、そのまま襲えばいいじゃないか。
 ――あいつから見れば俺は何の力もない一般人のはずだ。おかしい、おかしいぞ。
 ――訳が分からない。わからないが……。
 脳裏に過ぎった疑問に自分の中で結論を出せない。悩みに悩んだユウスケは腹部の前で両手を構え、生成されたベルトのバックルを裏手で押し込んだ。
 ――変身っ!
 一瞬のうちにクウガに変身したユウスケは、真正面からタクミの両腕を掴んで橋の縁に押し付ける。
「君が自分のことを化け物だっていうのなら、俺だって化け物のお仲間だ。話だけ、話だけでも聞かせてくれないか? 頼むよ……」
 自分とは違う”異形”へと姿を変えたことに驚き、声を上げようとするタクミだが、彼はその声を遮り、落ちつけ落ちつけとなだめすかす。
 彼の姿とその言葉に安堵感を覚えたタクミは、人間の姿に戻って滑り落ちるように腰を下ろした。
 
 ユウスケの求めに応じ、タクミは彼に全てを打ち明けた。自分は何者なのか、オルフェノクとは何なのか、何故そうも取り乱していたのかを。
 タクミが全てを話し終えたのを見計らい、ユウスケは難しい表情を浮かべて口を開く。
「話してくれてありがとう。何というか、的を射た言葉になるかは分からないけど……、尾上タクミ君。その上で君は”一体どうしたい”んだい」
「僕がどうしたいか……、ですか?」
「友達に本当の姿を晒してしまって、どうすれいいんだって震えているのは分かったよ。でも、ずっとそうしているわけにはいかないだろ?
 オルフェノクとして人を襲う。人間としてオルフェノクから人々を守る。そうじゃなきゃ全部捨ててどこか遠くへ逃げるか……。どれを選ぶのも君の自由だ。決断は罪じゃない。何もしないで指を咥えて見ていることが罪なんだ。教えてくれ。君はどうしたい? 何を選ぶんだ」
 ユウスケの問いにうまく答えられず、タクミは川のせせらぎを黙って見つめてうなだれる。
 精神的に追い込まれた今の彼には、自分の意思で何かを決断することすらできなかったのだ。
 ユウスケはそんな彼の頭を軽く撫で、にこやかに微笑んだ。
「分からない、か。それも若さだ。それでもいい。けどさ、一つだけ……いいかな?」
「なんですか、小野寺先生」
「決断するのは罪じゃない。けど個人的には、”大切な人たちを傷つける”ような選択だけはしてほしくないんだ。人は、家族や友達、仲間や……恋人。誰かと共にいるからこそ、生きていられるんじゃないかって思う。
 俺も以前は君と同じだった。周囲からさんざん化物扱いされてさ、いっそのことやつらみたいに暴れるのもいいかなと思ってた。けど……、そうはならなかった」
「守るべき人が……大切な人が傍にいたから、ですか?」
 タクミの言葉に、ユウスケは黙って頷いた。
「どうしようない俺に“それでもいい、一緒に戦ってほしい“って言ってくれる人がいたんだ。初恋の相手さ。あの人がいなければ、俺も君のように思い悩んでいたのかも知れない。俺はその人を守ることが出来なかった。あの時ああしていれば、あれをやれていれば……、って今でも思う。君には俺と同じ後悔をしてほしくない。自分の想いをまだ伝えてないのなら、尚更さ」
 話していてかつての自分、かつての恋人のことを思い出したのか、ユウスケは寂しげな瞳で夕陽を見る。彼の言うことは信用できる。しかし、今の自分に何ができるというのだろうかと思い悩み、タクミは先ほどよりも暗い表情で、夕日に美しく照らされた川の流れを見つめていた。

「あー、やっぱりここにいた! たっくーん」
 そんな重い沈黙を破ったのは、タクミを探して橋の上へとやってきたケイタロウと夏海の二人であった。彼の身を案じて声をかけるケイタロウだったが、声をかけられた当人は申し訳なさそうに目を伏せ、彼に背を向ける。
「話を聞いてくださいタクミ君、わたしたちは……」
「待ってくれ夏海ちゃん。後は彼らの問題だ。俺たちが深入りするべきじゃない」
 気まずそうな雰囲気を察し、その場から去ろうとするタクミを呼び止めようとする夏海。ユウスケは自分たちは部外者だと、彼女の言葉を押し留めた。
 夏海は彼の言葉に従って口をつぐみ、沈みかけた夕日をバックに橋の上で二人の少年が向かい合った。
「ケイタロウ君。僕は、僕は……オルフェノクだ。これ以上一緒にはいられない。離して……よ」
 肩を震わせ、絞り出すようにして声を出すタクミ。オルフェノクの本能は人を殺し、仲間を殖やすこと。今の彼にそんな意思はないが、それがいつ、どのような要因で牙を剥いてしまうかは、自分自身にだって分からない。
 自分はここにいるべきではないんだと結論付け、そのまま立ち去ろうとするタクミに対し、ケイタロウは彼の手を強く握って“駄目だよ“と叫んだ。
「俺……、たっくんのこと怖いだなんて思ってない。自分の同胞と敵対してまで、ファイズとして俺たちを守ってきてくれたんだもん、怖いだなんて言えないよ」
 タクミの手を握るケイタロウの手は冷や汗で湿り、小刻みにかたかたと揺れている。
 オルフェノクが怖くないだなんて嘘だ。彼は怖いのを我慢しているにすぎない。しかしそれでもなお、ケイタロウは握る手から力を緩めようとはしない。
 ――オルフェノクに対抗できる手段が無くなるから?
 自分たちにとって都合の良い存在としか見ていない人間が、怖くてもなお怪物の手を握り、あまつさえ心配するだろうか? そんなわけがない。
 ――ならば何故。彼は手を握って自分の身を案じてくれるのだろう。
 タクミがその事に答えを出すよりも早く、ケイタロウは彼の目の前に回り、両肩を掴んでまくし立てた。
「オルフェノクだから何だって言うんだよ! それがたっくんの“顔”の一つだっていうんなら、俺は喜んで受け入れるよ。それぐらいの覚悟は出来てる。だって、俺はたっくんの友達なんだから」
 両肩を掴む手は相変わらず冷や汗でじわりと濡れ、ぶるぶると震えている。しかし受け入れると声を大にして語るケイタロウの目は、言葉に実を与えるほどの確固たる決意と覚悟で溢れていた。
 今まで嘘をつき続けていた自分を、今までと同じように信じてくれている。タクミにとっては、それが何にも増して嬉しかった。
「ごめん……ずっと、言い出せなくて……、ありがとう……」
「あぁあ、泣かないでよたっくん。ほら、顔を上げてよ、ねっ」
 感極まり、ケイタロウの胸の中で泣きじゃくるタクミ。ケイタロウは感謝と敬愛の念を込めて、親友の背中を優しく擦《さす》った。
「そうだ。そうだよ尾上タクミ君。涙は恥ずかしいことじゃない。自分の全てをさらけ出してこそ、絆や友情は強固なものになるんだっ」
「……なんでユウスケまで泣いているんですか」
 少年二人が互いに友情を確めて抱き合う所を見て、ユウスケは友情の尊さと美しさに涙し、夏海は何故部外者のユウスケが彼らよりも大粒の涙を流すのかと呆れていた。

「あぁそうだたっくん。由里ちゃんはまだ来てないの? 俺たちよりも先に出ていったんだけど」
 ケイタロウの問いに、袖で鼻をかみつつ首を横に振るタクミ。ケイタロウは自分たちよりも先に出ていながら、結局迷ったのかと呆れてしまった。
「まったく。いっつもいい加減なんだから……おっと」
 だがそこでケイタロウは、自分の上着の右ポケットが小刻みに震えていることに気付く。
 ポケットから黄色い柄の携帯電話を取り出してディスプレイに目を向けると、可愛くデコレーションされた画面の中で“友田由里“の名前が躍っている。
 “結局人に頼るのか”とぼやいて呆れつつ、ケイタロウは電話を耳に押し当てた。
「はい、もしもし? 今度からは先走らないで一緒に……」
「――尾上タクミ君はそこにいるかな? 海堂ケイタロウ君」
「え……ッ!」
 電話口の声に驚き、着信ディスプレイを見返すケイタロウ。友田由里からかかってきた電話のはずだ。ならば何故、そこから由里ではない別人の声が聞こえてくるのだ。
 しかもこの声には聞き覚えがある。ケイタロウは嫌な予感に身体を震わせ、声の主の名前を口にした。
「百瀬……生徒会長! どうして由里ちゃんの電話に!」
「ケイタロウ君、ちょっとそれ貸して!」
 “百瀬“という言葉が出た瞬間、青い顔をしてケイタロウの携帯電話を引ったくって耳に押し当てるタクミ。オルフェノクである彼は、人間の数倍優れた聴覚器官により、電話口で由里が″やめて″と叫んでいることと、さらにその奥で彼女以外の大勢の人間の悲鳴がこだましていることを聞き取ったからだ。
「百瀬生徒会長! 由里ちゃんに何を……、いや、今どこにいるんだッ」
「――その声は尾上君だね。君と話がしたくて彼女から″借りた″んだよ。……あぁそうだ。どこにいるか、だったね。僕は生徒会長だからね、いるべき場所と言ったら一つしかないだろう?」
 電話口の百瀬がそう言った矢先、言い返さんとするタクミの言葉を耳をつんざくような轟音がかき消す。どうしたことかと電話を耳に押し当て周囲を見回すタクミの目に、亀裂を走らせ倒壊してゆく学校の時計台の姿が留まった。
「まさか、学校!? 一体何を」
「――僕たちの計画の第一歩さ。日本有数のハイテク学園、『スマートブレインハイスクール』。こいつを占領して人間たちに宣戦布告するんだよ。街に潜むオルフェノクたちはみんな僕の味方だからね、陽が落ちるまでには決着は着くだろう」
 自信たっぷりにそう語る百瀬の声に、倒壊する時計台と、電話口から漏れる人々の悲鳴。タクミは体を震わせ、彼への怒りを募らせる。
 だが一つだけ、どうしてもタクミの腑に落ちない点があった。蜂起は既に始まったとは言え、何故敵である自分にそれを伝える必要があるのだろう。
 あのような規模の暴動ならば、伝えようが伝えまいが同じではないのか。とてもじゃないが自分ひとりではどうすることもできないし、万が一自分に阻止されたらどうするのだ。それが分からないで暴動を起こすような馬鹿ではあるまい。
 何故こんなことをと問うタクミに対し、百瀬はそれに自分の言葉を被せて話を続けた。
「――あぁそうそう、君のお友達の友田さんだが……。君にお返ししたいと思っているんだけどね、今やここは人間嫌いのオルフェノクの巣窟だ。僕の同胞たちがうっかり殺してしまうかもしれない。なるべく早めに学校まで来てもらえると嬉しいな。それじゃあ」
 タクミの反論や問いを許さないままに電話は切れる。電話の奥で″来ちゃだめ、殺されちゃう″というか細い声が聞こえた。由里のものと見て間違いないだろう。
 タクミは沸き上がる怒りを抑え、携帯電話をケイタロウに返して踵を返した。
「ケイタロウ君。ちょっと、由里ちゃんを迎えに行ってくる。すぐ、戻るから」
「ちょ、ちょっと待ってよたっくん! 電話口からの話は俺たちにも聞こえた。オルフェノクたちが学校で暴れているんだろ? 危険すぎるよ! もう、ファイズのベルトだってないのに」
「でも! 僕が行かなきゃ、由里ちゃんは……由里ちゃんは間違いなく殺される! 危険なのは承知の上さ、お願いだ、行かせてよケイタロウ君」
「だったら……俺も行かせてよ。たっくん一人になんかさせられないよ」
「オルフェノクは人間の心臓を触手で突いて、一撃で人を殺すんだ。たとえ生きていたとしても……、オルフェノクになったケイタロウ君を手にかけるような真似だけはしたくない。……分かってよ!」
 声を荒げてまくしたてるタクミの言葉に、二の句が継げず押し黙るケイタロウ。
 ファイズになれないタクミに勝ち目はないだろう。しかしたとえついて行ったとしても、足手まとい以外の何物にもなれない自分に、彼を責めることなどできはしなかった。
 故にケイタロウは拳を握って歯を食い縛り、絞り出すような声でタクミに言った。
「絶対に……絶対に生きて帰ってきてよたっくん。うちは由里ちゃんと俺とたっくんの三人で写真部なんだ。俺一人になるなんて、絶対に嫌だからね」
「分かってる。また一緒に写真を撮ろう。僕と由里ちゃんと、ケイタロウ君の三人で」
 今にも泣き出してしまいそうなケイタロウに、タクミは”生きて戻る”という言葉の代わりに、そっと右手を差し出して握手を交わし、再び彼に背を向けた。

 タクミの目の前に、先程空へと飛び去ったはずのオートバジンが立っている。
 今までのやりとりを聞いていただろうか、バジンは向かい合ったタクミに軽く頷くと、ひとりでにバイクの姿へと変形し、乗ってくれと言わんばかりにアクセルを軽く噴かした。
「ありがとう、オートバジン。学校まで行ってくれ、頼む」
「おっと、ちょっと待ってくれ」
 一礼して頷き、オートバジンに跨り、キックレバーを強く蹴り込んでエンジンを吹かすタクミ。隣で見ていたユウスケは、それと同時にバジンの後部座席に跨り、タクミの腰を掴んで言った。
「話は聞かせてもらった、俺も連れて行ってくれないか、タクミ君」
「小野寺先生、でも……」
「赴任したばかりで先生と言えるかは分からないけど……、助けられる”生徒”を見殺しにするわけにはいかない。俺のバイクは学校に停めたままなんだ。君の足手まといにはならない。頼むよ」
 ユウスケの目は本気だ。自分とは違うが彼もまた人外の化け物であり、口ぶりからしてこういった戦いに自信があることは理解できる。タクミはお願いしますと一礼し、彼に予備のヘルメットを手渡した。
「夏海ちゃん、後はよろしく頼む」
「えぇ。ユウスケもタクミ君も、気をつけて……」
 二人は夏海の言葉に頷くと、景気よくアクセルを吹かして学校目掛けて走り去って行く。ケイタロウは彼ら二人の後ろ姿を不安げに見つめ、消え入りそうな声で呟いた。
「無理だよ、無茶だよ……。もうファイズにだってなれないのに……」
 タクミたちの身を案じて不安がるケイタロウ。夏海はそんな彼の右手を握って、大丈夫ですと言葉を返した。
「ユウスケもタクミ君も強い人ですから。それに、友達のケイタロウ君が信じてあげなくて、誰が彼を信じてあげられるんです。信じて待ちましょう。信じて……」
 不安がるケイタロウを勇気付けるために呟いたのだろうが、当の本人の表情は硬く、彼女もまた恐怖に体を震わせている。不安なのは自分一人ではないのだ。
 ケイタロウは彼女の言わんとすることを察し、夏海の手を握り返して頷いた。

◆◆◆

 絶え間なく波が打ち寄せる海沿いの岩肌。
 門矢士と海東大樹は鳴滝によって別世界へと連れて来られ、彼らに明確な殺意を向ける謎の仮面ライダー『幽汽《ユウキ》』と向かい合っていた。
 ディケイドに変身し迎え撃ちたいところだが、ライダーカードが納められたライドブッカーは海東の懐の中。変身することはできないのだ。
「さぁて、どっちからブッ潰してやろうかなぁ……と。よぉし、てめぇだ」
 仮面ライダー幽汽は楽しげに剣先で士の顔を指すが、彼は納得がいかないと幽汽に言葉を返した。
「お前らが殺したいのはこいつだろう? やるんならあいつとやれよ」
「それはあのおっさんが言ってるだけ、俺には何の関係もないね。それに俺は弱いものいじめってが三度のメシより好物なんでな」
「そうかよ。あぁもう、こうなりゃヤケだッ」
 ディケイドに変身できない以上、この場で最も弱いのは自分だ。それは理解している。だからと言って、こんなふざけた奴に殺されてたまるか。士は手に持ったファイズのベルトを腰に巻き、携帯電話の五のボタンを三度叩いてバックルに差し込んだ。
 ――5・5・5. ENTER. Standing by.
 ――変身!
 ファイズのエネルギーの源、“フォトンブラッド”が士の体に駆け巡って行く。ベルトを巻いた士も、それを端から見ていた海東も、当然ファイズに変身できるものだと思っていた。
 ――ERROR.
 しかし、体を走るフォトンブラッドは、″エラー″という無機質な電子音声と共に立ち消え、士は逆流したフォトンブラッドの反動で撥ね飛ばされ、岩肌に背中をしこたまぶつけてしまう。
「なん……だよ、こりゃあ!」
「おいおいなんだそれは。宴会の持ちネタか? 笑えねぇ冗談だぜ」
 ベルトを巻いた士も、それを見て笑う幽汽もどうしてそうなったのかわからない。
 傍目で見ていた海東だけはそうなった理由を理解したらしく、なるほどと唸って手鼓を打った。
「オルフェノクを抹殺すべく開発された、フォトンブラッドの戦士『仮面ライダーファイズ』。
 だが、高純度のフォトンブラッドは、普通の人間にはとても耐えられない。その力に耐えられるほど強靭な肉体を持つ者でなければ、ベルトは扱えないということか。例えばそう……”オルフェノク”、とかね」
 オルフェノクを倒すために作られたものが、力が強すぎてオルフェノクにしか扱えない。海東は間抜けな話だと一笑して、落ちたベルトに手をかける幽汽に手を延べた。
「それは君ごときが持っていても何の意味もない代物だ。こっちに渡してくれないかな、哀れな亡霊君」
 海東の人を小馬鹿にしたような態度と言葉に、幽汽は仮面の奥で嫌らしくにたにたと笑い、ベルトの代わりに剣先を彼に向けた。
「やなこった。誰がお前なんかに渡すかよ。こいつは俺が拾ったんだ、そんなに欲しけりゃ……」
「欲しければ、どうしろと?」
「力づくで奪ってみなッ、俺からなぁ!」
 言うが早いか、幽汽は海東の首を取らんと飛びかかる。彼の言葉が気に障ったのだろうか。
 海東は救いようのない馬鹿がと吐き捨て、ディエンドライバーに「ディエンド」のカードを装填して引き金を引いた。
 ――変身
 ――KAMEN RIDE 「DI-END」!
 銃口から撃ち出されたカードは、幽汽を弾き飛ばしたうえで、戦士の虚像と共に海東の体に取り込まれ、一瞬のうちに彼の体を仮面ライダーディエンドへと変えた。
「いいだろう、じゃあ力ずくで頂くとするよ。君のちんけで愚かな命と共にね。……おっと、君はもう死んでるんだっけ」
「舐めた真似しやがって、クソがっ、ブッ潰してやらぁ!」
 出鼻を挫《くじ》かれ苛立つ幽汽は、体勢を立て直すと共にその苛立ちを手にした剣に込めて豪快に振り回す。しかし苛立ちに駆られ、直情的で勢い任せな太刀筋ほど、動きを読みやすいものはない。
 ディエンドはあえて彼の剣の間合いに入り込んで、それらを丁寧にかわしつつ、素早い左拳を鳩尾に数発、重い右回し蹴りの一撃を彼の右頬目掛けて叩き込み、幽汽の体を地に伏せさせた。
「吹っ飛ばされてもファイズギアを手放さないとは大したものだ。だがこれで分かっただろう? 君じゃあ逆立ちしたって僕には勝てないってことがさ」
「ちきしょう……! なめんじゃねぇ! なめんじゃねぇぞォ」
 力の差を見せつけられた上に、神経を逆撫でされて逆上した幽汽は手にした剣を勢いよく振り下ろし、生じた衝撃波でディエンドを跳ね飛ばして膝をつかせた。
「くっ……、亡霊の分際で、くだらない小細工を考えるじゃないか」
「ひゃあっはっはっは! どうだ馬鹿野郎! 舐めンじゃねぇぜこの野郎!」
 膝をつきつつよろよろと立ち上がるディエンドを見下ろし、彼をせせら笑う幽汽。ディエンドはそれに対し怒ることなく、体勢を立て直して左腰のカードホルダーから一枚のカードを取り出した。
「やれやれ。生意気な亡霊相手には『吸血鬼《ヴァンパイア》』がお似合いかな。そぉら」
 ――KAMEN RIDE 『KIVA』
 彼がカードホルダーの中から取り出したのは『仮面ライダーキバ』のカード。士が持っているものと全く同じものだ。
 何故お前がそれを持っている、と士が聞こうとするよりも早く、それを装填して引き金を引くディエンド。銃口からキバの紋章と共に数体の虚像が放たれ、現れ、重なり合ったそれは”仮面ライダーキバ”へと姿を変える。
 驚き戸惑い、キバと取っ組み合う幽汽を尻目に、ディエンドは背後で口を開いて茫然としている士に声をかけた。
「『どうしてお前がそれを』とでも言いたげな顔だね。パラレルワールドってのは無数にあるんだ、君が巡ったキバの世界だけだとは限らない。同じキバが複数いても不思議じゃあないだろう?」
「それはまぁ……そうだが」
 自分とてこれまで数々の世界を巡ってきたのだ。同じ仮面ライダーが複数存在していても不思議ではないのかもしれない。士は一人で納得して頷き、ディエンドは幽汽との取っ組み合いに負けて地に伏すキバに対し、無感情に銃口を向けて言った。
「誰が戦えと言った? お前の役目はあいつを倒すことじゃあない」
 ――痛みは一瞬だ。
 ――FINAL FORM RIDE 「Ki-Ki-Ki-KIVA」
 以前ディケイドが用いたものと同じ”ファイナルアタックライド”のカードをドライバーに装填して引き金を引くディエンド。
 銃口から放たれた紋章はキバの胸を撃ち抜き、自身が直接触れることなく、彼の体を”キバアロー”へと変える。この怪異に戸惑う幽汽を尻目に、ディエンドはドライバーを腰に提げてそれを掴んで彼の目の前に向けた。
「何だぁ? 何だぁそりゃあ。そんな馬鹿みてぇにでかい弓矢で何しようってんだ」
「何だっていいだろう。これから”死ぬ”君にはね」
「いちいちカンに障る野郎だな。いいぜ、だったら、俺もおぉッ」
 自分に向けて弓を引くディエンドに対し、幽汽は体中のエネルギーを解き放って”髑髏《ドクロ》の形状をした蒸気機関車”を生み出し、ディエンドに向けて打ち込んだ。
「どぉだバーコード野郎! こいつは耐えられねぇだろう! 轢《ひ》かれて肉片になっちまいな!」
 暴風のような唸りを上げ、髑髏顔の列車がディエンドの眼前に迫る。もう避けようがない。しかしディエンドは怯えることも逃げることもなく、目の前の幽霊列車目掛けて力いっぱい引かれた矢を放った。
 拘束具を解かれ、力を解放したキバの足を模した弓矢は青色のエネルギーを纏って勢いよく飛び、幽霊列車を”掻き消して”一直線に突き進み、それを放った幽汽の腹部を貫くと同時に、彼の体を七色に光り輝く結晶のようなものに変えて拘束した。
「な、なな……なんだよこれは! 動けねぇ、動けねぇぞちきしょう!」
「ま、人生なんてそんなものさ。さぁて、亡霊君にはそろそろご退場願おうか」
 ――FINAL ATTACK RIDE 「De-De-De-DIEND」
 ディエンドはキバアローを放り、腰に提げたドライバーを再び構えて、ファイナルアタックライドのカードを装填。
 螺旋状に広がるカードの束から放たれた青黒い光線は、先んじて召喚されたキバをも吸いこんで力に還元し、身動き一つ取れない幽汽の体を撃ち貫き、彼が手に持っていたファイズギアを残して、それ以外を細胞の一片まで焼き尽くした。
 焼け跡に残った”幽汽”の顔が描かれたカードを拾い上げてホルダーにしまい、ディエンドは高台で立ち尽くす鳴滝に向けて言った。
「お仲間は始末させてもらったよ。さて、この次はどうするつもりだい?」
 得意気にそう語るディエンドに対し、怒りに拳を震わせた鳴滝は、親の仇を見るような目で睨み付けて言葉を返す。
「残念だが今回はここまでだ。しかし忘れるな。そいつを持っている限りお前は絶対に私から逃げられない。貴様の未来に光などない! 忘れるなディエンド」
 苦々しくそう吐き捨てると、鳴滝は光のオーロラを生じさせてディエンドと士に向けて放ち、彼らをこの世界から”追いだした”。
「失敗、ね。まァ当然の結果じゃない? だってあの子たちは若いんだもの。あの子たちの”成長”を見誤ったあなたの負けよ、負け」
 誰も居なくなった波打ち際を黙って見つめる鳴滝に、どこからともなく現れたキバーラが声をかける。
 彼の失態を小馬鹿にして楽しげに笑うキバーラに対し、鳴滝はそれを咎めることなく、憤怒の表情を浮かべて答えた。
「そうだな、認めよう。確かに私は彼を侮っていた。”計画”の修正が必要な頃合いなのかもしれん。今以上に”実験”を進めなくてはな。覚えていろディエンド、そしてディケイド」
「陰険な上にその負けず嫌いさ、嫌いじゃアないわよ。あははっ」
 拳を握ってディエンドたちへの復讐を誓う鳴滝に対し、キバーラは彼の周りをふわふわと飛び回り楽しげな声で笑った。

「ここ……は、さっきの公園。戻ってきたのか、ファイズの世界に」
「そのようだ。君にも僕にも、自分が行く世界を選定する力はない。ここに戻れて幸運だったね」
 陽が落ち切り、夕暮れ時から夜の暗い空へと様変わりする頃。鳴滝によって別の世界に飛ばされていた士と海東は、ファイズギアを巡って争っていたあの公園へと戻っていた。
 あまりに唐突に変わったがために、士は先程までのことは夢か幻かと困惑するが、自分の懐にライドブッカーがないことと、代わりに自分の手にファイズギア一式が握られていることから、これまでの出来事が絵空事ではないことを彼に知覚させた。
 無事にファイズの世界へと戻って来られたことを理解した海東は、ファイズギアを奪い取るべく再びディエンドライバーの銃口を士に向ける。
「ご帰還おめでとう。今度こそそれをこっちに頼むよ、士」
「帰ってきてすぐそれか。こいつはタクミのものだ。渡せるわけねぇだろう」
「君の大切なものはここにあるのに、よくそんなことが言えるねぇ。君は何だ? どうしようもない頑固者なのかい」
「頑固だろうが何だろうがこいつは渡さねぇ。お前みたいなこそ泥にはな」
「意地を張るのもいい加減にしたまえ。さもなくば……」
 痺れを切らせて海東が引き金に手をかけたその時、校内放送のチャイムが街中に鳴り響いた。
 どうしたことかと辺りを見回す二人の目に、倒壊した時計台の上に登り、勝ち名乗りと思しき唸り声を上げる牛のオルフェノクの姿が留まり、同時に『決起を促す』声明がアナウンスによって告げられた。
 ――オルフェノク達よ起て! 今こそ立ち上がるのだ! 恐怖しろ、脆弱な人間共!
 ――この世界は我々オルフェノクのものだ! 人間共を殺せ、潰せ、滅ぼせーッ!
 ――集え、この街の中心へ! 作り上げるのだ、新たなる秩序を! 新たなる世界を!
「なんだ、なんだ。このアブない政見放送みてぇなのは。学校の方から聞こえてきたが……」
「この声は……、あの生徒会長君か。なるほど、とうとう動き出したってわけか」
 ”動き出した”という言葉に反応し、改めて学校の方に目をやる士。
 学校の象徴であった時計台はもはや見る影もなく、その周辺でもうもうと火の手が上がっている。加えて街の隅々まで聞こえるこの放送だ。何もない方がおかしい。
 士は腕を組み、目をつぶって散々迷った末に、手に持っていたファイズギアを海東に手渡した。
「お前の出した交換条件だ、これなら文句ねぇだろう。そいつを返してもらおうか」
「これは一体どういうことだい? さっきまでと言っていることが違うんじゃないか」
「オルフェノクが大挙して襲ってるってんなら、そこには確実に尾上タクミがいる。ファイズの力なしに奴らをねじ伏せられるとは思えねぇ。だったら俺が行ってやるしかねぇだろう」
「分からないな。君たちは今日この世界に来たばかりのはずだ。出会って間もないような奴を助けに、無益な争いに身を投じると言うのか? 見返りも無いのに……愚かだとは思わないのかい?」
「無駄だの愚かだの、てめぇのモノサシで測って判るもんじゃねぇだろ。それにな、タクミたちにはファイズギア《そんなもの》よりも、ずっと大切な”お宝”がある。そいつを守ってやりたいんだよ。俺は取引に応じたぜ、お前はどうなんだ?」
 海東には分からない。士は何故、知りあって間もない人間のために、自分にとって無益以外何物でもない戦いに身を投じようと言うのか。
 ”ファイズギアよりも大切なお宝”? そんなものあるわけがない。”自分の考えを否定できるのは自分だけ”? 理解できるが、あまりにも愚か過ぎる。
「いいだろう。これで貸し借りはなしだ。とっとと行きたまえ」
 だが彼は自分の出した条件に応じてファイズギアを差し出した。もはや引き留めておく理由はない。海東はライドブッカーを士に投げて寄越し、ファイズギアを彼の手から引っ手繰った。
「あぁ、そうさせてもらうよ」
 ――KAMEN RIDE 「DECADE」!!
 ――ATTACK RIDE 『MACHIN DEDADER』
 ライドブッカーからカードを引き抜いてディケイドに変身し、公園前に停められていたバイクをマシンディケイダーに変えて跨る士。
 勢いよくエンジンを噴かせて学校へと向かうディケイドを、海東は複雑な面持ちで見送る。
「これよりも……大切なお宝、ね」
 手に持ったファイズギアに目をやり、海東はどこか満ち足りなさを顔に浮かべた。

◆◆◆

「なんだ……こりゃあ……」
「オルフェノクが……こんなに!」
 ディケイドを学校に向かわせる発端となった決起放送から、遡ること数十分前。先んじて到着した尾上タクミと小野寺ユウスケは、学校の惨状を見て唖然としていた。
 校舎の至る所でガラスが割れ、火の手がもうもうと上がり、灰色の化け物がグラウンドの上を闊歩し、”元は人間だった”白い灰が、風に乗って至る所で舞っている。考えられる中で飛びぬけて最悪の事態だ。
「ん? なんだ、お前ら……」
「人間よ、人間がまた現れたわ」
「人間は殺す。全部殺す! 生き残るべきはオルフェノクのみ」
 バイクの排気音を響かせていて、彼らに気付かれないわけがない。二人はあっという間にグラウンドを闊歩するオルフェノクたちに取り囲まれてた。
「タクミ君、先に行け。こいつらの相手は俺に任せろ」
「そんな! でも、先生……」
「惚れた女の子を助けたいんだろ? ここでやらなきゃ男がすたるぜ」
 やめるべきだと説得するタクミに反し、自らオートバジンから降りて構えるユウスケ。彼の判断は正しい。事態は一刻を争うのだ、こんなところでぐずぐずしてはいられない。
「ここはお任せします。オートバジン、バトルモード!」
 タクミはユウスケに一礼すると、オートバジンを変形させて彼の背に乗り、火の手の上がった校舎へと向かう。彼が飛び去ったのを見届けたユウスケは、クウガに変身し、それでもなお彼らを追おうとするオルフェノクたちに掴みかかった。
「少年が”男”になろうとしてんだ。邪魔するのは野暮だろ野暮。そんなに戦いてぇんなら、俺が相手になってやるよ、かかってきな!」
 言うが早いか、一斉にクウガに飛び掛かるオルフェノクの一団。
 クウガは一段の攻撃を丁寧に捌きつつ、校舎へ向かうタクミに頑張れと大声でエールを送った。

「……くそっ、あいつらはどこにいるんだ」
 オートバジンの背から割れた窓ガラスの先を見つめ、ラッキークローバーの面々を探すも、それらしき人影は見当たらない。
 タクミの心に焦燥が募る中、 壊れかけた壁掛けスピーカーを通して、生徒会長百瀬シュウジの声が校内に響き渡った。
 ――起て、今こそ立ち上がるのだ、オルフェノク達よ! 恐怖しろ、脆弱な人間共!
「この声は……、間違いない!」
 己の地位を利用して由里を手にかけようとした男の声だ。忘れようがない。加えてスピーカーを用いたこの演説。校内広しと言えど、そんな設備がある場所はひとつだけだ。
「オートバジン、三階の”放送室”だ! このまま突っ込めッ」
 タクミの求めに応じ、オートバジンは彼を自分の大きな背に隠すと、ひび割れた壁に突進してぶち破り、無理矢理放送室に乗り込んだ。
「なんだ!? 討ち入りか! 討ち入りなのか?」
「落ち着きなさい玄田君。想定の範囲内でしょう」
 中では朱川と玄田が由里を捕まえて壁に押し付けており、百瀬が放送席でどっしりと構え、オルフェノクの蜂起を促す放送を今も続けていた。
「タクミ……! ダメッ、来ちゃダメ! 殺されちゃう」
「由里ちゃん! お前ら、由里ちゃんを離せッ!」
 タクミの姿を見た由里はうなだれていた顔を上げ、彼の助けを拒むが、彼女を壁に押し付ける玄田たちの姿を見て激昂した彼の耳には届かなかった。それらのいざこざを耳にし、放送を終えて一段落ついた百瀬は、放送席から立ち上がってタクミと向かい合う。
「やぁ、よく来てくれたね。君をここまで呼んだのは他でもない。今までたくさんの同胞を葬ってきたとはいえ、君が優秀なオルフェノクだ。このまま殺すには惜しい。丁度欠員も出たことだし、入ってみないか? 僕たち『ラッキークローバー』に」
 百瀬の口を突いて出たのは、自分たちの仲間にならないか、という意外な言葉だった。
 仲間殺しに対する恨み節でも聞かされるのではないかと勘繰っていたタクミは、彼が発した予想外の言葉に一瞬戸惑うも、鋭く尖った白い歯を剥き出しにして答える。
「由里ちゃんを攫っておいて、今さら何のつもりだ。僕がそんな誘いに応じると、本気でそう思っているのか?」
 タクミは百瀬の申し出に対し、願い下げだと床に唾を吐く。そうなることと相手も想定していたらしく、百瀬は彼を見下したような目付きと薄笑いを崩さず近寄った。
「勿論、承諾してくれるものだと思っているよ。しかし今はまだダメみたいだね。仕方がない、君が首を縦に振りたくなるよう、少し痛め付けさせてもらおうかな」
 百瀬はそう言うと、放送席のマイクの隣に置かれていたベルトを手に取って腰に巻き、拳銃を模した携帯端末を握って自分の耳元に当てた。
「それは、そのベルトは……まさか!」
「その″まさか″さ。だが、ファイズのベルトとは違う。こいつはファイズの『試作品』でね。力が強すぎて普通のオルフェノクには扱えない曰く付きの品さ。さぁてと、今こそお目にかけよう、『デルタ』の力を!」
 ――変身。
 ――Standing By.Complete.
 携帯端末は”変身”という言葉に反応して無機質な電子音を発し、百瀬がそれをベルト右腰のホルスターに挿すと、同時に彼の体を白色の光で覆う。
 百瀬の体は一瞬のうちに、ギリシャ文字の”Δ《デルタ》”を顔に張り付け、似たような文様を体の各所に残す、黒いボディに白い光が流れる戦士へとその姿を変えた。
 ファイズとは異なるベルトの戦士、『仮面ライダーデルタ』だ。
「まさか……こんなやつが……!」
「おっと、茫然と突っ立ってていいのかな?」
 自分《ファイズ》とはまた違う戦士を目の当たりにして驚愕するタクミの隙を突き、仮面ライダーデルタは一瞬のうちに彼の懐に潜り込み、肝臓目掛け右拳を振るった。
 素早く重い一撃を浴びたタクミは、血と灰が入り混じったような吐瀉物《としゃぶつ》を噴き、体をくの字に曲げて倒れこんでしまう。

 主人の危機に、タクミの隣で立っていたオートバジンが動いた。デルタ目掛けて渾身の鉄拳が飛ぶ。デルタは体を捻らせて難なくかわし、右腰のホルスターから携帯端末と銃器を兼ねた武器『デルタムーバー』を引き抜いて、背中を向けたバジンの体を容赦なく撃ち抜いた。
 オートバジンはその場に突っ伏して活動を停止し、黒い煙を噴いて赤黄色の火花を散らしてしまう。
「覚悟しておきたまえ尾上タクミ君。悪いけど僕は、手加減する気など一切ないからね」
 倒れ込むタクミの体に体重のかかった右足を乗せ、デルタは心底楽しげな声で笑った。
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~ Comment ~

NoTitle 

ファイズ偏きたーと思ったらもう後編でしたか(^^;

お久しぶりです。実はファイズ偏とアギト偏が一番楽しみだったのでかなり嬉しいです。

これからもディケイドリミックスを楽しみにしてます。

NoTitle 

 超OKAMAさんお久しぶりです。

 剣編よりも先に編集をかけてたんで、いつもより早いタイミングで投稿することが出来ました。それまで相当時間かかってましたけどね……。

 アギト編は来週から掲載を始めますので、もうしばらくお待ちくださいね。

 では、では。
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