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 ←剣《ブレイド》の世界・世界観および設定まとめ →Journey through the Decade Re-mix 第六話 「555つの顔、一つの宝」 二時間目
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「Journey through the Decade Re-mix」
Journey through the Decade Re-mix(2)

Journey through the Decade Re-mix 第六話 「555つの顔、一つの宝」 一時間目

 ←剣《ブレイド》の世界・世界観および設定まとめ →Journey through the Decade Re-mix 第六話 「555つの顔、一つの宝」 二時間目
 FC2ブログの「カテゴリ表示制限」により、「アギトの世界」の途中以降の話が「作品もくじ」内に表示されなくなっていました。
 このため、「ブレイドの世界」までと、今回の「ファイズの世界」以降とでカテゴリを分割させることとします。

 ブレイド編以前の作品は「Journey through the Decade Re-mix」より、
 それ以降の作品は「Journey through the Decade Re-mix(2)」のもくじからご覧くださいませ。



 







仮面ライダー555《ファイズ》』。

 携帯電話で変身し、闇夜に映える赤いラインに、CGによって美麗な必殺技の数々。
 筆者はDVDによる後追い組でしたが、ファイズの格好良さに一時期非常に惚れこみ、今でも手を軽くスナップしたり、クリスマスに親に頼んで“買ってもらった”誘導灯を振り回して遊んでいました。(当時)高校生にもなって……。

 その他、”怪人の悲哀”に焦点を当てた重く哀しい作劇展開や、同じ仮面ライダーでも変身者が“複数存在”していたり、”仮面ライダーカイザ/草加雅人”をはじめとした強烈なキャラクターの数々。
 平成ライダー作品群に新たな一ページを刻んだ一作だったように思います。

 そんな555の『陰性』の部分を廃し、少年少女の恋や絆に焦点を当て、”学園ドラマ”という味付けを加えた555の世界編。『仮面ライダーフォーゼ』の前身ですね。そっちのネタが含まれることはきっと無いでしょうけど……。


◆◆◆

 先月配属されたばかりの新人警備員・平野と、この道五年のベテラン・藤野は、全く正反対の性格の持ち主だ。平野は『学園を不審者の手から守る』仕事を誇りに思い、逆に藤野はこんな仕事に何の意味があるのかと疑問を感じ、一挙一動が適当で、やる気が感じられない。
 二人の男はそれぞれ違った表情を浮かべ、懐中電灯片手に学内を巡回していた。

「あぁあ、なんでこんなことをせにゃならんのだ。不法侵入者なんて、“オートボット”に任せて放りだせば良いものを」
「ここの生徒かもしれませんし、無下に扱うのはどうかと思います。それと藤野さん、学園内は喫煙厳禁です。あなたがあいつらに伸されちゃいますよ」
「若いねぇ。入りたての新人は皆そういうことを言うもんだが、それもいつまで続くかどうか……」
 藤野のぼやきはいびりなどではなく、実体験に基づくものだ。

 彼がそう思うのも無理はない。私立『スマートブレインハイスクール』は一学年五クラス、総勢450人が通う名門高校。生徒の質も気風も日本一と名高いこの学校は、地球の軌道を周回する専用の小型人工衛星によって、学園全体をくまなく見渡せるようになっている。
 異常が見受けられた場合は、学内に配置されている警備員に連絡が入り、衛星によって指定された最短ルートを通って現場に急行するか、学内の至る所に配備された防衛用多足型兵器《オートボット》が対象を強制的に排除する。
 早い話が日本はおろか、世界最先端の警備システムが備え付けられた学校なのだ。ならば何故、彼らはわざわざ夜の見回りに出ているのだろう。
 十分前、警備室で待機していた夜勤者の二人の元に、衛星からの『不法侵入』通告と映像が入った。オートボットで叩き出せと投げやりに答える藤野に対し、侵入者が『制服を着た少女』であることに気付いた平野は、”忘れ物を取りに来たのかもしれない”と思い、直接会って話を聞こうと提案。ごねる藤野を強引に引っ張り、今に至るというわけだ。
「あっ、藤野さん。あの子ですよあの子」
「なんだいなんだいこんな夜更けに。何しに来たんだっての」
 そうこうしているうちに、二人はセーラー服を身に纏った、生真面目そうな黒髪お下げの少女の姿を見つける。彼女を見て思ったことは両者異なるも、取り敢えず声を掛けてみることにした。
「もしもし、どうしたのかな。忘れ物?」
「……」彼女は無表情のまま言葉を返そうとしない。その様子をまどろっこしく感じた藤野は、平野を押し退け、少女の前に回り込む。
「鍵をかけているからもう校舎には入れないよ。用がないなら帰った帰った」
「藤野さん、その言い方はよくないですよ」
「こんな時間に学校に来るやつなんざ、ろくな奴じゃねぇって昔から相場が決まってんだよ。それによく見ろ考えろ。この学校の制服は男女共にブレザー。なのにこの子は青紫のセーラー服。うちの生徒じゃねぇ」
 平野は確かにそうだと手を叩いて納得し、改めて少女の姿を見留める。しかしそれは些細な問題であった。何故なら彼女の姿を見ると同時に、その背後の校門を取り囲む壁の一部に、人ひとりが通れるほどの大穴がぽっかりと開いていたのだから。
 同時に、これまで沈黙を続けていた少女が唐突に口を開く。三つ編みを解き、眼鏡を投げ捨てた彼女の姿は、先程までとは別人のように思える。
「アタシね、この学園の入学試験を受けたの。こんなだっさい黒髪三つ編みにして、メイクも落としてよ。でもここの先生《センコー》ったら、“日々の素行が悪いやつに入学の資格はない”って。冗談じゃないわよ。ホンっト、冗談じゃない。だからさ、今からアタシのやること、全部八つ当たりだから……。ごめんね」
 平野と藤野はこの日一番の驚きと恐怖を味わうこととなる。学園への恨み言を呟いた少女の顔に、突如″蝶″のような禍々しい紋様が浮かび上がったかと思うと、彼女の体は蝶を顔に貼り付けた灰色の体の怪物へと姿を変えたからだ。
 二人は逃げようと踵を返すが、時既に遅し。彼女の人差し指から伸びた触手に右胸を突き刺された平野は、制服を、肉を、骨を貫通して心臓を串刺しにされてしまう。
 少女の人差し指を通じ、不可思議なエネルギーが彼の心臓に注ぎ込まれて行く。平野の顔から急激に生気が失われていき、藤野が声をかけるよりも早く、警備員の制服を残して灰の塊へと変わった。
「ば……、ばば、化物……!」
「心外ね。アタシだって物は食べるし、面白いものを見れば笑うし、恋のひとつだってするわよ。あなたたち人間のようにね」
 腰を抜かして尻餅をつき、後退りする藤野を、蝶の怪物は指先から触手を伸ばし、じりじりと距離を詰めて行く。さっと近づいて一思いに仕留めない辺りに彼女の性格の悪さを見たが、どうしようもない。
 万事休す。つまらない人生だったなあと悔やみ、藤野は後退るのを止めて項垂れた。彼の右胸目掛け、怪物の触手がしなって跳ぶ。

 だが、それが藤野の心臓を突き刺すことはなかった。しなって跳ねた触手は、機関銃のごとき轟音を響かせ放たれた銃弾によって千切り飛ばされ、彼の右胸に到達しなかったからだ。
「なっ! なによ、何なのよーッ」
 千切り飛ばされた右人差し指の先を擦り、月の光輝く夜空に目を向ける。頭上に視線を移した瞬間、怪物は満月に太陽の黒点のようなものが生じ、少しずつ大きくなっているのに気付く。
 あっという間に空から降りてきて、自分と怪物を挟むようにして立ちはだかったそれは、背丈も体格も怪物より一回りも大きい、月光に冴え銀色に輝く人の形のロボットだった。
「何よあんた! 人の邪魔するのやめなさ……いっ!」
 邪魔されたことに怒りを覚えた怪物は標的をロボットに変えて襲いかかるが、それでもなお、彼女の攻撃が相手に届くことはなかった。飛びかからんとする彼女よりも早く、ロボットの右肩を踏み台にして跳び、そのまま一直線に怪物の体を切り裂く者がいたからだ。
 怪物を切り裂いたのは、全身を流れる赤く輝くラインに、黄色く輝くギリシャ文字の『Φ《ファイ》』を顔に貼りつけた謎の異形。その姿に見覚えがあるからか、怪物はよろよろと体を起こして恐怖に体を震わせた。
「あ、あんた……あんたは、『ファイズ』! こんな、所にッ!」
 ”ファイズ”と呼ばれた戦士は、彼女の問いに言葉を返すことなく、ロボットの右肩のハンドルを引き抜くと、ベルトのバックルにはまった”携帯電話”から、カードキーのようなものを取り出してそれにセット。体を駆け巡るラインと同じ色のエネルギーブレードとなったハンドルを振りかざし、反撃の隙を与えないほどの猛攻でオルフェノクを斬り払う。
 血の代わりに真っ白い灰を散らし、いつしか彼女は校門の前まで追い詰められていた。もう後がない。彼は自分の手に負える相手ではない。手詰まりとなった少女は、オルフェノクから人間の姿に戻り、ファイズに向かって膝をつき頭を下げた。
「ごめんなさい……ごめんなさい。悪気があったわけじゃないの! もうしない、もうしません! だから、だから……許して」
 少女の目には涙が溜まっており、もうしないと何度も頭を下げている。彼女の言葉を信じたのか、ファイズはじりじりと彼女に近づきつつも、エネルギーブレードの柄から、カードキーを引き抜いてグラウンドに放った。
 必死に頭を下げる少女に手を差し伸べるファイズ。しかしそれは、なんとしてでも生き延びようとする彼女にとって、好機以外の何物でもなかった。
「寄って……きたわね! このーッ!」
 近づき、手を差し伸べられた瞬間、少女は再びオルフェノクへと変身し、ファイズの体を絡め取ろうと右腕から触手を伸ばす。大人しくしていればこんなことにはならずに済んだろうに。ファイズは仮面の下でそう呟くと、腰を左側に捻って触手をかわし、左腰にはまったデジタルカメラ型のパンチングユニットを右手に填め、ハンドルから外したカードキーを、カメラのレンズ部に滑り込ませる。
 ――「Exceed Charge」
「あぁ……あぁっ! この、このっ……目玉の、お化けめ……ッ!」
 携帯電話のENTERキーを押し、体を流れる赤いラインが左腕に集中した瞬間、右足を軸にし大きく振り被り、彼女のこめかみに左拳の一撃を見舞う。少女はファイズへの恨み節を連ね、”Φ”のマークを残し大量の白い灰となって消え去った。

 ファイズは手や体についた灰を軽く払うと、戻ってきた銀色のロボットと向かい合い、胸のΦのマークを押し込んでオートバイの形に変形させ、グラウンドから走り去って行く。

「なるほど。あれが″ファイズ″……、仮面ライダーファイズか。敵を焼き尽くして灰にするパワー。可変式のバイクロボット。豊富なオプション。素晴らしい。僕のものになるべき″お宝″だ」
 そんなファイズを校舎の上、時計台の屋根に乗り、双眼鏡で観察して唸る男がいた。『ブレイドの世界』で開発中の金色のバックルを奪ったあの青年だ。海東大樹は必ず手に入れると右手で鉄砲の形を作り、走り去って行くファイズを狙い撃った。

◆◆◆

 ――わたし、光夏海は夢を見ました。ディケイドが他のライダーたちと戦っている場面ではありません。ずっとずっと昔、わたしがまだ小さな女の子だった頃の夢――。

「わあっ、きれー。おとうさん、これはなぁに?」
「綺麗だろう? これはね『万華鏡』って言ってな。光に当てると反射して、中の色つきのビーズがキラキラと輝いて見えるおもちゃさ。右や左に傾けてごらん。もっともっと別の模様が見られるぞ」
「ほんとだー! すごい、すごぉーい! きれぇ、きれい!」

「なぁ、夏海。世界というのはひとつだけじゃない。行くことができないだけで無限に存在しているんだ。万華鏡を右や左に傾ければ、見えるものが全く違うように、そこには私たちと少しだけ違った人たちがいるかもしれないし、何か別の、それこそ動物や昆虫が我が物顔でのし歩いているかもしれない。
 お父さんはね、お前が万華鏡を覗いて綺麗だって言うのと一緒で、そんな世界を見て回りたい、そこにいる人たちと友達になりたいと思っているんだ」

「まあまあ。”カイト”さんはいつも言うことだけは大きいんだから。いきなりそんな話をされちゃあ、夏海だって困っちゃうわ」
「何を言うんだ”カナ”。夢はいつだって大きいに越したことはない。大きければ大きいほど、叶ったときの喜びは強いんだ。夏海にもそういう気持ちを持ってもらいたいんだよ。分かってくれるよな? 夏海」
「なつみ? なつみはねぇー、うぅんと、ねぇ……」

 ――その頃のわたしは、万華鏡の綺麗な模様を見て喜んでいただけで、お父さんの言わんとしていたことなど、何一つ理解していなかった。
 ――今思うとその言葉は、わたしが足を踏み入れたこの何ともし難い状況を、予期予感しての言葉だったのかもしれない。今となっては推論だけれども。
 ――何故お父さんがそんなことを知っていたのだろう。頭を抱え脳裏を探っても、何も浮かばないし思い出せない。何故? どうして、と思案を巡らせるがそれはいつも徒労に終わる。決まって誰かがわたしを夢の中から連れ出し、現実に帰そうとするからだ。

「――夏ミカン、おい、夏ミカン!」
「うぅ……うん?」
 夏海を夢の世界から連れ出したのは、既に着替えを済ませ、ご丁寧に首からピンクと黒の縞のトイカメラを提げた士だった。夏海は彼の目を見つめて意識をこちら側に繋ぎ留めると、彼女にとって一番の違和感に気付く。
「ちょ、ちょっと! 何勝手にわたしの部屋に入って来てるんですか士君!」
「ンなことどうでもいいだろ。それよりも、お前に聞きたいことがある」
「どうでもよくありません! いたいけな乙女がすやすやと寝息を立てている部屋に、ノックもなしに土足で入ってくるなんて! デリカシーがありません!」
 頬を紅潮させて怒りをあらわにする夏海に、士は口元を歪ませ嫌味たらしく笑った。
「乙女ってお前……もうそんな歳じゃねぇだろうが。それで、だ。今日は何か? お前の誕生日か何かか? 夏ミカン」
「わたしが? 誕生日? そんなはずありません」
「じゃあ何だ。爺さんか? ユウスケか? キバーラのか? 誰かの誕生日でないと説明がつかないぞ」
「ちょっと待ってください士君。一体何があったんです?」
「分からないならお前も見てみろ。とっととリビングに降りて来い」
「いやあのっ、わたしまだ起きたばかり……」
 士は夏海の手を引いて強引にベッドの上から連れ出し、彼女を朝食の並ぶリビングへと連れて行った。

◆◆◆

「なるほど……これはちょっと、やりすぎですね」
「だろう?」
 士に手を引かれ、リビングに降りてきた夏海の目に飛び込んできたのは、炊き込みご飯に茶碗蒸し、蟹のあら汁に焼いた鯛の切り身。朝ご飯と言うには豪華すぎる。昼ご飯と言っても何ら問題ないラインナップだ。
「これで誰かの誕生日じゃないってなら、何なんだよ」
「わたしに言われても……」
 不気味なぐらい豪勢な朝ご飯に首を傾げる二人。そんな二人の疑問を解決するかのように、キッチンの中から女物のエプロンをつけた青年が現れ、にこやかに笑いかけてきた。
「おはよう。士に『夏メロン』。僕特製の朝ご飯は気に入ってもらえたかな?」
「お前……、あの時の! っていうか、お前が作ったのかこれ」
「夏メロンじゃありません! 夏ミカン……あぁいや、夏海です!」
 海東はそんな二人の言葉を遮り、女物のエプロンを脱ぎ捨てて答えた。
「なぁに、君がご馳走してくれたランチのお礼さ。ま。ゆっくりと堪能してくれたまえ」
 エプロン姿の謎の青年。ブレイドの世界で出会った”海東大樹”その人だ。仲良くなったわけではない筈だが、嬉々として士たちに朝食を振舞っている。

「ありゃあご馳走したわけじゃねぇ。お前が勝手に食い逃げしていったんだろうが」
 食い逃げ犯がわざわざ家に来て豪勢な朝食を振る舞うとは考えにくい。士は何か裏があるんじゃないかと問い質すが、海東は彼の言葉に自分の言葉を被せて答える。
「なかなか鋭いじゃあないか。″警告″させてもらうよ、士。僕はこの世界で最も価値ある″お宝″が欲しい。邪魔をするというのなら君でも容赦しない……、というね」
「面白ェ。もし邪魔をしたら……どうなるって言うんだ?」
「邪魔をする奴は力ずくで排除する。それだけのことさ」
 海東の自信に満ち、かつ飄々《ひょうひょう》とした態度が気に食わないのか、士はわざと挑発的な言葉を発して威嚇するが、当の本人はどこ吹く風だと余裕の笑みを崩さない。
 リビングの中に気まずい沈黙が漂う中、湯気の出が悪くなってゆくあら汁に目をやった海東はこれ以上続けても無駄だと踵を返した。
「ま。とにかく忠告はしたからね。命が惜しいなら下手なことは控えることだ。その朝食、冷めないうちに食すことをお勧めするよ」
 海東はそう言うと自身のトレードマークの薄茶色の帽子を被り直して去って行く。どこまでもキザな野郎だと悪態をつく士だったが、
「腹が減っては戦にならん。とりあえず飯にしようぜ、夏ミカン」
「あの人のこと、嫌いなんじゃなかったんですか?」
「朝食に罪はない。早く席につけ夏ミカン。このままだと冷めるし、お前の分まで俺が食っちまうぞ」
 夏海はやれやれとため息をつくと、奥にいた栄次郎を呼びつけて席につき、芳しい匂いと温かな湯気を立てる朝食に向かい手を合わせた。
「ほぉ。言うだけのことはあるな。悔しいが美味い」
「ですね。……ところでユウスケは?」
「あぁ。ユウスケ君なら、先にこの朝食を済ませてどこかに行っちゃったよ」
 ユウスケがどこに行ったのか。親指と人差し指の間に顎を乗せて思案する栄次郎だったが、ひとり、窓から外に出て行こうとするキバーラの姿を目にして頭の隅に放った。
「おやおやキバーラちゃん。どこに行くんだい」
「べっつにぃ。ちょっとそこまでお散歩よ。心配しないで栄次郎ちゃん。日が落ちる前には戻るからー」
 猫撫で声でそう言ったキバーラは、窓の隙間にうまく体を潜り込ませて写真館を出て行く。朝御飯はいいのかい、と呼び止める栄次郎だったが、
「あいつの勝手だろ、放っておけって。腹が減ればすぐに帰ってくるさ」
「そんな人間みたいな……キバーラちゃんはコウモリなんだよ士君」
「放っとけよ。自分でいらないって言ったんだ。あんたのも冷めるぞ。とっとと食え」
 栄次郎は不本意ながらも席につき、鯛の切り身に箸を付け、その美味しさに舌鼓を打つ。
 キバーラが出て行くときにちらりと見せた、嫌味な笑みを不審に思いながら。

◆◆◆

「これはまた……、ずいぶんと個性的な格好ですね、士君」
「そういうお前こそ、歳の割に素敵な格好だよなあ? 夏ミカン」
 黒い詰襟の学ランに身を包んだ士に、灰色のブレザーを纏い、赤青緑の色鮮やかなタイを首に巻いた夏海。二人は教師に連れられ、丁寧にワックス掛けされた廊下を歩いている。
 何故こんなことになっているのだろうか。その理由は今から数十分前に遡る。

「なんですか、士君のその格好。高校生ですか? 士君が学校に通うっていうんですか?」
「は、ははッ。嫌になるぜ。何を着てもサマになる自分に」
 朝食を採り終えて外に出た二人の目に飛び込んできたのは、『SMART BRAIN』というロゴの入った、遠方からでもよく見えるほどに大きな時計台と、詰襟の学ランに身を包んだ士の姿だった。何を着てもサマになると豪語してはいるが、彼の目は笑っていない。
「でも学生服、ってことは。この世界での士君の役割は『高校生』ってことになりますよね。中学生……ってことはさすがにないでしょうし」
「そうなるな。それがどうした」
「学校なんて街の至る所にあるんですよ。その中で一つを探すのはすごく大変なことなんじゃ」
 不安がる夏海に対し、士は制服の胸ポケットから生徒手帳を取り出した。
「学生服を着ているんだ。学校がどこかと心配する必要はねぇよ。予想通り、あのでっかい学校に行けってことらしい」
 そうして士が指差したのは先の大きな時計台。どうやらあれは時計台ではなく、学校の時計だったらしい。
 ――ATTACK RIDE 『MACHIN DEDADER』

 士は写真館の前に停められていた学校指定の自転車を、カードの力でマシンディケイダーに変えて跨がると、備え付けられていた予備のヘルメットを夏海に放った。
「なんですか、これ」
「初日から遅刻してちゃカッコつかねぇだろ。乗せてってやるから早くしろ」
 そう言ってディケイダーのアクセルを空噴かしするが、夏海は何故士がそうするのかが分からない。ヘルメットを持ったまま首を傾げる夏海に対し、士は呆れ顔で言葉を付け加えた。
「その格好で学校以外にどこに行くんだ? 朝っぱらからゲーセンか? カラオケか? つべこべ言ってねぇでとっとと乗れよ。置いてくぞ」
「かっこう? それってどういう……」
 士に格好を指摘され、自分の姿を省みる夏海。寝間着のまま外に出たのにも関わらず、赤青緑の色鮮やかなタイを首に巻き、灰色のブレザーを羽織り、長すぎず短すぎない丈のスカートを穿いた自分の姿がそこにあった。
「ちょっ、なんでわたしまで! こういうのは士君の仕事じゃないんですか!?」
「知るか。お呼びがかかったんなら行くだけだ。違うか?」
 そう言って乗れ乗れと促す士に、夏海は煮え切らない表情のまま、ヘルメットを被ってディケイダーに跨がり、士の腰に両手を回した。
 人ひとり分の荷重がかかったことを確認し、駆動音を響かせながら、士は街中で一際目立つ時計台の下へと向かい、ディケイダーを走らせて行く。
「ところで、あの学校はバイク通学も大丈夫なんでしょうか」
「そんなこと、俺が知るか」

◆◆◆

 そして、現在に至る。
 バイク通学が許されていない学校に堂々と乗り入れた上に、乗っているのは男女二人組。この学校の教師がそれを許すはずもなく、直ぐ様取り押さえられて職員室に直行。朝から大目玉をしこたま食い、そのまま教室へ直行と相成った。
「さぁ、ここが君たちの学舎だ。光さんはここで待って、担任の先生の合図を待ちなさい」
 教師の足が″二年E組″と表札のかかった教室の前で止まる。
夏海にのみ待つように言った所から、二人を同じクラスにするつもりはないらしい。まあ、あれだけのことをすれば当たり前かと、士はひとりで納得していた。

「そして、門矢君は隣のD組。つまりここだ。初めてで緊張するだろうが、この学校の生徒らしく気概ある振る舞いを取るよう頼むよ」
 教師は嫌味な口調でそれだけ言うと、士に待てと制止を促したうえで教室の中へと入って行く。どうやら彼がこのクラスの担任らしい。
 堪え性がなく、教師の態度に反感を持っていた士は、彼の言い付けを無視して勝手に引戸を開けて入室し、狼狽える教師やざわめく生徒たちを尻目に、白いチョークで黒板に自分の名前を書いて言った。
「好きなことは写真を撮ること。苦手なことも写真を撮ること。その他、嫌いなものも苦手なものもない。いつまでここにいるかは分からんが宜しく頼む。今日からお前らの仲間になる――」
 入るなりべらべらと自分のことを喋る士に、ぽかんとする生徒たち。この調子で全て終わってしまうのかと思いきや、窓際の前から三列目の少女がかけた言葉が、そんな雰囲気を掻き消した。
「えっと……も、や、し?」
「はあ?」
「いや、ほら。門に矢に士《し》で、『もやし』。変わった名前ねぇー」
 『門矢士』で『もやし』。あまりに情けない名前に一瞬の間を置いて、教室内のあちこちから笑いが起こった。
 当然、指を指されて笑われる方は堪ったものではない。士は拳を握って、痣が残るほどの力で黒板を叩いて捲《まく》し立てる。
「“もやし“だと!? これは“士《つかさ》“と読むんだ、今度“し”だなんて読んでみろ、はっ倒すぞ!」
「でも、つかさって字には普通“司”って字をあてがうじゃない。″士《し》″なんて分かるわけないじゃん」
「だぁかぁらぁ、“し”じゃねぇ、“つかさ”だ!」
 門矢士《もやし》という奇妙な名前に皆が大笑いをし、それは違うと必死に訂正を求める士。
 ぶっきらぼうで不愛想なこの青年は、なんだかんだでクラスに溶け込めたようである。

 そんなこんなで担任教師は去り、授業が始まる。一時間目は数学の授業だ。
「さぁ、授業を始めますよ。25ページを開きなさい」
 気取って喋る微妙に白髪交じりのオールバックの男性教諭。彼こそは「ランク付けの村上」と生徒たちに評される名物教師である。
 授業中の態度や問題の出来から生徒たちに勝手にランクをつけ、そのランクによって露骨に態度を変えることから、自然とその名が付いたのだという。
 特に、見たことのない転校生は目の敵にされることが多く、それが元でいじめを受け、中退した生徒も少なくない。もちろんそれは、門矢士とて例外ではなかった。

「ここに一から十までのカードがあります。この中から同時に二枚のカードを引くとき、片方のカードに書かれた数字が、もう片方の二倍になる確率を求めよ。……門矢士君だったかな。転校したてで悪いが、この問題を解いてもらえますかな」
「転校初日に当ててくるとは人が悪いな。まぁいいだろう」
 士は(何故か鞄の中に入っていた)数学の教科書を流し見し、黒板の前に立ってチョークを握る。
 村上教諭には勝算があった。他の生徒たちは既に気付いているが、この問題は今やっている授業よりもやや進んだ所にある問題だ。クラス中の誰もが解けない問題を、転校したての士が解けるはずがない。
 だがそんな村上の思惑に反し、士は意味ありげににやりと笑うと、
「九分の一。自信満々に出題した割には楽勝な問題だったな」
「ははは、やはり君も来たばかりでは……なっ、何ッ!」
 驚いて自身の教科書を見返す村上。答えは九分の一で確かに合っている。
「二倍、ってことは偶数だろ。一から十なら偶数の数は五つ。奇数の数も五つ。二枚同時に引くということはそのレパートリーは最大で四十五。そいつを五で割ればすぐに出る」
「うぐぐ……ならば、それらが二倍以上になる確率は!」
「今更応用の問題で言っても虚しいだけだぜ。二十五通りを四十五で割って九分の五だ」
「ななっ! なら、ならば! それらが二倍以下になる確率は」
「最大数から二十を引いて、そこに偶数奇数の五通りを足して割って……、こいつも九分の五。数学なんてもんは公式だけ覚えりゃあ、あとは応用するだけの単純なものだろ。それで驚く方がどうかしてるぜ。
 だいたいな、俺が当たったからいいようなものの、他の奴らが解けないような問題を出すのはルール違反じゃねぇのか? 教師のくせにやることが大人気ないのな」
「ばっ、馬鹿な! そんなことが転校したての君に」
「分かるさ。こいつらの顔を一通り見ればな。さて、と。次は何をするつもりだ? 大学入試用の赤本でも持ってくるか? 楽勝で解いてやるけどよ」
「……きょ、今日の授業は自習! 皆、大人しく勉強していなさい」
 士の完璧な回答と言葉に気圧され、面子を潰された村上は、逃げるように教室を去って行く。
 日頃から村上の態度に反感を持っていた生徒たちは、一瞬の静寂の後、堰を切ったようにどっと湧きあがり、士を神だの救世主だのと祭り上げ、甘いものに群がる蟻のように彼を囲んで持て囃《はや》す。

 続く二時間目の日本史、三時間目の英語も教科書を流し見しただけで全問正解の快進撃。門矢士に対する二年D組の評価は揺るぎないものとなった。

 ――イケメンな上に頭脳明晰で言いたいことをずばずば言う転校生、か。
 ――つまんないの。あいつも、あいつをもてはやすこのクラスの子たちもさ。
 ただ一人、面白くなさそうな顔をして彼の隣に座る少女を除いて。

◆◆◆

「さぁてと。次の相手は誰だ? 誰が相手でもぶちのめしてやるぜ」
 四時間目の授業は体育館でのバスケットボール。当たり前のように白地のTシャツを纏い、緑のハーフパンツを穿いた士は、数人の取り巻きを引き連れて意気揚々と体育館へと足を踏み入れる。
 士とその集団の放つ異様な雰囲気を感じ取り、担当教諭が彼らの元へと駆け寄るが、意外にもそれで驚いたのは士の方であった。
「お、お前まさか……、ユウスケか!? 何やってんだよお前」
「士ぁ!? 何してるのかって、そりゃあ俺の台詞。見ての通り体育の授業の研修中で、俺は仮免教師。どぅーゆー・あんだすたーん?」
 何故ならば現れたのが、白地のTシャツに首から笛を提げて紺色のジャージを纏い、まるで教師のような格好をしたユウスケだったのだから。
 夏海が自分と同じく学生をしているのだから、ユウスケが教師をしていても不思議はないだろうと結論付けて彼に言葉を返した。
「この際だ、細けぇことは放って置いてやる。だが、俺は生徒でお前は教師。しかも目の前にバスケのゴールがあると来た。となればやることはひとつ、だろ?」
「なんだよその思わせ振りな台詞。何をしようっての」
怪訝そうな顔をするユウスケに、士は不敵に微笑み、人差し指を突き立てて言い放った。
「俺とお前のタイマン……、いや三対一で勝負だ。それ以外に何がある」
「三対一って……、まさか3on1!? お前、何言ってンのか分かってんの? 自信過剰にも程があるだろ!」
 1on1。一対一で行うストリートバスケだ。3on1ともなると、相手方に味方の参加を許して自分は一人で良いことになり、自信過剰というよりも、相手を馬鹿にしているようにも取れる。ユウスケが驚くのも無理はない。
「ずいぶんと嘗《な》めてくれるじゃないの。俺ァバスケで全国大会に出場したこともあるんだぜ」
「面白い、その方が潰し甲斐がある。ごちゃごちゃ言わねぇでかかってこい」
「あぁそうかよ。そこまで言うなら手加減無しで行くぜ。ぎったんぎったんにしてやる!」
 士の態度を腹に据えかねたユウスケは、ぎらぎらと目を輝かせて士の手を握った。
 D組の中でも特に士への反感が強そうな二人を連れ出し、彼らを両端に立たせて自分はコートの中央に立つユウスケ。士はそんな彼らを仁王立ちで見つめて口元を歪ませた。

「いい気になってんじゃねぇぞ転校生」
「お勉強だけのもやしっ子なんざ軽く捻って野菜炒めにしてやるぜ」
「おうおう、血気盛んで気合い入ってんなぁ。三対一だし俺の先攻でいいよな?」
「あぁ。こちら側のコートに入る前にゲームセットにしてやるぜ」
 士は二人の言葉に気圧されることなくボールを持ったままコートの端へと向かう。生徒の一人が笛を吹き、変則マッチの幕が開く。
 ユウスケはコート中央で仁王立ち。両端の二人が鬼気とした表情でボールを奪わんと襲い来る。だが彼らが士を捕えてボールを奪うことはなかった。士は襲い来る二人の隙間をドリブルで潜り抜け、一気に駆け抜けて行く。二人は何が起きたのかも分からぬままにぶつかりあって足を絡ませ、情けなくコートの上をごろごろと転がっていった。
「そこで仲良くお寝んねしてな。後はゴール一直線だぜ」
「マジかよっ、えぇい抜かれてたまるかッ」
 難なく二人を破って突き進む士に驚異を感じ、目を見開き腰を落として身構えるユウスケ。コートの中央で腰を落として陣取っている以上、ゴールにボールを運ぶためには、左右どちらかに避けて通る他ない。必ず止めてやる。
 俺は全国大会出場経験者なんだ。ユウスケは只ならぬ気迫を身に纏い、サッカーのゴールキーパーのようにがっちりと身構えた。
 だからこそ彼は士が常人離れした存在だと思い知ることとなる。誰もがユウスケを避けて通ると思われたのだが、あろうことか士は、彼の眼前で天井高くボールを弾いて、自らも高く跳び上がって空中でボールを掴み、そのままそれをゴールに叩き付けたのだ。
 これには目の前のユウスケはおろか、その様子を見守っていた誰もが並行してしまう。
「おいおい。これが全国大会出場者の実力か? 拍子抜けすぎて欠伸が出るぜ」
「待てよこの野郎! ルール違反……、っていうか、人間には防ぎようがねぇだろ!」
「何を今更。“ゴールよりも高く跳んでシュートしてはいけない”なんてルールは無い。おかしいな言いがかりはやめろ」
「そりゃそうだけど、そりゃあそうだけどよぉ……くそぉッ」
 喝采の拍手の中に女の子の不服そうな声が混ざっていることに気付き、体育館奥の扉へと目をやる士。そこでは彼の隣の席の少女が、制服姿の男女と言い争っていた。
 少女はインスタントカメラを握り締め、二人はそれを渡せと詰め寄っている。
「いやッ、何するのよ! やめてったら!」
「授業も受けずに写真撮影とは。不真面目な生徒の典型ね。私たちの写真が欲しいのなら、生徒会室で売っているから買いなさいな。一枚510円だけど」
「冗談、誰があんたたちの写真なんか。“ラッキークローバー”だか何だか知らないけど、学校の誰もがあんたたちにゾッコンだなんて思わないことね」
「二年のくせに偉そうなことを。まぁいいわ。とりあえずそのカメラは没収させてもらいます。書記の玄田君、やっちゃって頂戴」
「さぁ、そいつは没収だ。俺たちの写真が欲しかったら土下座でもして頼むんだな」
 ″玄田″と呼ばれた恰幅のよい男子生徒は少女の持っていたカメラを奪ってその手を一気に振り上げる。そのまま叩き付けられでもすれば破損は免れない。
 少女は返してと手を伸ばして叫ぶが、二人は聞き入れることなく彼女の必死な顔を見て笑っている。

 だがカメラが地面に叩き付けられることはなかった。玄田が手を勢い良く下ろしたその時、体育館の中から駆け出してきた士がそれを拾い上げ、同時にすかさずシャッターを切って、出てきた写真を二人の生徒の顔に貼り付けたからだ。
 二人は顔に貼り付けた写真を剥がし、像のぼやけきった士の写真に辟易しつ苛立ち混じりに言った。
「なんだてめぇ! 何の真似なんだこいつはよぉ!」
「何よこの写真! 私たちを写したのでしょう。どこをどうやればこんな風になるというの!?」
二人の質問に答えず、士は彼らに人差し指を突き立てる。
「こいつは“手付金”だ。授業中に撮影していたこいつも悪いが、権力を振りかざして女子に暴力を振るうお前らも悪い。ケンカ両成敗だ。そいつをくれてやるから手を引けって言ってるんだよ」
「め、命令口調に不遜な態度! あなた、私たちが誰だか知らないの!?」
「今日転校してきたばかりだからな。第一知りたいとも思わないね」
 初対面だろうとお構いなしに人を小馬鹿にする士の態度に二人は顔を赤くして怒り心頭。堪え切れなくなった玄田は彼の胸倉を掴んで体育館の壁に押し付けた。
「あんまり舐めた態度取ってんじゃねえぞ転校生。明日から学校に来られなくしてやってもいいんだぜ」
「きついジョークだ。体鍛えてるだけじゃこの俺は倒せないぜ」
「よぉしよし、ケンカを売ったのはてめぇだぜ。後悔するんじゃねぇぞ!」
 士の言葉にとうとう玄田の堪忍袋の緒が切れた。彼は目を血走らせ、左腕を振り被って士を殴りつけようとするが、遠方よりやってきた何者か声により寸でのところで止められた。

「止さないか玄田。僕たちは仮にも本校生徒会、”ラッキークローバー”の一員だよ」
 玄田に声をかけたのは栗色の髪に端正な顔立ちの青年。顔の作りこそ優しげで愛嬌があるが、玄田を睨みつけるその瞳には只者ではない妙な凄みが感じられる。
 青年は隣に立つ長身黒髪の眼鏡の青年にここで待てと一言残し、玄田たちの元に近寄った。
「事情はよくわかった。彼の言う通り喧嘩両成敗としよう。さぁ、離してあげなさい」
「だがよ、喧嘩を売ってきたのはこいつだし、元はと言えば……」
「離してあげなさい、と言ったんだ。僕の言うことに背くのか?」
「分かった。分かったから……そんな目をするなよな」
 青年の目に気圧されたのか、玄田はあっさりと士の胸倉から手を離す。解放されて自由になった士は、不思議な雰囲気を醸し出すこの青年の目を見据えて口を開いた。
「言いたいことは多々あるが、一応礼を言っとくよ。俺は転校生。二年D組の門矢士だ。あんたは?」
「僕は百瀬。百瀬シュウジ。本校の生徒会長をしています。どうぞ宜しく」
 青年・百瀬は右手を差し出して士は握手を求めるが、士がその手を握ることはなかった。彼は差し出した手をしまい、今度は由里の方に顔を向けて口を開く。
「玄田の行為が行き過ぎていたことは認めます。ですが友田さん、授業中の撮影は禁止だと校則に記されているではありませんか。こういったことは休み時間にしなさい。分かりましたね」
 由里は納得できないと思いつつも、これ以上面倒を起こしたくないと考え、それを顔に出したまま首を縦に振る。彼女の気持ちを知ってか知らずか、百瀬は納得してうんうんと頷いて微笑み、踵を返した。
「良し良し。ではこれにて。あぁそうだ門矢君。この学校に来て間もないし、分からないことも多いでしょう。何かあったらいつでも我々におっしゃってください。玄田、朱川さん。行きますよ」
 百瀬は玄田と”朱川”と呼ばれた少女を引き連れ、体育館から去って行った。
 そんな彼ら、特に百瀬の人を小馬鹿にしたような態度が気に食わない士は、嫌そうな顔をして彼らを見送った後、大事そうにカメラをさする由里に声をかける。
「腹立たしい気持ちは分かるが、ルール違反をしたのはお前だぜ。なんでまた、授業中に撮影しようと思ったんだ」
 彼の問いに、由里は体育館前のアスファルト、そこに寂しく咲いた一輪の花を指差して答える。
「あれのためよ。なんとなくあたしに撮られたがっているように見えたから」
「それだけか? だったら授業が終わってからでもいいだろう」
「分かってないわね。被写体には撮られるべき時と、それを撮るべき人がいるものなの。あの花が撮られるべき時は今で、撮るべき人はあたし。時間は有限なのよ。無駄にしたくないじゃない」
 自己中心的な考えだが理に適っている。士は同じ写真家として由里の言葉に納得し黙って頷く。
 一方で由里は、自分の話を笑いもしないでただ頷く士を、目を丸くして見つめていた。
「何をじろじろ見てんだよ。まさか、俺に惚れたか?」
 自分に気があるのかと軽く話を振った士だったが、由里は答えの代わりに士の脛《スネ》を蹴りつけた上で言葉を返した。
「珍しいと思っただけよ、そういう見方をする人が。写真のこと、本当に好きなのね」
「それ以外のことは何だって出来るからな。出来ないことに興味を持つのは当然のことだろ」
「いちいち棘のある言い方よね、あなたの言葉って。でもまぁ、いいわ。ちょうど″部員″が足りなくて困ってた所だったし」
 由里はにこやかに微笑み、士の手を握って続ける。
「あたし、D組の友田《ともだ》由里《ゆり》。写真部の部長。あなた、写真に興味あるみたいだし、昼休みにうちの部室に来てみない?」
「他に行くアテも無いし、折角だから行ってやるよ。運動部のやつらをおちょくるよりは楽しめそうだ」
「なら決まりっ。お昼を食べたら南校舎屋上まで来て。あたしたちの暗室兼部室があるから。なんならお昼もそこで摂っちゃいなさいよ。暗室まではあたしが案内してあげるから」
 由里はそれだけ言うと、嬉々としてシューズを履き替え、白いシャツにブルマ姿のまま校舎の方へと体を向けて駆け出した。
「おい、どこに行くんだ。まだ授業中だぜ」
「せっかくだからもう少し撮影してくる。女子バスケはあたしより強い子がいなくてつまんないし。じゃ、そういうことで」
 彼の心配をよそに、由里は後ろ手を振って去って行く。
「名門校の生徒がすべからく品性正しいわけじゃないってか。元気があるのはいいことだが……」

◆◆◆

 四時間目終了を告げるチャイムが鳴り、五時間目が始まるまでの暫しの間。生徒たちが昼食を摂り、空いた時間を利用して、グラウンドや校舎中で遊んで過ごす昼休みの到来だ。
 この学校で昼食を摂る方法は二つ。一つは親に作ってもらうか、出先の店で買ったお弁当を持参すること。もう一つは北校舎一階に毎日やって来る『古河パン』の購買を、人の波を掻き分けて購入することだ。
 昨今の家庭環境の変化で弁当を持ち寄ることが減った上、どのパンも味に定評があるため、売り切れるまでの十数分間に展開される争奪戦は熾烈を極める。普段控えめで口数の少ない生徒ですら、ここでは他人を躊躇なく押し退け、たとえ他人の手の中にあろうとも目当てのパンを奪い去るという光景が当たり前だというのだから、半端なものではない。転校したてで勝手が分からない光夏海が弁当など持参しているはずもなく、否応なしにこの争奪戦に関わることとなった。
 しかし文字通り荒波と化した生徒たちを眼下に見据え、夏海は怯えるどころかかつての自分を省みて感慨深そうに頷いていた。
「宙を舞うパン、飛び交う罵声、暑苦しい人の波。あぁ、何もかもが懐かしいです」
 今でこそ高校生に混じって勉学に励んでいるが、彼女は既に一度高校生活を修了している。そこで培ったのは三年間の学園生活で得た経験知。今更怯える必要など無い。
「目当ては……っと、うん。あのハムタマゴサンドイッチ。えぇいっ!」
 安全圏から背伸びをして商品の種類と残り具合を調べ狙いを定めると、夏海は人の波に生じた僅かな隙間に潜り込み、できるだけ人を刺激しないよう細心の注意を払って器用に波の中を泳いで行く。
 強引に割って入っても他の誰かに目当ての品を掠め取られるだけ。気取らぬように息を殺して接近し、一気に奪い去る。それが最も賢い方法だと分かっているのだ。
「おばさん! このハムタマゴサンドイッチ、ください!」
 目当ての品を掴み取った上で購買の仮設レジに辿り着いた夏海は、スカートのポケットから財布を取り出して店員に差し出した。のだが、それを受け取る店員の顔は渋い。
「あのねえ。こっちだって忙しいんだから、おもちゃのお金はさっさとしまってもらえる?」
「おもちゃのお金? それってどういう……」
 店員から突き返された自分の硬貨をまじまじと見つめる夏海。パンの代金である三百円は確かに払ったはずだ。何故突き返されるのか。程無くして夏海はその答えを知り、驚きに顔を引きつらせた。
「これは……三百円じゃない、三ウェイ!」
 夏海がパンの代金だと思って店員に渡したのは、剣の世界での通貨であった「ウェイ硬貨」。社員食堂のバイトで得た給料の一部が、財布の中に入ったままになっていたのだろう。そんな異質な通貨単位をパン屋の店員が知るはずがない。おもちゃのお金か何かと勘違いしてしまったのはごく自然な結果といえる。
 こうなると頭を抱えるのは夏海だ。急いで財布の中を漁って円通貨を探すものの、剣の世界の通貨単位に慣れてしまったせいか、円を財布の中に入れるのを忘れており、財布の中から百十円以上の円通貨が出てくることはなかった。
「あのぉ……、これで買えるパン、ありますか?」
「百十円? だったらねぇ……はい、これ」
 申し訳なさそうに百十円を差し出す夏海に対し、店員は引き換えにパンを一つ手渡す。真中から真っ二つに開いた、具の無い素のコッペパンだ。
 いくら女の子とはいえ、コッペパン一つで空腹を満たすことなどできるわけがない。夏海は物欲しそうな目で店員を見つめるが、既に彼の興味は別の客に移っており、彼女のことなど気にも留めない様子で、他の客を手早く捌いていた。
 こうなってしまった以上彼女にはどうしようもない。夏海はコッペパンを握りしめ、己の愚かしさを呪ってその場を後にした。
「お腹が空きました。わたしは一体どうすれば……」
 コッペパンを手に肩を竦めてとぼとぼと教室に戻って行く夏海。
 だがそこで彼女は、自分の背後に何か不可思議な気配が漂っていることに気付く。徐々に近付いてくる足音に恐怖を感じた夏海は、足を止めたと同時に右手の人差し指を構えて振り向き、背後にいた茶色かかった髪の男子生徒の首筋に″笑いのツボ″を放った。
「う、う、うひゃはははは……えと、あの、違……ははははは」
「一体何のつもりですか? 何かあるのならこそこそしないで前に出て話をしてください。さもないと」
 夏海は右手の親指を構えて男子生徒を威嚇するが、同時に彼に不思議な違和感を感じていた。何故、彼は緑色のタッパーを手に持っているのだろう。人を尾けるのにそんなものが必要なのか。もしかしたら別に尾けているわけではなかったのではないか。
 床で笑い転げるこの男子生徒を見て夏海は何がなんだか分からなくなった。
「あぁあーっ。あぁもう、何やってるのさたっくん!」
 そんな中、夏海と彼の間に毬栗《いがぐり》のような頭をした男子生徒が割り込み、渦中の彼を抱き抱えて軽く揺すった。
 ようやく笑いのツボの効力が消えたらしく、薄い茶髪の青年は荒い呼吸を繰り返してなんとか体を落ち着かせようとする。毬栗頭の青年は夏海の方へと向き直り、申し訳なさそうな顔をして口を開いた。
「えっと、今日転校してきた光夏海さん、だよね。俺は同じクラスの海堂ケイタロウ。たっくん……、あぁいや、彼に何かされちゃった?」
「いえ、いえっ。後ろから尾けてきてるんじゃないかって心配になったから……」
「あぁあ、やっぱり。いつも言ってるでしょたっくん! ちゃんと言葉にしなきゃ分かってもらえないんだって」
 ケイタロウと名乗る青年に、″たっくん″はやや不服そうな表情を浮かべて言葉を返す。
「言おうとしたよ。したけど、言う前にあぁなっちゃっただけで」
「思い立ったら即実行! もしこれが由里ちゃんだったらまたビンタだよ? 嫌だろう?」
「それは嫌だ。嫌だけど……」
「じゃあちゃんと言う! ほら、俺もついててあげるから」
「う、うん。分かった。わかったよ……」
 青年は夏海と目を合わせずうつむいたまま、口を開いてぼそぼそと言葉を紡ぐ。
「ぼ、僕。二年E組の尾上《おがみ》タクミ。あぁあの、あの。これ、僕が作った卵サラダです。もし、よかったらどうぞ」
 緑色のタッパーの中に入っていたのは、茹で卵を潰して塩コショウマヨネーズで味付けし、蒸かして一口程の大きさに切り揃えられたジャガイモ。それらを新鮮なレタスの上に盛った美味しそうな卵サラダ。コッペパンの上に載せればタマゴサンドになり、相性は抜群だ。
「えっ、お気持ちは嬉しいですが……。なんでこれを、わたしに?」
 だからこそ夏海は何故かと疑問を口にする。タクミ、と名乗る男子生徒はたどたどしい口調で言葉を続けた。
「夏海さん、転校生でしょ。購買でコッペパンしか買えなくて、辛そうだったから」
「遠慮せずにもらってよ。たっくん少食だし、そもそもそれ、みんなで一緒に食べる用で余分に作ってきてるやつだしさ」
 要領を得ないタクミの言葉をケイタロウが横から口を挟んで補足する。なるほど、彼らはそういうコンビなんだなと夏海は心の中で納得していた。
「そうですか。じゃあ、ありがたくいただきますね」
二人の厚意を素直に受け取り、タッパーに手を伸ばす夏海。だがケイタロウは彼女の手を遮ってこう言った。
「そうだ! せっかくだし、『うちの部室』で食べない? 何もないけど、お茶くらいなら出せるし」
「えぇっ。まぁ、そう言うことなら構いませんけど」
「やったぁ! よぉし、思い立ったら即実行! 行こう、行こう!」
「あ、いや。ちょっと待ってください。まだ何の部活なのか聞いてないんですけどっ」
「大丈夫、大丈夫。うち文化系だし、女の子でもハマると楽しいよぉ。なんたって、『写真部』だからねっ」
 ケイタロウは夏海の手を引っ張って強引にどこかへと連れ出し、タクミもそれに続いた。

◆◆◆

 友田由里と門矢士は談笑しつつ南校舎の階段を一段一段登っていた。
 談笑と言いつつも、由里の言動に士が一方的に振り回されていると言うべきだろうか。
「いやぁ、あなたは絶対来てくれるって信じてたよもやし君。首から提げたそのド派手なトイカメラ。何かなきゃおかしいもん、逆に」
「だから、俺はもやしじゃなくて士だ士。何度言えば分かるんだよ」
「まぁまぁ。同じ写真家としてぴぃんと来たのよ。あなたの写真、楽しみにしてるから」
彼女には何を言っても無駄だ、と判断した士は『もやし』であることを受け入れ、頭を抱えて溜め息をついた。
「それはそうと、お前はどんな写真を撮ってるんだ? ポリシーはあるのか」
「ポリシー……ねぇ」投げかけられた質問に対し、由里は顎先に指を乗せ思案を巡らせる。「考えたことなかったなあ。強いて言うなら、″あたしに撮られたがってる写真を撮る″、かな」
「撮られたがってるって、お前にそれが分かるのかよ」
「分かるわよそりゃあ。もしかしてわからないの? そんなトイカメラ首から提げてて」
「余計なお世話だ! 俺のは特別なんだよ」
「あっそ。ま、それはそれとして。ポリシーは特に決めてないけど、気になるものならあるわよ。あたしにも」
「気になるもの?」
「それはね……、あっ、見えてきた」
 言いかけた言葉を自分で遮り、階段の屋上を指差す由里。″暗室″と書かれた表札の上に蛍光ペンで可愛らしく『写真部部室』と描かれた部屋がそこにはあった。
「あれがお前たちの部室か。うさぎ小屋か何かだと思ったぜ」
「失礼ねー。ここしか空いてなかったの。水道も通るし流し台もある。写真の現像をするには十分よ。それに隣の扉から屋上に出られるって良いところもあるのよ。お昼に寝っ転がってぼぉっとするのが最高に気持ちいいんだから」
 目を輝かせてそう語る由里に、士は″部室自体は全く誉めないのな″と一言漏らすと、ドアノブを握って一気に開け放した。
「うわぁっ、眩し……ッ」
「あぁあっ! フィルムがぁ、フィルムがぁああ!」
 開け放した先にいたのは写真部部員のケイタロウとタクミ。そして彼らに連れられてここで昼食を摂っていた夏海の三人。
 写真の現像作業中だったらしく、ケイタロウは感光して真っ白になった現像用光沢紙を掴んで奇声を上げた。
「なんだ、まだ部員いたのか、この部活。なんだか知らんが邪魔しちまったようだ。すまん」
「すまんじゃ済まないよ! なんてことしてくれるのさ! せっかく″オルフェノク″を撮影できたっていうのに!」
「人がいるなんて知らなかったんだからしょうがないだろ。これ以上何か言ったら怒るぞつんつん頭」
「そんな、セッショウな……」
 悪いのは自分だが、それを棚に上げて当たり散らす士。まさに踏んだり蹴ったりだ。
「もう、何言ってるんですか士君! 光家秘伝、笑いのツボ!」
「夏海! お前もここに……うひっ! あははははは」
 しかしそんな横暴を夏海が許すわけがない。振り向き様に笑いのツボを士の首筋に押し込んで床に這い蹲《つくば》らせる。その上で何故ここにいるのかと彼に問いただそうとするが、割って入ってきた由里の怒りに満ち満ちた表情と剣幕に気圧されて阻止された。
「ちょっと! 何やってんのよケイタロウ! 馬鹿なのあんたは? 阿呆なのあんたは!」
「なんで出会い頭に馬鹿だアホだって言われなきゃならないのさ。仕方がないじゃ……あいたっ!」
「だから馬鹿かって言ってるの! たとえ何が起ころうとも、現像前のフィルムは体張って守る! 写真家の常識でしょうが!」
「理不尽だよそれは……」
 自分は悪くないと主張するが、由里には聞き入れてもらえず両の頬をつねられるケイタロウに、それを見て慌てふためくタクミ。士は彼に同情しつつこの部活の力関係を理解し、由里に話を振る。
「まぁそれはそれとしてだ。お前たちの言っていた″オルフェノク″、詳しく聞かせてもらおう」
「あぁ、もやし君は転校してきたばかりで知らないんだっけ。とにかく座って座って。タクミ、もやし君にお茶」
「う、うん。……はじめまして。僕、尾上タクミって言います。もやしさん、ですか? 変わったお名前なんですね」
「もやしじゃねぇ、士だ士。門矢士だ」
 由里のせいで定番となってしまったやり取りを経て、士はタクミが淹れたお茶を飲むのだが、あまりの熱さに噴き出してしまう。
「あぁっ、熱ッ! なんだこの熱さは! 舌が火傷しちまうだろう」
「はわわっ、あ、あ、熱かったですかっ!?」
「あはは。タクミは熱いお茶が大好きだからねぇ。猫舌の逆の犬舌ってやつかしらねー。それはそうと、オルフェノクのことだよね。はい、これ」
 二人のやり取りを茶化して笑いつつ、由里はテーブルの上に数枚の写真を並べた。
 どれもこれも夜間に撮影したのにも関わらず、照明が焚かれていない上に像がぶれていて、人と何か灰色の化け物が一緒に写っていることしか分からない。
「これがオルフェノクか。にしてもひでぇな。人に写真は云々だって言っておいて何だよこれは。まだ俺の方が上手く撮れらァ」
「何故かは知らないけど、オルフェノクは人だかりを避けて夜にしか現れないし、そもそも見つかったら殺されるのよ。まともになんか撮れるわけないじゃない」
「だよねぇ。俺も怖くて怖くてさぁ。夜なんか無暗に寮から出られないよぉ」
「この世界の怪人も相当恐ろしい存在みたいですね。……士君?」
 オルフェノクという存在を嫌悪し、消えてしまえばいいと吐き捨てる由里。
 ケイタロウと夏海がそうだと同調する中、タクミは表情を曇らせて湯飲みを見つめ、士は特に何も答えずただただ由里の写真に目を通していた。
「ん? この写真だけは妙に明るいが……」
「あぁ、それはね。″ファイズ″が戦っている場面の写真だからよ。闇夜でもこうして赤く光るから、フラッシュを焚かなくても像がぼやけなかったの」
 そんな中見つけた一枚の写真。仮面ライダーファイズがオルフェノクに攻撃を加えている場面を撮影したものだ。ファイズの体から発せられる光は相当なものらしく、ぶれはあるが像自体ははっきりしている。
 由里はファイズの写真を握りしめると、不意に中を見て恍惚とした表情を浮かべた。
「あぁ、かっこいいわよねぇ……。ファイズ。あの全身を流れる赤い光のライン、オルフェノクをばっさばっさと薙ぎ倒すあの強さ。一体誰なのかしら」
 何かのスイッチが入ったのか、写真を握りしめてその場をくるくると回る由里。その様子を不可解に思い、首を傾げる士と夏海に、ケイタロウは由里に聞こえない声で耳打ちをした。
「由里ちゃん、一月前ぐらいにファイズに助けられたことがあるんだよ。それ以来ファイズにほれ込んじゃってさぁ。”撮られたがってる写真”を撮影するとき以外は、俺たちにまでファイズの写真を撮ってこい! ってうるさくてさぁ」
「いや待てよ。なんでファイズの写真を撮るのにオルフェノクの写真を撮るんだお前らは」
「ファイズはオルフェノクを倒す。それ以外は一切の謎に包まれた仮面の戦士。だからオルフェノクの出てくる場所で待ち伏せて、ファイズが出てくるのを待つってことだよ」
「ずいぶんと面倒くさいことしてるんだな……。同情してやるよ」
 そう言って由里のほうに目を向けると、今度は写真に頬すりして至福の表情を浮かべている。写真部の事実上の支配者の言うことだから、部員たちは黙って首を縦に振る他ないのだ。
「別にしたくてしてるわけじゃないけど……。ねぇ、たっくん」
「う、うう、うん」
 はぁ、と溜息を漏らしてタクミに話を振るケイタロウ。タクミは何故か顔を紅潮させ”真っ白のボトル”から飲み物を注いでいそいそと口に運んだ。
「って、ちょっと待ってよたっくん! それ、お茶じゃない! 現像液だよ!」
「へっ? ……あう! あうあう、あ……」
 タクミはケイタロウに指摘され、自身が飲んだものがなんであるかに気付く。これは緑茶ではない。トレイに入れ、感光させた用紙に像を定着させる”定着液”だ。具体的に何が入っているか彼らにも窺い知れないが、人体にとって有害であることは間違いない。
「ちょっ、馬鹿! 何やってるのよタクミ! 吐きなさい、とっとと吐きなさい!」
「誰だよもう現像液のボトルをテーブルに置いたの! たっくん、たっくーん!」
「みなさん落ち着いて! とりあえず救急車を」
「はっは! こいつは傑作だな」
「笑っている場合じゃないでしょう! 笑いのツボ!」
 数分後、夏海によって救急車が呼ばれ、タクミは近くの病院へと搬送されていった。

◆◆◆

「おいおい百瀬、まだあいつらを放っておくつもりかよ。お前の決めたことには従ってやるけど、あぁも嗅ぎ回られちゃあさすがにうざくねぇか? 死人に口なしって言うだろ。とっとと殺っちまおうぜ、なぁ」
「玄田君の物言いは鼻につきますが、自分も同感です生徒会長。我々の″目的″のためにも、彼女は″削除″すべきではないかと」
「あたしたちのことを嫌いって言ってたんだし、問題ないわよ。百瀬君」
 北校舎三階端に位置する生徒会室。
 滅多なことでは一般生徒が立ち寄れないこの場所で、主要役員の″ラッキークローバー″は一同に介し、学校のことではない″何か″について話し合っていた。
 ラッキークローバーの元締め――、生徒会長の百瀬は三人の話を聞き、軽く頷いて言葉を返した。
「君たちの気持ちは分かる。だが、今事を荒立てるのには感心しないな。僕たちに歯向かうあいつ……″ファイズ″を探し出して削除する。まずはそこからだ。分かっているだろう?」
「またファイズかよ。あんなの、俺たちが全員でボコっちまえば楽勝なんじゃねぇのか」
「だろうが、万が一ということもある。計画は完璧でなくてはならないんだ。かのミケランジェロのビーナスの美しさのようにな」

「はッ。また始まったよ、馬鹿がつくぐらいの完璧主義者ぶりが」
「でもまぁ、それだけ慎重で理想に燃える男だからこそ、あたしたちは彼の元に集まったのよねぇ。そうでしょ?」
「確かにそうだがよォそのファイズが見つからないんじゃねぇか。これからどうするんだよ百瀬」
 百瀬は何も答えず、人差し指と親指の間に顎先を乗せて思案を巡らせる。
 信条の完璧主義を優先すべきか、計画を前倒しするかの狭間で揺れているのだろうか。

 ――教えてあげようか? ファイズの正体。
 閉め切った窓の外から聞こえた謎の声。その声に真っ先に気付いた百瀬は、振り向き様に窓を勢い良く開いて、張り付いていた人物??海東大樹を生徒会室の中に“迎え入れる”。
「痛てて。ずいぶんと乱暴じゃあないか」
「君は一体何者なのかな。返答には十分注意したまえ。事と次第によっては……、分かっているね?」
「よく言うよ。何と言っても僕を殺すつもりなんだろう? 君たちの秘密の会合を盗み聞きしたんだからね。そうだろう? オルフェノクの諸君」
その言葉を聞いた瞬間、部屋の中にいた誰もが顔を引きつらせ、殺意に満ちた目で海東を取り囲んだ。
「図星ってわけだ。おぉ怖い怖い。さぁてと、ここに来たのは他でもない。生徒会長さん、君と“取引”したいんだ。決して悪い話じゃないと思うよ」
海東は一切怯えることなく埃を払って立ち上がり、百瀬に″取引″を持ち掛ける。
 玄田は冗談じゃないと海東に掴みかかって首を絞めようとするが、”取引”に興味が湧いた百瀬によって阻止された。
「君に僕らと取引できる材料があるとは思えないけど、何を持っているんだい?」
「“ファイズの正体”、なんてものはどうかな?」
 含み笑いを浮かべてそう言い放つ海東に驚きざわつくラッキークローバーの面々。海東は予想通りだと言わんばかりの笑みを顔に浮かべて話を続けた。
「話は聞いているよ。ファイズがいる限り君たちの計画は実行出来ないんだってね。僕はファイズが誰なのかを知っている。それがどういう意味を持つのか、分からないわけじゃないだろう」
 オルフェノクである彼らにとって彼らと戦い、倒すことのできるファイズは唯一無二の強敵だ。しかしその正体が分かるのなら、人間であろうとそうでなかろうと、隙をついて事前に仕留められる可能性が出てくる。彼らにとってこれ以上有益な情報はない。
「本当なら確かに魅力的な情報だ。君はその情報と引き換えに、何を要求するつもりだい」
「僕は生まれつき謙虚だからね。多くは望まないよ。ただ、君たちがファイズを仕留めた後、残った”ベルト”を僕に渡してほしい。それだけさ」
「ふざけるのもいい加減にしろよ。今ここで死ぬか?」
 何が謙虚だと百瀬の制止を振り払い、怒りに任せて拳を叩き込む玄田。
 しかし海東はその拳を難無く掴んで勢いを殺し、関節とは逆に捻って離す。海東は痛みに悶える玄田の背中を踏み付け、やや高圧的な口調で言った。
「受け入れないのならそれでも構わないよ。後は自分で探すしさ。邪魔したね君たち。それじゃあ……」
 横たわる玄田に一瞥をくれ、入ってきた窓の縁に手をかける海東。そんな彼を、百瀬は待ってくれと呼び止めた。
「いいだろう。取引に応じようじゃないか。確証はあるんだろうね、ファイズの正体についての」
「やっと重い腰を上げたか。そりゃあもちろん。でなきゃ交渉は成り立たないしね。この取り決めは後追いだ、単刀直入に言ってしまおう。君たちの計画を脅かすファイズの正体。それは――」
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