スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←Journey through the Decade Re-mix 第五話 「ブレイド食堂いらっしゃいませ」 三膳目 →剣《ブレイド》の世界・世界観および設定まとめ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


総もくじ  3kaku_s_L.png Journey through the Decade Re-mix
総もくじ  3kaku_s_L.png これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー
もくじ  3kaku_s_L.png 観た映画の感想
もくじ  3kaku_s_L.png 自作のアレな絵
もくじ  3kaku_s_L.png わかめ新聞雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【Journey through the Decade Re-mix 第五話 「ブレイド食堂いらっしゃいませ」 三膳目】へ
  • 【剣《ブレイド》の世界・世界観および設定まとめ】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「Journey through the Decade Re-mix」
Journey through the Decade Re-mix(1)

Journey through the Decade Re-mix 第五話 「ブレイド食堂いらっしゃいませ」 四膳目

 ←Journey through the Decade Re-mix 第五話 「ブレイド食堂いらっしゃいませ」 三膳目 →剣《ブレイド》の世界・世界観および設定まとめ
 前回は辛うじて何か前書きを配置できましたが、今回は本当に何もありません。

 うちの自家製中華風ちまきのレシピでも書いておいた方が良かったのか否か。

 四条ハジメ社長”だったもの”を取り込んで一体化した鎌田は、最早敵は居ないと高笑いを一つ。事実、この場に鎌田を倒せる者は居ない。慢心に浸る気持ちは分からなくもない。
 だが、勝てないと分かっていつつも、彼に挑まんとする者は居た。

 ――舐めんじゃ、ねぇっ!
 ブレイドは醒剣ブレイラウザーを手に取り、高笑う鎌田の右腕を斬り落とす。千切れた右腕は腐って消滅し、即座に新たな腕が現れた。意に介さないのは承知の上だ。倒せるとは思っていない。
 しかしその行動は、鎌田にある種の疑念を抱かせ、耳障りな高笑いを終わらせた。

「君は馬鹿か? ヒトの命は細く儚い。無駄遣いせず守り抜きたまえよ。まさか、君ごときが『万物の帝王』足る私に、歯向かえるとでも?」
「そのまさかだカマキリ野郎、お前だけは絶対に許さない!」

 ――THUNDER《サンダー》
 ――SLASH《スラッシュ》
 ――――ライトニングスラッシュ

「喰らいやがれ、虫けら野郎ぉぉぉぉおあッ!」
 ブレイドは「サンダー」と「スラッシュ」のカードを同時にラウズ。
 スラッシュのカードで切れ味を高め、サンダーのカードで付加された雷の力を伴って斬りかかる。
 だが、鎌田はブレイド渾身の一撃を右手で容易く受け止め、面倒臭そうに溜め息を漏らした。
「人間と言うのは、誰も彼も話を最後まで聞かない種族なのか? 良いかねブレイド、私は君を『逃がしてやろう』と言っているんだよ。手向かって何になる。仇を討って何になる。不可能だと分かって絶望するのが落ちだろう。例えばそう……、こんな風に!」
「な、にっ!?」
 これは、一体どうしたことだろう。ラウザーに宿っていた雷の力が、刃を素手で掴む鎌田の手に吸い込まれ、効力を失ってしまったのだ。
 代わりに鎌田の左腕が火花を散らして鮮やかに輝き、ブレイドの体を斬り付ける。
「雷の力にこの切れ味……こいつは、まさかッ!」
 どちらも、今自分が使おうとしていたカードだ。もしや奴は、相手のカードの効力を複製出来るのか。
「ン……だとぉ!」ブレイドはラウザーを杖代わりにして立ち上がる。「見下してんじゃねぇ、勝負はこっからだッ!」
 ――BEAT《ビート》
 だがブレイドは引き下がらない。倒れそうな体を背筋の力で押し留めて突っ張り、「ライオン」の絵柄のカードをラウズ。鎌田の顔目掛け強烈な正拳突きを放った。

「言って聞かせても無駄か……。宜しい、準備体操代わりに付き合ってあげましょう」
 鎌田は首を大きく捻って拳の勢いを殺すと、無防備になったブレイドの脇腹に、紫色のオーラを纏った自身の拳を叩き込んだ。
 下から突き上げられた拳は、ブレイドの体を強く弾き飛ばし、彼の体は放物線を描いて落下する。

「この……野郎ッ! まだ、まだだァ!」
 ――MAGNET《マグネット》
 ブレイドは直ぐ様体勢を立て直し、「バッファロー」の絵柄のカードをラウズ。自分を”磁石”にし、相手を自由に引き寄せ、また引き剥がす効力を持った「マグネット」のカードだ。
 至近距離でラウズすれば、その効力を奪われてしまう。ならば遠距離で使った場合はどうだ。
 思惑通り能力は滞りなく発動し、離れていた二人の距離は徐々に縮まって行く。

「あ……あれ? あれ!?」
 だが、暫くしてブレイドは気付く。動いているのは鎌田ではなく、自分の方であると。カードは確かに発動している。しかしそれは鎌田の意思で動いているにすぎないのだ。
 パラドキサアンデッドの両腕の刃が妖しく光る。先程までの二の舞だ。追い詰められたブレイドはラウザーのトレイからカードを引き抜くと、

「だったら、こうだッ!」
 ――KICK《キック》

「イナゴ」のカードをラウズして跳び上がり、引き寄せられつつ鎌田に飛び蹴りを見舞う。
 どうせ引き寄せられるのなら、その力をキックの上乗せにしてやる、というブレイドなりの機転だ。

 良い手だが、今の鎌田には通用しない。上半身だけを動かして左にスウェーバックでかわし、お返しにと隙だらけのブレイドに、紫のオーラが宿った回し蹴りが飛んだ。
 叩きつけられ、実験場の白いタイルに亀裂が走る。圧倒的な戦力差に、ブレイドは最早言葉も無い。

「く、くそっ。どうなってやがんだよ……。けど、まだまだッ」
 それでもなお諦めず、扇状のトレイからカードを取り出そうとするのだが、

「カードが……、一枚も無い!? ……どうなってんだこりゃあッ!」
 使用後ひとりでにラウザーの中に戻るはずのカードが、トレイの中にない。どこに消えたかと周囲の床を見回すブレイドに、鎌田は自分の体を軽く撫でながら彼に向かって言った。

「お探しのものは、これかね」
「そうそう、それそれ……って、何っ!」
 驚いて素っ頓狂な声を上げたのも無理はない。彼の体、より厳密に言うのであれば左腕に「トカゲ」、右腕には「ライオン」、胸部には「ヘラジカ」と「バッファロー」、右足には「イナゴ」の紋章。
 トレイの中から消えたカードが全て、紋章となって鎌田の体に埋め込まれていたのだから。

「さすがにもう分かっただろう? 私はカードを吸収し、その効力をも取り込めるのだ。世界の理を破り、カードの力を行使出来る私と、アンデッドを封印出来るジョーカーとの”ハイブリッド”というやつさ。
 お分かりかね仮面ライダー。君の攻撃など、私には痛くも痒くもないのだよ」
 この世界の仮面ライダーであるブレイドは、封印したアンデッドの力をラウザーやバックルの力で引き出して戦う。
 故にラウズカードは戦闘の要であり、それを封じられたということは、文字通りの”手詰まり”に他ならない。

 鎌田は力無く膝をつくブレイドの首を掴んで持ち上げ、彼の耳元で囁《ささや》いた。

「安心したまえブレイド君。私は人間を滅ぼしたりはしないし、そもそもそんなことに興味はない。
 君たちも知っての通り、私は殺しても死なない”アンデッド”。死なないのはいいが、復活して自我を持つと、代わり映えの無い毎日が「退屈」でね。何か気晴らしが欲しかったのだよ。
 株式会社BOARDは、不死生物アンデッドに対抗できる唯一無二の存在。カードで武装したライダーの戦闘力は、各国の一個中隊にすら匹敵する。一企業に持たせておくには大きすぎる力だ。
 分かるかね? 法的かつ物理的にBOARDを乗っ取った私は、まさに何だって出来るのだよ。気紛れにアンデッドを暴れさせ、気紛れにライダーを出動させてそれを倒す。人々の喜びや悲しみ、怒りや憎しみさえも、全ては私のさじ加減ひとつ。世界の恐怖のバランスは、私によって作られるのだ。
 どうだ、最高の退屈しのぎだとは思わないかね」
 鎌田にしてみれば、戦意を喪失したブレイドに追い撃ちをかけ、彼を絶望の淵に落としたつもりだったのだろう。
 しかしブレイドは絶望するどころか、ラウザーを握る右手に力を込め、今一度立ち上がった。

 ――退屈しのぎ、だと?
 ――先輩やムツキをあんなにして、社長を化物に変えて取り込んでおいて、やりたいことがただの「退屈しのぎ」だと……?
 ――冗談じゃねぇ。冗談で済ませていいはずがねぇ!
 ブレイドは握りしめたブレイラウザーで、自分の首を掴む鎌田の右腕を斬りつけ、強引に鎌田を引き剥がすと、我武者羅に剣を振るった。

「いやはや、なかなか見どころのある若者だ。絶望させ甲斐がある」
 当然、我武者羅で単調なだけの攻撃が、今の鎌田に通用するはずがない。彼は時に腕で刃をいなし、時に上半身だけを動かしてかわし、丁寧に反撃を撃ち込んで行く。
 しかし今のブレイドは揺るがない。
「確かに、人間は愚かでロクでもない生き物かも知れねぇさ。けどな、そいつの生き方はそいつだけのもんだ! 他人が勝手に弄って良いもんじゃねぇ。
 俺は戦う。誰も認めてくれなくたっていい。何言われようが構うもんか。平和を脅かすアンデッドを封印し、人類の平和を守る。それが仮面ライダーの仕事なんだからなッ」
 カードも、策も、仲間だってもう居ない。それでも尚、いやだからこそ、ブレイドは止まらない。仲間たちはおろか、人間と言う種そのものを侮辱したこいつにだけは、絶対に負けられない。怒りが一つの信念となり、彼の体を奮い立たせるのだ。
 鎌田は無駄な足掻きと舌打ちをしつつ、その一つ一つを防ぎ続ける。だが、先ほどまでと今とでは二つほど違いがあった。
 ひとつは、ブレイドの攻撃を、鎌田が凌ぎ切れなくなっていること。
 もうひとつは、その攻撃に彼が“痛み”を感じ始めているということだ。

「痛み……? こんなひ弱な攻撃で、何故痛みなど……」
 一体何だと驚き、改めてブレイドの姿を見据える。
 彼はある“異変“に気付く。ブレイドの胸のカテゴリーAの紋章が、金色に光り輝いているのだ。

「あの輝き、あの力……。ついに『覚醒』したのか、カズマ! あれが社長……、いや四条博士が長年追い求めていた、仮面ライダーの『理想形』!」
「覚醒って、……知っているんですか、サクヤ先輩」
 その光景を見ていたのは鎌田ばかりではない。自力で太腿の棘を引き抜いたサクヤとムツキの目にもしっかりと映っていた。

 この世界における仮面ライダー――、BOARD設立後に開発された二号機レンゲルと、再後継機ブレイドにはアンデッドの脅威に対抗すべく、装着者をカテゴリーAと『融合』させ、力を増大させる能力が備わっている。
 正しく運用できれば圧倒的な力を得ることが出来るが、試用段階だったレンゲルはカテゴリーAが持つ、”邪悪な意思”を取り除くことが出来なかった。
 故に戦い慣れしていない者であっても高い戦闘能力を発揮出来るのだが、カテゴリーAの邪悪な意思は装着者の心の弱い部分に付け込み、精神を乗っ取って暴走するというリスクを孕んでいる。レンゲルの装着者が毎回適性を検査するのはそのためだ。

 そのため、最後継機のブレイドには更に特殊な『プロテクト』がかけられている。
 ブレイドにかかっているプロテクトとは、『カテゴリーAの意思を封じる』ものと、『ある条件を満たすまではアンデッドとの“融合を行わない”』の二つ。アンデッドとの融合が無い以上、戦闘能力は全てのライダーで最も低い。
 解除条件は、装着者が決して揺らがぬ”強い意思を持った”時。何かを守るため、何かを救おうとしたり、怒りや憎しみでも構わない。意思の力でカテゴリーAを無理矢理抑えつけ、力だけを自身に還元させる。それがブレイドに施された本当の力なのだ。
 ひとたび解放すれば、ブレイドはカテゴリーAと肉体的精神的に融合し、アンデッドと同等か、それ以上の力を発揮して戦うことができる。完全な融合だ。それこそ他のライダーとは比べ物にならないほど強くなる。

「……なぁ、ムツキ。お前は不思議に思っていたよな? あれだけ失態を犯しておきながら、何故カズマをクビにしないのかと。
 あいつはブレイドの特性を発現させられる可能性を持った、現時点じゃ唯一の人間だったのさ。だからこそ社長は奴の成長を待ち、会社に置き続けた。いつまで経ってもあのままなものだから、常に悩んでおられたが」

 あんな奴が、自分よりも優れた力を持ったライダーだって? ムツキはそんなわけあるかと首を横に振るが、自分たちが束になっても敵わない相手を一人で圧していくブレイドの姿は、紛れもない事実として彼の眼に映る。

 実際、ブレイドの動きは先ほどまでとは比べ物にならない程、正確さとキレを増している。時に攻撃をかわし、体を入れ替えながら、丁寧かつ正確に相手の急所や隙を狙い、そこを確実に突いてくる。
 無意味とはいえ、万物の帝王たる自分が、見下していた人間相手に手を拱《こまね》き、いつまで経っても倒せないこの状況に、鎌田は焦りと怒りを募らせていた。

「急に調子付きよって……、私に支配されるべき人間が! 調子に乗るなッ!」
 苛立ちをエネルギーに変え、稲妻を纏った右腕を力強く振り下ろす。受ければブレイドに勝ち目は無い。しかし、大振りのそれはブレイドにとって“隙”以外の何物でもなかった。

「喰らうかよッ! こいつはいただくぜっ」
 刃が振り下ろされる瞬間、鎌田の右側部に回ったブレイドは、攻撃をかわすと同時に、背中の鎌を奪って鎌田の体を斬りつける。
 最強のアンデッドが所持する武器だけあって、破壊力はかなりのもの。たった一振りで鎌田の右腕を根元から叩き斬り、白い床を噴き出した血で緑に染め上げた。
 激痛に苛まれ、その場に膝をつく鎌田を見下ろし、ブレイドは右手の中指を突き立てた。
「立てよカマキリ野郎。俺もお前もこんなんじゃ終われねぇだろ、立ってきやがれってんだよォ!」
「たかだか人間風情が……ッ、図に乗るんじゃあない!」
 先の様に不意を突かれてではなく、純粋に遅れを取って千切られた右腕を目にし、鎌田の顔が屈辱と怒りでくしゃくしゃに歪む。最強の力を手にし、万物の帝王を名乗った自分に対して、これ以上の屈辱はない。
 右腕が再生すると同時に、両肘の刃を伸ばし、ブレイドに襲いかかる鎌田。鎌とブレイラウザーの二刀流で真正面から迎え撃つブレイド。鋭利な刃同士の鍔迫《つばぜ》り合いが、骨肉に染みる鈍く鋭い音が実験場内に響き渡った。

「くそ……おっ! いい加減、倒れろよッ!」
「私は倒れん。倒れて地に伏すのは、貴様の方だッ!」
 実力は拮抗しているが、鎌田には勝算があった。いくらアンデッドと融合しているとはいえ、中身は人間。自分の武器を使って戦っていようと、疲れを知らないアンデッド相手に、いつまでも同じ状態で戦えるはずがない。鎌田の勝算と思惑は的中する。ブレイドは疲労に膝を揺らし、眼前で彼に無防備な背中を見せたのだ。
 それを勝機と見た鎌田は、両の腕を振り上げるが、

「へ……へへっ! お見通しなんだよそんな攻撃ッ!」
 この瞬間を勝機と見ていたのはブレイドも同じ。彼は左腕に持った鎌の峰で鎌田の刃を受け止め、強引に持ち上げると、右手でブレイラウザーのトレイを開き、切っ先を鎌田に突き刺して、吸収されずに残った最後の一枚をラウズした。

「くらいやがれぇええええっ!」
 ――TACKLE《タックル》
『イノシシ』の絵柄のカードをラウズした瞬間、ブレイドは爆発的な突進力を得、鎌田を実験場の壁に叩きつける。虚を突かれたからか、吸収する暇も無く、無防備な状態なそれを喰った鎌田は、壁にめり込んだまま動けなくなってしまう。

「どこまでも小癪《こしゃく》な真似を……! だがそれが何だ。私は万物の帝王だぞ、こんなもので死ぬわけないだろう!」
「いい加減に聞き飽きたぜ、そのアオリ。ンなこと、最初から分かってるよ。でもな、今の一発で『先っちょが入ったぜ』」
 ――先っちょ?
 疑問に思い、首だけを動かして周囲を見回す。密着しているブレイドのせいで、何が起こったか詳しく目視出来ないが、痛みとして伝わる感覚が、一体何なのかを鎌田に伝えた。

「お前、まさか……、私の”バックル”に、刃を……!」
「あぁそうさ。ずっと思ってたんだよ。お前らアンデッドは腰の”バックル”が開かなきゃカードで封印できない。戦闘不能にならなきゃダメだと教えられてきたんだが、別にそこまでしなくても、『無理矢理こじ開けたら』いいじゃねぇか、ってな。良い機会だ、てめぇの体で試させて貰うぜッ」
 ブレイドは両手でラウザーの柄を掴み、有らん限りの力を込める。テコの原理を応用して、腰のバックルを無理矢理こじ開けようと言うのだ。
 アンデッド同士の、そしてライダーとアンデッドとの長い闘いの中で、このようにして相手を封印しようとする者など居なかった。出来るとも思わなかったのだろう。
 しかし、胸部の紋章を金色に輝かせ、激しく波打つほどにアンデッドと融合し、その力を極限まで引き出したブレイドであれば、それも可能かもしれない。
「冗談じゃない、離れろ虫けら! その汚らしい刃を抜け、今直ぐに!」
 ブレイドの気迫に脅威を覚えた鎌田は、バックルに刺さった刃の切っ先を抜こうとするが、

 ――させるかぁッ!
 ――OPEN UP
 痛む足を圧してレンゲルに変身したムツキがラウザーを振るい、鎌田の右手と右足首を貫通させ、その刃を地面にめり込ませて串刺しにする。
 手と足に風穴が開いたが、それらは欠損しておらず、足首を貫通して地面に突き刺さっているため、自力で引き抜くことは適わない。その場に釘付けにされてしまったのだ。

「ムツキ!? お前、どうして!」
「認めますよカズマさん。僕はあの料理対決であなたに負けた。あんなにおいしいハンバーグ、食べたことがなかった。でも、ぼくは負けっぱなしってのが嫌いだ。こんなところであなたに死んでもらっちゃ困るんです。
 もう一回勝負してくださいカズマさん。次は何が出されても“まずい”って言ってやる。今度こそあんたに勝ってやるんだっ!」

「まだ歯向かう力が残っていたとは……! だが、腕はもう一本残っているぞッ!」
 右半身は封じたが、鎌田の左半身はまだまだ健在。レンゲルさえ引き剥がせばラウザーはすぐに引き抜ける。鎌田は雷のオーラを左腕の刃に纏わせ、右腕を振り被るが、

 ――そうはさせん!
 刃は遠方より放たれた銃弾により弾かれる。ムツキと同じくギャレンに変身したサクヤが、二人のライダーの間を縫って鎌田の刃を銃撃で弾いたのだ。
「サクヤ先輩!? あんた何やってんすか!」
「余所見をするなカズマ! 状況は概ね把握した。さっさと仕留めろッ!」
 ギャレンは一点の狂いもなく銃弾を鎌田の左腕に当ててゆく。この方法で確実に鎌田を封印できるのかは分からない。だが、少しでも可能性があるのなら、何も出来ずに手を拱いていた自分と違うのなら。彼はブレイドの勝利を信じ、ただ無心に引き金を引き続ける。

「ふざけるな……、ふざけるなッ! ふざけるなッ! ふざけるな! 人間なぞに、人間なんぞにぃいいいッ!」
 レンゲルによって右半身を封じられ、左腕もギャレンの銃撃を防ぐだけで手一杯となった鎌田は、残った左足でブレイドの足を踏みつけ、無理矢理引き剥がそうとするが、ブレイドは全く動じない。
 スペードスートの紋章はさらに輝きを増し、運動直後の心臓の動悸のように、激しく上下運動を繰り返す。
 心臓を介して体中に血液が行き渡っていくかのように、ブレイドの体全体にカテゴリーAのエネルギーが充実し、踏ん張り続ける足に、剣を握る両腕に益々力が込められて行く。

「これ……は、そんな……馬鹿なッ!」
 常人離れしたブレイドの力と、二人のライダーの協力により、開かないはずの腰のバックルが、ラウザーの切っ先が入った隙間が、少しずつではあるが広がり始めた。
 一度拘束が緩めばしめたもの。開いた隙間は込められた力に乗り、テコの原理によって徐々に動いてゆく。あと少しだ。だが同時にブレイドは感じていた。

 ――切っ先から俺の手に、俺の腕に伝わってくる。
 ――俺の、いや一極集中させたこの力に、刃の方が悲鳴を上げてやがる。
 ――このまま続けたら、こいつは……。
 ――あぁ、くそッ! そんなこと言ってる場合じゃあねぇよな。
 ――構うもんかッ、ブレイラウザーの一本や二本、くれてやる!
 ――うおぉおおおおおおっ!
 剣が砕けようが、腕が千切れようが構うものか。痺れて感覚が無くなり始めた両腕に鞭を打つ。込められ続ける過負荷に耐えきれなくなったのか、ブレイラウザーの刃に稲妻のような亀裂が走る。限界なのはラウザーも同じだ。
 程なくして、粉々に砕けたブレイラウザーの刃を犠牲にし、ついに鎌田の腰のバックルは完全に開き切った。

「カズマ!」
「カズマさん、今だッ!」
「言われなくても分かってる!」
 ブレイドは砕けた反動で宙に舞ったブレイラウザーの柄のトレイから、絵柄の入っていない《プロパーブランク》カードを抜き出し、開き切った鎌田のバックルの中に押し込んだ。
 瞬間、鎌田の体は緑や紫のおどろおどろしい輝きに包まれ、カードの中へと吸い込まれていった。

「やった……のか?」
 あまりに唐突な幕切れに、本当に終わったのかと辺りを見回すブレイド。刃が砕け、柄の部分のみのブレイラウザーが転がっているが、そこに鎌田の姿は見受けられない。

「あ……、あ……」
「どうしたんだムツキ。そんなに震えて……」
 だがブレイドの隣に立ち、彼の背後を向いているレンゲルは、眼前の何かを見て明らかに怯えている。彼は自分の背後に何を見たと言うのか。

 ひとつ、訂正しなければならない。ブレイドは周囲を見回したと言ったが、”自身の背後”を見ることを怠っていた。仕方がないとはいえ、それは思い込みと油断が生んだ失態であった。
 何故ならば。

 ――私をお探しかね? 仮面ライダー君。
 封印されたはずの鎌田が、ブレイドの背後で腕の刃を構え、今まさに振り下ろそうとしていたからだ。
 鎌田は刃を振り下ろしてブレイドを蹴散らし、レンゲルをラウザーごと斬り伏せて、彼の首根を掴んで壁に叩きつけ、ギャレンが引き金を引くよりも先に”かまいたち”を飛ばして、彼の体を血だるまに変える。

 レンゲルが恐れ慄き、ブレイドが振り向いてから、たった数秒程度の出来事だった。

「俺のやったことは無駄だったのかよ……まるで効いてねぇじゃねぇか」
 負傷と同時にカテゴリーAのカードを吐き出しつつバックルが外れ、カズマは変身を強制解除させられて床に横たわる。
 依然変わりなく自分を見下ろして立つ鎌田を見、自分のしたことは手持ちの武器を失っただけの蛮行だったのかと、心の底から絶望を感じ、恐怖に体を震わせた。
 だが彼の向かい側で横たわるサクヤは、それは違うとカズマに言い放った。

「お前のやったことは無駄なんかじゃない。よく見ろカズマ。あいつの周りに散らばるカードを、そしてお前が今、自分の手に握っているカードを」
「まわり? 手の……中?」
 サクヤの言葉をオウム返しにしたことで、カズマは自分が、普通のラウズカードとは違う黒色に縁取られ、緑色の禍々しい何かが描かれたカードを握り締めていることに気付く。その上、周囲に散らばるヘラジカ、トカゲ、ライオン、バッファロー、イナゴのカード。全て自分が使っていたものと同じだ。

「これは……なんだ? それに……」
 手の中の奇妙なカードを見込んだ上で、改めて鎌田の姿を注視する。今の彼には”頭の先から肩ほどまで伸びる長い二本の触角”も、”顔を覆う薄い緑のゴーグル”も、”身の丈ほどもある大鎌”も無い。ムツキやサクヤ、士やユウスケたちと争っていた時の、”パラドキサアンデッド”の姿へと戻っていたのだ。

 このことが示す事実とは何か。思案して答えを出すより先に、鎌田はカズマの胸部を踏みつける。象に押し潰されるかのような圧が胸部にかかり、形容し難く、聞くも無残な悲鳴が周囲に轟く。

「私の体の中から”ジョーカー”を引きずり出して封印するとは……、その発想だけは褒めてあげましょう。ですが、詰めが甘い。私は”世界の理”を超えた万物の帝王! 封印如きで活動を止めることなど出来ないのですよ。
 この世界のどこかで封印されずにいるクローバースートのカテゴリー10……、あれさえあれば、ジョーカーは再び蘇る。断言しましょう、あなた方の行動は無駄以外の何物でも無い!」
 喋っている間も力が緩まることは無く、肋骨に亀裂が走り、肺や心臓に鋭く尖った骨が迫る。そのまま刺し貫かれないのが不思議なくらいだ。両腕で奴の足を掴んではいるが、引き剥がすには力が足りない。

 ――俺は、ここで終わるのか?
 ――まだ、何もしていないのに、終わらなきゃいけないのか?
 ――冗談じゃねぇ。ムツキにもサクヤ先輩にも、社長にも謝ってないんだ。
 ――こんなところで、こんなやつに殺されてたまるかよ。
 ――ちくしょう、ちくしょう……ちくしょぉおおおッ!

 怒りと絶望に満ちた心の叫びが胸を通り、喉を伝い、弱々しい吐息と共に口から漏れ出した。だがサクヤもムツキも、部屋の外で横たわるユウスケも、その叫びを聞いてなお、立ち上がる者はいなかった。

◆◆◆

 ――頭が、痛てェ。
 ――俺は、ここで一体何をしていたんだ?
 そのか細く悲痛な叫びを耳にし、唯一覚醒した男がいた。かまいたちで全身を斬り裂かれ、意識を喪失していた門矢士だ。
 周囲の状況を把握せんと体を起こす。しかし、傷だらけの体は“立て“と言う指令を受け付けない。下半身を斬り刻まれて、立ち上がろうにも体が動かないのだ。

「ちくしょう……、なんだってんだよ、このッ」
 情けない自分の体に悪態をつく。身を守らんと両腕を十字に組んで耐えるカズマと、怒りに震え、彼を何度も踏みつける鎌田の姿が目に留まったのはその時だ。

「おいおいおいおい。ありゃあ……」
 あまりのことに記憶がやや混乱していた士だったが、この光景を目の当たりにし、全てを悟る。
 このままではカズマが殺されてしまう。だが加勢したとして、立って戦うことすらできない自分に、何が出来る。
 無駄じゃないかと諦め、床に視線を落とす。士は自分の周囲に何か”暖かいもの”を感じ、掌で埃を払うように周囲を探る。
 士は程無くして自分の右手の近くに、”淡い輝きを発して点滅する”三枚のカードがあることを知り、掴み取って目の前に引き寄せた。

「こいつは……まさか!」
 拾い上げて目にしたのは、『仮面ライダーブレイド』の顔が描かれたものと、ブレイドを象徴するスペードの紋章が刻まれたもの、そしてブレイドと巨大な剣が描かれた未知のカード。
 そんなカードが自分の手の中にある。カズマと自分の心が繋がったということだ。皆と協力し戦い合ったことからか、それとも窮地に追い込まれ発した、死にたくないという悲痛な叫びだったのかはわからない。
 ――あいつはチーフである俺が来るのを待っている。
 ――部下に手を差し伸べるのは上司の仕事、だったな。
 ――まったく、会社勤めってのも楽じゃねぇな。
 言うことを聞かない自分の体に鞭を打ち、立ち上がろうと必死にもがく。
「くそっ、くそっ! このやろ、このやろッ! 動け……動けってんだよ!」
 いくら気合を入れようとも、立つどころか、太い釘で軟肌を勢いよく突き刺すような激痛が走るばかり。鎌田に踏みつけられているカズマに目を向ける。両腕に力を込め、蒼褪めた顔で辛うじてに耐えている。もう長くは持つまい。
「落ち着け……落ち着け! 何か、何かないのか? 俺一人じゃあ満足に自分の体も起こせねぇ。となれば……」
 士は自分の力で起き上がることをやめ、何か使えるものはないかと周囲を見回す。必死に辺りを探る彼の目に、近くで横たわるユウスケ――紫のクウガの『タイタンソード』が留まった。

◆◆◆

「そろそろ君の命の炎を散らせて差し上げよう。首を切り落とせば、痛みも何も感じずに死ねる。そうだろう?」
 カズマが十分に弱ったのを確認し、彼の喉笛目掛け、右腕の刃を振り下ろさんとする鎌田。来るのは解っていたが、肋骨の破片が心臓に刺さりかけ、意識が朦朧《もうろう》としたカズマの脳裏に、「避ける」という選択肢など無かった。
 そんなカズマを見下ろして嫌味たらしく笑い、一気に刃を振り下ろす。鈍色《ニビイロ》に輝く鋭い刃は、彼の首筋へと一直線に飛んだ。

 ――そうは、させねぇえええっ!
「何ぃいいいいッ!?」
 緑色の体液が周囲に散り、野太い悲鳴が上がる。鎌田の刃が刎ねたのはカズマの首ではなく、自身の「左腕」だった。どうしてそんなことが起こったか。鎌田の振り下ろした刃は、手裏剣のように飛んできた『一枚のカード』によって、軌道をずらされていたのだ。

「何者だ、誰がやったッ」
 予期せぬ邪魔と左腕を襲う激痛に、傷口を押さえながら周囲を見回す。野太い悲鳴と、顔に降りかかる緑に体液によって、自分が殺されなかったことを知覚したカズマは、その隙き地面を転がり、実験場の中から逃げ出した。

「よぉ、よぉ。野郎のくせになんだその悲鳴は。まったくお笑いだぜ」
「……貴様は、まさか!」
 周囲を見回す鎌田の目に、門矢士の姿が留まる。クウガのタイタンソードを杖にし、なんとか立っていられる状態だ。
「太腿《フトモモ》、脛《スネ》、踵骨腱《しょうこつけん》……、歩くのに必要な筋肉は全て切り裂いたはずだ! 何故だ! 何故立てる!」
 自分の仕事は完璧だ。動ける筈が無い。なのに何故立っていられるのか。糸の切れた人形同前の男に、どうしてこうも出し抜かれる。鎌田は柄にもなく取り乱し、みっともなく地団駄を踏んだ。
 士は滑稽な鎌田の姿を鼻で笑いつつ、「教えてやるよ」と話を切り出した。

「人は誰しも、何かしらの『使命』を持って生きている。無様だろうが愚かだろうが、そいつを完遂するまで死ぬことは許されない。立って戦い続けなくちゃあいけねェんだ。
 俺の使命は世界を旅し、自分の世界を見つけること。そしてこいつの、カズマの使命は! アンデッドたちを封印し、地球と人類の平和を守ることだ」
 士の言葉に耳を傾けていた鎌田は、彼の話に疑念を覚える。いつの間にかその言葉は、自分ではない別の誰かへ向けられているのではないかと。鎌田の疑念通り、士の言葉は途中から、彼ではない別の人物に向けられていた。士は荒い息を吐いて横たわる、“誰か”に対し、荒々しく声を張り上げる。

「仕事中に居眠りしてんじゃねぇぞカズマ! 上司である俺が立てて、てめぇだけ寝ているとはどういう了見だ、あァ!? 働けカズマ、上司である俺の命令だ!」
「あり得ない。奴とて虫の息だ。叱咤や激励で立てる筈が……」
 カズマとて満身創痍。どんな言葉を並べようが立ち上がれる訳がない。鎌田は二人を嘲り笑うが、それを聞くカズマ拳に力が籠った。

「……今更出てきて勝手なこと言いやがって。けどまぁ、『チーズ』の命令だってんなら仕方ないよ……なぁ」
 同時に、再度変身せんと、手元に転がるブレイバックルとカードを握る。掴めはしたがバックルを持ち上げることができず四苦八苦している。彼の行動は鎌田の心に苛立ちを生じさせ、士の心に希望を与えた。

「貴様といいこの男といい、仮面ライダーとは馬鹿の集まりなのか!? そこまで痛めつけられておいて、何故私に歯向かう! 勝てる可能性など、万に一つも無いではないか」
「阿呆が。可能性ってものはな、諦めさえしなければいつだって100%なんだよ。俺は世界の破壊者だ。俺の行く道を阻むなら、帝王だろうが神様だろうがぶちのめす。カズマ、行くぞッ!」
「あぁ……、もうどうにでもなりやがれ!」

 ――変身
 ――へん、しん!

 ――KAMEN RIDE 「DECADE」!!
 ――TURN UP
 動かない腕に見切りをつけたカズマは、バックルにカードを挿し、素早く壁に押し当てて無理矢理起動。歯を食い縛ってそれを腹部に押し当て、光のゲートを横転で通り過ぎることでブレイドに変身する。
 士は支え棒代わりのタイタンソードを手離して、開いたままのバックルにディケイドのカードを装填。倒れ込みつつドライバーの取っ手を閉じ、ディケイドへと姿を変える。
 変身した二人のライダーは、怪我のハンデなど微塵も見せずに立ち上がり、鎌田を挟ん
で向かい合った。

「カズマ、行くぞ」
「オーケイ、チーズ」
 短く言葉を交わし、鎌田に殴り掛かる。武器と呼べるものはもう無い。が、立ち止まる理由にはならない。ディケイドが拳を振るえばブレイドが蹴りを入れ、ブレイドが殴ればディケイドが蹴り上げ、片方が鎌田を羽交い絞めにして抑え付ければ、もう片方は渾身の力で殴り飛ばし、蹴りつける。息の合った美しい連携だ。
 だがそれすらも鎌田には通じない。羽交い絞めにするディケイドに肘鉄《ひじてつ》を喰らわせ、ブレイドの拳が当たる前に蹴りを入れ、二人を間合いから遠ざけた。

 気合が入っているとはいえ、満身創痍で敵を倒すなど不可能だ。冷静に考えればすぐに分かった筈だが、二人がそれを認めるわけがない。
 自分の顔に散々泥を塗られ、怒り心頭の鎌田は、怒りと困惑が入り混じった口調で叫ぶ。

「私は何だ、万物の帝王だぞ、食物連鎖の頂点に居るべき存在なのだぞ。それがたかが、毛無しの猿如きに……! お前たちだけは絶対に許さん。目を潰し、口を裂き、耳を削ぎ、顎を砕いて徹底的にいたぶってくれる!」
「……だ、そうだ。どうするんだよチーズ」
「そうさな……」
 ブレイドと鎌田の言う通りだ。ライドブッカーもブレイラウザーも失った今、彼らの武器は文字通り自分たちの肉体のみ。だがそれも、いつ使い物にならなくなってもおかしくない風前の灯《ともしび》。こんなもので鎌田に勝てる訳がない。
 だからこそブレイドはどうするんだとディケイドに問うが、彼は“チーズじゃない、チーフだ“と言葉を返す。
「なぁ、知ってるか? ”いい上司”ってのはよ、『自分じゃ何もしない』んだ。厄介事は何もかも部下が片づけるからな。馬鹿と笑うか? でもこいつは真理だぜ。
 仕事っていうものは、往々にして自分が楽をする環境を作るまでが一番難しい。何も知らない部下を一から教育し、自分以上に使える人間に仕立て上げる。そこまで鍛え上げるのにどれだけの時間と労力を費やさなければならないか。教育し終えた頃には、もう自分も定年寸前だったり、そもそも会社にいないかもしれねぇ。馬鹿と笑われても仕方がないか」
 突如としてディケイドの口から飛び出した話。脈絡がない以前に、今話すべきことではないだろう。ブレイドは彼に食ってかかるが、それでも尚、彼の話は続く。

「お前は俺の期待に応え、それ相応の仕事をした。俺は上司《チーフ》として、お前が部下であったことを誇りに思う。褒美だカズマ。あのカマキリの化け物、俺が一撃で仕留めてやろう」
「それが出来なくて困ってるんだろ。一体何するつもりだよ」
「こまけぇことはどうでもいい。カズマ、ちょっとくすぐったいぞ」

 ――FINAL FORM RIDE 「b-b-b-BLADE」
 ディケイドは『ブレイドの顔』と、「巨大な剣」が描かれたカードをドライバーに装填。
 同時にブレイドの背中に強引に両手を突っ込み、”ブレイラウザーの柄”のようなものを取り出し、扇状に開いて、中のトレイを展開させる。
 ブレイドの体は宙に浮き、腰から下が360度回ったかと思うと、破損していたブレイラウザーと、「サンダー」のカードを、足で挟むようにして取り込み、そこから180度回転し、一体となる。
 彼の体は「醒剣ブレイラウザー」を模し、雷の力を宿した身の丈をも超える大剣、『ブレイドブレード』へと、その姿を変えていた。

「ふは……ふはははは! それが貴様らの切り札か!? でかいだけの剣で、この私が倒せると? 愚弄するのもいい加減にしろ、毛無し猿!」
 ディケイドの身の丈をも超える大剣だ。鎌田が馬鹿かと笑うのも無理はない。
「そう思うのならかかってこいよ。俺は逃げも隠れもしねぇぜ」
 ディケイドは鎌田の言葉と態度を無視して、左手の人差し指を突き立て、親指を下に向けて鎌田を挑発する。

「面白い……! ならばくたばれ、仮面ライダー!」
 もう我慢できないと、両手の鎌に紫色の闘気を纏わせ飛びかかる。強烈な殺気と覇気を持って襲い来る鎌田に対し、ディケイドは、「スペードの紋章」が刻まれた金縁のカードを装填する。
「さんざん振り回してくれやがって……、いい加減終いにしようぜ、カマキリ野郎!」
 ――FINAL ATTACK RIDE「b-b-b-BLADE」
 ブレードに宿る雷の力がより一層強さと輝きを増す。十分にエネルギーが蓄積されたのを見計らい、無謀にもディケイドは真正面から鎌田に突っ込んだ。

「手詰まりか蛮勇か、どちらにしろ終わったな! 死ねェ!」
「冗談じゃない。くたばんのは、てめぇだ!」
 空をも引き裂く鎌田の刃がディケイドに迫る。今度こそ斬り裂かれて仕舞いだ。刃が彼の体に届く瞬間まで、鎌田はそう思っていたことだろう。
 だがディケイドは、刃を踏み台にして”跳躍”し、雷の力が宿った大剣を縦一閃に振り抜いた。
 鎌田の体に稲妻が走り、その莫大なエネルギーと、縦一直線の振り抜きで、真っ二つに切り裂かれてしまう。

「私が……万物の帝王足るこの私が、やられた、だと?」
 腰のバックルが、音を立てて開く。不死生物であるアンデッドにおいての”敗北”の証だ。だが、彼にとっての『敗北』は、これだけでは終わらなかった。
「どういうことだ……、どういうことだ! 私は不死身! アンデッドだぞ! このひび割れはなんだ! 一体何が起こっている!」
 今までの余裕や自信に満ちた態度がどこへやら。鎌田は何かに怯え、バックルを擦り始めた。
 それもその筈。バックルを起点とし、体中に『亀裂』が走ったのだから。
 何が何だか得体の知れない恐怖に怯える鎌田を見て、”勝利”を確信したディケイドは、剣を振り抜いたままの体勢で答えた。
「お前は言ったな。”自分は『世界の理』を破ったから強くなれた”と。そりゃあ、ルールを破らなければ得られないものもあるだろう。だがよ、そもそもルールっていうものは、何故存在すると思う?」
「どうして……だと?」
「お前はルール破りのメリットばかりに固執し、そこで生じる”デメリット”を顧みなかった。お前たちほど”ルール”に守られている存在は居ないってのにな」
「だから何だ……何が言いたい!」
 やれやれ、まだ分からないのか。ディケイドは溜め息をつき、正常な判断力を無くした鎌田に理由を告げた。
「いいか、お前は”力を得たから”封印されなかったんじゃない。”封印されることでしか活動を止めることが出来ない不死生物”という、この世界のルールを”破った”から”封印出来なかった”んだ。今のお前はアンデッドでもなんでもねぇ。でかいカマキリの化け物さ」

「な、な、な、な……! 馬鹿な、馬鹿な……。私が、私がもう……アンデッドじゃないと……! そんな……そんな……。ならば私は、私は……何者なんだ!?」
「そんなもん、俺が知るか」
 信じたくはない。だが、全身に広がったこの亀裂を、力を失い、朽ち果てんとする己の体を目の当たりにした今、それを信じて諦める他無かった。
 ――私は、私は……わたしは……!
 鎌田はうわ言のようにそう呟きながら、全身を駆け巡る稲妻にその身を焼かれ、金色に輝く生命エネルギーを放出し、跡形も無く消え去った。
 その一部始終を見届けたディケイドは、手にした剣を放ってブレイドの姿に戻すと、体をよろめかせながら呟いた。

「よしカズマ、飯だ。帰って飯にするぞ」
「め、飯ぃ? いや、それより……何だった今の」
「こまけぇこたぁいいんだよ。それよりも俺は疲れた。とっとと……」
「あら、らっ!? おい、チーズ、チーズ!どうしたんだよ、しっかりしろよ! おい、おいっ!」
 何が飯だ、こっちだって疲れていると文句を垂れるが、話の途中でディケイドが意識を失って突っ伏したことで、その会話は立ち消えとなった。

◆◆◆

「――ここ、は?」
 門矢士が意識を取り戻して最初に目にしたのは、日も落ちて暗くなった天井に、
外界から射し込む様々な光が乱反射している光景だった。窓越しに聞こえる街の喧騒を除いて物音一つせず、室内は不気味な程静まりかえっている。
 体にかかった布団を払い、上半身を起こして辺りを見回す。消毒液のつんとした匂いが士の鼻腔を通り抜けた。
「どこかの病室、ってところか」
 冗談じゃない、これ以上寝ていられるかと動き出すが、右腕に刺さった針と管がそれを邪魔し、立ち上がることは適わない。点滴を打つほどとは相当だと他人事のように呟き、その上で、自分の左手を誰かが握っていることに気が付いた。

「あ。目……覚めたんですか? 点滴打ってるんですから、動いちゃダメですよ」
「お前、夏ミカン……、か?」
「他に誰がいるんです」
 士の左手を握っていたのは、可愛らしい黒と白の給仕服を身に纏った夏海であった。彼の手をずっと握っていたのか、掌が妙に汗ばんでいる。

「どうしてお前がここに。いや、なんで俺はここにいるんだ?」
「ランチタイムが終わるぐらいの頃、カズマさんがあなたを担いでここまでやってきたんです。会社の医務室で休ませてもらって、ユウスケに仕事を代わってもらったんです。安心してください。みんな命に別状はないみたいですよ」
 ユウスケはクウガだから良いとしても、カズマの奴まで平気だとは恐れ入る。士はそうか、と言葉を返し、自分の手を握ったままの夏海に問いかけた。

「ところで……、お前はなんで俺の手を握っているんだ? 悪い夢でも見てたってか?」
 興味本位の一言に、夏海は曇った顔で首を横に振った。
「いいえ、何も。安らかな寝息を立ててすぅすぅと」
「だろうな。俺には過去の記憶がない。夢を見るようなこともねぇ。と、なると……なんでお前は何に怯えているんだ?」
「震えないからこそ恐いんです。あなたが、門矢士という人物が何なのか。それが分からないから恐いんです」
 夏海は顔を竦め、士の手を握り締めると、躊躇いを紛らわすように首を振った。
「これは夢……そう、夢の話なんですけど。わたし、見たんです。ディケイドが、たくさんのライダーと戦い、その全てを皆殺しにして、一人焼け野原で佇んでいるところを。あぁ、いやっ! もちろん夢! 夢の話……なんですけどッ」
 士を傷つけまいと、くどいくらいに夢という言葉を強調して語る。だが、当の本人はそんな配慮など気にする様子もなく、真顔で夏海に言葉を返した。
「ずいぶんとゴキゲンな夢だな。破壊者だの悪魔だのと言われて迫害されてきてるんだ。それぐらいヤンチャだった方が逆にハクがつく」
「やんちゃって……、士君は恐くないんですか? 夢だとはいえ、自分がそんな存在だったとしても!」
 自分のことを気遣う夏海に対し、士はそれがどうしたと、左手の人差し指で彼女のおでこをぐりぐりと押し付ける。
「夢は夢だ。現実じゃあない。それにな夏ミカン。現実ってもんはいつだってどう転ぶかわからない。輝かしい未来が待っている時だってあるし、逆にどこまでもお先真っ暗な未来だってあるかもしれねぇ。
 要は本人の気の持ちようと努力次第ってこった。先の見えねぇものに怯えている暇があるなら、よくなるように努力すりゃあいい。人生は短いんだ。怯えて塞ぎこむよか、余程効率的だろ」
「……」
 ――そうだ。未来なんて誰にも分かりっこない。
 ――ならば、わたしの、わたしたちの手でそれを変えればいい。
 ――あぁ。何故こんなことに気付かなかったのだろう。
 夏海は士の手を握ったまま頷き、憑き物が落ちたかのような顔で、静かに微笑んだ。
「なんだよ、その顔は」
「なんでもありませんよっ」

「それはそうと、あいつらはどうした? カズマとユウスケと、その他大勢は」
「ユウスケとカズマさんはそのまま厨房へ。ムツキさんとサクヤさんはさっきまでそっちのベッドで寝てましたけど、ちょっと前に起き上がって、食堂に向かいましたよ」

「タフな奴らだな……。部下が起きて仕事してるのなら、チーフの俺が寝てるわけにゃあ、いかねぇよな」
 使命感というよりは、単なる負けず嫌いか。士は点滴の針と管を引き抜き、患部をガーゼで押さえて包帯を巻くと、夏海の制止も聞かずに起き上がった。
「ちょ、ちょっと士君! 何も点滴まで抜くことないじゃないですか!」
「うるせぇうるせぇ。着替えはどこだ着替えは!」
「あぁんもう着替えなら、わたしが出て行ってからしてください!」
 病人服では嫌だと着替えを探し服を脱ぐ士と、服はありますからやめてくださいと赤面する夏海。先ほどまでの暗い雰囲気はどこにもない。

 ――一時はどうなるかと思ったが、杞憂だったようだな。
 ――何はともあれ”実験”は大成功だ。これから何が起こるか……、せいぜい楽しみにしておくが良い、ディケイド。

 医務室の外の廊下で士たちを見守っていた鳴滝は、にやりと口元を歪ませ、薄茶色のコートをはためかせて踵を返し、光のオーロラの中へと姿を消した。


◆◆◆

「まったく、お前らは……なんでそんなに元気なんだ?」
「『俺たちが』元気なんじゃない。”ライダーシステム”のおかげさ」
「アンデッドと融合している僕たちは、傷の治りも早いんです」
 すっかり日も落ちた夜八時半頃。食堂には厨房で仕事をするカズマたちと、彼らの作る料理を食すサクヤとムツキ。
 ピークと退社時間が過ぎたこともあり、客の入りは大したことはない。その割に甲斐甲斐しく働く、三人の給仕服の女性たちの姿が目に付いたのだが。
 ムツキとサクヤにそういうものか、と言葉を返した士は、厨房の中で皿洗いをするシオリに声をかけた。
「よぉ、悪いな。業務用アイス、全部売り切れちまっててよ」
 謝ってはいるが、口調の中に申し訳の無さは微塵も無い。理由が分かっているのか、シオリは士の弁解を無視して答えた。
「言いたいことは色々あるけど、まずは生きて帰ってくれてよかった。チーフも、カズマ君も」
「おぉ。それで、ランチとディナーはどうだった?」
「おかげさまで。ランチタイム終了まで馬車馬のように働かせてもらいました。入り口からこの階のエレベーター前まで列ができる光景なんて初めて見たわ。ディナーの方は……、あなたのお友達がウェイターやってくれたおかげで無事に乗り切れたけどね」
「そうか。よくやったな。特別ボーナスが出るよう、上に掛け合ってやるよ」
 そう言って踵を返した士は、厨房で仕込みを行うカズマとコタロウに声をかける。
「あっ、士チーフ! お身体のほうは大丈夫ですか?」
「チーズ、そんなにすぐ動いて大丈夫なのか? 大人しくベッドで寝ていた方がいいんじゃないの?」
「だからチーズってのはやめろって。眠り過ぎて腹が減ったんだ。つべこべ言ってねぇで何か持ってこい」
「はいはい。出来上がるまで五分くらいかかるから、そこで座って待っててくれ」
 カズマに促された士は、今一度ムツキとサクヤの座るテーブルに行き、唐突に話を振った。
「……なぁ、この先どうするつもりだ?」
「どうするって、何がだ」
「この会社のことに決まっているだろ。社長がいなくなった今、お前らはどうするのかってことだ」
 士の問いに、カズマではなく、サクヤが確固たる決意を秘めた目で答える。
「勿論、潰しはしないさ。俺たちには人類の平和を護る使命がある。それに、四条社長の意思は誰かが継がなきゃいけない。
 社長は今もジョーカーと一緒にラウズカードの中で眠っている。今の状態でジョーカーを解放してしまえば、抑えが効かないまま暴れ出し、誰の手にも負えなくなるだろう。
 俺たち人間の平和のために、社長はわざとあの中に封印されているんだ。社長がそうしているのに、俺たちがそれを無駄にしてはしょうがないだろう」
「そのために……」サクヤの言葉に続き、ムツキが割って入って口を開く。
「まずはあのアンデッドが買い占めていた株を回収し、小出しにして資本家たちに売り付けます。買ったのは奴でも、所有者はお付きの三人の女だったみたいで、事情を話したらすぐに返してくれました」
「もっとも、彼女たちも奴に洗脳されていて、何も覚えていなかったらしいがね」
 会社の今後について二人と話し合っている中、士の目の前に、色合い豊かなチャーハンと、金色に輝くスープを盆に載せたカズマが現れた。
「はい。俺特製チャーハンに、シオリさんとコタロウお手製の玉米湯《ユイミータン》。冷めないうちに召し上がってくれよ、チーズ」
「特製って……、俺の炒飯じゃねぇか」
「文句言うなよ。それに俺のはただのチャーハンじゃねぇ、エビチャーハンだ」
「何が違うんだよ……。それはそうと、ユウスケはどうした。あいつがウェイターだろうが」
「あぁ、彼なら……」
 カズマは何かに同情するような寂しげな目をしつつ、そっと厨房の奥の方を指差した。

 ――もう嫌だ! 勘弁してくれ! 俺だって怪我人なんだぞ!
 ――いい加減休ませてくれよぉ!

 ――一番忙しい時に勝手に出て行っておいて何を言うの!
 ――だいたいあなた、怪我どころかぴんぴんしてるじゃない!
 ――お昼にサボってた分、しっかり働いて返しなさいよ!

 ――だからそれ、俺のせいじゃないってのに……あぁあっ!

「シオリさんにたっぷり絞られてるから……さ」
 ユウスケのことを気遣い、自分が持ってきたと語るカズマだが、当の本人は話半分にカズマの持ってきたスープに口をつけていた。
「へぇ……、玉米湯のこの肉、ハンバーグの種を使ってんのか」
「俺の発案さ。ランチタイムの余り物だがよ。結構いい感じだろ?」
「そうだな。スープについては及第点をくれてやる。だが、炒飯の方はまだまだだ。もっと修行するんだな」
「なんだよ! 文句言うぐらいなら食うなよなー」
 士は憤慨するカズマの顔を見つつ、上着のポケットから一枚のカードを取り出した。
「持って行けよ。これから必要なものだろ」
 士は手に持ったカテゴリーAクラスの社員証をカズマに手渡すが、彼は少し考え、迷いを断ち切るかのように押し返す。何故だと問う士に対し、カズマは。
「遠慮しとくよ。俺にはこっちの方が性に合ってる」
 カズマは首から提げた『カテゴリー0』の社員証を掴んで続ける。
「俺はこれからも料理人として、仮面ライダーとして戦う。ここにいるみんなの、地球と人類を護るために。もう自分のためだけに戦ったりはしない。ここに誓う」
 カズマは右拳を皆の前に突き出してそう言った。その言葉とその決意に応えて、サクヤは横から拳を突き出し、カズマの親指辺りに合わせた。
「そう誓うんなら、先輩として俺も協力しないわけにはいかないな。しっかりやれよカテゴリー0の料理人。そして、仮面ライダー」
 サクヤがそうして拳を突き合わせるところを見たムツキは、少し考えて、サクヤと逆の方向から拳を合わせる。
「あなたの下で働くのは嫌だ。嫌だけど……。とりあえず目的は一緒、だから」
「サクヤ先輩、ムツキ」
 拳を突き合わせて誓いを立てる三人の仮面ライダー。
 そんな三人に士は、言葉を発するよりも先にトイカメラのシャッターを切り、突き合わせた拳を写真に収めた。
「ただ誓いを立てただけじゃあ、いつか忘れちまうだろ? 俺がこうして写真に納めてやったんだよ。感謝しろよお前ら」

「誰が写真撮影しろって言ったよチーズ」
「食堂内は撮影禁止ですよ」
「そもそも、撮影するんなら顔から撮るべきだろう」
「こまけぇことはいいんだよ」
 士が撮影した写真を奪わんと駆けだすカズマに、わざとじゃれあいながら逃げる士。仲間と一緒にいることを、仲間を守ることの大切さを知った彼の笑顔は、今まで以上に輝いて見えた。

 ――いい仲間だ。感動的だね。けれど、それが何なのかな。
 そんな中食堂の隅、窓際の席から乾いた拍手が響き、彼らの耳に届く。
 何だ何だと彼らがそちらの方に顔を向けると、クリーム色の帽子を後ろ前に被り、黒のシャツの上から薄茶色のジャケットを身に纏い、青色のジーンズを穿いた、端正な顔立ちの青年が座っていた。
 カズマの視線に気づいた青年は、拍手を止めて椅子を彼らの側に向け、不敵な微笑みを浮かべて口を開いた。
「おめでとう。そして、ありがとう仮面ライダー諸君。君たちがあの部屋で派手に暴れてくれたおかげで、こんなに素敵な『お宝』を手に入れることができたよ」
 青年はジャケットのポケットの中から、アルファベットのAが目を引く『金色に縁取られた』バックルを取り出した。殆どの人物はあれは何だと首を傾げるが、ただ一人、サクヤだけはそのバックルを見て顔を引き釣らせ、尋常ではない態度で人差し指を突き立てた。

「それは……、開発中の新型バックル! 何故貴様がそれを!」
「君たちのおかげだよ。あそこまで破壊されてしまえば、ご自慢のセキュリティシステムも張り子の虎、というわけさ」

「黙れ! 返せ、そいつを今すぐこちらに渡すんだッ!」
 不敵に微笑む青年に、バックルを返せと詰め寄る。青年は即座に「銃」を抜いてサクヤの眉間に突き付ける。黒地に黄、銀、青のラインが入った、「50口径」の大型拳銃に、サクヤは歩みを止めざるを得なかった。

「余計な真似は勘弁だ。僕は争いに来たんじゃない。お礼を言いに来ただけなんだからさ」
 青年はそう言って楽しげに笑い、彼の態度に怒りを募らせるサクヤ。銃を突きつけられている以上、誰もこの男に干渉できない。
 誰もが歯がゆさを覚えて立ち尽くす中、士は腕を組み、高圧的な態度を醸しつつ口を開いた。
「盗人猛々しいとはまさにお前のことだな。気に入ったぜ。……何者だ?」
「君は……」ここで初めて士の姿を見込んだ青年は、彼が首から提げる、『ピンク地に黒縞の入ったトイカメラ』を暫く見つめると、何かに納得して手をぽんと叩く。
「なるほど。君が噂の『ディケイド』か。”門矢士”、ってのは君のことだね?」
「何だ、俺のことを知っているのか? 心当たりがあるなら今すぐ話せよ」
「いいや」士がそう答えることを予測していたかのように、青年は薄笑いを浮かべて首を横に振る。
「僕も君に会うのは初めてさ、おあいこだよ。僕は”ディケイド”のことを知っているだけで、君自身のことなど興味も湧かない」
「いちいち棘のある言い方だな。そもそも、名前を尋ねられたらまずは答えるのが礼儀だろう」
 青年はバックルをポケットにしまうと、左手で面倒くさそうに頭をぼりぼりと掻き、
「しょうがないな……。僕の名前は海東《かいとう》大樹《だいき》。世界を股にかけ、価値あるお宝を収拾するトレジャーハンターさ。ついでに、君よりもずっと前から”通りすがりの仮面ライダー”でもある」

 ――俺よりも前から?通りすがりの仮面ライダー?
 たった一言に引っかかるものを感じた士は、サクヤに銃口が向けられているのにもかかわらず、海東に詰め寄ろうとするが、当の本人は銃を構えたまま、器用に左手を動かして窓を開け、素早く縁に左足をかけた。

「お礼も自己紹介も済んだことだし、今日はこれにて失礼するよ。士にえっと……食堂の料理人諸君。おいしいディナーをありがとう。今度僕の手料理をご馳走するから、楽しみにしておくといい」
 青年海東大樹はそれだけ言い残すと、臆面なく銃を構えたまま窓から飛び降りる。
 ビルの”十階”の高さから飛び降りて、無事なはずがない。サクヤが自由になったのを見、士たちは窓から下を見下ろすのだが――。

「あ……りゃっ!?」
「どういう……ことだ?」
「姿が……『ない』!?」
 そこに海東大樹の姿はなかった。下に落ちたと見せかけて上の階にいるのかと見上げても、
窓を蹴破って下の階に逃げたのかと、下層の窓を入念に見回すも、彼の姿はどこにもなく、忽然とこの場から消え失せた。

「士君! あの人は、一体……」
「分からん。さっぱり分からんが……一つだけはっきりしたぞ」
「はっきりしたって、何が?」
「あぁ。やつは……」

 ――少なくとも、食い逃げだ。

「それだけですか」
「それだけだ」
 夏海はすぅっ、と大きく息を吸い込むと、
 ――光家秘伝!笑いのツボ!
 士の首筋目掛け、親指で笑いのツボを押し込んだ。


◆◆◆

「やった、やった、やりましたーっ。見てくださいよ士君。13オンドゥル、13オンドゥルももらいっちゃいましたよ、お給料」
「ちきしょう! なんで俺は”5オンドゥル”しかもらえねぇんだよ! 怪我してたんだよ! 士に無理矢理連れて行かれたんだよ!? 労災とか何かでもっと出たっていいじゃねぇかよ!」
 夏海とユウスケは得た給料に対し一喜一憂するが、彼らを社員食堂に導き、その大本を取り仕切った士は、何故か怒りで顔を真っ赤に染めていた。
「ふざけるな、何なんだよこいつは! お前たち部下が給料をもらい、その上司である俺には一銭《ウェイ》も入らない! どういうことなんだよ!」
「そりゃあ……士は、ほとんど働いてないしなあ。ずっと寝てたしよ」
「食堂の宣伝と改革はしましたけど、実際に働いたのは食堂の人たちと、注文取ったり料理を運んだりしたわたしたちですし」
「それが納得できないっつってんだよ! 俺はアンデッドの脅威から会社を、いいやこの世界をも救ったんだぞ! そこについての恩赦はねぇのかよ」

「まぁ、同じ立場のカズマさんも何もなかったわけですし」
「部下のために身を粉にして働くのが上司、ってことで」
「納得できるか馬鹿野郎!」
 士は自分の境遇を嘆き、文句を言った後に、先ほど撮影した写真を手に取って、まじまじと見つめる。
 カズマ、サクヤ、ムツキが拳を突き合わせ、彼らの新たな決意を形にした一枚。
 そこでは、実像が歪む代わりに彼らの腕の上に、『彼らが変身する仮面ライダーの腕』が重なっており、かつ、『仮面ライダーカリス』の腕が突き合わせの中に加わり、四本の腕で十字に描いたものとなっていた。
「奴らめ、こんな境遇でよく働けたもんだな」
「その写真、カズマさんたちにはあげたんですか?」
「いいや。ここにある一枚だけだ。爺さんに額に入れて飾ってもらうさ」
 士は写真をポケットの中にしまい込み、仏頂面で夜空を見上げる。封印され、カードの中に消えたはずの四条ハジメの顔が、うっすらと見えたような気がした。

 そうしているうちに、彼らは光写真館の玄関へと辿り着く。声を揃えてただいまと言った三人が、居間で見たものは、

 ――んんんーっ。ほぉーぅらっ、綺麗になったっ。
 ――ありがとー。栄次郎ちゃんって、やさしいのねぇ。
 ――いやいや。キバーラちゃんだって、たまにはおめかししなきゃ。
 ――栄次郎ちゃーん。
 ――キバーラちゃーん。
 ソファの上で寝転がり、キバーラを掌に載せ、彼女の唇に紅い口紅を優しく塗って笑い合っている栄次郎の姿だった。
 あまりのことに夏海は口を開いて唖然とし、ユウスケは人差し指を差して震え、士は彼らを馬鹿にした目つきで彼らに言った。

「お前ら……。最近目立たないからって、そういう関係だったのか……?」
「やぁあん。何デバガメしてるのよぉ」
「士くんのえっちぃ」
「エッチスケッチワンタッチもお風呂に入ってアッチッチもねぇよ!」
 あまりのことに拳を握って、つい壁を叩いて怒ってしまった士。

 その衝撃のせいか、既にこの世界ですべきことを終えたからなのか、背景ロールに新たな絵が刻まれた。

 どこかで見たことがある白銀のロボットに、グラデーションの美しい瑠璃色の無数の蝶。そしてそれを遮るかのように垂直に引かれた赤色のライン。

 これは何だ、一体どこの世界だと思案を巡らせる前に、彼らの目に絵にくっついた、一枚の紙切れが留まった。

 ――士へ。
 ――世界を旅して回るのはいいけど、僕の邪魔をするのはやめてくれたまえよ。
 ――元々、”通りすがりの仮面ライダー”は僕一人だけだったんだからね。
 ――海東 大樹

「これ、って……」
「あの人、ですよね?食堂から降りてった……」

「おい、爺さん。お前らが遊んでいる間に、誰かこの家に入ったか?」
「遊んでいたとは失礼な。ここには誰も入ってきてないよ。ねぇ?」
「ねぇーっ」
「となると、どうやって貼ったんだ? この紙切れ……」
 この紙切れはどこから来て、いかにして貼られたのか。背景ロールに現れた絵以上に頭を悩ませる光写真館一行。
 士は紙切れ左下に描かれた謎の模様を見つめ、何とも言えない面持ちのまま何かを思案していた。

 ――俺には過去の記憶がない。あんな奴、見たことも聞いたこともない。
 ――だがこの模様は……、この青筋の縦線だけには見覚えがある。
 ――俺はあいつのことを、知っている……のか?

***

次回、「Journey through the Decade Re-mix 」!

 ――私立「スマートブレイン・ハイスクール」? 俺に『高校生』をやれっていうのか!? そりゃあないぜ!
 ――ずいぶんと個性的な格好ですね、士君。
 ――って、わたしもですか!? あぁんもう、今更高校の制服なんて……はずかしい。


 ――……はじめまして。僕、尾上タクミって言います。もやしさん、ですか? 変わったお名前なんですね。
 ――門矢士《もやし》じゃねぇ、士《つかさ》だ士。門矢士《かどやつかさ》!

 ――俺は転校生。二年D組の門矢士だ。あんたは?
 ――僕は百瀬。百瀬《ももせ》シュウジ。本校の生徒会長をしています。どうぞ宜しく。

 ――ここが貴様の墓場だ、ディエンドぉぉおお! 出でよ、仮面ライダー幽汽《ゆうき》ぃいいい!

 ――やあ、士に夏メロン。来ていたのかい? 丁度いい、折角だから見て行きたまえ。これが僕の戦い方だ。


 ――――KAMEN RIDE 「DI-END」!!

 次回、『555つの顔、一つの宝』に、ご期待ください。






 元がJDR中最も文章量の多い話だったので、全体的に(最後の四膳目は特に)余計な文章を削ることを主として修正を始めました。並行して他の作品を制作していた時期に執筆したものだったので、余計な部分と歯抜け描写の多いこと、多いこと。一区切りが長い話なので、正直なところ途中で投げ出したくなりました(というより途中でダレて諦めかけたのですが)。

 鎌田、というキャラクターが大好きでした。龍騎の世界と剣の世界を跨いで士と戦うという、クロスオーバーを活かしたキャラクタ、剣本編に於いて登場しなかったアンデッド、にも関わらず人間態はミョーに枯れた雰囲気のおっさん(失礼)というギャップ……。美味しいキャラクタなのにも関わらず、龍騎編では威厳たっぷりに退場したのにも関わらず、まとめの剣編では適当に処理されて、何とも言えない歯がゆさを感じていました。
 その関係で際限なく強くした鎌田ですが、倒し方だけは最初から決まっていました。ただ、逆転の糸口が重箱の隅をつついたような、禁じ手以下の代物なので、読者様に納得していただけるかどうかすごく心配です。

 米村脚本の剣編が嫌いでここまで改変した今作ですが、結局どうだったのかなぁこれ。とりあえず鎌田の貫録と社長のイメージ払しょくぐらいは成功したんだろうけど……

 次は555の世界編。
 学生で学園で高校生。今だと「フォーゼ」のイメージが強いかと思われますが、こっちは『ライトノベル』のイメージでやってこうかなと。あんまり読んだことないんだけどなぁ、あぁいうジャンル。
スポンサーサイト
総もくじ 3kaku_s_L.png Journey through the Decade Re-mix
総もくじ 3kaku_s_L.png これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー
総もくじ  3kaku_s_L.png Journey through the Decade Re-mix
総もくじ  3kaku_s_L.png これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー
もくじ  3kaku_s_L.png 観た映画の感想
もくじ  3kaku_s_L.png 自作のアレな絵
もくじ  3kaku_s_L.png わかめ新聞雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【Journey through the Decade Re-mix 第五話 「ブレイド食堂いらっしゃいませ」 三膳目】へ
  • 【剣《ブレイド》の世界・世界観および設定まとめ】へ

~ Comment ~

NoTitle 

更新お疲れ様です!!!TVシリーズでは士のことを知っていた大樹がこれからどんな行動をしていくか気になります。

NoTitle 

 FOREVER HEROSさん、返事が遅くなってすみません。

 実は大樹ってすごく扱いづらいキャラクタなんですよね。ここもそうですが、555編も大樹登場部分はそこまで多くないしで……。

 555編も本日全掲載完了しましたので、どうぞご覧くださいませ。

 ではでは。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【Journey through the Decade Re-mix 第五話 「ブレイド食堂いらっしゃいませ」 三膳目】へ
  • 【剣《ブレイド》の世界・世界観および設定まとめ】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。