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 ←これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー 平成二十四年八月号 →Journey through the Decade Re-mix 第五話 「ブレイド食堂いらっしゃいませ」 三膳目
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「Journey through the Decade Re-mix」
Journey through the Decade Re-mix(1)

Journey through the Decade Re-mix 第五話 「ブレイド食堂いらっしゃいませ」 二膳目

 ←これから観に行く上で全く役に立たない映画レビュー 平成二十四年八月号 →Journey through the Decade Re-mix 第五話 「ブレイド食堂いらっしゃいませ」 三膳目

 前置きだけでだいぶ長くなってしまいましたので、飛ばして本文をお読みになられる方はこちらよりどうぞ。



◎株式会社・BOARD 会社概要◎

・資本金:4502ムッコロス120ボドボド
(20XX年現在:※日本円換算で概ね4000億円程

・代表者:国立人類基盤史研究所所長・四条ハジメ

・従業員数:785人

・決算日:3月31日

・総資産・連結:72クサー3850ムッコロス4762ボドボド
・総資産・単独:4クサー5426ムッコロス9422ボドボド
(20XX年三月期現在)

・主要株主:
●天王寺グループ:14.4%
●株式会社烏丸製薬:7.3%
●帝洋バンクサービス信託銀行:4.9%
※BOARD自身は自社株として51%保有


・業務内容:

 物理的に排除不可能な不死生命体「アンデッド」を、保有する仮面ライダーの力で封印し、人々の安全を護る。及び、アンデッド出現時の適切な避難誘導、人命の救助、被害に遭った人々への保険・保障。

 仮面ライダーとして戦う者はごく少数だが、本部の指令室でライダーに直接指示を与え、彼らの補佐として被害の抑制や援護を行うセクションなども存在。

 また、アンデッドのメカニズムを解き明かすと同時に、「物理的・内部的な破壊では死なない」特性を利用して、不治の病とされた病気に対する治療薬などの開発を行い、肺癌、白血病、筋萎縮性側索硬化症などの特効薬を開発するなど、戦闘以外にも高い成果を上げている。




◆◆◆

 時刻は午後四時半。国内最大級の規模を誇るF地区の大銀行は一日の窓口業務を滞りなく終え、現金の集計や手形の管理など、面倒な事後処理に追われていた。
 防犯の為に張られた五枚のシャッターを突き破り、「奴」は現れた。雪のような真白い毛並みに、氷柱のように鋭利な爪と牙。三メートル近い巨体の「熊」。最高級のセキリュティも武装した警備員もまるで歯が立たず、保管された紙幣は全て持ち去られてしまう。
 通報を受けて銀行前にやって来た二人のライダーは、金を袋に詰め終え、正面玄関から悠々と現れた熊の姿を遠方より観ていた。

「俺が先陣を切って敵に攻撃を加える。お前は後方からの支援と、避難誘導の補助。命を懸けた実戦だ、市民の保護と自分の命を最優先にしろ。深追いは決してするな。何か質問はあるか」
 この問いに、レンゲルは杖の埃を払いつつ答える。
「素朴な疑問を一つ。先刻封印した二体も、今回の相手も、目標は人間ではなく資産の集まる大銀行でしたよね。アンデッドは各々が自身の種族の繁栄のために戦っているはずだ。人を襲うのも自分たちの繁栄の妨げになるからだと聞いています。
 ならば何故、人命よりも強盗を優先するようになったんでしょうか。そもそも、奴らに人間の貨幣価値が理解できるとは思えません」
「……何が言いたい?」
「手引きをする奴が居るんじゃないでしょうか。奴ら自身が知恵をつけたのか、頭の切れる何者かがアンデッドを小飼にしているのかは分かりませんが、何にせよ……」
「徒党を組んで事に当たっている、って訳か。厄介だな」
「なぁに、大した問題じゃありませんよ。今の先輩にはこの僕、仮面ライダーレンゲルがついているんですからね」
「だから、その自信は何なんだ……。馬鹿なこと言ってないで戦え! 来るぞ」
 彼らの話に割り込んで、熊の太く鋭利な爪が二人を襲う。寸でのところで躱《かわ》せたものの、遅れを取ったことへの焦りと、たったそれだけで地面に亀裂を走らせる馬鹿力を目の当たりにし、二人の間に緊張が走る。

「舐めてかかると痛い目を見るってことですか。いいですよ、やってやろうじゃないですか」
「強がるな。奴は“type・element《タイプ・エレメント》”、その辺の雑魚とは訳が違うんだ。俺が奴を食い止める。お前は中に入って負傷者の救助に回れ」
「エレメント……? なんです、それは」
「炎、雷、風、氷……、各スートに一体ずつ存在する、大自然の力を用いるアンデッドのことだ。このアーマーを構成するカテゴリーAほどではないが、かなり手強い」
「手強かろうが何だろうが、アンデッドに変わりない。強い奴なら尚更だ。人命救助はサクヤ先輩に一任します、援護、任せましたよ」
「任せたって、おい、待て! ……あぁ、くそっ!」
 話を聞いているのかいないのか、レンゲルはラウザーの刃を伸長させ、熊のアンデッドに飛び掛かる。気合いと勢いの乗った一撃は、熊を大きくよろけさせ、地に片膝を付けさせた。言うだけの力はあるが、命令違反と差し引き出来ることではない。ギャレンは杖を振って見栄を切るレンゲルの元へと駆け寄り、強い調子でたしなめる。
「誰が戦えと言った! いいか、お前は数少ないレンゲルの適合者なんだぞ。もしも下手を打って命を落としたらどうなる! お前だけじゃなく、会社全体に被害が及ぶんだぞ、分かっているのか!? どうなんだ!」
「なら倒されなきゃ良いだけの話でしょう。タイプ・エレメントだって一撃でぶっ飛ばしたんだ、僕に倒せない奴はいませんよ」
「力持ちが一番強いのなら、社の上層部は皆筋骨隆々の大男になるだろうが! あぁ、いや、そんなことはどうでもいい。命令違反が過ぎるぞムツキ、カズマのようになりたいか!?」
「それは……」
 それは御免だと言いかけて、荒々しい二輪車の駆動音がレンゲルの耳に届いた。聞き覚えのあるそれにギャレンも気付いたらしく、二人して音の出所に首を向ける。
 ――うりゃりゃりゃりゃりゃーっ!
 荒々しい駆動音と、それに負けず劣らず耳障りな声を響かせつつ、一台のバイクが二人の元を通り過ぎる。フロント部に青いスペードマークのついたそれは、体を起こしかけていた熊を撥ね飛ばすと、周りの建物にぶつかる寸前でブレーキペダルを踏み込んだ。
 彼らはこの人物のことを知っている。いや、こんな無茶が出来る男は一人しか居ない。
「……カズマ?」
「謹慎中の貴方が何故ここに! 指令室、これは一体どういうことなんですか!」
 社長直々に謹慎を言い渡された筈の剣立カズマが、社の承認無しにブレイドに変身し、白熊アンデッドに飛びかかっている。そんなこと出来るものか、何故奴が変身していると困惑する二人をよそに、件のブレイドは熊を引き剥がして距離を取ると、瓦礫の連なりに手を伸ばし、その下で動けなくなっていた銀行員を引きずり出す。
「あ、ありがとう、仮面ライダー……」
「俺があいつを引き付けるから、さっ、早く……」
 ブレイドは二人から『陰になっていて見えない場所』で、体を丸めて震えていた銀行員を救いだすと、腰に収めた剣を抜き、白熊の鼻先に刃を向けた。
「やいやいやい、シロクマは大人しく動物園に帰んな。それが嫌なら……、俺が檻ン中に押し込んでやるぜっ!」
 白熊が自慢の爪を振るう前に懐に潜り込み、拳の連撃で熊の腹を叩く。倒すことが目的ではない、一般人の避難を優先した時間稼ぎだ。人を護るライダーとしては適切な行為と言える。自分一人で戦っていたのならば。

「何やってるんだよッあの人は……、先輩や指令室を無視して変身なんて、そんな横暴許される訳がない!」
「俺の言うことを聞かなかったのはお前もだろうに……。それは兎も角、命令及び社の規約違反であるのは間違いない。あの阿呆め、社長にあれだけ恩情を賜っておきながら……!」
 それを見ていた者たちがどう思うかとなると話は別だ。ギャレンとレンゲルはブレイドの身勝手な行動に怒りを募らせる。
「あぁ、もう我慢できない!」怒りに燃えるレンゲルがラウザーを構えて飛び掛かる。白熊アンデッド相手ではない。命令違反のブレイド目掛けてだ。
「何しやがるムツキ! この状況分かるだろ!? 邪魔すんじゃねえ」
「それは完全にこっちの台詞ですよ! だいたい謹慎じゃないんですか、なんでバックルを持って出歩いているんです!」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ、周り見ろ周り! 今日が初めての素人のくせして出しゃばんじゃねぇ!」
「お前らいい加減にしろ! 敵の前だぞ敵の! ……あぁっ、くそッ」
 内輪で揉め合う二人の部下と、それをどうにも出来ず頭を抱える上司。このままではアンデッドを封印する前に、こちらが無駄に共倒れしてしまう。
 門矢士《かどやつかさ》は一杯に膨らんだスーパーのビニル袋を両手に提げ、その様相を高台から見物していた。
「予想以上の間抜け振りだな。仕方がない、あの熊は俺が調理してやるか。コックだけに」

 ――変身
 ――KAMEN RIDE 「DECADE」!

「どいつもこいつも仮面ライダーのくせして何やってんだ。俺がライダーの模範って奴を見せてやるよ。何せここは俺の『厨房』だからな」
 ライドブッカーを肩に担ぎ、小競り合うブレイドたちを押し退け、白熊目掛けて駆け出すディケイド。闖入者の登場に困惑する三人だったが、行く手を遮る暇は無かった。
「今日のメニューは『熊の山賊焼き』。まずは仕込みから行くぜ」
 ブッカーの剣を包丁に見立て、毛皮を剥がんと白熊を斬りつける。刃はアンデッドの右肩深くに突き刺さるが、そのまま袈裟に振ることは敵わない。奴の堅牢な肉体に対し、ライドブッカーだけでは力不足なのだ。

「硬いな。このまま力ずくで刻んでもいいが、刃零れされちゃ洒落にならん。となれば……、調理法を変えるとするか」
 このままではダメだと見切りをつけたディケイドは、刺さったままのブッカーから一枚のカードを引き抜くと、熊を蹴りつけて距離を取る。
 ――変身!
 ――KAMEN RIDE「RYU-KI」

 抜き出したカードをドライバーに装填。瞬間、両側面より龍騎の「鏡像」が現れ、彼の体を包み込む。ディケイドは『仮面ライダー龍騎』へとその姿を変えた。

 ――ATTACK RIDE「SWORD VENT」
 変身と同時に『ソードベント』のカードをドライバーに装填。空から降って来た「中国刀」にも似た両刃の剣を構えたディケイドは、襲い掛かる白熊を「ドラグセイバー」で斬り伏せて、刺さったままのライドブッカーを引き抜き、ブックモードに変えて右腰に戻す。余程切れ味が良かったのだろう。アンデッドは刀傷から緑の血を噴出し、大きく体勢を崩してしまう。
「なかなかいい包丁だ。気に入ったぜ」
 ディケイドはアンデッドが起き上がる瞬間を狙い、足首、脛《スネ》、二の腕、脇腹と、順を追って正確に斬り付ける。周囲にはポーラアンデッドの血肉が舞い、瓦礫の山を緑色に染めた。
「上手に捌けて味付けも上々。さぁて、次は」
 ――ATTACK RIDE「STRIKE VENT」
「きつね色になるまでこんがり焼き上げる、ってとこか」
 飛び散る肉片や緑の血にまみれたその体を味付けに見立て、『ストライクベント』のカードを装填。三度どこからともなく現れた「ドラグレッター」の顔を模した武器、『ドラグクロー』を右手に装着すると、その口から強烈な火球弾を放ち、白熊の体を文字通りきつね色に焼き焦がす。

「さぁて、最後の仕上げだ」
 ――FINAL ATTACK RIDE「Ryu-Ryu-RYUKI」
 止めにと、『ファイナルアタックライド』のカードをドライバーに装填。バックル中央の赤く丸い宝石の中から虚像の『ドラグレッター』が飛び出し、その勢いを借りて天高く飛び上がったディケイドは、ドラグレッターの吐く火球弾と共に、アンデッドに強烈な飛び蹴りを見舞った。
 飛び蹴りを喰った白熊は、瓦礫と化したアスファルトを周囲に散らし、意識を刈り取られて力無く倒れ込む。
「白熊の山賊焼き、一丁上がりィ。味は保証しねぇがよ」
「おい、待て! 何処に行く」突っ伏した白熊に背を向けて、この場から去らんとしたディケイドを、仮面ライダーギャレンが呼び止める。
「貴様、何者だ。お前のようなライダー、見たことも聞いたこともないが……。派遣のライダーなら、現役の俺たちに一言入れて然るべきだろう」
「派遣? 根なし草って意味じゃあ一緒だが、一緒くたにされるのは困る。俺は『通りすがり』の仮面ライダーだ。そいつの後始末、よろしく頼むぜ」

 ――ATTACK RIDE 「MACHINE DECADER」
 近くに停められていた白バイの一つを拝借したディケイドは、それをマシンディケイダーへと変化させ、話もそこそこに走り去って行く。
 三人のライダーはそれまでのいさかいも忘れ、”通りすがりの”仮面ライダーを茫然と見つめる。彼らの中で先んじて我に返ったレンゲルは、倒れ込むポーラアンデッドにラウズカードを投げ込み、その力と肉体をカードの中に封じ込めた。

「なんだったんだ、今の……」
「なんだっていいっしょ」ギャレンの疑問に、ブレイドが胸を張って答える。「次に会ったら叩きのめしてやりますよ。そんじゃあ、俺はこの辺で……」
 捨て台詞を吐いて去ろうとするブレイドだったが、右肩をレンゲルに、左肩をギャレンに掴まれ、阻まれた。
「まず叩きのめされるのはお前だ、カズマ」
「覚悟は出来てるんでしょうね」
「いや、それは、その……」
「お前に聞いてもしょうがないな。話は社長の前でたっぷりと聞いてやる」
「今度こそ、終わりですねカズマさん。短い付き合いでしたが、それなりに楽しかったですよ」
「おい! 待て! ちょっと待ってくれ! 話せばわかる! わかるってば!」
 二人は彼の肩に自分の腕を回して拘束し、無理矢理に会社へと連れてゆく。腕を振り、腰を振り、足を振って抵抗するも、それも無駄な努力であった。

◆◆◆

 株式会社BOARDの社員食堂・厨房内では、シオリとコタロウの二人が、いつも通りに夕食の準備を済ませ、チーフである士の帰りを今か今かと待っていた。あれだけ大口を叩いたのに逃げたのか、くすねた金で何をするつもりなのか、そもそもそんな男が何故カテゴリー10なんて上位ランクに居るのか。不安は尽きない。
 奴は食堂の資金を横領して逃げた。警察に通報すべきだとシオリが声を上げたその瞬間、渦中の門矢士が食材で一杯のビニル袋を抱え、厨房へと戻ってきた。
「よぉ、お前ら。待たせたな」
「あっ、士チーフ! やっと戻ってきたぁ」
「今までどこで何してたんです。ディナータイムの仕込みの時間、とっくに過ぎちゃってますよ」
 戻ってきてくれてよかったと手を叩いて微笑むコタロウと、腕を組み、やや鋭い目付きと冷ややかな態度で士に声をかけるシオリ。
 士はシオリの言葉を無視しコタロウの手と手合わせをすると、悪びれることなく買ってきた食材の入った袋を二人の目の前に掲げる。
「食材の買い出しに行ってたんだよ。それ以外に何がある」
「今日のディナータイム料理は既に準備済みですよ。今更食材を補充したって」
「誰が今日のものと言った。俺の食堂改革は明日だ、何の問題もない。それにプランの方は『だいたい』出来ている。後は――」
 そこまで言いかけ、士は厨房内に珍しい顔を見る。二人のコックと顔を合わせず、丸椅子に座り込んで項垂れる情けない姿が、彼の注目を引いた。
 士のそんな顔に気が付いたのか、コタロウは作り笑いを浮かべて答える。
「あぁっ、紹介します士チーフ。彼は」
「あ……彼はいいの。さっ、ディナーの準備、準備」
 嬉々としてその人物を士に紹介しようとするコタロウと、彼の口を塞いで話を打ち切ってしまうシオリ。二人の性格の相違点が見て取れる。
 コタロウが嬉々として紹介しようとし、シオリが触りたがらないその人物とは。士は彼女の制止を振り切って、その男に声をかけた。
「よぉ、こんなところで何やってんだ? 仮面ライダーさんよ」
「……放っといてくれ」
 今の今まで仮面ライダーとして働いていた、剣立カズマその人だった。昼時に商店街で出会った時や、銀行前で戦っていた時とは違い、表情には覇気も希望もなく、曇った表情でただただ白い床を見つめている。
 この一時間程度の間に、何があったというのか。

◆◆◆

 話は三十分ほど前、逃げようとしたカズマが社長室に連行されるところに遡る。社長は没収したブレイバックルを握り締め、心底失望したと言いたげな表情を見せていた。
「スペードスート・エース社員、剣立カズマ。命令違反規約違反その他により、カテゴリー4に降格。及び社員食堂担当への異動を命ずる。復唱の要なし」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ社長!バックルを没収されるのは兎も角、降格処分を受けるのは納得できません! 俺はムツキやサクヤ先輩が見逃してて戦いに巻き込みかけた人を救った! あの戦いだって、二人でやって勝てる保証なんてどこにもなかったんだ!」
 カズマ怒濤の抗議に対し、社長は憤怒の籠った目で彼を睨み付け、「黙れ」と机を叩く。
「いいか。戦いにおいて最も必要なのは、個々人の力が強いかどうかでも、他を出し抜き、自分だけ手柄を立てようとすることでもない。仲間を信頼し、力を合わせることだ。
 仮面ライダーはアンデッドを仕留められる唯一無二の存在。人々の希望であり憧れなのだ。失態や敗北などあってはならん。お前は自分の満足のためそれを踏みにじった。降格されて当然、解雇されないだけありがたいと思え」
 至極尤も、反論しようのない言葉だ。どうしようもなく打ちのめされたカズマは、悔しさに唇を噛んで、煤けた背中で社長室を後にする。
 彼の情けない姿を目の当たりにして、同席していたムツキが嫌味たらしく口元を歪ませる。
「降格処分なんて甘いんじゃないですか? そのまま辞めさせた方が社の為になると思いますけど」
「ムツキ……。そういうことは思っていても口には出すな」
 サクヤのいさめと同じタイミングで社長の咳払いがかかる。二人の社員は背筋をぴんと伸ばした。
「何はともあれ、ご苦労だった。両名とも別命あるまで社内で待機。作戦行動中に見たという『派遣のライダー』については、後で報告書を纏めて提出してもらう。敵か味方か、何にせよ放って置くわけには行かないからな」
 社長の言葉に敬礼で返した二人。その後にムツキは社長室を離れ、満ち足りた表情で下の階へと降りて行く。エレベーターの影に隠れ、ムツキの様子を窺っていたカズマは、臼歯にヒビが入らん程強く噛み締め、ぎりりと音を鳴らし、階段を逃げるように駆け降りた。

◆◆◆

 カズマの話を聞き終えた士は、つまらなさそうな目で彼を見つめ、「だいたい分かった」と取りまとめる。
「どう言葉を繕おうが、お前が悪いことに変わりはない。馬鹿なことをしたもんだな、自分で自分の尻拭いするのが責任取ることだとでも思ってんのか?」
「こっちが黙ってりゃ言いたい放題……! あんたなんかに言われなくなって分かってンだよ!」
「いいや、解ってないね。本当に分かっているのなら、何があっても文句は言わない筈だよな?」
 士はカズマの首に提がったIDカードを奪い取ると、裏の白地に黒の油性ペンでスペードの記号と数字の「0」を書き入れた。不恰好だが、これでカズマは『ランク0の社員』として扱われることになる。
「なんだよ、何なんだよこのラクガキ……! 大人しくしてりゃあ調子に乗りやがって、ふざけんじゃねぇ!」
 何やら訳の分からない言葉と共に飛ぶカズマの拳。士は首を軽く捻ってそれを難なくかわすと、空を切って留守になった右腕を掴み、そのまま彼の背後に回り込んで、カズマを厨房の壁に押し付けた。
「人の話は最後まで聞けって。確かにお前は最悪だ。クビになってないのが不思議でしょうがない。でもよ、今お前は″馬鹿″であることを自認した。それが出来るのならまだ望みはある。
 お前は幸運だ。阿呆と違って馬鹿は治せる。その上、お前の上司はこの俺、門矢士と来た。俺について来い。俺の下で働けば、仮面ライダーに返り咲くことだって夢じゃないぜ」

『仮面ライダーとして返り咲く』。今のカズマが、最も聞きたかった言葉であり、そうしたいと思ったことだ。だが、社長直々に”変身資格をはく奪された”手前、はいそうですかと信じることは出来ない。
「根拠は……、根拠はあるのかよ!」
「だからお前は馬鹿なんだ。何かをする前から失敗することを考えていてどうする。今のお前は崖っぷちだ。死なない限りこれ以上落ちようがない。前のランクに戻りたきゃ口を挟むな疑問を持つな。汗水垂らして死ぬ気で働け。サラリーマンの基本だろうが」
 この男のことは気に食わない。しかし言っていることには一理ある。彼の言う通り、今の自分に失うものなど何もないのだ。信じてみる価値は有るかもしれない。
「……本当か?」
「声が小さい。もう一回言ってみろ」
「本当なんだなッ!? お前について行けば、もう一回仮面ライダーになれるんだなッ!」
「さぁね。そんなことは俺に分からん」
「お前なァ! 自分の言葉に責任持てよ! 言ったじゃねぇか、”返り咲ける”って、今言ってたじゃねぇか!」
「うっとおしい奴だな……」士は自分にすがりつくカズマを振り払って服の襟を正し、彼の眼前に人差し指を突き立てる。
「そうだな、確かにそう言った。だがな、そうなるかどうかはお前自身の努力次第だ。千里の道も一歩から。基礎無くして応用無し。何事もまずは下積みからだ。ほら、お客様が首を長くしてお待ちだぜ。料理を運んで行けよウェイター」
「う……、ウェイター!? 俺が?」
「俺はこの厨房のチーフ。コタロウとシオリはコック。お前以外に誰がいる」
「く、うう……」
 従うと言った手前断れない。否応なしに納得させられたカズマは服装の乱れを軽く正し、出来上がった料理を盛り付けるシオリの前に歩を進めた。

「……子羊のバルサミコソテーに夏野菜サラダ。それと付け合わせの赤葡萄ジュース。あちらのお客様のところにお願いね。まぁ、あの人しかいないけど」
「シオリ……さん、だっけ? もう俺にはため口なのな。これでも、元・仮面ライダーだぜ」
「尊敬されたきゃ態度で示しなさいよ。私、過去の威光ばかり振りかざす男って嫌いなの。そんなことより早く運んで。せっかくの料理が冷めちゃうわ」
 シオリの態度をよく思わないながらも、料理の載った盆を片手に厨房を出るカズマ。
「ええと、子羊のバルメザンソテーと夏みかんサラダ、ついでの赤ブドウジュース、おまちどぉー」
「一つ目から既に間違ってるじゃあないですか。『制服』を着ている以上は職務をきちんと果たしてもらわなければ困りますよ、元・仮面ライダーの剣立カズマさん」
「なんだよ偉そうに……って、お前は!」
 社員食堂のウェイターとなったカズマを待ち構えていたのは、正式にライダーへの昇進を果たしたしたあの黒葉ムツキだった。
「ほら、何やってるんですウェイターさん。早く料理をテーブルに置いてくださいよ。それが貴方の仕事なんでしょう?」
 わざと嫌味たらしい口調と表情を作り、盆に載せた料理を早く出せと言う。この生意気な面に一発叩き込んでやりたい衝動に駆られたが、負けるものかと堪え、料理の載った皿をテーブルに置く。
「ウェイターは無愛想ですが、料理の方は素晴らしい。さて、いただきますか」
「……どうぞ」とは言うが、カズマはムツキが料理に口をつけてなお、彼の背後で恨みのこもった目を向ける。
「何のつもりですか」その視線に気付いたムツキが、迷惑そうに言う。「そう見られていては食べにくくてしょうがないんですけどけね。言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうなんです」
「何でもねぇ。冷める前に食えよ、俺は兎も角、作ったやつに失礼だろ」
 そう言って話を打ち切るも、カズマはそこから立ち去らず、目付きも変わらない。このままでは埒が明かないと思ったムツキは、嫌味な笑みを浮かべて話を振った。
「お似合いですね。仮面ライダーなんかやるよりずっと板についてますよ、ウェイターさん」
「喧嘩売ってやがるのか、ムツキ」
「事実を言っているだけです。ここでならあなたの猪突猛進な性格でも、だましだましやっていけるんじゃないですか?」
「何だとこの野郎ッ」
 元々堪え性のないカズマがこの煽りに我慢できるはずもない。彼は持っていた盆を床に放り、勢い巻かせに拳を振るう。だが、放たれた拳はムツキの顔に当たることなく、チーフである士の手によって押し留められる。
「なッ! なにしやがんだ! いや、いつの間に……」
「まぁ落ちつけ。ここは厳かにディナーを愉しむ場だ。ウェイターも、料理人も、お客様でさえも、その静寂を汚すことは許さん」
「でもよ、でもよ! 俺には俺の面子ってもんがある! こんなところで引き下がれるか!」
「客商売に面子も糞もあるか。煽りになびいたお前が悪い」
 溜め息をついて一拍置き、言葉を継ぐ。「放っておきたいところだが、困ったことに俺はお前の上司。使えない部下を使えるようにするのは上司の仕事だ。さぁて、どうしたものかねぇ」
 士はわざとらしく唸った後、軽く指を鳴らして「となれば」と続ける。
「”勝負”するしかないよな。勝った負けたがはっきりすれば、馬鹿なお前でも納得できるだろ」
「勝負?」
「それは構いませんが、一体何で勝負するつもりです? カズマさんはバックルを没収されていて、ライダーにはなれないんですよ」
「いい質問だ眼鏡君。同時に浅はかだと言わざるを得ないな眼鏡君。戦いってのは何も剣や拳を交えて斬り合い殴り合うだけじゃあない。学校対抗のスポーツ大会だって、公的な場で論議を激しく交わすことだって、見方を変えりゃあ”勝負”だ。そうだろう?」
「確かに……」と、手を叩いて納得するムツキ。しかし、片や現役の仮面ライダーと、片やアルバイトの見習い料理人。その二人が、いかようにして雌雄を決すると言うのか。
 困惑する二人をよそに、発起人の士は不敵な笑みを浮かべる。
「料理人の戦場は”厨房”だ。己の命と魂を削って料理と言う名の作品を作り上げ、お客様と言う名の相手にそれを提供し、満足させられるかが料理人にとっての”勝負”。
 こいつの鼻っ柱をへし折りたいんだろ? カズマ。
 こいつを黙らせて、自分の方が上だと証明したいんだろ? 眼鏡君。
 どっちが上か、料理勝負で決着を付ければいいじゃねぇか。もちろん、タダとは言わねぇ。受けるって言うなら……」
 士は厨房の脇からメモパッドとボールペンを持ってくると、そこに何かを走り書き、ムツキの胸元に差し出した。
「なんです? これは……」
「食堂のタダ券だ。有効期限は一年間。おぉっと、そいつはまだ使えないぜ。現場責任者である俺のサインがなきゃあな。お前が勝ったら、俺が直々にサインを入れてやる。どういうことか、分かるだろう」

「えぇっ!?」
「ちょ、ちょっとォ! アンタ勝手に何決めちゃってるの!?」
 これには事の顛末を陰から見守っていたシオリとコタロウも大慌て。今現在、食堂の利用者のほとんどがエース社員であり、その数少ない顧客に対して無料券を配ると言うことがどういうことか。二人の顔は早熟トマトのように真っ蒼だ。
 逆に、メリットしかないこの話に、ムツキが乗らない理由がない。彼は自慢の丸眼鏡をずり上げ不敵に笑うと、無料券を士からひったくる。
「交渉成立、ってことでいいんだな」
「勿論。言った以上はきちんと成立させてもらいますよ。責任者直筆の品だ、法的拘束力は十分にある。出し惜しみをするようなら、出るところに出てもらいますよ」
「男に二言は無い。そっちこそ、美味い不味いは嘘偽りなく言えよ」
「おい、ちょっと待て……俺の意思は」
「やるよな?」
「いや、だから。まだ俺は何も……」
 未練がましく言い訳をつけるカズマに苛立ちを覚えた士は何も言わず彼を睨みつける。泣く子も黙るその威圧感に、カズマはそれ以上何も言えなかった。
「いいだろう。勝負は三日後、食堂のリニューアル後だ。時刻はランチタイム開始前の十一時。お前がリニューアルオープン最初の客だ」
「いいんですか? 初日から客に不味いと言われちゃ、リニューアルの意味が無いでしょうに」
「心配するな。そのくらい乗り越えられなきゃ、新装開店させる意味がない」
「大した自信だ。ならもう何も言いません。素晴らしい勝負を期待します」
 当事者を無視し、不敵な笑みを浮かべて固く握手を交わす。そこに友情や経緯などと言うものは存在しない。ただただ、自分の利権、矜持《きょうじ》、その他譲れないものが交錯するだけである。カズマにとっては迷惑なだけなのだが。

「あわわ……」
「あの馬鹿チーフ、なんという約束を……」
 そしてそれを、一人は怯えて言葉に出すことすらままならぬ状態で、もう一人は士の勝手気ままな行動に怒りを覚えながら、会話に入ることなくじっと見つめていた。

◆◆◆


 斯様な一件もありつつ、ディナータイムの営業が終了した午後十時。門矢士チーフを筆頭に、今後の食堂の方向性の思案及び、明日のカズマとムツキとの戦いのための対策を練り始めていた。
 その筈、なのだが。

「……と、言うわけで。対決の日取りは明後日、時間の都合上、数多くのメニューを作る暇はない。故に定食を一品作る。全員の力を一極集中させて全体の質を上げるんだ。何か、作りたいものはあるか?」
「そんなことより……なんで! なんであんな無謀な戦いを仕掛けたんです! 事と次第に依っては出るとこに出てもらいますよ!」
「そうですそうです。明明後日までに新しいメニューなんて……!」
「俺まだ何も言ってなかっただろ! 勝手に決めるなよ勝手に!」
 三者三様の不平不満をぶつける彼の部下たち。士はうっとおしいと胸のランクカードをこれ見よがしにちらつかせる。
「俺はカテゴリー10でお前たちはその下。上司の言うことにゃ黙って首を縦に振れってんだ」
 文句ばかり言う部下たちを「立場」で言いくるめた士は、何かないかと厨房の中を回り始める。
「それに、だ。俺に文句が言いたきゃな……」
 かき集めた食材の中から、余りのご飯と生野菜をフライパンに放り込んだ士は、軽くオリーブオイルを引いて炒め始める。
 野菜に火が通り、しなりかけたのを見計らい、細かく刻んだウィンナーを混ぜ込み、炒まったものをお茶碗の中に詰めて皿に盛る。余りものの食材で作った即席のチャーハンだ。士はシオリとコタロウ、カズマの前に差し出して、言葉を継ぐ。
「これぐらいのものが出来るようになってから言え。そして食え」
「何よこれ、余りもののごった煮じゃない。こんなものが……」
「俺は既に命令した。文句は食ってから受け付ける」
「何よそれ……。分かったわよ、食べればいいんでしょ」
 促され、残りもので作られたチャーハンを口に運ぶシオリ。無理矢理で全く期待してはいなかったのだが――。
「あら……何これ、おいしいじゃないの!」
「お米もふっくらだし、適当に叩きこんだはずの野菜もいい味出してる! 士さん、一体どうやって作ったんですか!?」
「俺に苦手なものはない。写真を撮ること以外は。分かったら始めるぞ。異論は聞くが受け付けん」
 そう言って、士は先程買ってきた食材を机の上に並べる。奇をてらったものは無いが、普段用いる量の軽く三倍の食材がテーブルの上を埋め尽くした。
「15ボドボド。高い買い物だったが、これだけありゃ何でも出来る。各人、自分の一番得意な料理を作って見せろ。それらを組み合わせて一つの定食とする。まずはそこからだ、いいな?」
 唐突なメニュー案の要求に頭を抱えるコタロウとシオリ。しかしどうしたことか。今まで下を向いて黙りこくっていたカズマが、嫌味な笑いを上げ始めたのだ。
「……何がおかしい?」
「この食堂を立て直す? そんなしょーもない腕でよく言えたもんだな。大口叩く前によ、もっとマトモな料理を作れってんだ。どけよ、キッチンを借りるぜ」

 カズマは士から頭に被る三角巾を受け取ると、念入りに手を洗って食材の並んだ机の前に立って『挽肉と卵と玉ねぎ』を掴み取り、その上で再度周囲を見回し、何に使われるでもなく固くなった『パンの耳』の袋を机の上に並べた。
 食材全てをその手に収めたカズマは、パンの耳をプロセッサーで砕いてパン粉とし、ボールの中に割った卵を放り込み、塩胡椒を振って手早く混ぜた後、微塵切りにして炒めた玉ねぎとほぐしたひき肉をボールの中へと投げ入れる。
 粘りが出るまで手早くかき混ぜると、その一部を掴んで丸め、まるで投球前の野球選手がボールを右手へ左手へと投げるかのような動きで、種の空気を抜いてゆく。
 小さく、綺麗な楕円形の種を、油を引いてなじませたフライパンの上に一つずつ乗せて行く。じゅうじゅうと心地の良い音を立て、食欲をそそる匂いを放ちつつ、綺麗なきつね色へと姿を変える。

 もうひとつのフライパンに油を引き、付け合わせのニンジンやジャガイモを火にかけることも忘れない。種の火加減と焼き加減に気を配りつつ、その間に料理になじませるソースを調合するカズマ。トマトケチャップに赤ワインを加え、焼き上がったものの肉汁を混ぜ込み、じっくり、ことことと煮込んでゆく。
 煮上がったソースを皿の上に乗った先の野菜と焼き上がったものにかけ、三人の前に差し出す。彼流の『ハンバーグステーキ』だ。
「マトモなものってのは、こういうものを言うんだぜ。食ってみろよ」
 士とシオリとコタロウは、ご丁寧に三人分用意されたハンバーグを口にする。ソースのかかりは皿によってばらつきがあり、野菜の切り揃えも不揃いだが、それを口にした彼らは『うまい』と形容する他、語る術を持たなかった。
 中まで火が入っていながら、弾力性があり柔らかな生地。噛むごとに旨みを綴じ込んだあつあつの肉汁が口の中に広がり、口にしたものの心に充足感を与えるその味と食感。これが近隣のスーパーで買った食材を下地に作ったとは、にわかに信じがたい。

「信じられない……けど、うまいとしか言いようがないわ」
「カズマ君、どうしてこんなものを作れるのさ?」
「ガキの頃に両親ともに死んじまって、頼りになるのは自分の腕しかなくなっちまったからな。んなもん、生きるためにゃあ嫌でも上達していくさ。どうだ?」
 自信満々なカズマに対して、士はハンバーグを噛み締め、舌の上で転がして味と風味を感じ切ってから飲み込むと、一息ついてカズマに言葉を返す。
「ハンバーグに限ればお前の方がうまいかもしれん。が、俺はハンバーグ”しか”食ってねぇ。たったそれだけで、”なんでもできる”俺と比べること自体、おこがましいと思わないか?」
「要するに、まだ認めないってことか」
「当たり前だ。認めさせたきゃお前の全部を出してみろ」
「分かったよ。こうなりゃヤケだ。てめぇが土下座して謝るまでやってやらあ」
 士の言葉に発奮したカズマは、厨房に並べられた食材に手当たり次第手をつけて、自分の力を誇示するかのように料理の仕込みと調理を進めてゆく。元からいたコックの二人は、そんな男たちの様相を傍目から見つめていた。
「ねぇ、シオリさん」
「何?」
「士チーフって、凄い人だよね。なんだかんだでカズマ君、あの人の言いなりになって、この食堂のメニュー、一人で作っちゃってるし」
「そうね。確かに”チーフ”って言われるだけのことはあるのかも。でも、なんとなく気に入らないのよね。あの二人」
「なんでさ?」
「二人してあたしの料理を馬鹿にしたのよ? 今までこの食堂をけん引してきたのはあたしよ! あぁもうムカついてきたッ。あんたたちにばかり、でかい顔はさせないんだからねっ!」
「シオリさんまで……」
 士とカズマに触発され、自分も参加すると息巻くシオリ。先ほどまで心もやるべきこともばらばらだった三人が一つの目的に向かい、思いは違えど協力している。
 この人なら本当に、この食堂を変えてくれるのかもしれない。コタロウはそう感じ、一人で笑った。

◆◆◆

 社員食堂の面々が己の料理の腕を競い合う最中。ダイヤスートのエース社員・菱形サクヤは、夜半に社長である四条に呼び出され、当社最上階の社長室へと赴いていた。
「いきなり呼び出して済まない。君に少し……聞いておきたいことがあってね」
「構いません。何用ですか?」
 社長は組んだ手に顔を埋め、暫しの沈黙の後、不安げな口調でサクヤに問う。
「カズマは……今もあの調子か?」
「えぇ。残念ながら」サクヤは苦々しい表情を浮かべて続ける。
「見ての通りです。俺やあなたが幾ら窘《たしな》めようとも、自身を誇示し、子どもの様に暴れ回ることしか考えていない。ブレイドの持つ“真の力”――、あいつにはきっと使いこなせないでしょう。後釜を探されては如何ですか?」
「出来るなら既に手を打っているさ。それに現状、“真の力”に到達出来得る人材はカズマ以外に無い。仕方がないと目を瞑って来たのだが……」
 椅子を回転させ、窓越しに街を眺める。真っ暗闇を人口の光が照らす様は、まるで天の川に輝く星々のよう。社長は、「なあ」とサクヤに問いかける。
「人の手で『進化』を起こすなど、やはり絵空事でしかないのだろうか。私の求めたものは、人に掴めるような代物じゃ無かった、ということなのだろうか……」
「お言葉ですが、社長。人が今まで築いて来たものは、須らく絵空事だの夢物語だとされてきたものばかりじゃありませんか。自信を持ってください、前に進まなければ成功も失敗も無いのですよ」
「そうか」サクヤの叱咤を受けた社長は、自嘲気味にふっと笑う。「そうだな、お前の言う通りだ。疲れているのかもな。早いうちに家に帰るよ。君ももう帰りたまえ」
「社長……」
 名前を呼んで言い淀み、それ以上踏み込めずにどもる。寂しげな顔で遠くを見る社長の姿を目にし、言うべき言葉を無くしてしまったのだ。
 不可解な沈黙を妙だと思われる前に、失礼しますと声をかけ、部屋を去るサクヤ。だだ広い部屋に一人残された社長・四条ハジメは、部屋の照明を落として、何をするでもなく椅子に体を預けると、苛立ちを溜息に変えてふっ、と吐き出す。

 部屋の中に妙な“何か”を感じたのはその時だ。
「視線……か?」この部屋には自分一人しかいない筈。何らかの機械で見張られているのか? 本施設の警備システムは万全だ。カメラなど仕掛けられるわけがない。四条の予想はある意味では当たっていた。彼を見張っていたのは機械ではない。仄暗く淀んだ目をした初老の男性だった。
「貴様ッ、どこから入った!?」
「どこから……?」部屋の隅の暗がりから、頭髪の薄い初老の男が姿を現す。高いのか安いのか分かり辛い鼠色のスーツを纏い、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。「そこの扉からに決まっているでしょう。他にどうしろと言うのです」
「話をすり替えるな。我が社のセキュリティはそこいらのハッカーに落とされるような代物じゃ無い。よしんば落とせたとして、一体何が望みだ。何を企んでいるッ」
「まぁまぁ、そう吠えないで頂きたい。私は別に、君をどうこうしようというつもりはないんだ」
 男は悪びれることなく指を鳴らす。暗がりの部屋に給仕服を纏った三人の女性が押し入ってきた。
 うち一人が隣に立ったところで、男はわざとらしく咳払いをし、四条の注意を自分に向けさせる。
「何をしに来たかって? 報告だよ四条君。株式会社『BOARD』。当社の会長職にこの私・『鎌田』が就任したのでね。事前連絡が無くて済まなかった。何分、急な決定だったもので」
「話をすり替えるんじゃない。そもそも、そんな重大な話がどうして私の耳に入らない。決定を下したのは誰だ。そいつと話をさせろ」
「話など必要ありませんよ。これをご覧になれば、貴方にだって理解できるでしょう」
 そう言って差し出した一枚の書類。この男を会長職に就かせるための同意書であることは誰の目から見ても明らかだ。勿論、そんなものを彼が認めるはずがない。四条は差し出された書類を千切って声を荒げる。
「こんな書類で何が出来る。経営者は私だ、悪いがとっととお引き取り願おう」
「そう邪険に扱わないでくれよ。別に君を会社から放逐するつもりは無いんだ。私は君の事業を高く買っているんだよ。十数億単位の融資の用意もある。友達になろうじゃないか四条君。決して君に損はさせない」
 上から目線の物言いに、人を小馬鹿にした口調と態度。流石に我慢の限界だ。
「あぁ、もう……沢山だ! 貴様と話すことなど何もない。警備の者を呼ぶぞ。不法侵入その他諸々の罪で牢屋に叩き込んでやる」
 四条は眉間に皺を寄せ、血走った目で捲し立てる。鎌田はそれに腹を立てるどころか、むしろその反応を楽しんでいるかのように嫌味に笑った。
「そうか、そうか。……残念ながら時間切れだ。大人しくサインしていれば、社長を辞することも無かったろうに」
 鎌田が軽くぱんぱんと手を叩くと、お付きの一人が持っていたノートパソコンを開き、画面の一部分を指差す。
「どこまで私を愚弄すれば気が済むのだ。話すことなど何もないと言っただろう」
「まぁまぁ。これを見てからでも遅くはないでしょう。私がいかに本気か、これで分かってもらえる筈ですよ」
「くだらない。時間稼ぎがしたいのなら……」
 そこまで言い終え、四条の顔から血の気がさっと引いた。同時に額に冷や汗を滴らせ、ディスプレイを注視する。株式会社BOARDの”発行株券”の内、実に半分近くをこの男が保有していると記されていたともなれば、見過ごせるものではない。
「天王寺グループ……、烏丸製薬……、他の資産家たちまで! 貴様、彼らに何をした!?」
「株を頂いたのだよ。極めて平和的かつ友好的にね。そんなに喧嘩腰でいいのかな、四条君。ここに居るのは株式会社BOARDの大株主だ。君ごとき男、いつだって捻り潰せるのだよ」
「ふざけるのもいい加減にしろ。我が社の株主は世界中に散らばっているんだぞ、どうやって回収と言うのだ、いや、そもそも……、何故株主たちは株を手放したのだ」
「金で……済ませたいところだったのだが、当社の仮面ライダーたちに”資金調達”の邪魔をされたのでね、全世界の株主たちに「お願い」して譲ってもらった。
 私の御付きを紹介しよう。右端の娘は前田アイ、世界最高レベルのハッカーで、当社のネットワークに外部からアクセスし、株主の情報を頂いた。真ん中の彼女は中原マイ。法律家で、株式の仕組みを私に詳しく教えてくれる才女だ。そして左端の北乃ミイ。彼女の作ったコンピュータ・ソフトで、私の声を同時かつ全世界の株主たちに呼び掛けられるようにしたのだ。
 お分かりかね四条君。私は株式会社BOARD唯一にして最大の株主だ。君の首を切り、アイ・マイ・ミイの三人のうち誰かを新社長に据えることだって出来るのだよ。それでも、私の申し出を断ると言うのかな」
「……」あまりのことに返す言葉も無い。まさか、こんな方法で会社を脅かす者が居ようとは。こんな横暴を許すわけには行かない。かといって反論のしようがない。

「さあ、答えを聞こう。会社を明け渡すか、私の下で働くか。二つに一つだ、例外は認めない」
「答えだと? そんなこと、最初から決まっている」
 四条は胸の社員証を自ら千切り、机の上に叩き付けた。「私が従うのは己のみ。人の会社で働くつもりは無いが――」一拍起き、更に凄みの増した目で鎌田を睨み付ける。「いつまでもそこでふんぞり返っていられると思うな。必ず貴様を引き摺り下ろしてやる。覚えていろ、必ずだ」
 反論の隙すら与えず、お付きの三人を散らし、強引に外へ出る四条。
 鎌田は怒るでも笑うでもなく、ただ口元を攣《つ》り上げ、机に肘を乗せ目の前で両手を組んだ。

「楽しみに待ってるよ」



※※※
 

 第二膳はこれにて終了。
 これより下の話は”株券”や”株式”の仕組みについて、思い切りざっくりとした説明を記載しています。
 本当にざっくりと、ですが。



◎「だいたい分かる」株と株券と株主◎

企業」というものは、大なり小なり運営の為の”資金”がなければ運営出来ません。会社自身で全て賄うのが理想ですが、作中のBOARDのような大企業ともなると、自分たちだけでの調達は不可能でしょう。

 銀行から「融資」してもらったり、「債券」を発行して投資家たちから調達することも出来ますが、これらはあくまで「借金」。借り賃である利息の払いからは逃れられませんし、経営が立ち行かず赤字にでもなると、担保に会社を持って行かれてしまう……など、相応のリスクが付きまといます。

 そこで、別の資金調達手段として会社は、株券というものを発行します。
 株式は会社の事業・信用を用い、資産家や他企業、一般人から資金を集めるためのもので、債券のように返済の必要がなく、会社が自由に扱うことが出来る資金です。
 しかし、購入者に発行会社の利益のうち何割かを”配当”として渡り、かつ会社の最高意思決定機関である”株主総会”の場で『企業の経営について口を出す』、”株主総会議決権”を与えるという側面もあります。

 株券を購入し、会社の経営に口出しするような人たちのことを、俗に『株主』と呼びます。
 株は正式な手続きを踏みさえすれば、これら権利ごと別の人に売り渡すことも可能なので、鎌田のように良からぬ考えを持った人間に多くの株券が渡ると大変危険なのです。

 作中、鎌田は株式会社BOARDの発行していた株のうち、『全体の49%』を買い占めたと言及しています。株券は買えば買うほど総会での議決権が強まるうえ、残りの大多数は先に言及した『会社乗っ取り』防止のため、『親会社(※この場合はBOARD)』もしくは別口の『経営者』が保有しているので、発行している分の半分以上を所有している鎌田は、社長の四条ハジメと同等かそれ以上の発言力を有していることとなり、彼の立場を脅かすに相応しいものとなる、……というわけです。
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