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 ←Journey through the Decade Re-mix 第三話 「第二楽章♪キバの王子」 第三夜 →キバの世界・世界観および設定まとめ
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「Journey through the Decade Re-mix」
Journey through the Decade Re-mix(1)

Journey through the Decade Re-mix 第三話 「第二楽章♪キバの王子」 第四夜

 ←Journey through the Decade Re-mix 第三話 「第二楽章♪キバの王子」 第三夜 →キバの世界・世界観および設定まとめ
「なんか、今回わたしたちの出番、少なくありませんか?」
「屋敷やその周りで士君たちが動き回るから、ずっと家にいる私たちは動かしにくかったんだってさ」
「何の話ですかおじいちゃん」
「さぁ」


 楽屋ネタですみません。


 国の上空にキバの紋章が浮かび上がって暫くし、ビショップは部屋を出て息を吐く。何十年か振りに大型魔法を公使した為か、彼の体力は限界近くに達していた。
「漸く術式が安定したか。これで私の仕事も終わりだな。あぁ、腹が減った。禁も解かれたことだし、街に降りて存分に“吸う”とするか」

 これから吸わんとするライフエナジーの味を思い浮かべ、舌舐めずりの真似事をしつつ、不気味な含み笑いを見せる。
 ビショップは元々親人派ではなく、ヒトを食料としか見ないどこにでもいるファンガイアの一人であった。
 かつての王・ビートルファンガイアの命に従い、ヒトを護り、ライフエナジーを吸わぬよう努力していたのだが、王不在で、自分より目上の者が居なくなったのを良いことに、ワタルたちに見えない場所でヒトを襲って餌にしていたのだ。
 しかしもう、こそこそと隠れる必要はない。ファンガイアとしての本能が是となった今、人畜無害の国民共のエナジーを、片っ端から吸い尽くしてくれる。
 さて、まずは何処へ行こうと思案を巡らせる中、彼は美しいヴァイオリンの旋律を耳にした。王の戯れか? 否、これは彼の弾き方ではない。
 徐々に近づいてくるそれに対し、腰に下げた剣を抜き、迎え撃つ構えを取るビショップ。彼の目に映ったのは、不敵な笑みを浮かべた門矢士の姿だった。

「……何をしにここに来たか、聞かなくても分かる。しかし無意味だ。私の力を宿した魔方陣は最早誰にも止められん! たとえ今、私がここで果てようともな」
「そうかい。そいつを聞いて安心したよ」
 ――変身
 ――KAMEN RIDE 『DECADE』!
 言い終わるが早いか、ディケイドライバーを腹部に押し当て、変身。ビショップの背後を取って鋭い横蹴りを浴びせる。
 ――FINAL ATTACK RIDE 『De-De-De-DECADE』!
 同時に、右腰に提げたライドブッカーをソードモードに切り替えて抜き、必殺の『ディメンジョンスラッシュ』でビショップの体を逆袈裟《けさ》に斬りつけた。
 魔方陣発動のために大量のライフエナジーを消費していたビショップはひとたまりもなく、斬られたことに気付かず砕け散った。
「さぁて、と。あとは任せたぜ、ワタル」
 ディケイドはそう呟き、ビートルファンガイアの待つ広間へと歩を進めた。

◆◆◆

「さぁて、と。一発かましてや……り……、な、何ッ!」

 扉を蹴破り、広間に押し入ったディケイドが見たは、青い右腕に緑色の左腕、胸部に紫の鎧を身に纏ったキバが、周囲に亀裂が走る程の衝撃で壁に叩きつけられ、虫の息で『白色』の仮面ライダークウガの姿だった。
 ディケイドの存在に気付いたビートルは、クウガから手を放し、振り向くことなく彼に言う。
「先ほどの演奏、見事だった。おかげでとどめを刺しそこなってしまった」
「そりゃどうも」素っ気無く返事をし、ついでに何故だと言葉を返す。
「あの中間管理職は見殺しか? 魔方陣は奴が居なくても成立するだろうが、用済みになりゃ容赦無したァ……、可哀想だぜ流石に」
 ビートルはステンドグラス状の皮膚の中で不気味ににやりと笑って答える。
「どんなに優秀だろうと、腹を空かせた獣じゃ仕方が無い。ヒトという資源は有限だ、余計に減らされては困る。手間を省いてくれて感謝するよ、人間」
「あぁそうかよ化け物め。だったらもう、前置きは無しだ」
 ライドブッカーを構え、ビートルに向かうディケイド。気付いていながらどっしりと構えて立ち尽くすビートルファンガイア。
 刃はビートルの右肩に刺さり、袈裟に斬り抜こうとするが、装甲の厚さに阻まれ、逆にライドブッカーの方が刃零れしてしまった。
 ビートルの右腕が青く光る。掌の中で鎖が渦を巻き、形を成して彼の手に収まった。キバ・ガルルフォームの剣・ガルルセイバーだ。
「ハハ、そんなものじゃあ、俺の命は殺《と》れんなぁ」
「何ッ!」
 ディケイドは対応しきれず、ガルルセイバーの一撃を脇腹に浴びてよろけ、同時に前蹴りを受け、床の上で仰向けに倒れ込む。
「ちくしょう、痛えッ! なんだってんだよっ」
 ビートルの腕力によって強化された撃はディケイドの装甲を易々と貫き、装着者の肉をも斬り裂くが、意に介している暇はない。
 ライドブッカーを杖代わりに立ち上がろうとするディケイドを見、壁にめり込んまま動けないクウガが、息も絶え絶えに警告を発した。
「気を、つけろ、士……。やつは、ワタルの、お付きを、みんな……、取り込み、やがった。半端な、強さじゃ、ねぇ」
「んなこと見りゃわかる。もう喋ンな、休んでろ」

『半端な強さじゃない』。
 そんなことはビートルがキバの鎧を身に纏う前から分かっている。だからこそ意識したくはなかった。
 だが、他人の口からそう言われると否が応にも意識せざるを得なくなる。ディケイドはクウガに向かって短く舌打ちをして気を紛らわす。
 強いが、一切攻め手がないわけでもない。今のやり取りでビートルの“穴”を見付けたディケイドは、足を使ってビートルの周囲で円を描いて駆ける。
「どうだい、いくら馬鹿みてぇに硬くても、このスピードは捉えきれねぇだろ」

 攻撃を食うより早く死角を突き、両の拳を叩き込む。
 ドガバキフォームはキバの基本四形態の長所を合わせ持っているが、反面、三体のモンスターをその身に取り込んでいる以上、身軽に動くことは出来ない。
 ディケイドの早さについて行けず、ただただ攻撃を食らいつづける格好となった。
 相手の弱点を突いた有効な策といえるだろう。だが、キバ・ドガバキフォームの持ち得る能力は、彼の考えの、さらに先を行っていた。
「何をするかと思えば……、こんなものかッ!」
 攻撃を空振り、隙のできたビートルの右肩に拳を打ち込み、地に膝をつかせる。そうなると考えていた。
 しかし、当たる筈だった拳は目標を見失って空を切る。視界の外に消えた標的は、気が付くと、自身の死角に回っているではないか。

「何だ……ってんだよッ!このッ」
 振り向き様、再びビートルに拳を見舞うが、またもあっさりとかわされてしまう。身のこなしでは此方に部があると言うのに、これは一体どういうことか。
 余裕ぶるビートルを凝視し、ディケイドはその理由を唐突に理解する。彼の足元から半径数メートルには、薄い水の膜が張られており、彼はその水面を”滑って”いたのだ。
 キバ・バッシャーフォームの水を操る能力だ。成る程、これなら動きの鈍さは十二分に補える。
「浅はかだ。実に浅はかだよ、人間!」
 足を封じられたディケイドに、雷撃を帯びたドッガハンマーが迫る。そこから離れようと必死にもがくが、間に合わず、槌《つち》による痛烈な一撃がディケイドの胸部を鋭く貫いた。
 唯一部のあった速さをも封じられたディケイドは、壁に亀裂が走る程の勢いで、広間の壁に叩き付けられてしまった。
 強固な装甲と槌との交わりが、口から漏れ出る苦痛に満ちた生々しい呼吸音が、おどろおどろしい音楽となって広間に響く。

「……のッ、野郎! なめんなよ!」
 ――FORM RIDE 『KUUGA TAITN』
 ディケイドはライドブッカーから、「クウガ・タイタンフォーム」のカードを取り出し、バックルに装填。
 紫のクウガ・タイタンフォームに変身したディケイドは、モーフィングパワーを用い、自分の胸部に突き刺さる槌をタイタンソードに変えて斬りかかった。
 タイタンソードがドッガの鎧を貫けるのは先日の戦いで確認済み。虚を突かれたこともあってか、ビートルファンガイアは思わず片膝をつき、苦々しい表情で悪態をついた。

「窮鼠《きゅうそ》、猫をも噛むってね。どうだい大将」
「ぐう……ぅッ! 甘く見ていた、それは認めねばなるまい。だが、お前…お前たちごときでは、俺に勝つことは絶対にできぬ」
「ヤバい! 士、逃げろ! ”あれ”が来る!」
 ディケイドの眼前に右手を掲げ、念を込める。
 ビートルの足元から人ひとりほどの大きさの、黒く輝く『キバの紋章』が現れたかと思うと、床を伝ってディケイドの背後に回り、魔皇力の炎で彼の体を焼き焦がし、その上で撥ね飛ばした。
 だが、ビートルの攻撃はまだ終わらない。撥ね飛ばされ、彼の眼前に迫るディケイドを前蹴りで紋章まで押し戻し、再び焼き焦がす。
「こんにゃろ……ッ、反則技なんか使いやがって!」
「勝者は成すことは正しく、敗者のすることはすべからく間違っている。古より続くこの世の理だ。そこに、反則などという言葉は、無い」
 戻ってきた所を再び蹴りつけ、紋章の元に押し戻す。抵抗出来ず、なぶられるがままのディケイド。さながら格闘ゲームの連続コンボの如き様相を呈していた。
 四回ほど同じ光景が続いた後。満身創痍で、地に這いつくばってなお、それでも戦おうとするディケイドに疑問を抱いたビートルは、首を傾げ、何のつもりだと問い掛ける。

「足掻いた所でどうにもならないのは十分判っただろう。何故未だ抵抗する。あの餓鬼に義理立てでもしているのか? 貴様とて信じてはいないだろう、ヒトとファンガイアの友情などと言う夢想は」
「はッ、俺にとっちゃヒトもファンガイアもねぇよ。倒すべきものは倒す。そんだけだッ」
「愚かだ。実に愚かな奴よ。だが、一つだけ分かったことがある。貴様……。何か『策』を弄しているな、そうだろう」
「何故、そう思う?」
「貴様のその目だ。負ける事など微塵も考えていない、癪に障る瞳。勝ち目のない相手と対峙し、ありありと実力の差を見せつけられて、まだ立ち上がる。ファンガイアと人との共存が目当てかと思えば、それも関係ないと宣《のたま》う。
 ならば何故、そんな目つきで俺の前に立てる? 他に何か、ここでないどこかで策を弄している。そうとしか考えられん」
 流石は一国の王、知れたのなら隠し立てする意味は無いか。ディケイドは口元を歪ませ、楽しげに笑った。
「へへ……へっ。バレちまったならしょうがねぇ。だが、もう手遅れだぜ」
「何ィ?」

 ――国民のみなさん、聞いてください。
 ――ぼくはワタル。この国の王子です。
 街全体に拡散されたその声は、他でもないワタルのものであった。

◆◆◆

 遡ること約二十分。
 マシンディケイダーを駆り、王の居城へと向かう中、士は後ろに乗るワタルに、ある”作戦”を伝えていた。
「『乗っ取り』……、ですか?」
「そうだ。俺がやつらを引き付けて、魔方陣への注意を逸らす。その隙にお前はその中枢を分取る。簡単でいいだろう」
「シンプルなのは分かりました。けど手筈通り乗っ取れたとして、それからどうするんです」
「んなこと俺が知るか。あることないこと話しゃあいいだろ。作戦の都合上、俺はお前の元にゃあ行けないんだ。国を護るのは王の仕事、無い知恵絞ってスピーチのネタ捻り出せ」
「そんな無茶苦茶なっ」
 二の句が継げないワタルを無視し、アクセルを強く噴かせてキャッスルドランの乗るビルへと突っ込んだ。

 そして現在。
 無人となった魔方陣の小部屋の中では、作戦が上手く行きすぎたことに困惑するワタル少年が、陣の前で立ち尽くしていた。
「このまま放っておけば、いたずらに国民の不安を煽るだけだし……なんとかしないと」
 上着の内ポケットから、無造作に丸められたメモ用紙を取り出す。今晩、即位式の壇上で読むことになっている式辞だ。聞けば誰もが喜びそうな、ワタルからすればヘドが出るような美辞麗句が、これでもかと言わんばかりに並べ立てられている。
 書いた人物の顔を性格を思い返し、乾いた笑いを浮かべた。

「でも……」
 ――これで、いいの?
 ワタル少年の脳裏に、二人の男の言葉が過る。

 ――『言わなきゃわかんねぇぞ』
 ――『俺はお前の”ともだち&”なんだからな』

「……そうだ。いいわけ、あるもんかッ」
 ワタルはメモを握り潰して放り投げると、深く深呼吸をして魔方陣の中央にそっと手を置く。
 それに呼応するように魔方陣の術式は赤く輝き、彼の声は国中に響き渡った。

「――国民のみなさん、聞いてください。ぼくはワタル。この国の王子です。
 今宵、この国の王に即位する前に、みなさんに言わなければならないことがあります。
 今から六年程前、ぼくは大切な友達を”食べ”ました。ヒトとファンガイアのハーフであるぼくですら、主の本能に逆らうことが出来なかったのです。
 そんなやつが王様になんてなれるはずがない。今日の即位式も、本当は断って逃げ出すつもりでした。
 ぼくは、決してあなたたちに誇れるような人物ではありません。ヒトでもファンガイアでもない自分の出自を呪う卑しい子どもです。
 ――ですが。そんなぼくのことを信じ、戦ってくれる”ともだち”がいました。
 そんなぼくに”言葉をかけ、立ち直らせてくれた”人がいました。
 彼らのおかげで気付けたんです。ぼくたちは”獣”じゃない。誰かを信じられる心が、誰かを認め、分かりあえる『心』があるのだと。ぼくにこんなことを言う資格なんてないことは分かってます。でも……、それでも言わせてください。
 ファンガイアのみなさん。
 心の中に棲む”獣”の本能に負けないでください。ぼくたちは獣とは違う。お互いを理解して、分かりあえるはずだから。
 人間のみなさん。
 ファンガイアを怖がらないでください。彼らはあなたたちよりも大きく、力の強い種族です。ですが、彼らの持つ”心”は、あなたたちと同じもののはずだから。
 それでもダメなときは、それでも耐えられない時は、このぼくを、今宵この国の王として即位するぼくを信じてください。あなたたちの心を全力で信じるこの”ぼくを”。
 ご清聴、ありがとうございました」

◆◆◆

 僅か五分程度の、子どもの考えた粗だらけの拙い演説。
 だがそこには、王として人々の幸せと共存を誓う、ひとりの少年の決意と覚悟が、言葉となって国中に響いた。
 そしてそれは、広間の中で死闘を繰り広げている者たちも、例外ではない。
「……と、いうわけだ」
「どんな策かと思えば……、こんなことか。ヒトとファンガイアの共存? そんなものは、ただの夢だ!」
「あぁ、夢だよ。確かに夢だ。だかな、人が何かを成す時、そのスタートラインはいつだって″夢″から始まるんだぜ。
 ”あんただって”そうだったんだろう?」
「知ったようなことをいけしゃあしゃあと、何様のつもりだ貴様ッ」

 ――何者か、だって?
 ――そうかそうか。そんなに知りたきゃ教えてやらァ。
 ディケイドは待ってましたとばかりに、ビートルファンガイアに指を差し、自信満々に答える。
「仮面ライダーディケイド」の”二つ名”を。
 ――通りすがりの、仮面ライダーだ。覚えておけ!
 ディケイドの言葉に狼狽したビートルファンガイアは、右手にバッシャーマグナムを出現させて構え、引き金を″クウガ″の方に合わせ撃ち抜いた。
 銃口のフィンがくるりと回り、圧縮された水甲弾が風を切って迫り来る。
 ディケイドはライドブッカーをガンモードにして撃ち落とそうとするが、不意を突かれたこともあり、間に合いそうにない。
 万事、休すか。

 ――そうは、させないッ!
 いや、そうではない。
 クウガがめり込んだ壁の、その屋根を突き破り、紅いコウモリのファンガイアが盾となって水甲弾を防いだからだ。

「何……ッ!」
 コウモリのファンガイアはクウガを壁から引き抜いて抱き抱えると″ワタルの姿″に戻り、何かをやり遂げ、満足そうな顔で口を開いた。
「ユウスケ、助けに来たよ!」
「来ると、思ってたぜ。しっかしなんなんだよさっきの放送」
「聞いてたんだ」
「暇だったからな。しっかし意味分かんねぇよ。結局自分を信じろ、ってことじゃねぇか」

 ワタルは憑き物が落ち、年相応の無邪気な表情を浮かべて答えた。
「アニメの、受け売りさ」
「そっか。そりゃ面白ぇ」
 ――やったな、ワタル。
 変身を解いたユウスケは、ワタルにも負けないほどの笑顔を浮かべ、彼を強く抱き返した。

 ――なるほど、そういうこと、か。
 それを遠くから見ていたディケイドにも、一つの変化が起きていた。
 キバの顔とキバの紋章が描かれたカード、そして得体の知れないもう一枚。三枚のライダーカードに”絵柄”が戻ったのだ。
 王である自分を受け入れられたからか、信じられる何かを見つけられたからか。何故だかは分からないが、良いことに変わりはない。
 ディケイドは三枚のカードを感慨深く握り締め、ワタルはユウスケをゆっくりと地面に下ろすと、怒りと驚きで棒立ちになっているビートルに言い放つ。

「さぁて、役者は揃った。あとは大将、あんたをぶっ倒すだけだ」
「この国はお前には渡さない。王の証を返してもらうぞ」
「愚かな。キバの鎧を纏いしこの俺に、お前らごときが勝てるものか」
「そいつはどうかな? いい加減に目覚めろっ、バカコウモリ!」
 ガンモードを構え、ビートルのベルトに収まるキバットを撃ち抜く。
 先ほどは逆に不意を突かれたビートルは、大きくぐらつき膝をついた。

「今だ、ワタル!」
「はいっ!」
 ビートルがよろけた隙を突き、ワタルは一気に彼に駆け寄って彼のベルトからキバットを奪い取った。
 キバットがベルトから引き剥がされたことで、キバの鎧は形状を保てなくなり、取り込んだ三体のアームズモンスターを吐き出して、ファンガイアの姿へと戻った。

「おの……れ」
「あんた自身がいくら強くても、ベルトの方はそうでもねぇようだな。これで借りは返したぜ」

 キバットバット三世はキバの鎧の力を制御し、力を与える存在。その存在はキバにとっての利点であり、弱点でもあったというわけだ。
 キバットを奪い返したワタルは、顔や頬をぴたぴたと叩き、彼を強引に叩き起こす。
「キバット、キバット!」
「うぉ……お? なんだいなんだい。血相変えてどうしたんだぁワタル」
「この国を壊そうとするやつがいる。力を貸せキバット、″王″の命令だ」
 今まで気絶していたキバットに、何が起こっていたか、理解も把握も出来るわけがない。
 だが、この少年は自分の目の前で自らを”王”と言った。己の意思で、誰に言われるでもなく、だ。
 となれば、一番の友である自分が今すべきことは、”何故か”と無粋な質問を投げかけることではない。王たるこの少年を、全力でサポートするだけだ。

「なんだか分からねぇが……、よく言ったワタル! よぉーっしっ、思う存分キバっちゃうぞぉこの野郎!」
 ――がぶっ!
 ――変身
 左手を通じてキバットの魔皇力が注がれ、王の鎧を纏いし異形の戦士に姿を変える。
 仮面ライダーキバに仮面ライダーディケイド。二人の仮面ライダーは並び立ち、臨戦の構えを取った。

「奴は強い。油断するなよワタル」
「大丈夫です。今のぼくには、あなたがついていますから」
「言うじゃねェか。門矢士先生の闘い《レッスン》の時間だ。ヘマしたらケツ叩きだぜ」
 言葉を交わして小さく深呼吸をすると、ディケイドはライドブッカーを構えて右側から、キバは腰を落とし腕を大きく広げて左から。ビートルファンガイアを挟み込んで飛びかかった。

 ビートルはディケイドの剣戟を己の手刀でいなし、左拳の正拳突きでキバを吹き飛ばす。刃と刃が交錯する音が、吹き飛ばされ地を強く蹴り込む音が広間に響いた。
 キバの鎧があろうがなかろうが、こいつが強いことに変わりはない。二人は改めてこの事実を思い知らされ、戦慄する。
「確かに強い。強いが……」
「負けるもんかッ」
 だが、二人のライダーは止まらない。
 友情と王としての覚悟に目覚めた少年が、その男の決意を信じ、共に闘うと決めた男が、そんなことで揺らぐなど、許されることではないからだ。
 とはいえ、小手先の攻撃で沈められるような相手でないことも事実。
 二人はビートルを囲い込み、どちらか一方が常に、相手の死角に回るような位置取りをし、攻撃を仕掛ける。キバが彼の視界の奥からパンチの応酬を見舞えば、その裏でディケイドがその隙を窺《うかが》いつつ、剣戟《けんげき》を演じるという具合だ。

「ぐぐぅ……小賢しい、真似を」
 いくら強いとはいえ、同時に二人を警戒しつつ攻撃を捌くのは難しいらしく、ビートルの顔色に焦りが見え始めた。正確だった手刀捌きにも粗が目立ってきている。

「っしゃ! 取ったッ」
 ビートルがキバの攻撃に気を取られた隙を突き、ディケイドは手刀を強引に振り切り、彼の脇腹目掛け刃を振った。
これでやつは胴を境にして真っ二つ。その筈だったのだが。
「ふふ……、惜しいな。殺《と》られるのは、貴様だッ」
 ビートルは左脇腹目掛けて放たれたディケイドの刃を、左膝と左肘で押さえ込み、攻撃を防ぎ切ったのだ。
 不意打ちをかわされ、ライドブッカーを抜くことすら敵わないディケイドの前に、ビートルの空をも抉《えぐ》る鋭い手刀が迫る。

 だが、どうしたことか。ディケイドは仮面の下でにやりと笑り、自信ありげに言葉を返した。
「いいや違うね。殺《や》られるのは、てめぇだ」
 ――やああああああっ!
 まさにその時だ。
 ビートルの背後からキバが小さく宙返りをして飛び越え、戻り際に両足で彼の頭を挟み込む。
 そのまま頭を振り子のように振り、重力と体重の力で彼の体勢を大きく前のめりに崩した。
 プロレスの大技、『フランケンシュタイナー』だ。

「な、ぬッ!」
「余所見してんじゃねぇぞ、これで、仕舞いだッ!」
 そうなれば、当然刃を押さえ込む肘と膝の拘束も緩む。ディケイドは肘と膝が刃から離れた瞬間、
刃を上向きにし、勢いをつけてそのまま上方に斬り込む。
 ビートルファンガイアの左腕は、絢爛とした輝きを放ち、音を立てて地面に転がった。

「ぬぅ……ぐぅおおおおおおおッ!」
 遅れてきた激痛に苛まれ、両膝をついて地に伏すビートル。最早、形勢は完全に逆転していた。
「おのれ……おのれおのれおのれおのれッ! このままでは、このままではすまさん……ぞおぉおおおッ!!」
 だが、ビートルファンガイアも止まらない。右腕だけで立ち上がったビートルは、体中にあらん限りの力を込め、それを”衝撃波”として彼らに放った。
 衝撃波は屋敷中のガラスというガラスを粉々にし、ディケイドとキバは屋敷から放り出され、十五階相当の高さから落ちて行く。

「う、わぁあああああああッ!」
「落ち着けワタル。俺に掴まれ」
 ディケイドは狼狽するキバを抱きかかえると、ライドブッカーの刃をビルに突き刺し、落下の速度を無理矢理抑え込んだ。
 十分に速度が落ち切ったところで飛び降り、地上に降り立った二人が見たものは――。
「負けてなるものか。お前たちにやられるぐらいなら、こんな国などいらぬ! キャッスルドラン、王の居城よ。今こそ、隠された凶暴性を解放するのだッ」

 居城・キャッスルドランの頭部に陣取り、右腕から発する強力な念動波で、ドランの意識を開放し意のままに操らんとするビートルの姿だった。
 キャッスルドランは自身の体の上に乗っかっているビルを砕き、城の両側面についた立派な翼を羽ばたかせ、宙を舞う。
 口から吐く紫色の火球弾。嵐を起こさんばかりの羽ばたき。街がドランによって破壊されるのも、時間の問題だろう。

 手負いなのに、右腕一本であんな事までできるのか。なんつぅ化け物だ。二人はビートルファンガイアの底知れなさに唖然とした。
「オイオイオイオイ、あの野郎キャッスルドランを奪っちまったぜ!? どうすんだよワタル、どうなんだよワタルぅ!」
「落ち着けキバット。ぼくたちがなんとかすればいいだけ、だろ」
「んなこと言ってもよォ、俺たちになんとかできるのかよォ」
「できるさ。……ね?」
 そう言ってディケイドの方を向き、目配せをするキバ。彼の言わんとする意図を察し、はぁとため息をつくディケイド。
「おいおい、自分を信じるとか何とか言っておきながら、結局は他力本願か。でもま、そういう上から目線で物怖じしないその態度。嫌いじゃあねぇか。じゃあとっとと終わらせようぜ。王様としての初仕事だ」
「まだ”王子”、ですけどね」
「こまけぇことはいいんだよ。ちょっと、くすぐったいぞッ」

 ――FINAL FORM RIDE「Ki-Ki-Ki-KIVA」
 ディケイドは『FINAL FORM RIDE』と書かれたカードをドライバーに装填。同時にキバの背中に強引に″手を突っ込んだ″。
 ベルトに収まったキバットの眼が紅く輝き、キバの背中からキバットの『顔』が飛び出すと、両足がぱっくりと開いた。
 両足側面にヴァイオリンの″弦″が張られ、それ以外の体のパーツはキバットの顔の中に取り込まれて行く。
 ヴァイオリンの弓と弦、そしてキバットバット三世。
 仮面ライダーキバの象徴となる要素を全て取り込んだ巨大な弓矢、『キバアロー』だ。

[何だ! 何だッ!?]
「説明は後だ。てめぇら腹括れよっ」
 ディケイドはキャッスルドラン目掛けて狙いを定め、引き代をぎりぎりと絞る。
 キバットの羽を模した両側面の弦がぷるぷると震え、弓で弦を強く引っ掻いたような音が周囲に響く。

[あぁっ! うわあぁっ]
[にゃろう、お構い無しかよッ、さっさと射てよこのバーコード頭]
「腹括れっつったろうが!辛抱しろ」
 ″弓″という武器はその構造上、引き代一杯まで引かないと遠くに飛ばせず、威力も期待できない。
 だからこそ精神を集中し、力を込めて引く必要があるのだが、火球弾飛び交うこの場所では、落ち着けという方が無理な話だ。
 キバの右足を模した矢。その先についた拘束具が弾け飛び、紅く燃え上がるコウモリの翼が飛び出した。
 弓を引ききった合図、なのだろう。
「お前ら、声揃えて行くぞ!ビビんなよ!」
[おう!]
[はい!]
 ――キバって……行くぜっ!!
 三人の掛け声がぴったり揃ったその瞬間、ディケイドは引きしろに掛けた力を開放し、思い切り弓矢を射った。矢は風より鋭く音より速く、空を切って一直線に進む。
「おのれィ、そんなもの、消し去ってくれるわッ」
 弓矢の直線状に、キャッスルドランの火球が迫る。このままでは直撃し、燃え尽きてしまう。
 今度こそ、万事休す、か。

 ――ンぐ……んん!?

 弓矢は消えなかった。
 それどころか、火球弾を突き抜けて一直線に伸び、ドランの頭に乗るビートルファンガイアの腹部を抉り、屋敷上部の離れまで吹き飛ばしたのだ。
「くそっ、なんだこれは! 体が……全く”動かん”!?」
 矢の持つ力からか、ビートルは砕ける瞬間のファンガイアのようにきらきらと輝き、その場から動けなくなっていた。

「チャンスだ。一気に決めるぞ、ワタル」
「はい!」
 これを勝機と見たディケイドは
”キバの紋章”が書かれたカードをドライバーに装填。キバアローから元の姿に戻ったキバは、ベルトの左側から”赤色のホイッスル”を取り出し、キバットに吹き鳴らさせた。

 ――ウェイク・アップ!
 ――FINAL ATTACK RIDE 「Ki-Ki-Ki-KIVA」
 キバットの声とディケイドライバーの電子音声が同時に響く。
 キバの右足を縛り付ける鎖が音を立てて砕け、先ほどの弓と同じ、紅いコウモリの翼が現れる。
 彼の放出する膨大な魔皇力の影響か、早朝の筈の空は、月の輝く漆黒の闇へと変貌を遂げた。

「これで仕舞いだ!」
「覚悟しろッ!」
 大地を強く蹴って、二人の仮面ライダーが空に舞う。ディケイドはベルトから飛び出したカードの束を通り抜け、キバは高く跳び上がり、宙返りを一つすると、拘束されて動くことのできないビートルファンガイア目掛け、必殺のライダーキックを見舞った。
 いくら屈強なファンガイアといえど、ライダー二体のキックを受ければひとたまりもない。離れを砕き、屋敷をくり抜き、風をも追い抜く勢いで地表に叩きつけられた。
 衝撃による亀裂の代わりに、数メートルほどに及ぶ『キバの紋章』を地表に残して。

「やった……な」
「はい。ありがとう、ございました」
「礼なんていらねぇよ。お前はお前のすべきことをやっただけだ。
お前も、もう大丈夫そうだしな」

「えぇ。どんなに辛くても苦しくても、もう平気です。みんなを、ぼくが信じられるみんなを信じられるから」
「はッ、なんて言ってるか分かんねぇぞワタル」
「あなたの受け売りですよ」
「そりゃそうか。……ん?」
 ふと後ろを振り返り、ある違和感に気が付く。地表に叩きつけたはずのビートルファンガイアの”姿”がないのだ。
 気になって周囲を見回すと、きらきらと光り輝く硝子の欠片のようなものが、”ある方向”に向かい一直線に並んでいる。
 ディケイドは全てを悟った。
 
 ――そうかい。それがあんたなりの”ケジメ”か。
「……どこに行くんですか?」
「ヤボ用。すぐには戻れないんで、ユウスケのこと頼むな」
 ディケイドはバックルからカードを取り出して変身を解くと、ディケイダーのエンジンを駆け、走り去って行った。

◆◆◆

 ――目眩がする。意識が保てない。痛みは……もう、どうでもいいか。
 ――この場所で生を受け、この場所で果てる、か。それもまた面白い。
 ――私のヴァイオリン……か。私以上に古臭くなっている。
 ――今まで寂しい思いをさせて悪かったな。もう一人にはさせんぞ。

 ワタル少年が、古ぼけたヴァイオリンを弾いていたあの屋敷のあの工房。
 男は左腕を千切られ、腹部に風穴が開き、文字通り満身創痍の中、この場所で、このヴァイオリンを抱く。そのためだけに命を振り絞ってここに来ていた。

「馬鹿みたいに古臭いものだったから気になってたが、やっぱりあんたのだったか」
「貴様は……」
「皆まで言うな。あんたの体の欠片辿ってたらここに行き着いた。それだけのことだ」
 そこに、ヴァイオリニスト姿の士が現れる。自分たちを見下し、殺そうとしていたあの男も、こうして見下ろしてみると酷く惨めなものに思えてしょうがなかった。

「安心しなよ。あんたの夢も、この国の未来ももう大丈夫だ。あんたの『息子』がこの国を、必ず良くしてくれる」
 ”息子”。士の言葉に男は動揺を隠せず、目を丸くさせて話に乗る。
「気付いて……いたのか?」
「”キバの鎧は王の証”。とすれば装着できるのは王の血族だけ。あいつの母親は既に死んでる。ならば残る可能性は一つだろ。ま……、正直こっちのは後付けだ。そう思った理由は別にある」
「何を見て、俺があの子の親だと?」
「やれやれ、まだ気付かないのか」士は鼻息荒く言葉を続ける。
「俺やユウスケには殺す気まんまんでかかってきたくせに、ワタルだけは俺と徒党を組んで戦うまでほぼ無傷だったじゃねぇか。
 今から王になるって奴が、一番邪魔な王子を、利用するでも無く”無傷”で帰す訳ねぇだろ。ったくよ、どうしようもねぇ親馬鹿だぜ、あんたは」
 気付かれていたのなら、隠す必要もない。男は物憂げな表情を浮かべ、穏やかな口調で話し始める。
 悪意も敵意もなく、一人の男としての顔が、そこにあった。

「あの子は……、私と同じだ。私も喰った。自分の”連れ合い”をな。心の底から愛していた。
 ヒトとファンガイアの共存を夢見て、そのために戦ってきた筈なのにな。急に恐ろしくなってしまった。自分のようなやつがこの国を変えられるのか、とな。
 同盟国”ワの国”で『ヨーカイ』を名乗り、国を脅かすファンガイアたちを討伐する。そんなことを口実にこの国を出た。ただ、逃げ出したかったのだ。
 どこに逃げても、幾ら怪物共を潰そうと同じだった。ヒトともファンガイアとも分かり合おうとせず、武力と言葉による拒絶を繰り返し、歩み寄ろうともしなかった。
 他国の紛争に介入し、音楽の力で彼らの仲を取り持とうともしたが、それも無駄だった。
 この国がいかに平和で、自分の考えがいかに浅はかだったかを悟ったよ。臣下たちにも妻にも、息子にも顔向け出来ない。そう思った」

 士は無感情に話を聞き、そこで生じた疑問を口にする。「あんたの過去に興味はねぇ。だがよ、そう思ったんなら、何故今更帰ってきた」
 男は自嘲気味に笑って答える。
「帰ってくるつもりなどなかった。だが行くアテのない私を″呼ぶ″ものがあった。それに従っただけさ」
「″もの″? なんだそれは」
「『透明なオーロラ』、とでもいうべきか。それ以外にどう形容していいか分からん。周りの風景を歪めて輝くそれに魅せられ、私はそれを通り抜けた。辿り着いた場所がこの国だった。それだけのことだ」
 ”オーロラ”。その言葉を聞いた瞬間、士の顔が強張る。男は士の態度を疑問に思うが、彼はそのことについて答えようとしなかった。
「どうした、何故そのような顔をする」
「なんでもねぇ。続けろ」

「今一度己の愚かしさを呪ったよ。私が居てやらなかったばかりに、今度は息子が自分と同じ道を歩もうとしている。
 何度時を戻せないかと思ったろうか。何度あの子の元に行こうと思ったろうか。だが、もう手遅れだった。今あの子に必要なのは親の愛ではない。王としての″覚悟″だ。私と同じ道を進ませない為のな」
 彼の言っていることは分からなくはない。だが、それを認めることは出来ない。士は刺々しい口調でわざとらしく彼に言い返した。
「お前はそれで満足だろうな。だがワタルはどうなる。あいつは家族の温もりに飢えていた。
 父親であるあんたを求め、ヒトとファンガイアの狭間で揺れていたっていうのに」
「君に許しを請おうとは思わないし、親のエゴだということも分かっている。だが、それが″親″という生き物だ。君も歳を取れば分かるだろう」
「誰がなるか、誰が」

 ――”親”。
 ――過去の記憶のない士には、いよいよ理解し難い話となった。
 だが、自嘲気味にそう語る男の顔が、とても悲しそうに見えた士は、持っていた趣味の悪い色のケースから、これまた趣味の悪い色合いのヴァイオリンを取り出し、彼の前に掲げた。

「新たな王の即位祝いだ。稀代の大天才、門矢士様が特別に一曲弾いてやろう。感謝しろ。十億……、いいや数十億の価値がある」
「面白い、聞かせてもらおうじゃないか。数十億の演奏とやらを」
 男は力無く笑うと、力を振り絞って立ち上がり、椅子に腰かけた。士は弦と弓の調子を確かめると、ふぅと息を吐きヴァイオリンの弦を強く弾く。
 埃《ほこり》舞う古ぼけた工房の中で開演する、たったひとりためのコンサート。
 曲目はファンガイア王家に代々伝わるヴァイオリン独奏曲。
 時に激しく、時に寂しく感傷的な曲調に、男は自らの半生を見ている。幸せだった日々も、辛かった日々も、一瞬で彼の前を通り過ぎた。
 その様子を冷たい瞳で眺め、ただ黙々と演奏するこの青年は何を考えているのだろう。
 男が口にした″オーロラ″のことか、たったひとりの肉親を亡くし、王に即位しなければならない少年のことか。それとも、目の前の男の境遇と半生に同情しているのか。
 それは、誰にも分からない。
 ――嗚呼、やっと辿り着いた。
 ――随分と遅れてしまったが、私もそっちに行くよ、”マヤ”
 ――――御免な。
 石膏《せっこう》が砕けるような音と共に、男の体全体に亀裂が走る。
 足、胴、肩、腕、首、顔。亀裂の入った場所から徐々に彼の体が崩れて行く。
 男は体の限界と己の運命を受け入れると静かに目を閉じ、満足しきった表情を浮かべ、硝子の欠片になった。
 ひとりの男の、人生という名の協奏曲に終止符《ピリオド》が打たれた瞬間だった。
 士は男が消滅しきるのを見届け、持っていたピンクと黒の縞模様の入ったヴァイオリンを机の上に縦に突き刺すと、
「餞別《せんべつ》だ。奥さんに、よろしく言っといてくれ」
 誰もいない部屋の中でそう言い残し、士は工房から出て行った。

◆◆◆

 その日の夜。
 雲ひとつなく満月だけが妖しく輝く宵闇の中、この国の新たな王の即位式が執り行われた。
 本来ならキャッスルドランの中で、各界の著名人や政治家たちを集め、厳かに行う予定だったのだが、先の戦闘によって屋敷内、とりわけ広間は半壊してしまい、式の場として相応しくないことと、”王”たっての希望により、数十年ぶりにドランを地に降ろし、降り立ったビル下の広場を飾り付け、一般参加者を呼び込んでの盛大なものとなった。

「ふわぁ、なんというか、すごいですね」
「だろ? だろ! なんか俺、自分のこと以上にわくわくしてきた!」
 その中に、光夏海と小野寺ユウスケの姿があった。
 夏海はワタルの側近が彼女に貸し与えた、紫の花の刺繍《ししゅう》が映える漆黒に輝くショルダードレスを身に纏い、ユウスケは怪我の治療を終え、支給された新しい親衛隊の制服を着ていた。
 二人は自分たちの世界では、全くお目にかかる機会のない大々的な宴の様相に、目を絢爛と輝かせ、ただただ圧倒されていた。

「でも……いいんですか? わたしがこんな場所に来て。面識なんて殆どないのに」
「いいっていいって。”親衛隊”のこの俺が許可したんだからさ」

「……あれ? そういえば、士君は?」
「士? 知らないなぁ。俺はあのあとすぐに救急病院にぶち込まれたし」
「救急病院って……、その割にはずいぶんとぴんぴんしてますね、ユウスケ」
「だって俺、クウガだし」
「答えになってません」
 中途半端にはぐらかされたが、この回復力はおかしい。彼は肋骨を四本も折って、全身の至るところから出血しており、普通の人間なら立つことすらままならない重症だったはずだ。
 夏海はたかだか十数時間でそれを治療し、笑顔でテーブルに盛られたオードブルを頬張るユウスケの姿にぞっとした。
『だって俺、クウガだし』、という言葉も、あながち間違いではないのだが。

「おーおー。この場にそぐわない貧乏人諸君。宴は楽しめているか?」
「あッ。その人の感情を逆撫でする口調と言葉は」
「士、お前どこに行ってたんだよー。即位式、もう始まっちゃうぜ」
 憎まれ口を叩きながら、門矢士が式の会場に姿を現す。士はテーブルに盛られたオードブルから、
生ハムメロンの”生ハム”だけをすくい取って口に運び、赤のワインをグラスに注ぎ、少しくるっと回して口をつける。
「どこって……、あいつのヴァイオリンの指導に決まってんだろ。あの時はお付きの奴らに邪魔されたし、一応約束だったからな。この俺様が直々に指導してやったからな、聞けるものにはなってるだろうよ」

「しっかしお前、ホントに傷の治り早えぇなぁ。俺よりもぼろぼろじゃなかったか」
「ははは。だって俺……」
「皆まで言うな。聞いた俺が馬鹿だった」
「あっ、見てください二人とも!ワタル君が出てきましたよ」
 パイプオルガンの荘厳な調べに導かれ、国民たちの盛大な拍手に迎えられ、キャッスルドランの正門の中からワタル王子が姿を現わす。
 彼の目にはもう、何の迷いも葛藤もなかった。
「大丈夫か、ガルル」
「私のことはどうかお気になさらず。それでは、”儀”を執り行わせていただきます」
「うん。宜しく、頼む」

 ガルルは体中に包帯を巻き、肩で息をするほど疲労しつつも、キバの鎧に比肩する王の証、”魔皇剣”『ザンバットソード』を新たな王に納める大役を担った。
 肉体的な疲労よりも、こうしてザンバットソードを王に納めるという大役を担った事の方が、疲労の原因になっていたのは、彼だけの秘密だ。
 ちなみに、バッシャーとドッガは、先の戦いの疲労により出られず、唯一負傷により戦いに参加していなかったルークは、隊員たちと共に式場設営の激務に追われていた。
 一般人も迎え入れ、式というよりは宴のような様相を成していたが、王位継承の儀の際は、誰もが口を閉じ、固唾を飲んで見守る。
 ワタルは唇をきゅっと結び、厳かな表情でそれを受け取ると、万感の思いを込め、刀身を地に突き刺す。
 即位の儀は、滞りなく終了した。

 それと同時に割れんばかりの拍手が、式場はおろか街中を包み込む。皆新たな王を、ヒトとファンガイアの掛け橋になろうとする、若き王の誕生を祝福しているのだ。
 割れんばかりの拍手の中、ワタルはガルルからマイクを貰い、国民に向けて語り始めた。

「ぼくがこの場所で”言葉”にして伝えるべきことは、今朝全て伝えました。なので今は、その言葉を”音楽”に代えて、皆さんの心に届けたいと思います」
 ――聞いてください。
 ヴァイオリンを肩に乗せ、弓を引く。国王ワタルの演奏が始まった。
 曲目はもちろん、ファンガイア王家に代々伝わるヴァイオリン独奏曲。自称稀代《きだい》の天才・門矢士指導による演奏は、言葉以上に国民の心を打つに違いない。

 士は首から提げたトイカメラで彼の姿を写真に撮ると、踵を返してその場から去って行く。
「ちょっ、おい士! どこに行くんだよ!」
「演奏、まだ始まったばかりですよ」
「俺がこの世界ですべきことはもうない。あいつはあいつで上手くやってくさ」
「なんでぇなんでぇカッコつけやがって! ……あ、これうんめぇ!」
「口にものを入れたまま喋らないでくださいユウスケ。汚いです」


 この世界ですべきことは終わった。少なくとも士はそう思っていた。
 ――だが、彼は気付けなかった。

「……これでめでたしめでたし、ってこと?」
「さぁな。だが奴は確実に”経験値”を積んだ。今のところはそれで十分だ。君には感謝しているよ、『キバーラ』」
「まっ、アタシはどうでもいいんだけどネ。この世界は救われたし。
 あのワガママぼっちゃまもちゃんと王様になってくれたし。それはそれとして。あんたも、約束は守りなさいよネ」
「いいだろう。好きにしたまえ」
「じゃっ、好きにさせてもらうわね。……かぁぷっ、ちゅっ」
 ビルの上から彼のことを見下ろす、フェルト帽に茶色いコートを着た初老の男性と、ディケイドを異世界に連れ去りかけた”白いコウモリ”の存在に――。

◆◆◆

「なー、士ぁ。なんなんだ、この人」
「さぁな。知っててもお前にゃ教えねぇ」
 士が撮ったこの世界の写真。
 どれもこれも不可思議なピンボケだらけで、使い物にならなかったが、たった一枚だけ、それとは何か趣の違うものが映っていた。

 ――即位式の壇上にて、ヴァイオリンを弾くワタルの姿。
 そこにはワタルと向かい合い、朗らかな笑顔でヴァイオリンを弾く男の姿が映り込んでいた。彼は一体何者なのか、ユウスケに説明するのは面倒だったのだろう。

「っていうかお前、ワタルはいいのかワタルは。”親衛隊”だろうが」
「ワタルはもう大丈夫だ。家臣や国民を、ヒトやファンガイアを信じて戦える。お前のおかげだぜ、士」
 士は面倒臭そうな顔で頭をぼりぼりと掻くと、彼に背を向けて言葉を返す。
「それは別にどうでもいい。が、それじゃあお前がここにいていい理由にはならないだろ」
「いいじゃんいいじゃん。堅い事言うなよ士ァ。旅は道連れ世は情け、って言うだろぉ」

 ――そうそっ。旅は道連れ、世は情け。よねッ

「お前、は……」
 士とユウスケが言い争っている中、突然リビングの窓の隙間から、両の翼を羽ばたかせ、かの白いコウモリが光写真館に侵入してきた。
 ユウスケをこの世界に導き、士を仮面ライダーカイザと戦わせた張本”人”、キバットバット三世の妹、キバーラその”人”である。

「てめぇ、何しにここに来やがったッ」
「あぁもう、そう邪険に扱うことないじゃない。ワタルぼっちゃまが王になっちゃって、アタシも暇になっちゃったしさァ。
 せっかくだから、あなたたちの旅についていきたい、って思っただけヨ」
「ふざけんな。お前みたいなアブないやつ、一緒に連れていけるもんか」
「旅は道連れ、世は情け、でしょ? ユウスケがよくてアタシがダメって、なぁんか、納得いかないわぁ」
「お前もそうだが、ユウスケだって認めた覚えはねぇ」
 自分の命を狙ってきたやつと一緒に旅などできるものか。士は横に振り続け、キバーラの加入を拒み続ける。
 キバーラはそんな士の必死さを可愛いと思いつつ、彼に提案を申し出た。
「じゃあさ、じゃあさ。多数決しましょうよ。アタシとユウスケが旅に加わるのに賛成の人ォ」

「はい」
「はい」
「はいっ」
 リビングの中で上がる三本の腕。夏海にユウスケに栄次郎。”三対一”で士の敗北は確定的となった。

「ちょ……ッ、何考えてんだお前ら」
「だってほら士君。白こうもりですよ。白。しかも喋るし」
「こんな夜中に女の子ひとりほっぽり出すわけにはいかないしねぇ」
「”旅は道連れ、世は情け”、だろ?」
 思い思いの理由でキバーラを擁護《ようご》する光写真館一行。
 中でもユウスケは、キバーラが断られれば必然的に自分も置いて行かれる為、必死にならざるを得なかったのだ。
「あははーっ。多数決でアタシの勝ちィ。ってなわけで、みんな。よろしくねェ」
「よろしくお願いします」
「はは、よろしくなッ」
「そうだこうもりちゃん。君もコーヒー飲むかい?」
「うん。飲む飲むー」
 ――こンの、アホ共が……ッ!
 自分をないがしろにして、写真館の面々とすっかり打ち解けたキバーラ。
 士の怒りは、今や先ほどまでとは全く別の方へと向いていた。

 ――いい加減に、しろッ!
 ――ぶふぉっ!?
 士は中指と親指にありったけの力を込め、キバーラの胴体、顔に向かって”でこぴん”を見舞う。
 掌にすっぽり収まるほど小さなキバーラは、頬をぷるぷると震わせ、リビング奥の壁まで吹き飛ばされてしまった。

「士君! なんてことするんですか」
「こうもりちゃんがかわいそうだろぉ」
「うるせぇうるせぇうるせぇ! 俺からすればお前らの方……が」
 そこまで言ったところで、士は突然言葉を濁した。
 目線の先の”何か”に驚いていることが、その原因であることが見て取れた。夏海たちは目線を士の顔から、その目線の先へと動かした。

 ――龍だ。
 キャッスルドランのような西洋風の”竜《ドラゴン》”ではなく、東洋風の”龍《りゅう》”。赤き体の龍が体をしならせ、ビル街を我が物顔で飛び回っている。
 よく見ると、描かれた時や背景全てが”鏡に映したかのように”ことごとく反転している。
 彼女たちの目線の先に移る背景ロールは、そのような絵へと様相を変え、別の世界へと飛んでいた。

「ちょっと! 何やってんのよみんな! たすけて、たすけてってばぁ!
 ごめんなさい! もう我が侭言わないから! くるしい、きつい、はいちゃう! はいちゃうぅッ! でちゃう! なんかでちゃうぅうう!」

***

次回、「Journey through the Decade Re-mix 」!


 ――”仮面ライダー裁判制度”。
 ――十二人の仮面ライダーが”ミラーワールド”というフィールドの中で、”公判”という名の戦いを行い、己の意見を拳に代えてぶつけ合う、この世で最も公正な裁判だ。

 ――ひゃーっはっはっは! 卑怯もラッキョウも大好物だぜ!ひゃっはっはっは!
 ――お前も死刑になれッ!

 ――僕は”シンジ”。辰巳《たつみ》シンジ。ATASHIジャーナルの記者です。

 ――士……お前、大丈夫なのか?
 ――俺は”弁護士”で”仮面ライダー”だ。問題ねぇよ。

 ――ふふふっ。戦いなさいディケイド。最後の最後まで……ネ。

 ――私に勝てるライダーは、いませんよ。
 ――あぁ。みんなそう言うんだ。俺に倒される奴らはな。

 ――こうもりには、コウモリ……ってね。

 次回、『バトル裁判・龍騎ワールド』にご期待ください。






 修正版キバの世界編も、これにて終了。
 単に修正するだけだというのに、毎回やたらと時間がかかるのが困りものです。


 士とワタルの交流も描いて、その上でユウスケとの友情が介在する余地を残す。
 今回はそういった目標を据えて描いたのですが、結果として、どっちつかずになった印象があります。
 TV本放送時、會川氏もそうなることを恐れて、ワタルとの交流はユウスケ一辺倒にしたのかな、と思ってしまいます。


 TV版とは違うことを書きたい、ということで、
 ワタルの正体をバットファンガイアに設定してみました。

 ラスボスとして設定されているキャラを味方サイドとして出すわけにはいかないのは重々承知なんですけれども、あの話の流れなら、渡のファンガイア態はバットだろうなぁ、と本放送時から常々思っていましたので。
 まぁ、出しただけで、あんまり深い意味はありませんでしたが。

 しかしまぁ、いくら個人が勝手に描いた作品だとはいえ、苦悩する人間を立ち直らせる台詞が、また別作品の引用になるのは正直どうなんだろう。
 修正版制作にあたってここだけは書き直そうと思ったのですが、これ以上に素敵な台詞を思い付けなかったので結局残っています。しんどいな……。
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~ Comment ~

NoTitle 

>彼の足元から半径数メートルには、薄い水の膜が張られており、[彼]はその水面を”滑って”いたのだ。
ここは[敵]または[ビートル]ではないでしょうか?

お久しぶりです。
ガルル達の描写の増加、ワタルの演説と今回も良い改変でした。
鳴滝の救世主発言で完全オリジナルになるであろう最終編がまた楽しみになって来ました。

それでは、また。

Re: NoTitle 

 白灰さん、長い間お返事せず誠に申し訳ございませんでした。

 鳴滝に関しましては、クウガ編執筆当時とそれ以降で、どんな奴にするかが自分の中で色々変わって来ていたのですが、その辺のすり合せ編集が面倒だったので、なろう時代はそのままだったんですね。まぁ、編集含めて先が長いので、今の段階の構想がそのまま反映されるかは難しいところなんですけれども……。

 ワタルに関してはかのアニメからの引用含め、殆ど変えてないんですね。あれだけ変えてって、主役の台詞だけ変わりなしってのは変な話ですけれども。

 今現在剣編の改変に思い切り苦しめられていますが、なんとか続けるつもりですので、気長に待ってくだされば、と。いっつも遅くてすみません。

 では、では。
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まとめtyaiました【Journey through the Decade Re-mix 第三話 「第二楽章♪キバの王子」 第四夜】

「なんか、今回わたしたちの出番、少なくありませんか?」「屋敷やその周りで士君たちが動き回るから、ずっと家にいる私たちは動かしにくかったんだってさ」「何の話ですかおじいちゃん」「さぁ」 楽屋ネタですみません。
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