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 ←Journey through the Decade Re-mix 第三話 「第二楽章♪キバの王子」 第一夜  →ぐうたら魔法少女伝説来海えりかちゃん #3
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「Journey through the Decade Re-mix」
Journey through the Decade Re-mix(1)

Journey through the Decade Re-mix 第三話 「第二楽章♪キバの王子」 第二夜

 ←Journey through the Decade Re-mix 第三話 「第二楽章♪キバの王子」 第一夜  →ぐうたら魔法少女伝説来海えりかちゃん #3
 ――みんな知ってるかァ?
 ――『カノン』とは、主となる旋律の後に、同形の旋律をずらし、重ね合わせる作曲技法のことだ。
 ――「かえるのうた」のように、複数のパートが多少ずらして同じ旋律と歌詞を歌い、そうして生じるハーモニーを楽しむ『輪唱《りんしょう》』と似たようなものだな。
 ――俺たちの住む、王都「奏音」もそこから取られたんだ。音楽同士の調和、ヒトとファンガイアとの調和を重んじるこの国らしいだろ?

 ――何? 本編と関係無い薀蓄《ウンチク》は余所でやれって?
 ――他にどこでやれっていうんだよ!

 ――――キバットバット三世

 手の内を全て晒してキバフォームへと戻り、起き上がることすら適わない。
 満足気に笑い、ドラゴンロッドを構え、じりじりと近付くディケイド。
 杖の先が一瞬キバの顔を掠め、彼の眼前に――

 ――イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル、ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ
 には、届かなかった。
 視界の外から機械的で無機質な声がしたかと思うと、ディケイドは強力な衝撃波を浴び、近くのビルの柱に叩きつけられてしまう。衝撃により変身は強制解除され、クウガから元の姿に戻った。
「なんだ……? 何が起こったんだッ」
「待て、待て、待て、待て……! 待てって、言ってんだろ『士』ァ!」
 ライドブッカーを杖に立ち上がろうとするディケイドを、顔に”金色の十字架”を貼り付けた、白銀の鎧の戦士が押さえつける。
「何故俺の名前を知っている。俺に知り合いはいないし、居たかどうかも分からんってのに」
「そんな連れねぇこと言うなって。ほら、俺だよ……、俺」
「俺ぇ?」
 士は困惑した。この世界に来たばかりの自分に知り合いなど居る筈も無い。なのに何故、目の前のこの戦士は、自分の名前を知っているのだろう。
 答えは簡単だ。彼はこの鎧の人物の声をよく知っている。士は彼の名前を言おうとするが、ワタルの声に遮られた。
「”ユウスケ”! 何故止めたッ! ぼくはまだ戦える」
「ワタル王子、こいつは俺の知り合いです。世界を破壊しようだとか、そんな阿呆みたいなこと、する筈がありません」
「……」彼のことを信用しているのか、ワタルは神妙な面持ちのまま、バックルからキバットを取り外して変身を解き、彼の言葉に耳を傾ける。
 馬鹿丁寧な言葉でワタルと話すその男の姿を、士は鳩が豆鉄砲を喰らったかのような表情で見る。
 同じく変身を解除した士は、白銀の男に話しかけた。

「お前、本当にあのユウスケ……、なのか?」
「あのって何だよ。俺は俺に決まってんだろ」
 手に填めていたサックのような機械をベルトに戻す。白銀の鎧はベルトのバックルの中に吸い込まれるようにして消え、クウガの世界で別れた筈の『小野寺ユウスケ』が立っていた。
「マジかよ、お前どうしてここに」
「話は後々。ほぉら、お前も謝れって」
「俺は何も悪いことをしちゃいない。故に謝る必要も無い」
「何言ってるんだ。悪いことをしようとしただろ、お前」
「馬鹿言え、俺はファンガイアに襲われる人間の女を護ろうとしただけであって……」

 ――”人間”、ではない。
 士の言葉を遮り、低く嫌味な声が周囲に響く。
 反応して振り返ると、頭の両側面から白鳥のような造形物を突きださせたファンガイアが、逃がしたはずの女性を羽交い締めにしているではないか。
 この国の摂政であり、上位ファンガイア・”ビショップ”だ。
「余計なことをしてくれる。親衛隊だけでなく、私まで動く羽目になろうとは……。貴様もだ女。抵抗しなければ痛い目に遭わずに済んだものを」
「あっ、あぁ……あぁ!」
 ビショップは手にした剣で、彼女の首筋を無慈悲に裂く。
 女の首筋から流れてきたものは”血”ではない。乱反射して赤青緑に輝く、ステンドグラスの欠片だ。彼女は苦痛に顔を歪ませ、この世のものとは思えない悲鳴と共に崩れ去る。
 彼女もまた、ファンガイアだったのだ。
 雨のように降り注ぐ欠片を見て、士は全てを悟った。「……あいつが、主犯って訳か」
「そういうこと。もう何人もが犠牲になってる。だから、俺”たち”親衛隊が、悪いファンガイアを始末してるってわけさ」
「そうかい。いや、ちょっと待て。お前が……親衛隊だぁ?」
「だから、後にしてくれよ後に。それよりも……」
 ユウスケは士の言葉を遮ると、ワタルの近くで力なく倒れ込む三人の獣たちに駆け寄った。
「おぉい、お三方。怪我はないかぁ?」
 ユウスケの軽い声に、ガルルが声を荒げる。「馬鹿者、加勢ならもっと早く来ないかッ」
「よく言うよ。この街の地理がよく分からない俺を置いて、勝手に消えちまったのはどこのどいつだってんだ」

「うぐぐ……。こちらにも事情というものがあるのだ。しかしだな、そこの男はどうする。野放しにでもするつもりか」
「あー、それなら大丈夫。俺が”事情聴取”でもなんでもしておくよ。それよりほらワタルの怪我、早く診てやってくれよな」
ユウスケは士の袖を引っ張って獣たちの元から引き離す。
 ワタルはガルルたち親衛隊に介抱されながら、そんな二人の姿を眺めていた。その瞳に、彼らの姿はどう映ったのか――。

◆◆◆

「んまぁい! 最ッ高!」
「だろぉ? まだまだあるからいっぱい食えよぉ」
 日も落ちかけた夕刻。
 光写真館に招かれた、もとい勝手に押し入ったユウスケは、士たちとテーブルを囲み、栄次郎特製の『ポトフ』に舌鼓を打っていた。
 士は面白くなさそうな顔をし、自分の皿に盛られたポトフから、ニンジンだけを抜き出し集め、ユウスケの皿に移し代える。
「いい加減に話せ。お前はこの世界で何をしている。そもそも、何でお前がこの世界に居るんだよ!」
「ほら。俺『クウガ』だし」
 ユウスケは入れられたニンジンに、自分の皿のニンジンを加え、士の皿に戻して答える。

「どや顔で何言ってやがる。答えになってねぇ」ニンジンを再び移し返して答える。
「そう言われてもなあ。俺にもよく分からないし、説明のしようがない。以上!」移し返されたニンジンを更に戻して言い返す。
「以上、で済ますな。きちんと答えろ!」
 皿と皿との間で、ニンジンの入ったスプーン同士がかち合った。両者とも一歩も退かず、テーブルを囲んで火花とスープの滴がテーブル中に飛び散った。

「もう……いい加減にしてください!」見兼ねた夏海は、厨房からポトフの入った鍋を持って来て、
彼らの皿一杯にニンジンを盛りつけた。
「いい歳した大人が、好き嫌いして恥ずかしくないんですか!? 残さずちゃんと食べてください!」
「そうだぞユウスケ。クウガのくせにこのみみっちい真似はなんだ」
「いやいや、仕掛けてきたのお前だろ!」

 子どものように女々しく言い訳を続ける二人だったが、夏海が両親指を構えた瞬間、俯いて押し黙る。
 ユウスケはこれ以上ニンジンを入れられるまいと、強引に話を起こした。
「えぇと、どこから話したらいいもんかねぇ。えっと、そうだなあ……。あれは、あねさんの納骨式が終わったあたり、だったから……」


 士たちがキバの世界を訪れる数日前。
『あねさん』こと八代藍の葬儀も無事終わり、ユウスケは生前八代が好きだった花を片手に墓に参り、線香を上げて手を合わせていた。
「じゃあな、あねさん。俺、もう行くから」
 究極の闇の死後、今のところグロンギの存在及び、彼らによる殺人の被害は確認されていない。とはいえ、今後二度と現れないという保証もない。
 日課の見廻りに行くとバイクに跨がり、エンジンキーを回したその時だった。
 何の前触れもなくユウスケの眼前――、いやその周囲が『謎のオーロラ』に包まれ、この世界から切り離されてしまう。
「右も左も、上も下も……。何なんだよこの気味悪いのは! 出せ! ここから出しやがれ!」
 居心地の悪さが嫌になり、出せ出せとオーロラを叩く。たわむばかりでびくともしない。
 どうすればいいんだと頭を抱えたその時だ。

 ――あはははっ、ははっ。
 ――みぃーつけた、見つけたっ。あははっ。
 若い女のものと思しき高笑いがオーロラの中に響き渡る。何かと思い、辺りを見回すが、オーロラの中には人っ子一人見当たらない。
「だ、誰だッ、姿を見せろッ」
 ――うるさいわねぇ。そんなに大声出さなくたって分かりますよぉだ。
 ユウスケは見えない何者かに対し、声を張り上げて威嚇する。声の主は気だるそうに答え、オーロラの彼方からユウスケの眼前へと姿を現した。
「はぁーい、”小野寺ユウスケ”君。あたし、キバット族の”キバーラ”。よろしくねぇ」
「こうもり……? こうもりが俺に話しかけてきたってのかよ」
 彼の眼前に現れたのは人ではなく、雪のように白く、手のひらにすっぽりと収まってしまいそうなほど小さな『コウモリ』。
 キバーラと名乗る白コウモリは、ユウスケの反応をつまらなく思い、ため息混じりに言葉を返す。
「なぁに、そのリアクションもっとこう、きゃー、コウモリが喋ったーとか、そういうのはないのぉ? ……でェも、そーゆー物怖じしないところは好きヨ。かぁぷってしちゃいたいく・ら・い」
「ちょっ、やめろよ何すんだ!」本能的に危険を察知したユウスケは、近寄るキバーラを手で御す。
「ご期待に沿えなくて悪うございましたね。で、ここは一体何なんだ。いや、ちょっと待てよ。なんで俺の名前を知ってるんだ? 初対面なのにおかしくねぇ!?」
「なんでも知ってるわよー。あなたが仮面ライダーだってことも、大切な人を亡くしてしまったことも、”みんなの笑顔を護るために戦いたい”って思ってることも、ネ」
「名前だけじゃない……そんなことまで知ってやがるのか。何なんだよお前、まさかグロンギたちの仲間か!?」
 キバーラは違うわと左右に体を揺らす。人間で言う首を横に振る仕草のようなものか。
「あんなのと一緒にしないで頂戴。安心して、アタシはあなたの敵じゃないわ。ただ、あなたを『旅』に誘う役目を負っているだけ。旅行代理店の水先案内人ってところかしら」
「旅……、だって? 俺にはこのバイクがある。お前に頼らなくたって何処へでも行けるし、出掛ける場所もない」
「『あねさん』と約束したんじゃなかったの、ユウスケ」にべもなく断って背を向けるユウスケを、キバーラが呼び止める。「世界中の人たちを笑顔にするんでしょう? この世界を泣かせる脅威はもうやっつけたじゃない、もっと多くの世界が、あなたの助けを待っているのヨ?」
「訳の分からないことをごちゃごちゃと……、説明するならするで、一つずつ順を追えって!」
「順を追って説明したところで、あなたにはきっと理解出来ないわ。そぉれぇにっ」
 ――もう着いちゃったしネ。
 周囲のオーロラは消え失せ、ユウスケは『城』の大広間に立っていた。見たことも聞いたこともない場所だ。
 丸っきり見覚えのない風景に、ユウスケ戸惑いを隠せない。
 大広間の先から数体の怪物が姿を見せる。狼男、フランケンシュタイン、半漁人。両脇にいるのは、きらきらと乱反射する化け物か。
 ユウスケはもしものことを考え、身構えるも、怪物たち、とりわけ青色の狼は、自分の周りを飛び回るキバーラに対し、苛立った様子で口を開く。
「騒がしいぞキバーラ。こんな時間に何をしているのだッ」
 キバーラは物怖じする様子も悪気も無く無邪気に答える。「オオカミちゃんたっだいまぁ。あなたの欲しがってた新入りちゃん、連れて来てあげたわよ」
「新入りい……? 親衛隊のか」
「馬鹿ね、それ以外の何だってのよ。腕力も体力も気合いも、ついでに若さもバッチリな有望株さん」
「そんなもの、使ってみないと分からないだろうが」
「じゃあ、入隊訓練だのテストだの、やらせれみればいいじゃない」
「え? 何、何だ!?」
 怪物同士で話が進む中、一人、蚊帳の外に居るユウスケ。話に入ろうと、二人の中に割って入ると、バッシャーとドッガが彼の両脇を掴まれ、身動き出来なくなってしまう。
「ほぉらほら。候補生君はあんまり騒がないの」
「いー、くー、ぞー」
「いや待て、おい、何をするんだ! うぅおわあああああ――」

◆◆◆

「……と、言うわけで、俺は試験に合格し、人間の親衛隊隊員に支給される、『イクサ』の鎧を与えられてるって訳」
「お前が親衛隊にねぇ。嘘臭ェ話だな」
「馬鹿にするなよ士、こう見えても体力には自信あるんだぜ」
 ユウスケは胸を張り、自分の腹部を差す。クウガのベルトに埋め込まれた霊石『アマダム』。彼の自信は、これにより常人以上の力を獲得していることに起因していた。
「そりゃあ、最初はなんでこんなことを……って考えたりもしたさ。でも気がついたんだ。俺がこの世界に連れて来られた理由、それは”あの王子を助けるため”だったんじゃないかって」
「どうしてそういう結論になる。話を聞く限り、チビコウモリに勝手に連れて来られたようにしか思えないが」
 ユウスケはそうじゃないと首を振る。「あの王子、ワタルは”人間”と”ファンガイア”の間に産まれた。ハーフのあいつなら、双方の痛みを分かることが出来て、どちらの言い分にも耳を傾けられる。あいつなら、皆が笑顔で居られる世界を創れる筈なんだ」
「馬鹿言うな、見ず知らずの男を”悪魔”呼ばわりするようなガキだぜ。無理に決まってる」
「違う。あいつは俺と一緒だ。誰かの助けが必要なんだよ。口では大丈夫って言ってるけど、きっとなにか……悩みを抱えてる」
 先ほどまでのお茶らけた感じはなりを潜め、ユウスケはどこまでも真っ直ぐで、澄んだ目を士に向ける。
 士は不思議でしょうがなかった。俺には分からない。何故こいつはここまで信じることができる? 認めたくはないが、ユウスケは記憶をなくした俺が、唯一認めた男。その男が認めたあのガキ……、一体なんだってんだ?
 考えども答えは出ない。ならどうするべきか。答えは既に決まっていた。

「……なぁ、ユウスケ。お前、今からどうするんだ?」
「どうも何も、今の俺は親衛隊の隊員だし、このまま城内の”寮”に戻って、待機かな」
 それを聞いた士はにやりと笑い、「決まりだ。連れて行け!」
「連れてけってお前……、まさか城の中にかァ!? ムリムリムリ、俺ァただの見習いだぜ、アポも取らずに部外者連れて入っちゃ、奴らに骨の髄までしゃぶり尽くされちまうって!」
「お前のダチだと言えば問題ないだろう。いや、待て。それよりも良い手が浮かんだ。お前にもがっつり協力してもらうぞ」
「協力するの前提かよ!? っていうか、聞けよ俺の話!」

 ユウスケがいくら抵抗しようが、一度火のついた士を止める事など不可能だ。彼は士に奥襟を掴まれ、助けを求めつつ写真館から去って行った。
「あぁ、もう行っちゃうのかい二人とも。これから、”もらった”余りもののチョコでフォンデュでもやろうかと」
「……いつもらったんですかおじいちゃん」

◆◆◆

 小望月が妖しく輝く宵闇。
 街の中心にそびえ立つビルの上部に”居座る”王の居城・『キャッスルドラン』。
 王への即位式を明日の夜に控えたワタル王子は、中世貴族の晩餐会《ばんさんかい》を思わせる絢爛《けんらん》な雰囲気の大広間にて、部下のファンガイアたちを囲み、メイドが運ぶ料理に口をつけていた。
「王子、いよいよ明日だねっ、即位式。楽しみだなぁ」
「あたらしいおーさまー。おーめーでーとぉー」
 両脇の席で食事に口をつけていたバッシャーとドッガは、ワタルの即位をいたずらっぽく祝う。
 当の本人は、それを聞いていたのかいなかったのか、無表情のまま、目の前の綺麗に透き通った琥珀色のスープを黙々と口に運ぶ。
 それを不審に思ったガルルが、心配そうな口調で問う。「王子。何をそう塞ぎ込んでおられるのです。王になるのがお嫌、ですか?」
「そんなわけないよ、素晴らしいことじゃないか。ぼくみたいな”ハーフ”でも、王として認められる時代になった。ガルルたちの時じゃ考えられなかったこと、なんだろう?」
「そうです。人間とファンガイアの凄惨な殺し合い。二度と繰り返してはいけないこと。あなたはこれからこの国を、いいや、この世界を背負って立たれるお方。そのような暗い顔をしていては、国民に対して示しがつきませぬ」
「わかってる、わかってるよ。……部屋に、戻る」
 ワタルは暗い表情を崩さないまま、ごちそうさまとスプーンを放り、メイドたちの制止も聞かず、逃げるように広間を出て行った。
「ワタル王子、まだ、若すぎる。王様、向いて、ない」
「ボクも同意。ワタルじゃ無理なんじゃないの?」
「じゃあ何か。他に相応しい人物がいるのか? 王子は王家の”血”を継いでおられる。キバの鎧の扱いも天下一品。これ以上に王として素養のある者を連れて来られるのなら考え直してもいい。連れて来られるものならな」

 ガルルはワインを一口飲んで、溜まっていたものを吐き出すように捲し立てる。
 根拠も何もない妄言だったらしく、二人は下を向いて押し黙った。
「わかってるって。だけど、ワタルは人とファンガイアのハーフなんだ。ボクたちや普通のファンガイアとは違う悩みを持ってる。なのにあぁも強要したら」
「皆まで言うな。あの方が戻って来られでもしたら、別だが――」

◆◆◆

「ガルルもバッシャーもドッガも……誰もぼくのことをわかってくれない。わかって……もらおうとするのがいけないのかな。わかんないよ、わからない」
 月の光が天窓のステンドグラスに反射して、赤青黄色に輝く大広間。ワタルは階段を上がって二階に上がり、自分の部屋に戻る。
 ――あぁん、もぅ! やめろ! やめろっての! いつもはカッチカチの俺の堪忍袋も、ここらが我慢の限界だっつーに!
 ――おぉ、固そうな見てくれの割には、翼なんかはふにゃふにゃしてんな。そぉら、ふにふにふにふに。
 ――なァ、キバットー。この漫画の七巻、どこにあるか知らねぇか?

 部屋の中から妙な声がすると思い、ドアを薄く開けて中を覗き見る。
 その目に映ったのは、自分と一戦を交えた男が人のソファを占拠し、相棒のキバットはその男によって弄り倒されて何も出来ず、見習い隊員のユウスケは、ベッドの上に寝転がり、人の漫画をぱらぱらとめくる、どう見ても異質な光景だった。
 ワタル少年はあまりのことに声も出せず、口を開けたまま呆けてしまう。

「あっ、やっと、やって来てくれたかワタルぅー!」
「キバ……ット。あぁ、うん……」
 視界の中にワタルの姿を見込んだキバットは、士の手の中から逃げ切り、彼の周りをばさばさと飛び回り、自身と彼の無事を喜ぶ。
 ようやくこの事態の異常性、危険性に気付いたワタルは、飛び退いて部屋の隅に逃げ込むと、目付きを鋭くさせ、人に慣れない猫のように威嚇した。
「な、な、な……ッ、何を、何をしに来たんだ!なんでここにいる!」
「まぁ落ちつけよ。そんなもの《キバット》を突きつけられてちゃあ、ビビって話も出来やしねぇ。別に取って食おうだの物を盗ろうってわけじゃない。お前の奏でる耳障りな雑音を、少しはマシなものにしてやろうと思ってな」
「雑音……? ぼくの演奏のことを言っているのか」
「そりゃそうだ。他に何がある。聞けばお前、即位式じゃ王が、代々伝わるヴァイオリンを民衆の前で弾くそうじゃないか。あんなだらしねぇ演奏、やる方も聞く方も迷惑なんだよ」
 あからさまの煽りに、ワタルではなくキバットが物申す。
「聞き捨てならねぇなぁあんちゃんよ、ワタルの演奏が雑音だと……もが!」が、ワタルに口を封じられ、そのまま上着のポケットの中に押し込まれた。
「黙ってて。ということは、教えて、くれるんですね?」
「おぉおぉ。ずいぶんとしおらしくなったじゃないの。どういう風の吹き回しだ?」
「嫌いだよ。でも、奏でる音楽に人間性は関係ないから。ぼくに向かって”耳障り”だなんて言う人はあ初めてだ。教えてよ、何がそんなにダメなんだい」
 王子故の歯に衣着せぬ言葉。ワタルの態度を面白いと感じた士は、いい気になっている少年の面目掛け、人差し指を突き立てる。
「嫌な奴相手に物怖じせずに”嫌いだ”って言える度胸。嫌いじゃないぜ。うしっ、さっそく始めるとするか。おい、ユウスケ。お前は漫画読んでねぇで、部屋の前で見張りしていろ」
「えぇっ? ちょっと待てよ士、俺まだ途中……」
 士はベッドの上でごろごろと漫画を読むユウスケを無理やり引き剥がす。
「そもそも、お前は人の部屋でくつろぎすぎなんだよ! 仮にも王族の親衛隊なんなら、少しはまじめに仕事しやがれ」
「いや、でも、ワタルの部屋に行きたいっつったの士じゃ……ああ、あっ!」
 ユウスケの頭に拳骨を一発見舞い、見張りにと彼を部屋の前へ立たせる。傍若無人なうえに問答無用である。
 士はベッドの向かい側、ショーケースの中にしまわれているヴァイオリンひとつひとつを、舐めるように眺め、その中の一つをワタルに手渡した。
「とりあえずお前の演奏を聞かせろ。まぁた、ぎーぎーと雑音立てやがったら承知しねぇからな」
「しませんよ。じゃあ、行きます」
「おう」
 ワタルは部屋の中央に立ち、ふぅっ、と息を吐いてヴァイオリンを左肩に構え、顎を乗せる。
 次期国王、ワタル少年の演奏が始まった。演目はファンガイアの王家に代々伝わる交響曲の一節。観客はワタルの勉強机にだらしなくもたれかかる士と、巣箱の中の止まり木に止まるキバットバット三世の一人と一匹だけ。

 なるほど、言うだけのことはある、か。ワタルの演奏に、士は静かに舌を巻いた。
 時にとても繊細で、流れるような美しい弓遣い《ボウイング》。
 弓遣いを最大限に活かす、正確かつ大胆な運指《フィンガリング》遣い。子どもというハードルゆえに、”ビブラート”の技術はまだまだだが、それを補って余りある演奏力と、自信に満ち満ちた態度。
世界各国の著名なヴァイオリニストに指導を受けたというのも頷ける。

 だが、だからこそ、士はどこかこの演奏が気に入らなかった。彼は演奏を続けるワタルに対し、いくつかの疑問を投げかける。
「なぜ、ユウスケを……たかが見習い隊員を自分の傍に置いているんだ?」
「演奏中、ですよ」
 ワタルは士と目を合わせず演奏を続ける。弓運び指遣いには一点の曇りもない。
「あぁ、そういやお前、”人間”と”ファンガイア”のハーフなんだってな。なるほど。『ユウスケ』を自分の近くに置いた理由も頷ける」
 弦を押さえる左指が少し強張る。指遣いと弓運びの間でバランスが崩れ、一瞬だけではあるが、音が飛んだ。ワタルは少し驚いたような表情を見せ、すぐさま演奏を立て直す。
 士は彼の表情を見計らった上で、話を続けた。
「あいつも、厳密にいえば”人間とは違う”からな。お前があいつのことをどこまで知ってたのかは知らんが、自分に似たような感覚があいつにもあったから傍に置いた。そうだろ」
 自分の心を見透かされて腹が立ったのだろうか。少しだけ、弓を持つ右手に余計な力と負荷がかかってしまう。力を入れ過ぎたことで弦は波打ってたわみ、みょん、と情けない音を奏でた。
「……今度は演奏の邪魔ですか? 馬鹿にするのもいい加減にしてください」
「怒るなよ。俺はただ知りたかっただけだ。”俺が唯一認めた男がホレ込んだガキ”がどんなやつなのかをな。それに演奏はもういい。ヴァイオリンはしまっとけ」
 士はぱんぱんと両手を叩き、どこか煮え切らない表情を浮かべたまま、ワタルの演奏を強引に終わらせる。
「なるほど。技量には問題無いようだ。ミスしてもそれで塞ぎ込まず、すぐさま切り返すのも立派だ。だが、そんな”薄っぺらい”音楽じゃ、俺は納得できないね」
「意味が分からない。ぼくのどこが薄っぺらいっていうんだ」
「そうだぞこの茶髪! ワタルの演奏を馬鹿しやがるたぁ、たとえ天の神様が許したって、この俺様は許さねぇぞこんちくしょう」
「あぁ、あぁ。うるさいうるさい」士は自分に食ってかかるキバットをでこぴんで遠ざけ、明らかにやる気のなさそうな顔で彼らの問いに切り返す。
「ンなもん、お前らが井の中の蛙だった、ってだけだろう。ワタル。確かにお前の演奏は完璧だ。弓遣い、指運び、小ささを逆手にとっての事細かなビブラート。お前の歳であれだけできれば文句のつけようがないだろうな。だが、それは『技術』面だけの話だ」

「技術面……、だけ?」
「そうだ。ハッキリ言ってやろうか?お前の演奏にはな、『心』がない。体の奥底で熱く燃えたぎる情熱という名の心《ハート》がな。
 いいか。人を喚起させる、感動させる”音楽”ってのには、演奏者に熱い”魂”が籠ってならねぇ。向上心、情熱、反骨心……、祝福や愛、怒りや憎しみ。なんだって構わない。今や全自動操縦《オートメイション》の機械だって楽器を演奏できる時代だ。お前の演奏はそんな機械の演奏となんら変わらないし、つまらない。
 こんなんじゃ、批評家気取りの馬鹿共は騙せても、一千一万の観客……民衆たちは誰も納得しねぇよ」

「そん……な。ぼくの、ぼくの演奏は……、演奏は」
 士の言葉は、海よりも深くワタルの心を突く。鼻にかけるつもりはないが、王子という肩書きに恥じぬよう、物心ついた頃から血の滲むような努力を重ね、馬鹿にされないくらいの自信はあった。事実、生まれてこの方、ヴァイオリンの腕で馬鹿にされたことは一度もなかった。
 それがこれだ。自分より実力のある人間だからこそ始末が悪い。
 士は自信を無くしてへたり込むワタルの肩を掴み、問いかけた。
「そこで、だ。ひとつお前に聞きたいことがある。お前はその仮面の下に、どんなことを隠している、演奏に気持ちを込めきれないのには、そのことも関係しているんだろう?」
「……!」ワタルの顔が引きつり、強張る。ワタルは自身の胸中を見透かす士に恐怖心を覚えた。
「なんで、なんでそんなことがわかるんだ。ぼくは何も言ってないのに」
「言ったさ。お前の奏でる”音楽”が、俺にそう訴えかけてきた」
「”音楽”……ですか?」
「あぁそうだ。お前にいいことを教えてやる。
 人は誰しも、”心の中”で多種多様の音楽を奏でて生きている。ヴァイオリンの演奏、ピアノの伴奏、ハープの美しい調べ。それがどんな音で、どんな演奏の仕方をしているのかは、誰も彼も違う。
 お前の奏でている音楽は差し詰め、”楽団で一人あぶれ、縮こまって控え目に音を立てるヴァイオリン”、ってとこか」
 音楽に例えてワタルの内面を見透かそうとする。図星なのか定かではないが、ワタルは俯いたまま何も答えない。
「お前が式の壇上で失態をやらかそうが知ったことじゃないが、それだけの技術を持っておきながら、腐らせて無駄にするのが気に食わない。訳があるなら話してみな。聞いてやるよ。一通りな」
「余計なこと……しないでよ。言ったって分かるわけ、ないじゃないか」

 歩み寄ろうとする士を、ワタルは”言葉”という名の堅牢な壁で拒絶する。
 士は嫌な顔一つせず、穏やかな口調で「どうかな」と切り返した。
「『言わなきゃわからねぇぞ』。何も言わずに一人で勝手に壁作って、他の奴らは何も分かってくれない、ね。どこまで自分勝手なんだ、王子サマよ。
 仮にも、これから王としてこの国を統治する役柄を担うんだぜ。辛いとき、苦しいときに誰にも相談できなくてどうする。
 人ってのは、鋭いようで意外に鈍いものなんだ。何かアクションを起こしてやらにゃあ、相手は何も分かっちゃくれねぇ。コミュニケーションのキホン、だぜ」
 どこまでも的を射た言葉だ。悩みを一人で抱えて塞ぎ込んでいるだけじゃ、言葉はどこに届かず、助けなんて来やしない。
 稲妻が落ちたかのような衝撃が、ワタルの体を駆け巡る。取るに足らない言葉だったが、その言葉が彼に与えた衝撃は計り知れなかった。
「ごめん……、なさい」
「謝る必要くらいなら言ってみろよ。救いになるか知らんが、取り敢えずすっきりするぜ」
 ――ぼくは、その。……あの。
 それでもなお、ワタルは迷っていた。これまで自分が秘密にしてきたこと。誰かに話してすっきりしたかったこと。けれど、誰に話してもどうにもならないと、一生涯言わぬと心に決めていたこと。
 そんなことを、見ず知らずのこの男に話していいものかと。
 ”言ってくれなきゃ、わからない”。士が発したあの言葉を、再度頭の中で反芻《はんすう》する。
 なんでこんな簡単なことができないんだろう。打ち明けるのは嫌だけど、一人で背負い込んで悩み続けるのはもっと嫌だ。ワタル少年は意を決して息を吸い、吐くと同時に言い放たんとする。

「士、士ッ! 大変だ、大変なんだよッ」
 見張りをしていたユウスケが、勝手に部屋に戻ってきたのはその時だ。彼の尋常でない慌て振りから、何か良からぬことが起きたと窺える。
「今大事なところなんだ、入るなら入るでもう少し待てねぇのか」
「待てるかよ! ワタルのお付きの三人が部屋に向かって来てるんだぞ。きっとワタルのことを心配して来たに違いない!」
 それを聞き、事の重要さを即座に理解する。王子の部屋に見ず知らずの男と、親衛隊の見習いが勝手に入り込む。処罰されない方がおかしい。
 お付きの三人、ガルルとバッシャーとドッガを倒すのは容易だ。だが、ここでやつらを倒して何になる。面倒事を被るのは御免だ。
 だがどうする。ここは王の居城、キャッスルドランの中だ。眼前の出入り口を除けば、後は窓からしか逃げ道はない。箪笥の中に隠れたとしても、ワタルのお付きには鼻の利く狼男がいる。見つかるのが少し遅くなるだけだ。
 ならばどうする。奴らが思っても見ないことをするしかない。士の答えは一つしかなかった。
「いいかユウスケ、世間話でも何でもしてやつらを食い止めろ。俺はこの窓から逃げる」
「窓から……ってお前! ここ、十五階ぐらいあるんだぞ? 飛び降りられるわけが」
「四の五の言ってる場合か。俺が見つかったらお前も連帯責任だぞ。知り合いだからと部外者を引き入れ、王子の部屋への侵入を許した。極刑は免れないだろうなあ? さぁ、どうする。俺と共犯になってシラを切るか、俺を見捨てて首を切られるか。俺ァどっちだって構わないんだぜ」
「無茶苦茶だ……この鬼! 悪魔! 破壊者!」
 ユウスケは勢いで捲し立てる士の剣幕に折れ、ここに向かってきている三人のお付きの足止めに向かう。彼が部屋を出て行ったのと見計らい、部屋の窓を一杯に開け放し、士は身を乗り出し、右足を窓の桟にかける。
「厄介なことになった。この続きはまた明日だ。告げ口するんじゃねぇぞ」
「しませんから早く行ってください」
 士はヴァイオリンケースを肩に担ぎ、ハンドシグナルで”あばよ”と合図をすると、夜風の吹きこむ窓からずるずると下へ降りて行く。
 心配したワタルが上から覗き込むと、キャッスルドランのごつごつとした足を、慎重に丁寧に降下してゆく士の姿が見えた。取り敢えず無事らしい。
「ねぇ、キバット」
「なんだ?」
「ぼくやガルルやユウスケなんかよりもさ、あの人のほうが”ばけもの”に見えるんだけど、どうかな」
「……同感」
 ――あの人に話して、本当に良かったんだろうか。
 ワタルは心の中で首をかしげ、ため息交じりに呟いた。

◆◆◆

「痛ってェ……、まったく、なんてところに立ってやがるんだよ」
 王の居城、キャッスルドランを抜け出した士は、写真館に帰るがてら、愛機・マシンディケイダーを駆り、夜の街を流していた。
 朝昼夕には軽快なマーチやテンポの良いポップス、思わず踊りだしたくなるようなラテンやレゲエの音楽が幅を利かせていたが、夜間、しかも街の外れともなるとそれらは成りを潜め、ジャズやゴスペルなど、重々しく渋い味わいの音楽が街の中を支配していた。

 だが街中に広がっていたのは、そんな雰囲気に似つかわしくない異様で悲惨な光景だった。
「おいおいおいおい……。なんなんだ、これは」
 人が死んでいる。それも、一人や二人の騒ぎではない。
 ある者は胸にぽっかりと風穴が開き、ある者は首から上を無くして立ったままぴくぴくと震え、またある者は、頭の先から縦に真っ二つに切り裂かれている。
 士の視界に入っただけで、ざっと数十人が物言わぬ血溜まりと化している。これを異様と言わずして何とする。
 街中に流れるジャズ・ミュージックが、この凄惨な光景と相まって、ひどく感傷的に感じた。

 ふと、死体の傍に”きらきらと輝くガラス”のようなものを見込む。死体に触れぬようそっとそれを抜き出し、月明かりに照らす。
「これは……ファンガイアの”欠片”か?」
 その日の昼、ワタルと戦った時の記憶を反芻する。
 自分が守ろうとした女――、人殺しのファンガイアだった始末された時、彼女は一滴の血も流さず、ガラスのような結晶を撒き散らして崩壊していた。あれは言わばファンガイアの”肉片”なのだ。
「ファンガイアも人間もおかまいなし……か。妙だな」
 ファンガイアの仕業か? ”ライフエナジー”が目的なら、体を裂いたり首を千切るような殺しに意味は無いし、同族にまで手をかけるのはおかしい。ならばヒトの仕業か? ただの人間にこんな無惨な殺し方が出来るものか。何の為に、何故こんな、一体誰が? 生じた疑問が脳内で渦を巻き、士の心を困惑させる。
 そんな中、ヴァイオリンの美しくも悲しい調べが、士の耳を通り抜ける。この場に似つかわしくない旋律に、演者は誰だと辺りを見回すが、動くものは見受けられない。
 何十人も死んだのだ、直接現場に居合わせなくとも、悲鳴くらいは聞いている筈。だとすれば呑気にヴァイオリンなんか弾いていられる訳がない。どうも怪しい。
 この音の主はきっと何かを知っている筈。士は音のする方にハンドルを切った。

 街を抜け、海に面した小高い丘の上。こんな事態でなければ、誰もが立ちつくし、息を呑むような美しい旋律は、月明かりをスポットライトに、丘の上をステージにして、この場所から流れていた。
 丘の上でヴァイオリンを弾いていたのは、三四十代くらいの男。顔立ちはやや丸く、やや太り気味の体形、薄茶色のトレンチコートの下は、着崩した黒の燕尾服を纏っている。
 一見大人しそうに見えるが、その眼は飢えた野獣のように炯々と輝いており、周囲に不穏な空気を漂わせている。
 彼の周りに人はなく、楽器を弾いているのもこの男だけ。士は警戒しつつ彼に近寄り、腹の内を探ろうと話しかけた。
「人が、大勢襲われていたな」
「ほぉ。私はここで演奏をしていただけでね。全く気付かなかったよ」
 月明かりに照らされて、男の顔が顕となる。口元にステンドグラスの輝きが見えた。ファンガイアであるのは間違いなさそうだ。
 馬鹿言え。お前がやったんだろう。白々しいにも程がある。士は男にそう言ってやろうと息を吸うが、言葉にして吐き出す前に、男は「問いかけ」を割り込ませてきた。
「なぁ君。君は……『この世界をどう思う』?」
「どう、だと?」
「高尚な回答なんて求めちゃいない。率直な感想を言えばいい」
 いきなりなんだこの質問は。自分は犯人ではないとでも言いたいのだろうか。
 士は男の態度に不信感を抱きつつも、当たり障りのない答えを返す。
「いいんじゃないか? 人と化け物が互いに理解し合い、”共存”する。平和で皆が納得してるとすれば、これほど良い世界はないと思うぜ」
 夏海の受け売りで、当たり障りのない返答だ。しかし男は、士の返答に顔を手で覆い、自嘲気味に笑い始めた。
「皆が納得している? 馬鹿かお前は。いいか、この国に生きる人間はな”鍵の掛かっていない檻の中で、猛獣と一緒に暮らしている”ようなものだ。いつ喰い殺されるか分からない状況で、納得なんぞ出来るものか」
「別にファンガイアを蔑《ないがし》ろにしてるってわけでもないだろ。
 国からの配給に、一般販売。奴らが食い扶持《ぶち》に困る程貧窮してるとは思えないが?」
「何度も言わせるな。やつらは”猛獣”と同じだ。草食動物の肉をまるまる食していた野獣が、餌を取り上げられた挙げ句、量の少ない”加工品”しか食せなくなって、まともでいられる訳がない」
「合挽きの肉だってこねて混ぜて『ハンバーグ』にすりゃあうまいもんだぜ。あんたの言う危険なファンガイアは親衛隊が始末しているし、ヒトもそれを信用して歩み寄っている。上手く回ってるじゃねぇか」

「そう思えるのは、君がヒトであり、考えが狭く浅いからだ。他の国は違う、まるで違う。人間とファンガイアは真っ二つに分かれ、今もいくらかしこで紛争が絶えない。共存なんぞ、もっての他だ」
 なんなんだ、こいつは。
 先の殺しの犯人、それは彼で間違い無いだろう。会って話を聞けさえすれば、謎は全て解決すると思っていた。
 だが、会ってみて更に訳が分からなくなった。ヒトとファンガイアとの仲を引き裂きたいのかと思ったが、言葉の端々にそれらへの『憐れみ』が見え隠れしている。彼は一体、何がしたいのか。
 士が何も言えなくなったのを見て、男は意味深な間を取り、唐突に別の話を振った。
「ところで……、明日、この街では新たな王の即位式が行われるんだったな」
「あぁ。人とファンガイアとの共存を願う、この国の王子の即位だとよ」
「そうか。なるほど、そうか…」
 士に背を向け、うんうんと唸る謎の男。頭の中で殆ど結論が出ていながらも、士はある疑問を彼に投げかけた。
「それを聞いて何をしようっていうんだ」
「決まっている」その瞬間、男の口元が絢爛と輝き、カブトムシを模した怪物、”ビートルファンガイア”へと姿を変える。
 男は人差し指を士に突き立て、高圧的な口調で続けた。
「俺が新しい王となり、この温い国を変えるのだ。この世界に”優しさ”や”理解”や”共存”は必要ない。圧倒的な”力”と”統率力”で、ファンガイアという種族を纏め上げるのだ」
 あぁ、そうかよ。それならこっちも楽で良い。
 士はスーツの内ポケットからバックルを取り出し、変身せんと腹部に押し当てる。
「ならてめぇの駆除以外にあり得ないな。覚悟決めろよ……おぉっ!?」
 変身して飛び出さんとしたその瞬間、突如現れた”光のオーロラ”が士の進行を阻んだ。
「くそッ、こんな時にッ! 出せ、出しやがれッ!!」

 冷静さを欠き、変身することも忘れ、士はただただ壁を叩く。
 ビートルは謎のオーロラの出現に戸惑いながらも、士が襲ってこないことを理解し彼に背を向けて去って行く。行き先は当然、王の居城・キャッスルドランだ。
 このままではまずい。士はオーロラを破るべくディケイドに変身しようとするが、そんな士を何者かが呼び止める。

 ――やっほー。見つけた。見つけたわヨー。はじめまして、”ディケイド”。
 小さい女の子のような愛らしい声に、それに似つかわしくない人を食ったような態度。
 ユウスケをこの世界に送り込んだ”白コウモリ”、キバットバット三世の妹『キバーラ』だ。
「……お前だな。ユウスケの言ってた白いコウモリってのは。いや、今はそんなこと、どうでもいい。俺をここから出しやがれ」
「噂には聞いていたけど、ユウスケ君以上に血の気が多いのネ、あなた。少しは落ち着きなさいよ。
 あぁ、そうだ。ディケイド。あなたさぁ……”自分の正体”、知りたくなぁい?」
「俺の……正体?」
 バックルを腹部に押し立てた士は、オーロラを破ることも忘れてキバーラの方に向き直る。
 自分自身ですら知らない己の正体。それをこの白コウモリは知っていると言うのか。
 罠だと思いつつも、己の知的欲求は抑えることは出来なかった。
「それは是非知りたい。教えてもらおうか」
「いいわ。おしえてアゲル。でも……、この”子”に勝てたらネ」
 突如オーロラが光り輝き、音を立てて崩れ去る。気がつくと士は夜どころか真昼間の中、スタジアムの観客席に立っていた。

「ここは……、別の場所に移された、っていうのか」
 多くの力を持ったディケイドですら、自由に世界を回れないというのに、あの小さいコウモリは、それを簡単にやってのけた。
 なるほど、俺の正体を知っているだけのことはあるなと、心の中で納得していた。
「やってくれたなあの野郎……、なんとしても聞き出してやる」
 右拳を堅く握り、誓いを新たにする。しかし、先のビートルの件も含め、彼が考えていたことは皆、記憶の中から一旦離れてしまうこととなる。何故なら――
 ――お前の、ベルトを貰う。
 士の背後、客席の上部より、ギリシャ文字の”X”を模したデザインの仮面ライダー、『仮面ライダーカイザ』が現れたからだ。
 スタジアム中に轟く銃声。撃たれるよりも先にその気配に気付くとが出来た士は、
「くそッ……変身前のライダーを狙うのは反則中の反則だろうがよ」
 ――変身ッ
 ――KAMEN RIDE 「DECADE」!!
 相手の銃撃をかわすと同時に変身。即座にライドブッカーをガンモードに組み替え、銃弾を銃弾で相殺しつつ、一気に敵の目の前に詰め寄った。
「んなろッ!」
「ハッ、そんな攻撃、予測できてたに決まってるだろ」
 ――「BLADE MODE」
 相手もそれを読んでおり、バックルに填め込まれた携帯電話型ツール”カイザフォン”から、メモリーキー”ミッションメモリー”を取り外し、ブレイガンにセット。
 逆手で構える剣形態”ブレードモード”に組み替え、詰め寄るディケイドを迎え撃った。
 対応し、素早くライドブッカーをソードモードに組み替えるも、相手の方が一瞬行動を早く、ディケイドは胸を袈裟に斬りつけられてしまう。
 謎の戦士・カイザは、客席を転がるディケイドに、悪意を持って二三蹴りを加え、右手で首筋を触り、仮面の下で薄笑いを浮かべる。
「今、欲しいんだよね。君のベルトが。……どうかな?」
「誰が渡すか。というか、俺のベルトを奪って何をするつもりだ」
「知りたいかい?」カイザは『仮面』の中で、嫌味たっぷりに微笑む。
「もうすぐ”世界を股にかけた”『戦い』が始まるからさ。弱いやつは死に、強いやつが生き残る。まさに、”戦争”だ。
 雑魚がいくら消えようが構わないが、戦いに巻き込まれて死ぬのは御免なんでね。確実に勝ち残るために、君の”ベルト”が必要なんだよ」
「それが……何故、俺だ」
「おやおや。君は”自分”がなんなのか、まったく分かっていないみたいだね。知らなきゃ知らないでいいさ。寄越せよ、そのベルト」
 カイザは倒れ込むディケイドに右手を差し出す。彼を気遣ってではなく、ベルトを奪うためだ。
 だがディケイドは、その手を払い除け、客席の手すりにつかまって立ち上がった。
「まっぴら御免だ。何も分からず死んでたまるかよ。戦いの勝ち負けなん座知ったことか。手ぶらで自分の世界に帰んな」
「そう来ると思ったよ。まったく、イライラさせてくれる。俺の思い通りにならない奴は……、邪魔なんだよ!」
 カイザは自分の首の前で親指を立て、さっと横に引く。”殺してやる”、という合図か。
「面白ェ。そっちがその気なら、いくらでも相手になるぜッ」
 ディケイドは再びライドブッカーを構え、挑み来るカイザを迎え撃つ。
 交錯する刃と刃。飛び散る火花。観客の居ないスタジアムの中で、二人の男の死合《しあ》いは続く。
 だが、記憶も戦い方も十分ではなく、まだまだ足元がおぼつかないディケイドと、既に何度か死線を潜ってきたカイザとでは、カイザの方に一日の長があり、ディケイドは少しづつ圧され始めていた。
「君の力はこの程度。ということでいいのかな?」
「どうかな? そうとも限らないぜッ」
 右手で首筋を触り、ディケイドを挑発するカイザ。だがディケイドは挑発に乗ることも恐れも抱かず、『自分の顔がいくつも描かれた』一枚のカードをドライバーに装填する。

 ――ATTACK RIDE 「ILLUSION」
 電子音と共にディケイドの数が”六人”に増え、カイザを襲う。
 彼がドライバーに読み込ませたのは『自分』を複数に増殖させる、”イリュージョン”のカード。
 いくら経験に差があるとはいえ、数で圧倒されてはどうしようもない。戦況はあっという間にひっくり返されてしまった。
「くぅ……ッ! 貴様、卑怯だぞ」
「変身する前に攻撃するような奴が何言ってんだよ」
 単なる分身であればいいのだが、増殖した全てに”実体”があり、六体が六体とも、一糸乱れぬ連携を取って自分を襲うのだから、堪らない。
「さぁて、この辺でお開きにさせてもらおうか」
 ――FINAL ATTACK RIDE 「De-De-De-DECADE」
 六体のうちの一体が、ディケイドライバーにカードを挿入。残りの五体が、ふらつくカイザの両腕両足を掴んで武器を奪い、動きを封じる。
 無防備となったカイザを、必殺の『ディメンジョンキック』が襲う。真正面から蹴りを喰ったカイザは、観客席からスタジアムに飛ばされ、ディケイドの分身たちは虚像となって消滅した。
「お……おのれ! こんな、こんなフザけたやつに……俺がっ!」
「お前、俺のことを知っているみたいだったな。勝った訳だし、いざらい吐いてもらおうか」
 客席から飛び降り、横たわるカイザの元へにじり寄る。
 今まさにカイザの体に触れんとしたその時、彼らの間をまたも光のオーロラが遮った。

「馬鹿な! 早過ぎる、早過ぎるぞ! 俺はまだ敗けてない、待てよ……、待ってくれ!」
 意外にも、この事態に狼狽したのはカイザの方だ。ふらつく体に鞭打って壁を叩くも、彼にはどうすることも出来ない。
 彼は怒りと悔しさを存分に含んだ慟哭と共に、この世界から”消えた”。

「レッドカードで一発退場か……、誰だか知らんが、余計な真似しやがって、くそッ」
 ――おめでとー。なっかなかやるじゃなーい。見直したわぁん。
 予期せぬ結果に毒づいていると、どこからともなく声がする。あの白コウモリの声だ。
 どこで傍観していたのか知らないが、キバーラはディケイドの周りを飛び回り、上ずった声で形ばかりの称賛を彼に送る。
 ディケイドは変身を解除した上でキバーラを睨み付け、約束だったなと威圧的な口調で言葉を返す。
「お前は俺の”正体”を知っているんだったな。こんなところにまで連れ込んだんだ、話してもらうぜ」
「そうねぇ。ま、曲がりなりにも勝っちゃったわけだし。いいわヨ、話してアゲル。でも、そういうめんどくさい説明は、彼にしてもらおうかしら、ネ」
「”彼”?」
 士の眼前に三度光のオーロラが現れ、何処ともつかぬ謎の空間へと彼を誘う。
 上下左右がオーロラに囲まれた中で士が目にしたのは、薄茶色のフェルト帽に、それと似た色合いのコートを纏った壮年の男だった。

 初めて逢った気がしない。見覚えなど有るわけ無いのに、何故かそう思えてならなかった。
 この妙な居心地の悪さは何だ。オーロラの中を行き来できるのは、自分たちだけでは無かったのか。考えれば考えるほど、訳の分からなさに拍車がかかる。
 たじろいで何も言えない士を見、コートの男は静かに口を開いた。
「”ショー”は楽しんでもらえたかな?『ディケイド』」
「あれのどこがショウだってんだ。危うく死にかけたんだぞ」
「君の力を持ってすれば、彼”ごとき”、造作でも無かっただろう? ディケイドの資格者がそうでは、私が困るのだよ」
「意味深なキーワードをぺらぺらと……、ごちゃごちゃ言ってねぇでとっとと話せよオッサン。俺は何で、お前は何なんだ」
 コートの男は帽子を目深に被り直し、「おっさんではない」と前置きする。
「私の名は『鳴滝《なるたき》』。君が世界の破壊者なら、私は世界の救世主だ。覚えておきたまえ」
「あんたが? 冗談だろ? ……て、そんなことはどうでもいい。俺の質問に早く答えろ」

 早く答えろと、ライドブッカーをガンモードにし、銃口を男の眼前に突きつける。鳴滝と名乗るコートの男は、呆れ顔で士を見、不意に鋭い目付きを覗かせた。
「さっきも言っただろう、私が”世界の救世主”で、君が破壊者。全てを破壊し、全てを繋ぐ存在。それが君の役目であり、正体だ。……もういいだろう?」

「は……ぁ?」
 鳴滝の口から語られたのは、あまりにも抽象的な答え。それが嘘偽りの無い真実だと言うが、簡潔過ぎて更に訳が分からなくなる。
 奴は俺を馬鹿にしているのではないか。士は苛立ち、鳴滝の足元だけを狙い、気晴らしの銃弾を放った。
「だから、そんな言葉じゃ分かんねぇって言ってるだろうが!」
「分かる必要などない。”結果”さえ、あれば良いのだ。それよりもその力、宝の持ち腐れにならぬよう、気をつけることだな」

 ――ふふ、ふははははははははははは
 ”鳴滝”は高笑いと共に後退り、オーロラの奥へと姿を消した。
 同時に、オーロラの壁が士の体を通り抜け、彼を”キバの世界”のあの丘に戻して消える。
 自分探しの唯一の手掛かり、鳴滝の言葉を、士は頭の中で幾度となく反芻する。
 ――”破壊者”? ”全てを破壊し、全てを繋ぐ”……?
 ――何が”正体を教えてやる”だ。抽象的すぎてわからねぇぞ。
 幾ら思い返しても、自分に繋がる鍵は見えてこない。コートの男のあの言葉は、彼自身の妄言だったのか? 真実に近付くどころか、新たな謎を迎え入れてしまい、更に訳が分からなくなった。

「おぉ……っと、こんなことをしている場合じゃねぇ」
 今自分がすべきことは悩むことではない。王の座を狙うあのファンガイア、奴を止めるのが先決だ。
 ほんの僅かではあるが、地平線の向こうに光が見える。自分がかのスタジアムに飛ばされてから、かなり時間が経ったに違いない。
 間に合うのか? いや、間に合わせなくては。
「よし、バイクは動く。……急がねぇと」
 マシンディケイダーに跨がり、目一杯アクセルを踏む。間に合わなかった時のことは考えるな。ただ前に進めばいい。
 ――待ってろよ……、ワタル!
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 ――みんな知ってるかァ? ――『カノン』とは、主となる旋律の後に、同形の旋律をずらし、重ね合わせる作曲技法のことだ。 ――「かえるのうた」のように、複数のパートが多少ずらして同じ旋律と歌詞を歌い、そうして生じるハーモニーを楽しむ『輪唱《りんしょう》』...
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