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 ←Journey through the Decade Re-mix 第二話 「超 絶」 C-part  →クウガの世界・世界観及び設定まとめ
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「Journey through the Decade Re-mix」
Journey through the Decade Re-mix(1)

Journey through the Decade Re-mix 第二話 「超 絶」 D-part

 ←Journey through the Decade Re-mix 第二話 「超 絶」 C-part  →クウガの世界・世界観及び設定まとめ
 これにて修正版クウガ編は終了となります。
 いやはや、面倒臭い言い回しばかりしてたんやなぁ、二年前の自分。


 ――新しい情報が入ってきました。
 灯溶山《ひときやま》から発生した黒い霧は、致死性の特殊なガスであり、その中で死傷者に加え、大量の未確認生命体が発生している模様。
 警視庁の発表によると、このガスと未確認による被害者の数は午前9時現在、死傷者を含め、既に百人を超えたとのこと。
 警視庁は市民に緊急警戒警報を発令しました。
 灯溶山周辺住民もしくは近辺にいらっしゃる方は速やかに避難を、それ以外の住民は家屋の窓を全て閉め、家から出ないようにしてください。
 ……繰り返します、灯溶山から――

 ――……ガスで倒れ、病院に運び込まれた患者が未確認生命体に変質し、他の傷病者を襲ったという情報が市民の間でまことしやかに流れています。灯溶山周辺住民は警察の誘導に従い、速やかに市外へ避難してください。
 ――……未確認による被害により、○△市近辺の交通は完全に麻痺し、○×自動車道は現在2時間ほどの交通渋滞。○○線は全線共に40分ほどの遅れが出ると予想されます――

「なんだか恐ろしいことになってるねぇ。夏海や士君は……大丈夫だろうか」
 一人、写真館に残された栄次郎は、不安そうな顔でテレビのチャンネルを回していた。
 どこを回しても謎の瘴気の話ばかりともなると、外に出て行った夏海たちのことが気がかりになるのも、仕方のないことである。

◆◆◆

「おいおいおいおい、なんだこりゃ。ここは仮装パーティ会場か何かか」
 マシンディケイダーを駆り、瘴気が蔓延する市街地に辿り着いた士は、眼前に広がる光景に圧倒されていた。黒い霧によって人は次々にグロンギに変質し、逆に変質しない人間を無差別に殺害している。老人、傷病者、幼児。そこには何の隔たりも配慮もない。
 グロンギに直接殺害された人間は彼らの同胞にはならないらしく、街は死体と、闘争本能のままに暴れまわるグロンギだらけとなった。
 先んじて変身していたおかげか、士に関してはガスの影響はない。
 高台から街を見回し、一際高いビルの上に奇妙な異形を見る。敵の頭目――ン・ガミオ・ゼダだ。ディケイドはグロンギたちを蹴散らしてビルに入り込み、屋上まで駆け上がった。
 究極の闇、ン・ガミオ・ゼダは現れた闖入者に目を合わすことなく、屋上から下界の様相を眺めつつ、彼に言う。
「……お前はクウガでもリントでもない。そんな奴が何をしに来た」
「ずいぶん流暢に喋るじゃねぇの。お前が蘇って、街が化け物だらけになっちまったのも、元を正せば俺のせいらしくてな。教えろ、この霧はどうすれば晴れる」
「簡単だ。おれを殺せばいい。お前におれが倒せるのならば」
「成程、そいつは簡単だ」
 ライドブッカー・ソードモードを右手に構え、剣先をガミオの眼前に向ける。

 体を石にされて死んだ女性警官。その奇怪な死に方はさておき、ユウスケの言う通り、ディケイドたちがグロンギと戦っている際、あんなところに車はなかった。
 ガミオの目覚めは、二体のグロンギを始末した後だ。自分たちよりも先に山におり、あそこで自殺したのなら、ガミオはその前に復活を遂げている筈。
 ならばあれは一体何なのか。『オーロラ』の仕業に違いない。光夏海は、かのオーロラを目撃し、それ故にディケイドたちの争いを感知した。無差別無作為に人や物を移動させるオーロラだ。誰か操作できる者が居るとすれば、女性警官一人連れてくることなど造作もあるまい。
 理由は何だ。決まっている、この世界の『破壊』。それ以外にはあり得ない。

 剣先を向けたディケイドに対し、ガミオは彼を鼻で笑う。「おれに戦いを挑むつもりか。お前はまだ若い。命は投げ捨てるものでは無いというのに……何故だ」
「何故……ね。強いて言やァ、てめぇのその上から目線が気に食わないってとこだなッ」
 ディケイドはライドブッカーを手にガミオに飛び掛かる。
 ガミオは逃げることも臆することもなく迎え撃ち、ブッカーの刀身に触ることなく、両腕で丁寧に捌いて行く。
 剣戟《けんげき》で留守になったディケイドの胴にガミオの蹴りが入った。ディケイドの強化外骨格の上から叩き込まれたそれは、嫌な音を立てて彼を数メートル先の建物まで吹き飛ばす。力の桁が、自分とは比べ物にならないほど高いのだ。
 叩きつけられ、呼吸と意識を数秒ほど持って行かれたディケイドだったが、ライドブッカーを杖に立ち上がり、同時にソードモードからガンモードに組み替える。
 不用意に近付くガミオを狙い、彼の脳天目掛けて銃弾を放つ。外しようのない距離だ。ブッカーの一撃はガミオのこめかみに命中する。しかし銃弾は彼の額の薄皮を抉ることしか出来ず、蚊ほどにも効いてはいなかった。

「どうした? あれだけ大口を叩いておいて……貴様の力はその程度か」
「なわきゃあねぇだろ。これからだ」
 ――ATTACK RIDE 「BLAST」
 ディケイドは「ブラスト」のカードで銃撃を強化し、ガミオの顔に撃ち当てる。
 ――ATTACK RIDE 「SLASH」
 そこで生じた隙を狙って近付き、自身の上体を沈み込ませると、「スラッシュ」のカードで強化した刃を、筋肉の鎧で殆ど覆われていない”脇腹”目掛け、袈裟に叩き斬る。
 腰の乗った、正確な荷重移動。完璧な攻撃プランだ。それをガミオ自身が全く意に介していないことを除けば、だが。
「こんな……ものか」
「お前がそう思うのならそうなんだろ。お前ン中ではな」
 ディケイドは冷徹な仮面の下で冷や汗を垂らす。それまで幾多の怪人たちを屠《ほふ》ってきた自分の攻撃が、この怪物には何一つ通用しないのだ。彼はこの時、ガミオが今までと桁違いの強敵であると漸く理解する。
 攻撃を仕掛けていた側だったディケイドは、あっという間に防戦に追い込まれ、地に膝をつき肘をつき、変身すらも解けてしまう。数多くの技と戦術を持つディケイド優勢かと思われたこの戦いは、ガミオの圧倒的な『力』ひとつで容易くひっくり返されたのだ。
「だからやめておけと言ったのだ。一つしかない命、ここで無駄遣いすることもなかろう」
「ちく、しょう……」士は悔しさにアスファルトを拳で叩く。「まだ……、まだこれから、だっての。それによ、命ってのはな、一つだけだからこそ、ここぞって時に使うもんだ。大事そうに神棚に飾っとくだけじゃ腐っちまうんだよ」
「無理をするな。息が上がっているぞ。そのまま背を向けて逃げ帰れ。袋小路で逃げられないというのなら、おれが道を作ってやっても良い」
 変身を解除した士に戦う力がないと悟ったか、ガミオは士に対し逃げることを促す。無論彼がそれを了承することは無いが、士の脳裏に疑問を抱かせるには十分だった。
 逃げろと促すガミオに対し、何だそれはと声を荒げる。
「何だよそりゃあ、矛盾してるにも程がある。だったら霧を消してこの街の奴ら全員を助けてやれよ。……いや、この際単刀直入に聞くぜ。『お前は本当に破壊と殺戮を望んでいるのか』」
 かの殺戮の元凶たる怪物が、真っ先に殺すべき相手を救おうとしている。何かを企んでいるのかと訝しむが、見た限りそのような様子はない。それどころかガミオは、彼の顔を見据え、顔を顰《しか》めて笑い出したのだ。
「なんだ、何がおかしい」
「おれが、破壊と殺戮を望むのか……と? こんなこと、進んでやる筈がないだろう。こうなったのも全て、おれを目覚めさせた者たち――、”貴様ら”に原因がある」
「身に覚えがねェ。責任転嫁はよくないぜ、どう見てもてめぇのせいじゃねぇか」
「成程。しかし俺の顔を見て尚、同じことが言えるか?」
「顔……だァ?」士はこの時、初めてガミオの顔をはっきりと見込む。
 戦っている最中はよく分からなかったのだが、彼の左目は黄色く染まり、全体的に血走っているように見えた。それだけではない。左眼球中の充血は顔の左側全てに伝線しており、規則正しく痙攣《けいれん》を続けている。何もない右側の赤い瞳と比べると、その差は歴然だ。
 ガミオがこれから言わんとすることが、士にも何となく読めてきた。
「それって……まさか」
「おれは不完全なまま『蘇った』のだ。やつらが斯様におれを目覚めさせたかなど、知りたくもないし興味も湧かんが、”何か”を遂行し切れなかったのは確からしい。
 おれの力は中途半端に解放され、ご覧の有様だ。力と一緒についてきた”闘争本能”を御し切れない。今もそうだ。少しでも気を抜くと、話を止めてお前を喰い殺したくなる。首から下を斬り落として、滴る血を啜りたくて堪らなくなる。血の滾《たぎ》りを抑えきれんのだ」

 おいおい、これでもまだ不完全だってのか、冗談じゃないぜ。士は奴の底知れなさに絶句し、海より深い絶望感に襲われた。
 ガミオはそんな士を尻目に言葉を続ける。士に話を聞かせるためというよりは、己の内なる闘争本能を、言葉と理性で抑えつける為だ。
「おれはかつてリントの一員だった。自然の豊かな村に住み田畑を耕し糧を得る、何の変哲もない男だった。だが”やつら”に捕まり、腹にこの石を埋め込まれた。自分たちがより高みに行く為だと言ってな。
捕まえられた奴らはたくさん居たが、皆死んだ。石の力に耐えきれずにな。おれは生き残った。石の力に耐えて“力”を手にできた。
 そうしたらどうだ。おれは不気味な霧を撒き散らすようになり、石を埋め込んだやつも、村の仲間たちも皆グロンギとなった。おれは誰も彼もから憎まれ、疎まれ、襲われた。おれを殺すために生み出された“クウガ《戦士》”によってな。
『究極の闇』、か。大層な二つ名だ。反吐が出る。もう遅い。遅すぎるのだ。人間は皆、本能のままに殺し合うグロンギとなる。
 いや、元から、なのかもしれんな。人間は皆、元からグロンギと変わらなかったのかも知れぬ。『理性』というタガを外し、野生に還るだけの話だ」
 士は、不意にガミオの右目を見る。闘争本能に侵されていない、彼の“素”の部分だ。それはどこか、悲しみを帯びているように見えた。
 奴は言葉通り、したくてこんなことをしているのでは無いのか。ガミオの言葉には、こんな姿になったことへの憎しみ以上に、グロンギと化した人々への哀しみが込められているように思えた。

 それでも尚退かない士を見、ガミオは彼の胸倉を掴んで持ち上げ、ビルの先まで連れて行く。
「逃げないのならそれでも良い。お前もグロンギになるがいい。そうすれば楽になる。何も、考えられなくなる」
「何ッ! この……こなくそッ」
 そのまま手を離し、士をグロンギたちの中へと放り込んだ。
 士がライダーではなく、ただの人間になったことを感じ取ったヒトグロンギたちは、何の容赦も躊躇もなく飛びかかる。
「くそう……変身できないからって舐めんじゃねぇぞ」
 ディケイドとして戦っていたが故の経験値か、殴りでグロンギを怯ませ、蹴りで散らし、相手に決定打を許さない。
 しかしそれも体力が残っているうちだけだ。士は徐々に敵の攻撃を避けきれなくなり、拳が胴にめり込まんばかりに打ち込まれ、顔には鉄の棒で勢いよく叩かれたかのような蹴りが入った。
 腕には雑巾をきつく絞るかのごとき負荷が加えられ、足首、腿、膝、足は鋭利な刃物で刺し貫かれる。
 短いながらも、今まで記憶してきた全てが、走馬灯となって士の脳裏を駆け抜ける。
 ――短い。あまりにも短すぎるぞ。なんて走馬灯だ。回想する間もなく終わってしまったじゃないか。
 ――こんな終わり方、認められるか。俺はまだ何も掴んじゃいない。こんなところで、死んでたまるか。
 幾ら体に力を込めようとも、どれだけ声を涸《か》らして吼えようとも、自分を取り囲むグロンギたちを止めることは出来なかった。
 ――これが俺の、限界なのか?
 ――俺は”破壊者”じゃなかったのか? 世界の”救世主”じゃ、なかった……のか?
 ――ここが俺の、旅の終着点、だったっていうのか?
 ――そう……なのか?

 ――……そうか。ここが、この世界が俺の死に場所か。

 本心からそう感じた。そう思っても仕方がなかった。
 士は自分の運命という名の河の流れに身を任せ、静かに目を閉じる。

 抗うのを止めて目を閉じる士の耳に、けたたましい何かが響く。音のする方に体を向ける。音は次第に大きくなり、けたたましさに加え、グロンギたちの悲鳴までもが聞こえるようになってきた。
 一体何だと目を見開く。士の眼前に広がっていたのは、群がるグロンギたちをバイクに乗ったまま軽々と蹴散らす、未確認生命体第四号『クウガ』の姿だった。
 クウガは士に群がるグロンギたちを遠ざけると、倒れ込む士に肩を貸して彼を立ち上がらせる。
「よぉ、遅いぞ。もっと早く来られねぇのか」
「馬ァ鹿。”ヒーロー”ってのは、遅れてやってくるもんなんだぜ」
 改めてクウガの姿を見る。彼の体表は赤ではなく白に変色したままだ。辛うじて戦えるが、心の傷までは未だ癒えていないのだろう。
「大丈夫……、なのか?」
「何が」
「あぁ、いや。なんでもねぇ。聞くまでもなかったか」
「勝手に自己完結するなよ、気持ち悪い」

 白いクウガからは、あのとき感じた重苦しさや悲しみは全く感じられない。
 故に士は疑問に思う。何故この男はここに来られたのだろう。
「あの人の、ためか?」
 感情をその無表情な仮面で隠し、違うよと言い返した。
「分かったんだ。あんたや他の人たちを救えなきゃ、あの人は、本当の意味で俺に笑いかけてくれないんだ、って。だから、まずは……こいつらを倒して、この地獄を終わらせる」
 ――なるほど、ね。
 この男はもう大丈夫なんだろう。士は彼の背を見てにやりと笑った。

 士の無事を確認し、改めて自分たちに群がるグロンギに立ち向かう。
 クウガの拳は正確に相手の核である腹部の石を貫き、狂気に満ちた化け物たちの戦意を、たちまち削いでゆく。

 ――手ごたえがある。大丈夫だ、やれる。果たして見せる。あねさんが待ってるんだ。やってやる。
「いや、待てッ、ユウスケ、危ないッ」
 新たな戦士、それもかつて己を封印したクウガの登場に、ガミオが黙っていられる筈が無かった。
 ――ぅるぉおおおおおおおおおおおッ

 天を仰ぎ、荒々しく吠える。
 ガミオの左腕が青白く輝くと、激しく火花を散らす『稲妻』が生じ、クウガの周辺一帯に放たれる。
 士の制止も空しく、稲妻はクウガの背面に直撃。白い体が黒くなる程の衝撃を受け、そのまま前のめりに倒れこんでしまった。
「マズったぜ。力が……力が入らねぇッ」
『クウガ』という”鎧”を身に纏ってもなお、その身を焼きつくす稲妻。彼の五体が満足なまま残っていたのは不幸中の幸いと言えよう。
 四方に散った稲妻は、暴れ狂うグロンギの多くを焼き付くし、周囲のビルを舞い散る瓦礫に変える。そしてそれが、さらなる悲劇の引き金となった。

「――おとうさん、おかあさん! めをあけてよ、あけてよぉ!」
 胸を抉られて横たわる男女の隣に、赤いランドセルを背負った少女がいる。”死んだこと”に気づいていないのか、一心不乱に二人の体を揺すり続ける。
 事切れた男女は少女の父親と母親なのだろう。
 彼女は脇目も振らず、ただひたすらに揺すり続ける。それ故に自分の頭上から『瓦礫が落ちてきている』ことになど、気付く筈もなかった。

「やべぇ……やべぇやべぇやべぇ、やべぇッ!」
 士は冗談じゃないぞと駆け出すが、彼からは距離が遠く、走った所で間に合わない。
 声を涸らして大声で危険を伝えようとも、自身の親の安否にしか頭にない少女には、決して届かないだろう。
 瓦礫と少女との距離はもう幾ばくもない。諦め、歩を止めようとした、まさにその時だった。

 ――うぉおおおおおおおおおおっ!!
 稲妻に打たれ、黒焦げになっていたユウスケが吠え、地を駆ける。自分より前を走っていた士を軽々と追い越すと、地面に亀裂が走るくらい踏み込んで飛び、少女を抱きかかえ、落下する瓦礫から救ったのだ。
 今まで両親に付きっきりだった少女は泣くことをやめ、何が起こったのかと周囲を見回した。

 何が起こったのか分からないのは助けた当人も同じだった。
 張り裂けそうなほどの鼓動を刻む己の心臓に手を当てて、ユウスケは、今何をしたのかを思い返す。

 何で俺は、こんなことをしたのだろう。この子を護るためか。何故だ、間に合う保障なんて無かったじゃないか。諦めて放っておいた方が利口じゃないか。
 この子が瓦礫の下敷きになるかもと思った時、痛くて辛くて動けないはずの足が動いた。凄まじい力が、体全体に行き渡ったような感じがした。
 雷に打たれて、満足に指一本動かせなかったこの体がか?そんな馬鹿な話があるか。なんでなんだよ。
 そう……か。そういう、ことだったのか。

 ユウスケは唐突に理解した。
 自分の敬愛した八代刑事が、クウガの力を持たないただの人間である八代刑事が、何故自分と同等、いや自分以上に、未確認と戦えたのか。
 誰もが匙《さじ》を投げる状況下で、多くの人々を助けることができたのか。

 ”誰かを助けたい。笑顔にしてあげたい”。あねさんの言っていたことはこういうことだったのか。
 ユウスケは少女の鼻と口をハンカチで塞ぎ、「さぁ……早く、ここから離れるんだ。ここは危ない」
「でも、おとうさんが、おかあさんが……」
「ここにいたら君も危ないんだ。君まであいつらに襲われたら、お父さんもお母さんもきっと悲しむ。君はあぁなっちゃいけないんだ」
「でも、でも」
 少女を気遣い、逃げるよう促すが、親のことが心配で首を縦に振らない。
「大丈夫。俺がなんとかする。なんとか……、するから」
「ほんとう?」
「あぁ、きっと。きっとだ。だから……」
「う、うん」ユウスケの言葉を、少女はようやく受け入れたらしく、瓦礫の中を掻い潜ってビル街の奥へと逃げて行った。

 ――大丈夫。なんとかする。
 中身の伴わない薄っぺらな言葉だ。反吐が出る。そう思いながらも、ユウスケはそう口にせずにはいられなかった。
 これ以上犠牲を増やしたくない、誰かの笑顔が奪われるのは見たくない。そう思っての言葉だった。
「なかなか……面白いじゃねぇか」
 その様子を遠巻きに見つめていた士は、宙に浮かぶガミオを指差し、自信満々に叫んだ。
「『究極の闇』の旦那よォ、あんたの言いたいことは解った。あんたのそのろくでもねぇ境遇にも同情してやる。けどよ、お前は目覚めるのがちょっとばかり遅かったみたいだな。
 俺や他の奴はどうだか知らんが、こいつが戦うのは自分のためじゃない。『自分以外の誰かが戦わなくてもいいようにするため』だ。
 たとえ戦いと言う名の闇に溺れようとも、それでもこいつは、その力で誰かを笑顔にしたい。そう信じている。あんたが言うほど、人間ってのも、悪くないかもしれないぜ」

「だから何だというのだ。たった一人で何ができる」
「そうだな、独りでは無理だ。だから決めた、こいつが誰かの笑顔の為に戦うのなら、俺は『こいつの笑顔を護る』」

「はぁ……ァ?」士の言葉に、ユウスケは目を一杯に見開いて驚いた。今まで俺を小馬鹿にし、罵倒した男が、自分を護るなど、どういう風の吹き回しだ。
 顔に疑問符を浮かべて戸惑うユウスケに、士は尚も続ける。「誰かを笑顔にするのなら、まずは自分が笑顔でいなければならん。だが、たった一人で戦っていては、笑顔になんてなれるはずがない。そうだろ?
 それに俺は今、誰かの笑顔を守るために、自分の限界以上の力を引き出した男の姿を見た。俺たち二人が力を合わせれば、あいつにも勝てるとは思わないか?」
 情熱的と言うべきか、理論的と言うべきか。士の言葉に、ユウスケは呆れながらも相槌を打つ。彼もまた納得し、覚悟を決めたようだった。
「成る程、成る程な。そりゃそうだ。違ぇねぇ」
「行けるよな、ユウスケ」
「誰に何言ってんだ。当たり前だろ。『士』」
 士はユウスケに向かって右手を差し出した。彼は何も言わず、その手を掴んで固く握り締める。
 二人の男が、二人の戦士が固い絆で結ばれた瞬間だった。

 だが、ガミオには分からない。
 何故、彼らはこの力を見て臆さない。どうして未だ自分に立ち向かおうとするのか。彼は士に対し、一つの疑問を口にした。
「……お前は一体、何者だ」

 ――何者か、だと?
 とりあえずこの世界の『救世主』じゃ無いことは確かか。柄じゃねぇし、名乗る資格もない。
 ――だったら『破壊者』か? そうなのかもしれんが、あいつらの付けた名だ。気に食わねぇ。
 ――じゃあ俺は何だ?なんなんだ――。

 ――俺は。
 ――俺は……。
 ――……そうだ。俺は――
「通りすがりの……、仮面ライダーだ。覚えておけ」

 ――変身
 ――KAMEN RIDE「DECADE」!!
 その心持ちの中、傷付く体を圧してディケイドに変身。瞬間、ひとりでにライドブッカーの中から、三枚のカードが飛び出した。灰色で、今の今まで何なのか分からなかったカードに、絵柄が戻ったのだ。
 カードに映る絵柄は、自分の隣に並び立つ戦士、全てクウガに関するものだ。
 何故カードに絵柄が戻ったのか。並び立つ男の勇姿を見て、ディケイドは何となくその理由を察したようだった。

「ユウスケ……行けるよな?」
「当たり前だろ」
 ――変身ッ!
 士に続いて変身するユウスケ。戦う覚悟を再認識したからか、体表は真っ赤に染まり、額からは雄々しき二本角が生えてきた。クウガの完全復活だ。
 二人の仮面ライダーはグロンギの大群の中に飛び込む。迷いや不安を断ち切り、共に戦う仲間を得た今、闘争本能に侵された獣の大群などに負ける筈がなかった。
 しかし敵の数も多い。こうして戦っている間にも霧はさらに広い範囲に拡散し、犠牲者は増える一方だ。
 二人は互いに背を向けて並び立つ。
「こいつらに構ってても無駄だ、空に浮いてる”あいつ”を仕留めない限り、霧は止まらないし、グロンギは永遠に増え続ける」
「んなことは分かってる。だが、こいつらを蹴散らさなきゃどの道辿り着けないぞ。どうするんだよ士」
「そうだな。じゃ、こんなのはどうだ? ちょっとくすぐったいぞ」
 ――FINAL FORM RIDE 「Ku-Ku-Ku-KUUGA」

「あぁ? ……ちょっ、おっ、うおぉおっ、おぉ……おぉ……っ」
 ディケイドは金色の縁取りのカードをバックルに装填し、クウガの背中に自身の両手を強引に『突っ込んだ』。
 するとどうだろう。
 クウガの背中から『甲虫の外殻』のようなものが飛び出し、彼の背面全てを覆ったかと思うと、顔は外殻の中に消え、腕は甲虫の足に、足はクワガタムシの顎《あご》に姿を変えた。
 かつて、クウガと共にグロンギと戦った鋼の鉄騎・『ゴウラム』。彼はそのゴウラムを模したかのような物体へと姿を変える。
その姿は差し詰め、『クウガゴウラム』と言ったところ、だろうか。

[おい、おいおいおいおい。なんなんだよこれは]
「さぁな。俺にもよく分からん。分からんが……これが、俺とお前の力だ。とっとと片づけるぞ」
[あぁもう、分かった。分かったよもう、こうなりゃやけくそだ]
 ディケイドはライドブッカー・ソードモードを構え、クウガゴウラムの背に飛び乗ると、そのまま敵の大群目掛けて突撃。
 クウガゴウラムはビル街を所狭しと飛び回り、いかなる攻撃も寄せ付けない鋼の鎧と、強靭な顎の力を持って、並みいるグロンギを次々に撃滅し、ディケイドはその周りに群がる者たちを全て斬り捨てた。
 圧倒的な機動力と、複数の敵を同時に攻撃できる手段を得たことで、戦況は二人のライダーの方へ大きく傾く。僅か数分で殆どのグロンギを戦闘不能に追い込んだ。

 残るは空中に浮かぶガミオ、ただ一人だ。クウガゴウラムは四方に飛び散るガミオの稲妻攻撃をかわして空を舞い、相手の攻撃をかわしつつ背後を取る。
 その大きな顎でガミオの胴体を挟み込んで、ビルに叩きつけた。
 ディケイドはクウガゴウラムを踏み台にして跳び、ビルから抜け出したガミオ目掛け、彼の腹部をライドブッカーで斬り裂いた。
 攻撃を受けたガミオはそのまま落下し、地面に激突。地表には半径5mの亀裂と陥没によるクレーターが出来上がった。

「やった……のか?」
「いや、まだだ」
 地面に叩きつけられたガミオが起き上がる。腹部を斬り裂かれ、血を大量に噴出しているが、倒すまでには至らない。
 どうやら、ディケイドが斬り裂こうとしたその瞬間、咄嗟に体を反らし、急所への攻撃を防いでいたようだ。

 ――おぉぉおおおおおおおおぅ!
 痛みからなのか、怒りからなのか。隣の街にまで聞こえるほどの大音量でガミオが吠えた。
 そのあまりの声の大きさに、二人も耳を塞いでしゃがみ込む。
 彼の叫びに呼応するかのように、グロンギたちの亡骸が、黒い瘴気となってガミオの体に吸い込まれて行く。街を覆い尽くしていたグロンギの骸は、ほぼ全てが彼の体内に取り込まれた。

 力を吸い尽くしたガミオは再び浮き上がり、左腕を天に掲げる。
 彼の左腕の周りにうねうねと暗雲が立ち込め、その中で稲妻が渦を巻いているのが見える。またあの尋常じゃない雷を起こすつもりか。
 あの規模だ。今までとは比べ物にならない破壊力なのは間違いないだろう。あれがそのまま、直撃でもしたら。想像するのも嫌になる。
「ユウスケ、どうする?」
「”どうする”だぁ?……今更何言ってんだ」
「そう、だな。聞くだけ野暮だった」
 二人の考えは最初から一つだ。
 ――正面から迎え撃ってやる。

 ガミオが左手を振り下ろすと同時に、稲妻が一点に集束し、二人目掛けて放たれる。
 稲妻は地面を焦がし、何もかもを粉々に砕いて、膨大な砂煙を生み出した。

 ――うああああああっ!
 ――おぉおおおおおっ!
 砂煙の中から何かが飛び出した。クウガゴウラムと、それに乗ったディケイドだ。稲妻が放たれるその瞬間、変型したクウガに乗って稲妻と稲妻の間をすり抜けたのだ。
 一瞬の出来事ゆえに、ガミオは対応することが出来ず、またも胴を挟み込まれてしまう。
 クウガゴウラムはそのまま進路を地面に向け、さらにスピードを速めた。このまま彼を地面に叩きつける算段らしい。
 同じ手を二度喰うものか。
 そう言ったかどうかは定かではないが、ガミオは両腕に力を込め、自分の胴体を挟むゴウラムの顎を引き剥がそうとする。
 彼の驚異的な腕力により、徐々にクウガゴウラムの顎の拘束が解けてゆく。
 あと少し。あと少しで顎から解放されると思ったその時、ガミオはある違和感に気がついた。
 ――ここに”乗っていた奴”はどうした?
 クウガゴウラムがガミオを挟み込んだまさにその時。ディケイドはそこから姿を消していた。
 どこへ消えた、仲間を見捨てて逃げ出したのか?
 無論、そうではない。
 ふと、ガミオは自分の視界が急に暗くなったことに気がつき、顎にかける力を緩め、視線を上の方に向ける。

 ――FINAL ATTACK RIDE 「Ku-Ku-Ku-KUUGA」
 ディケイドはそこにいた。
 彼のバックルからは”クウガの紋章が描かれた”カードが何枚も飛び出し、既に、それを通り抜けている最中であった。
 自分にそれをぶつける気なのか。だが、それでは倒せないことは承知の筈だ。彼は一体、何をするつもりなのか。
「正攻法で駄目、ってんなら、これで、どうだッ」
[いけええええええええッ!!]
 カードを潜り抜け、ディケイドがキックを叩き込んだのはガミオの胴体や顔などではなく、クウガゴウラムの『臀部《でんぶ》』。
 ガミオは彼らの意図に気付いた。
 クウガゴウラムを渾身の力で蹴り飛ばすことにより、そのスピードは数十倍にも跳ね上がる。これほどの勢いで、地表に叩きつけられれば、さすがのガミオも無事では済まされないだろう。
 彼らが考えていた『正面から迎え撃つ』とは、こういうことだったのだ。
 力任せに顎を引き剥がそうとして、最早後の祭り。地球に落下する隕石のような勢いで地表に叩きつけられ、ガミオは周りのビル街全てを半壊させるような規模の爆発を起こし、倒れた。

「よぉユウスケ。生きてるかぁ?」
「ムチャクチャだぜちきしょう。俺、生命保険入ってねぇんだぞ」
「死んだら金も糞もないんだぜ、入るだけ無駄だ。給付の名義を俺にしてくれるんなら話は別だが」
「ふざけんなこの野郎」
 ディケイドは倒壊した瓦礫の中から起き上がり、近くに埋まっていたクウガに手を貸した。
 そしてもう一つ。彼は下半身を失い、虫の息となったガミオを見下ろし、声をかけた。

「俺たちの勝ちだ。何か、言い残すことはあるか?」
「そのようだな。リントもクウガも……逞しくなったものだ」
 今のガミオに「究極の闇」としての覇気は無かった。今そこに横たわるのは、かつてリントだった男の哀れな姿だ。
 そんなガミオに、士はそうだなと言葉を返す。「強くなるさ。護るべきものがありゃあ幾らだってな。今も昔も、そうだろう」
「そう……だな」ガミオは納得して頷く。「リント。闇が……、晴れるぞ」
 それが『究極の闇』最後の言葉だった。
 ガミオは消し墨と化し、下半身に埋め込まれた力の石・アマダムも砕け、塵となって風に浚われていった。
 灯溶山を中心にして発生していた瘴気も一瞬で消え去り、暴れていたヒトグロンギたちも、変異が解け、徐々に人の姿へと戻って行く。この世界は、救われたのだ。

◆◆◆

 戦いを終えた士たちが街の総合病院に到着したのは、それから十数分後のことだ。
 八代は夏海の手によって灯溶山の林から病院に移され、集中治療室に入っていた。

 出血多量、内臓破裂、瘴気の過剰吸引。加えて、この騒動の中で救急車は街の中だけで手一杯。
 それでも諦め切れないと病院に駆け込んだユウスケを待っていたのは、もう二度と目覚めることのない八代の姿だった。

 死亡時刻:午前9時 55分 3秒。
 死因:出血多量及び心停止。
 八代 藍:死亡――

 ユウスケは死亡診断書に目を通した上で、ベッドの上で穏やかな顔をして眠る八代を見据える。夏海は表情を変えず、俯いたまま座っていた。
 約束を守れなかった後ろめたさから、彼らと目を合わせることができなかったのだ。

 それでも、彼女には言うべきことがあった。「もう、こんなことを言っても意味がないことぐらい分かってます。けど、八代さん……最後まで”笑ってました”。ありがとう、ありがとうって」
「そう、か」
 それを聞いたユウスケは少しだけ顔を竦めると、顔を上げ、八代の顔を真っ直ぐな瞳で見据えた。
 血の気が失せ、雪のように真っ白に透き通った肌。どこまでも穏やかで、悲哀を感じさせない表情。
 痛かったろうに、辛かったろうに。そんな苦悶を微塵にも感じせぬその表情に、ユウスケは悲しさを通り越して、彼女に感嘆と尊敬の念を抱いた。
 そんなユウスケの姿を、士はきょとんとした目で見る。
「意外だな。てっきり、泣き叫ぶもんだと思ってたが」
「士君、失礼ですよ」
「いいんだ、もう。”あの時”ちゃんと話ができたし。それに、ここで泣いたりなんかしたら、きっとあねさんが悲しむと思う。二人とも、ありがとう、な。俺はもう……大丈夫、だから」

 そう言って、ユウスケは笑う。
 大切な人を失って悲しみに暮れる人間のものとは思えないほど、悪びれも、後ろめたさも、強がりもない、屈託なき笑顔。
 ――この人は、本当に強いんですね。
 夏海はユウスケのそんな笑顔を見て少しだけ、肩の荷が下りた気がした。

 同時に士は、首に提げたトイカメラのカバーを開くと、カメラ上部のレンズを見ながらピントを合わせ、シャッターを切った。ユウスケのそんな笑顔が、彼にとって魅力的に映ったのだろうか。
「何撮ってんだよ」
「初めて会った時には、気性が荒くて面倒臭くて、関わり合いになりたくない奴だと思ってたんだが、なかなかどうして……。お前の笑顔、『悪くはなかったぜ』」
「なんだよそれ。褒めてんのか。けなしてんのか」
「どうとでもとればいいだろ」
「そう、か」
「そうだ」
 士とユウスケは互いに顔を見合わせて笑う。心なしか、八代の顔もどこか、楽しそうに微笑んでいるように見えた。

「じゃあな、俺はもう行くぜ」
 これ以上邪魔をするまいと踵を返す士を、ユウスケは「待てよ」と彼を呼び止める。
「姉ちゃんの仇が誰かは未だ分からない。けど、少なくともあんたじゃないことは解った。悪かったな……疑って」
 こんなにも素直に謝るとは。士はその言葉に驚くも、すぐに調子を戻して言葉を返す。
「俺には過去の記憶がない。もし俺が本当にお前の姉さんの仇だったら……どうするつもりだ?」
「その時は……その時さ」
「そうかい」
「そうさ。もう行くんだろう? ……達者でな」
「お前に心配されることでも無いが……、言葉だけは受け取っておく。じゃあな」

◆◆◆

 その日の夜。究極の闇における一件の、合同葬儀が執り行われた。
 葬儀と言っても、あまりに犠牲者の数が多かった為、大災害時のそれと同じように、手順はかなり簡略化され、会場一杯に並べられた遺影の前に、手向けの花を置き、遺族や関係者が故人の死を悼む、形だけのものとなった。
 勿論、搬送先の入院で死亡が確認された人や、遺体が見つかった場合は、遺体を棺の中に入れて死を悼んだ。完全な形で遺体と対面できた遺族は、まだ運が良い方だ。この葬儀に出棺した多くの遺体は、ヒトグロンギに四肢を引き千切られ、運が悪いと腕や脚の一部だけしか遺体が残っていないことすらあった。 事件の後、生き残っていたグロンギは人の姿に戻ったが、その是非を法の裁きで問える訳ではない。ン・ガミオ・ゼダの遺した爪痕は、あまりにも大きかった。
 八代の死体もここに運ばれており、彼女の親族が菊の花を棺の前に手向け、皆大粒の涙を流して死別を悼んだ。
 だがユウスケは、彼女と共に未確認と戦ったユウスケだけは、一滴の涙も零さず、ただ真っ直ぐに八代の遺影を見据えていた。

 葬儀の帰り道。ユウスケは近所のスーパーで食料品などの簡単な買い物を済ませ、自身の家に帰ろうとしていた。
 その途中、空き地の土管の中で、独りしゃがみこんでさめざめと泣く少女の姿を目にし、取るものも取り敢えず駆け寄る。その姿に見覚えがあったからだ。
「どうしたのかな。なんで泣いているんだい」
「おとうさんとおかあさん、もう、かえってこないの。おほしさまに……なっちゃったって」
 少女は顔を上げ、ユウスケと目を合わす。土管の上で泣いていたのは、あの時助けた少女だったのだ。
「おとうさんもおかあさんも、わたしをおいてとおくにいっちゃった。さみしい。さみしいよ」
「あ。あぁあ……ああっ」
 少女は再び目に涙を溜めて泣きじゃくる。ユウスケはどうしてよいかと狼狽えるが、子ども独り放っては置けないと奮起する。あの時、理由も根拠も無く”自分が何とかする”などと言ってしまったのだから、尚更だ。
 彼は知恵を絞った。どうにかして彼女の涙を止めてあげたい。それには何をするべきか。何をしてあげられるのか。そう考えていたユウスケの目に、ふと、スーパーで買ってきた食料品が留まった。
 ユウスケはその中から卵を三つ取り出して、少女の目の前に持って来た。
「……なぁに? たまご?」
「あぁ、タマゴだ。これからおにいちゃん、かーなーり、すごいことするからな。見てろよォ」
 三つの卵を空に放り、右手と左手を巧みに使い、ほいほいと投げ渡した。ボールの、いや卵でのジャグリングだ。
 得意なわけでも、そうした経験があったわけでもない。少女の目を引き、涙を忘れさせるためにはこれしかないと思ったからだ。
「すごーい、すごーい!」
「だろぉ? はははは。そぉーれっ、ほい、ほいっと。ほほ? ほいほ……ほほ、ほいほ……あぁっ!」
 そんな付け焼刃で、ぶっつけ本番な技が長く続くわけがない。リズムは徐々に狂い始め、微調整も効かなくなり、投げ始めて二分もしないうちに、卵はすべてユウスケの顔に直撃し、彼の顔を黄色く染めた。
「おにいちゃん、だいじょうぶ?」
「あぁ、大丈夫……だ。あぁあ、タマゴ三個、無駄になっちまった」
「ふふっ、あははははっ」
「ははっ。そっか、笑ってくれたか。そっか。……よかった」
 そんなユウスケの情けない姿を見て、少女は堪え切れず笑みを見せる。彼の予想とは違う形ではあるが、目論みはとりあえず成功したようだった。
 ――あねさん。俺、やってみるよ。どこまでできるかわからないけど、何かできるか分からないけど。
 自分の為じゃなくて、人の為。誰かの笑顔を護るために生きてみようと思う。勿論、自分自身の笑顔の為にもさ。
 だから、”あっち”で見守っててくれ。あねさんが誇りに思えるぐらい、みんなを笑顔にして見せるから。ずっとずっと、強くなって見せるから――。
 ユウスケは雲一つない星空を見上げ、その先に居る八代に向かって囁いた。

◆◆◆

「ふぅむ。この写真は士くんのにしては、上手く撮れているなぁ。どぉれどれ。額に入れて飾ってあげるとしますか」
 士たちがユウスケと別れ、写真館に戻った後。栄次郎は士のカメラから写真を現像し、その中に他のピンボケ写真群とは違う”何か”を見つけ、一人、うんうんと唸っていた。

 ――病室で撮影したユウスケの写真。
 いつものように背景こそ歪んではいるが、何故か人物の像だけははっきりとしており、何より、その隣に寄り添って「八代刑事」の姿が写り込んでいたのだ。
 どこか慈愛と優しさ、そして見ている人を笑顔にさせるような一枚。
 栄次郎が額に入れて飾りたいと考えた理由はそこだった。
 そんな中、夏海と士は写真館の玄関先で、この世界のことについて話していた。
「いいんですか? ユウスケを放っておいて」
「いいんだよ。もう俺たちにできることなんて何もない。あいつはあいつで、この世界を引っ張っていけるだろ。俺の役割は、使命は達成されたんだよ」
「この世界の滅びを止める。本当にそれでよかったんでしょうか。これで……」
「いちいちうるさいな。これでいいんだよこれで。それに、俺もなんだか少し、分かった気がする」
「何が、ですか?」
「俺にも何か、思い出さなければならないことがある、ってことさ。そうだなまずは、……”笑顔”、か」
「ちょ、ちょっとちょっと! やめてください士君! なんていうかその、気持ち悪いです」
 笑っているというよりも、ニヤけているその顔を、夏海は気持ち悪いと一蹴する。士自身は納得がいかないようで、何度か頬の筋肉を調整しつつ、その都度違った笑顔を見せるものの、気持ち悪いことに変わりは無かった。
「お前、気持ち悪いって何だよ、気持ち悪いって」
「事実気持ち悪いじゃないですか。なんか目だけ笑ってないし」
「じゃあなんだ。こうしろってか。これならどうだ」
「今度は口角が上がってなくて笑ってるように見えません」
 ”崩壊しかけた世界を救う”。それが本当にディケイドの、門矢士の使命なのかどうかは分からない。しかし士のこの態度に、不格好ながらも楽しそうな笑顔。
 ――これでいいのかもしれない。
 夏海も、口には出せずともそう思えていた。

「おぉ、お帰り士君に夏海。ほぉらほら、見てみなよこの写真。君にしては良く撮れてると思ってさ、
今額の準備をしていたところで……ああっ!」
 写真館の応接間に戻ってきた二人を出迎える栄次郎。士と夏海の方に顔を向けて歩いていた彼は、壁にかかったタペストリーの紐を間違って引いてしまう。

 するとどうだろう。
 上からまた、別の絵柄のタペストリーが垂れ下がってきたではないか。
「えっ!」
「なんだ、こりゃ……」
 今度のものは、どう形容すべきなのだろう。
 闇夜に浮かぶ満月に、ビルの中にめり込んだ謎の”ドラゴン”。
 意味が全く分からない。分からないが――。
「夏ミカン。どうやら、俺たちはまた、別の世界に来たらしいな」
「そう……みたい、ですね」
 クウガの世界を後にし光写真館の面々は新たな世界へと旅立つ。
 そんな彼らを外から見つめる”何者か”がいることに、彼らは全く気付いていなかった。

 ――さぁ、進めディケイド。世界を砕け、壊し続けろ。
 ――その果てにお前は、世界は――。
 ――ふふふふふ、ふはははははははははははは。
 茶色い帽子に、これまた茶色いコートを纏った壮年の男性は、そう呟いて、光のオーロラの中へと姿を消した。

***

 次回、「Journey through the Decade Re-mix」!

 ――”キャッスルドラン”……、『キバの世界』か。

 ――ファンガイアだからって差別するつもりぃ?
 ――んもう〜、親衛隊に言いつけてやるぅ!

 ――なぁ、”ワタル”。『王』になることの、何が不満なんだ?
 ――ぼくには、無理なんだよ。”王”なんて……。

 ――ほぉーらね。”あの子”を連れて来さえすれば、
 ――ディケイドはきっと現れる。言った通りでショ?

 ――共存、だと?この国に生きる人間はな、
 ――皆”鍵の掛かっていない檻の中で、猛獣と一緒に暮らしている”ようなものだ。猛獣と暮らしたい人間がどこにいる?

 ――イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ

 次回、『第二楽章 キバの王子』に、ご期待ください。



※※※

 こちらは、クウガ編全体のあとがきになります。
 小説家になろう・にじファンから出てきた後、自身のブログで再掲載と相成った訳ですが、それを踏まえてこの回を見直してみると、それまで(特に555編以降)との文章のイメージの違いが凄まじかったんですね。稚拙さとか改行の使い方とか話のノリとかひっくるめて。
 なろう掲載時は本編前にまえがきを入れてなんとか誤魔化していたのですが、自サイトで掲載するとなると、新規で読まれる方(がどれだけいるのか分かりませんが)への配慮も無いと行けなくなるわけで、ならばと思い切って一大修正を掛けました。
 修正、と口で言えば簡単ですが、今と昔とで書き方が全然違うため、実際は全文書の八割くらいに手を加え、実質新作を書いて掲載しているような感覚でした。割としんどいです。

 再掲載に当たって、本来「後付け」扱いだった「設定まとめ」の要素を本編に反映させました(その辺の試みは微妙に第一話でもやっていますけれども)。あれはあれで、「クウガの世界・エピソードZERO」みたいなものを書くために作った設定だったので、丸っきり本編と関わり合いの無いものでもなかったのですが、それにしたって「姉さん殺し=ディケイド」みたいなノリが直接本編に絡んでしまうのはどうだったんだろう。
 書き終えた今でも悩んでいます。
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~ Comment ~

NoTitle 

 B-partの感想でも書きましたが、ユウスケの姉殺しの犯人にディケイドの疑いがあるのはクウガとディケイドの因縁を強める良い設定だと思います。士の「破壊者」疑惑も補強出来るのも良いですね。

八代さんが瀕死なのに長々と話すのにはちょっと違和感がありましたが、追加設定の「自殺した女性警官」がアギト世界から運ばれた死体になっていたり、あちこちの修正がストーリーの骨組みをしっかり強化していてすごく良かったです。
特に、己の意志を無視して「究極の闇」の運命を背負わされたというディケイドを思わせるガミオの追加設定と、ユウスケのおかげで変われたと語った八代さんの遺言が素晴らしかったです。

・・・・・・・・しかし、緑川さんは虫モチーフのライダーに会うことが無くて、これはこれで良かったのかもしれませんね。
それでは、また。

NoTitle 

白灰さんコメントありがとうございますです。

どうせ書き直すのならと大がかりにやりました。クウガ編のみ他世界との繋がりが無かったのが気になっていましたので。

女性警官の話はアギト編を書き終えたからこそ出来たんですよね。改めて自分の書いてきた文章の長さに驚きました。ここまでやってたのか……

今後、他の世界がどれくらい加筆修正されるかはわかりませんが、ぼちぼちやって行こうかなと。
では、では。
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