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「二次創作」
わたしのものはわたしのもの。あなたのものも、わたしのもの?

けいおん! 二次創作「わたしのものはわたしのもの。あなたのものも、わたしのもの?」

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 以前、「小説家になろう」で掲載していたけいおんの二次創作です。
 殆ど誰かと誰かが喋ってるだけの短編です。

 澪ムギというジャンル自体は珍しいかも知れないのですが……。

◆◆◆

 ――私立桜ケ丘女子高等学校。ひと学年三組で約三百人の生徒を抱え、都会とも田舎ともない地方都市に位置する学校だ。
 一日の授業が終了し、生徒たちが部活動に精を出す午後四時頃、校舎二階の長廊下を進む少女が二人。一人は艶のある淡麗《たんれい》な黒長髪をこれ見よがしに揺らす、端正な顔立ちの少女。もう一人は彼女の隣に並び立つ、長髪を左右で括った小柄な少女。
 軽音部部員・二年の秋山澪(あきやまみお)と、彼女の後輩にあたる一年の中野梓(なかのあずさ)だ。澪が平均的な女子高生よりもやや背が高いのと、逆に梓がそれよりも小柄であるため、傍目には先輩後輩ではなく、仲の良い姉妹のように見える。
 彼女たちは、次の軽音部のライブの段取りをまとめ、その内容を他の部員に伝えるべく軽音部の部室に向かう最中であった。

「手伝ってもらってありがとうな、梓」
「気にしないでください。唯先輩や律先輩に任せておくと、いつまでも終わりませんしね」
「全くだ。そりゃあ楽しく演奏するのも大事だけど、その為の段取りだってきちっとしてくれなきゃ困る。そう、毎度毎度言ってるのに……」
「あの人たちは根っこがイイカゲンですからねえ。澪先輩のおかげですよ、こうして軽音部が軽音部として機能しているのは」
「私一人の力じゃないよ、梓だって……」

 部室に向かう廊下の中で、二人して愚痴を言い合う。どれも他の部員、ギター兼ボーカル(澪もボーカル担当であるのだが)担当の平沢唯(ひらさわゆい)と、ドラム担当及び部長の田井中律(たいなかりつ)へのものだ。そこには悪意はない。むしろその表情には笑みすら見える。その「ゆるさ」が自分たちの軽音部なのだ、と呆れながらも自覚しているからだ。

 愚痴を言い合い、部室に繋がる階段を上る中、梓は何の気なしに踊り場の窓から校舎の外へと目線を移す。見知った人物が顔を手で覆い、走り去っている場面が見えた。
「おぉい、梓、梓――」窓の外に釘付けとなった梓を不審に思い、澪は彼女の肩を叩いて話しかける。
 梓は驚いて彼女の方に振り向き、括られた両の髪がまるで生き物のようにたわんだ。
「はうっ! なな、何ですか澪先輩!」
「そんなに驚くことないだろ……、外がどうかしたのか?」
「あ……あぁ」指摘されて居住まいを正し、深呼吸を一つして言葉を継ぐ。「“ムギ先輩”ですよ。先輩が顔を覆って学校の外へ出て行ったものだから、つい」
「ムギが、校舎の外に?」澪は顎に指を乗せ思案を巡らす。「唯と律と一緒に部室にいる筈だし、出て行く用事なんて無かったと思うんだけど……」

 ムギ先輩。
 梓の先輩で、澪の同級生「琴吹紬(ことぶきつむぎ)」のことだ。腰辺りまで伸びたクリーム色の長髪に、かつての平安貴族を思わせる「太眉」が特徴的な軽音部部員。幼い頃からピアノを習い、部ではキーボードを担当し、その手腕を存分に振るっている。
 お嬢様らしい柔らかな物腰と端正な顔立ち、その上澪にも匹敵し得るスタイルの良さで、誰からも好かれる美少女だ。
 そんな彼女が、普段滅多に怒らない紬が、泣き顔を隠して走り去る。にわかには信じがたい光景だ。
 自分の思い通りにならず可愛らしく頬を膨らませたり、いたずらっぽく歯軋りをするくらいならたまに見るが、涙に頬を濡らす紬の姿など想像もできない。一体何故? どうしてこんな?
 二人が何故なのかと思案する中、その原因と思しき二人の少女が、自分たちの前を通り過ぎた。
「ムギちゃーん! 待って、待って! ムギちゃぁーん!」
「悪かった! あたしが悪かった! ……何が悪かったかわかんないけど、兎に角悪かったッ! だから許して! おねがい! ねっねっ、ねぇッ!」

「……先輩たちですね」
「やっぱりあいつらか……梓、追うぞ」
 澪と梓は二人を追い、廊下で彼女たちの首根を掴んで取り押さえた。
 唯と律は苦しげに咳払いをした後、振り向いて澪たちの顔を見る。
「あァずにゃああああん! わたし、何にも悪くないよね? 悪くないんだよねェ!?」
「みおー! なんとかしてくれよぉ……ムギが、ムギがァ」
 唯は目に涙をたっぷりと溜めて梓の足に絡み付き、律は鼻水をだらしなく垂らし、澪に抱きつく。
二人はそれぞれ彼女たちを引き剥がし、「何かしたんじゃないか」と言いたげな顔で問う。
「わかったわかった。唯も律も少しは落ち着けって」
「一体何かあったんですか? っていうか二人とも、ムギ先輩に何をしたんですか?」
「むぅ、酷いなぁあずにゃんは!」唯は頬を熟れた林檎のように膨らませる。「わたしたち何もしてないよ、ねぇりっちゃん?」
「えッ!? あっ、あぁ……そりゃそうさ。何もしてないぜ、何も」
 口ではそう言うが、律の目は明らかに泳いでいる。澪は彼女の額に軽い手刀を浴びせて両の頬を掴み、律の目線を強引に自分の方へと向けさせた。
「何もしてないのにムギが泣いて走っていくわけないだろ。何か隠してるんじゃないか? 私の目を見て答えろ、さぁ、さあ」
 凄まじい剣幕に気圧され、律は震える声で答える。「ひっ、人聞きの悪いこと言うなよ澪ォ、ムギに対して後ろめたいことなんて何もないぞ。隠すようなこともないし。なぁ、唯?」
 その問いに唯は何も言わず首を縦に振る。「後ろめたいことは無い」、そのこと自体に嘘は無さそうだ。
 だが、理由もなく泣いて出て行くというのもおかしな話だ。「隠すことが無いならそれでいい。だったら何があったか、包み隠さず私たちに話してくれよ」
「うん、えっとね……あれは澪ちゃんとあずにゃんが出てってから少しあと、なんだけど……」

◆◆◆

 放課後の桜高軽音部部室。澪と梓が居ない今、残された三人は紬の持ってきた紅茶とケーキを肴に、とりとめのない会話に花を咲かせ、ライブの話どころか、練習もしないで怠けていた。
 勿論、ライブを成功させたいという気持ちはある。あるにはあるが、それ以上にこの怠け、彼女たちの言葉で言うならば、“ティータイム”は軽音部にとって大切なものなのだ。
 とは言え、この時点でライブのことを考えているのは、お茶菓子を二人に提供している紬ただ一人であるのだが。
 発端は、紬が彼女たちにある話を振ったことにあった。
「唯ちゃん律ちゃん、楽しみねぇ、今度のお買いもの」
「お買いもの?」
「なにかあったっけ?」
 何だそれはと首を傾げ、思い出そうと腕組みをする唯と律。
 紬は「何言ってるの」と優しげな口調で続ける。
「みんなで軽音部の備品を買いに行くって、先週から話してたじゃない」
「びひん……」
「あ、そうか! 明日、明日ァ……」
 二人ははっとして立ち上がる。しかしどうも様子がおかしい。目線は安定せず泳いでおり、汗が額から零れ落ちた。”約束を思い出して”の驚き方にしては不自然だ。
「あぁー、あぁ! そう、そうだっけ!」
「唯ー、お前はひどいやつだなー。”明日”の買い物のことを忘れるなんて」
 苦し紛れの返答に、紬は悲しげな表情を作って答える「律ちゃん……お買いものは”あさって”って言ってたはずなんだけど」
「あぇっ!?」
「二人とも……ひどい」紬はわざとらしく顔を覆うが、怒った訳ではない。こうすることで唯たちの反応を見て楽しむ、彼女なりの“いたずら”と言うところだろう。
 案の定、唯は戸惑い顔で謝ってきた。「ごご、ごめんねムギちゃん。別にわたし、悪気があったわけじゃないよ」
「ほんとに?」覆った手を下にずらし、上目遣い気味に言葉を紡ぐ。罪悪感を感じて平謝りをする唯を見て、申し訳なく思う反面、優越感もあった。
「あ、あたしもだぞ! ごめんなムギ!」続いて律も紬に頭を下げる。自慢のおでこが部屋の光に反射してきらりと輝いた。
 その上で彼女は、後ろめたそうな口調で言葉を継ぐ。「でも、でもさぁ。酷いついでに、ひとつ……いい?」
「何?」
「ごめん、ムギ! その……買い出しなんだけどさ、明後日は”隣のクラスの子”と約束があってさ。行けそうにないんだ」
「え」紬の表情が一気に曇った。先程までのいたずらっぽさも無くなっている。
 律の一言で思い出したか、唯も手をぽんと叩いて彼女の言葉に続く。
「あさって? ……あぁ、あぁ! 思い出した! わたし、その日は中学の友達と久しぶりに会う約束してたんだった! わすれてたぁ。ムギちゃん……えと、あの、その……ごめんなさい!」
「……え」

◆◆◆

「……それで?」
「それだけ」
「それだけですよォ。そのまま目に涙をぶわー…ってためて。で、出て行っちゃった」
 紬が何故目に涙をため、校外に出て行ったのか。唯たちの話からは窺い知れない。ならば、その原因とは一体何なのだろう。
「……わけがわかりませんね」
「約束をすっぽかされたことに腹を立てたってのか? あのムギが?」
「ムギ先輩に限って、そんな」
 二人の会話に割り込み、唯が声を上げる。「だよね、だよね! あずにゃん! わたしたち、何も悪いことしてないんだよねッ」
「あたしも」
「先輩たちは黙っていてください」
 自分たちは悪くないと必死にアピールする二人を、梓は冷ややかな口調と言葉で封殺する。唯と律は肩を竦めてその場にうなだれた。
 澪は顎先に親指を乗せて思案を巡らし、「何にせよ、放っておく訳には行かないな。探しに行こう。梓、一緒に来てくれるか」
「了解です」
 今まさに動き出さんとした二人を、唯と律が呼び止める。「澪ちゃん、わたしも行くよ」
「ずるいぞ唯! あたしだって」
 そんな唯たちを澪はだめだと言葉で御した。「お前たちは部室で待ってろ。原因が全く読めないんだ。今はち合わせして、またこじれでもしたらどうする」
「うぐぅ……」
「先輩たちの気持ちもわかります。けど、先輩たちじゃあムギ先輩の説得は無理ですよ。ここは私たちに任せてください」
 梓の言葉に、唯と律は静かに首を縦に振る。悪気は無いし今直ぐに謝りたいのだろうが、泣いて逃げる理由が分からない以上、自分たちにはどうしようもないと理解したのだ。
 澪と梓は項垂れて窓際の壁に寄り掛かる二人を残し、桜高の校門を出て行った。

◆◆◆

 夕暮れ時の桜校近辺の市街地。
然程大きいわけではないが、買い物帰りの主婦層の数が多いこともあり、人一人を探すと相当骨が折れる。
 澪と梓は息を切らせ、紬が行きそうな場所を虱潰しにあたる。部活の後にたびたび立ち寄るファーストフード店、駅前のゲームセンター、駄菓子屋……、彼女はどこにも居ない。
 手分けして探していた二人は、駅前のロータリーで落ち合い、状況を報告し合う。勿論、その周辺も捜索し、駅員にも紬の特徴を伝えて訊いたが、結果は見ていないの一言だけ。その他利用者からも同じ答えが返ってきた。
 オブジェらしき造形物に寄り掛かり、息を整えつつ梓が言う。「でも……信じられませんね、ムギ先輩が”いきなり”、『何も言わずに』出て行くなんて」
「唯に律の説明だしなぁ、色々と抜けてる部分はあるんだろうけど。それにしたっておかしいのは確かだ。両方合わせて本人の口から直接訊いてみないことには……」
「そう。ですね……じゃあ私、このまま南通りの方を回ります。澪先輩は北側を」
「任された。そっちは頼んだぞ」
 電車を利用していないとすれば、まだ街のどこかに居る可能性は高い。二人は探索範囲を更に広げた。

 梓と別れて数十分ほどが経過。紬の行方は未だ知れない。梓からの連絡も無し。
 街外れの河原まで探索範囲を広げた澪は、そこで足を止めて土手の芝生に腰を下ろし、どうすれば見つけることができるのかと、一人思案を巡らせた。
「連絡は無し。手掛かりもゼロじゃあさすがに無理……か? もしかしたらもう、家に帰ってるかもしれないしなぁ。考えたくはないけど――」
 ふと、自分の右隣りに目をやる。自分と同じ制服を着た少女が河原に座りこんでいた。
 腰まで届くクリーム色の髪。顔を見れば真っ先に視界に飛び込む太眉。
 琴吹紬。その人だ。灯台下暗しとはこういうことを言うのか。

「むーぎっ。ムギっ」彼女の耳元であだ名を囁いた。返事がない。目の前で手を振ってみる。反応がない。頬をつねってみた。ぷにぷにと柔らかい感触が心地良い。
 はてさて、どうしたものか。澪は辺りを見回し、ジュースの自動販売機を視界に見込むと、その中から”レモンスカッシュ”を一本購入し、紬のうなじに押し付けた。

「……ひゃっ!」
「おーい、ムギー」
 これにはさすがに反応したようで、彼女は自身の背後に立っていた澪の存在に気付いた。
 紬は取り繕うように微笑むと、おどおどとしつつ答える。
「あ……あぁ、びっくりしたぁ、いきなり目の前がまっくらで、ヒエヒエで」
「唯たちから聞いたぞ?何にも言わずに泣いて走って、どっかに行っちゃうなんて……ムギらしくない」
「……」澪は紬の無事を喜ぶが、肝心の彼女は口をつぐんで、何も答えようとしない。

「そう……か。ま、見つかってよかったよ。とりあえず梓に連絡を――」
 一緒に探している梓に連絡を取るべく、澪は携帯電話を手に取るも、紬の長く細くしなやかな指に阻まれ、彼女の携帯電話を奪って自身の上着のポケットに仕舞い込む。
 通話を、外界との交信を断ち切らせたのだ。
「な、なんだよいきなり。返してくれないか」
「ごめんなさい。今は……待って」
「何で?」
 意味がわからない。
 一連の不可解な行動に返答を求めるが、紬は唇をぎゅっと結んで押し黙ったまま。澪はわざとらしく溜息をついた上で、紬の肩を軽く叩く。
「ここまで来てだんまりか? でも、言ってくれなきゃ誰も分かってくれないぞ。一応二人から事情は聞いてる。力になりたいんだよ。話して……、くれないか?」

 澪の優しい言葉に後押しされたのか、紬は体育座りのまま顔を足に埋め、はにかみながら答える。
「その……えと……、うん。……はずかしい、から」
「恥ずかしい?」
「二人から話を、聞いてるのよね? わけがわからなかったでしょ? ……別に、ね。唯ちゃんや律ちゃんが約束をすっぽかしたことなんて、どうでもよかったの。お買いものなら、また別の日に行けば済むことだったし」
「なら、なんで」
「二人が……、その日に”わたしの知らない子と遊ぶ”って聞いた時、胸のあたりがきゅう……っと締め付けられて、なんだかとっても嫌な気分になったの。それで……」
 ――”胸がきゅうっと”、『嫌な気分』、か。
 病気でもないのにそういう風に感じる理由は二つしかない。
 だが、紬の場合は、一般的な方の理由にはなり得ないだろう。幾ら『女の子が好き』だとはいえ。
 ならばその理由とは何か。澪は少し考えると、「恋煩《わずら》い……なわきゃないか。だとしたら、”独占欲”ってやつ?」
 紬は芝生の草を指で弄り、少し間を置いて答える。
「そうなのかも、しれない。怖くなったの。ふたりが……、いや、澪ちゃんも梓ちゃんも、わたしから離れちゃうんじゃないかって。馬鹿みたいよね。そんなどうでもいいことで、こんなキモチになっちゃうなんて」
 不安げにそう答えた紬に、澪は少し微笑んで答える。
「別に私は気にしないよ。でも、意外だな。ムギが一番強そうだって思ってたんだけどな。そういうのに」
 僅かでも、彼女の助けになってあげたい。そう思って紡いだ言葉。しかしそれを聞いた紬は、憤怒の意を込め、声を荒げた。
「わかってない。……全然分かってないわ澪ちゃん。わたしね、軽音部のみんなと出会うまで”ともだち”らしい友達、ひとりもいなかったの」
「ま、またまたぁ……ムギに限ってそんな」
 紬の口調が更に鋭く、冷たくなった。たじろぐ澪を尻目に、彼女の話は続く。
「本当のことよ。それは、人並みに受け答えは出来るし、みんな嫌いだってわけじゃないわ。
 でも……昔から、昔からそうだった。わたしとする話はみんな家のことばかり。男の子や女の子から告白されたこともあったわ。でも、それも家のこと絡み。
 そういうこともあってか、避けられることだってたくさんあった。みんな、わたしのことを見てくれない。わたしのことを話してくれない。それが怖くて恐くてたまらないの。
 だから、軽音部のみんなが、”ふつうに”接してくれることが、何よりもうれしかった。でも、だからこそ! みんなが、軽音部のみんなが……わたしの知らないところに行ってしまうのが――」
「許せない、ってことか?」
 図星を突かれ、紬は俯《うつむ》いて押し黙る。黙ったまま何も言わないので、澪が代わりに言葉を接ぐ。
「嫉妬に狂い、自分が恥ずかしくなって逃げ出した。そういうこと、なんだな」
「嫌ってもらったって構わない。なんだか……、なんだかもう、自分が許せないのよ」
「そんな、別にわたしは……」
「嘘! うそよ、嘘でしょ!? ほんとは澪ちゃんだってわたしのこと、家のことを鼻にかけた嫌な子だって思ってるんでしょう!?」
「おいムギ、お前……」
 ――ムギが、キレた。
 隣に座る澪に寄り掛かり、欲しいものを買ってもらえず喚き散らす子どものように、両手で彼女の体をぽかぽかと叩く。痛くはないが、紬の“心の”痛みは嫌というほど澪に伝わった。
「同情しないで! 分かったような口聞かないで! 何も知らないくせに、何も分かろうとしないくせに!」
 一発ごとに彼女の痛みが、心の闇が、悲痛な叫びが、澪の心にこだまして突き刺さる。もう、たくさんだ。
「あぁもう……落ち着け!落ち着けって!」
 ――ぺちこーん。
 澪は自分に寄り掛かる紬の頭目掛け、軽い手刀を放った。頭をはたかれ、力のやりどころをなくした紬の両腕を脇で挟み、無理矢理彼女の動きを止める。
「………あぁ、あ」
 澪はその時、初めて紬の顔を見込んだ。目に涙を一杯に溜め、顎まで届くほどだらだらと流れた鼻水。辛かったのだろう。苦しかったのだろう。
 慰めの言葉を、そんな彼女に笑顔を取り戻させる言葉を、果たして自分は掛けてあげられるだろうか。澪は心の中で必死に頭を巡らせ、思案する。
 意を決した澪は、紬の頭を優しく摩りつつ口を開く。言葉一つ一つを頭の中から絞り出すように。少しでも彼女の心に届いてくれるように。
「泣きたい気持ちも、ムギがどれだけ軽音部が好きなのかもよく分かった。けど……、今は落ち着いて、私の話を聞いてくれないか?」
「澪ちゃんの……はなし?」
 泣き止んだ紬の顔を見、澪は軽く頷いて微笑んだ。
「”人は独りきりでは生きていけない”。よく聞く言葉だろ? 私も何度か、この言葉の持つ意味に助けられてきた」
「それって律ちゃんのこと?」
「そう……って!」澪は顔を赤くし、手を顔の前でぶんぶんと振る。「あぁもう、話の腰を折るなよぉ。……続けるぞ。でも、”人は一人きりでは生きていけない”って言葉にはさ、『続きがあるんじゃないか』って、私は思うんだ」
「……つづき?」
 紬は澪の顔を覗き込むようにして答える。少し恥ずかしくなったのか、澪は目と目を合わせないようにして続ける。
「そ、そう。つづき。わたしはその先、こう続いていくんじゃないかと思ってる。”でも、ずっと一緒にはいられない、なれない”って、さ」
「……?」紬は何も答えなかった。言葉の意味を深読みして、考え込んでいるとでもいうべきか。焦りを覚えた澪は、難しい顔をし後ろ手で頭を掻いた。
「意味ありきで分かりにくかった、か? ……なんというか、その。
 人は一人だけじゃ楽しいことも嬉しいことも、辛いことも悲しいことも分からない。自分の隣に誰かいるからこそ、生きてるって楽しい、って思うだろ? だからこそ、こんな言葉が生まれたんだと思う。
 でも、それで終わりってわけじゃない。私たちはひとりひとり、”違う”人間なんだ。違うからこそ、一緒にいて楽しいけれど、ずっと一緒にはいられない。家庭の事情だとか、夢とか、考えの違いとか――さ」
 紬は何も言わず首を縦に振る。
「軽音部だって今はこうして仲良くやってるけど、大学に入学するとなるとどうだ? それも終わって、就職するとなるとどうだ?みんな違う道を行って、そこでまた新しい人たちと仲良くなる。それは自然なことだし、止めることなんてできない。それがさ、自分とは”違う”人たちの中で生きる、ってことなんだから」

「でも……わたしは……むぐぐ」言い返さんとする紬の口を強引に塞ぎ、話を続ける。
「ここまできたら私の言いたいこと、いい加減分かってきただろう?
 怖がらないで。人にどう思われているのかばかり気にしないで。手を伸ばしてみるんだ。ほんの少しでいいから、軽音部以外の人に向けてさ。
 ムギがどんな子で、どんなことを考えてて、どんな気持ちなのかは私たちがよぉく知ってる。だから、思う存分自分を出してみなよ。きっと、今よりも世界が広がって見えるから」

「澪ちゃん……。でも」
「怖いか? そりゃそうか。私だってそうだったから」
 澪は紬の顔を見つめて言葉を紡ぐ。
 ”紬の顔を”、という言葉は間違いなのかもしれない。彼女が見ていたのは紬ではなく、彼女に重ね合わせた”過去の自分自身”だったのだから。
「えっ?」
「えっ、ってことはないだろ。……自慢じゃないけど、私だって律がいなけりゃ、今のムギみたいになってたかもしれない。それでも私は、秋山澪はここにいる。ムギの前にいるわたしは、お前から見てどう見える?」
「……かっこよくて、みんなから好かれてて、わたしの……憧れ」
 紬の言葉に頬を赤らめつつ、「そっか。……でも、私だって、ムギに憧れてるんだぞ?」
「えっ!? そんな、私なんて……」
「おしとやかで、いつも微笑んでいて、とっても可愛い。私は、ムギみたいな女の子になりたいって、いつも思ってた。だから、そんな子が近くにいるのが嬉しいし、ちょっと悔しいな、って思う」
「……ありがとう、でも」

 ――歯の浮くようなお世辞だ、とでも取られただろうか。
 ならばそれでも構わない。疾しいことは何もない。自分はムギをいつも、そうした目で見ていたのだから。澪は凛とした顔で紬を見つめ、彼女の言葉を遮った。
「嘘とか出任せだって言いたいのか? あまり私を買い被らないでくれよ。嘘つくのも世辞を言うのも苦手なんだから」
「そうね、その通り。……澪ちゃんの嘘、わかりやすすぎるもの」
 紬の表情が緩んだ。澪の言葉が、心が彼女に届いたのだ。
 澪は朗らかに微笑む。心中では表情以上に微笑んでいたに違いない。
「なぁ、ムギ。お前がさ、軽音部に入ったおかげで世界が変わったっていうのなら、今度は自分の力で、自分の自由な翼でその世界を飛び回ってみたらどうだ? きっと、今以上に素敵な景色が見られると思うからさ」
「みお……ちゃん」
「なんだ?」
「それはちょっと……はずかしくない?」
「えっ!? 何が! 何、何!? 私何かスベってたか? なぁ、なぁ!」
 澪の口から突然飛び出した、唐突で、叙情的な台詞。
 紬はあまりのことに一瞬きょとんとし、間を置いて笑いだした。
 しかし、澪は何故笑われたのかわからない。自分では最高にかっこいい台詞を口にし、紬を立ち直させたと思っているからだ。
 どこまでも優しくて、どこか人と感性がズレている少女。それが秋山澪という少女の本質なのだ。
紬にはそれがおかしくて、楽しくてたまらなかった。
「ふふっ。……あははははっ」
「なんだか複雑な気分だけど……、やっと笑ったな。ムギ」
「そうね、そうみたい。唯ちゃんと律ちゃんに謝ってこなきゃね」
「いや、待ってくれムギ」
 腰を上げて河原を立ち去ろうとする紬に対し、澪は彼女の制服の袖を引っ張って留める。その上で、かのレモンスカッシュを彼女に手渡した。
「そのままにしといたほうが、あいつらにとっていい薬になるんじゃないか? 」
「でも、あのままじゃ二人とも」
「だーかーらー、いいんだって。あいつら、放っておくとムギに頼り切りになるからさ。少しはムギがいないことの辛さ、解らせてやった方がいいと思う」

「澪ちゃんって、意外といじわるなのね」
「ムギが優しすぎるだけだって」
 川に落ち行く夕日を眺め、一本のレモンスカッシュを交互に回し飲みをして分け合う。
 言葉にすると陳腐になりそうな程美しい夕陽だった。それに気を取られ、『関節キス』をしていると気付かないほどに。
「澪ちゃん……これ」
「あ」
 二人の頬が、落ち行く夕焼けよりも赤く染まった。

◆◆◆

 それから数日が経った。琴吹紬は自身の机の周りにクラスメイトたちを集め、取り止めの無い会話を楽しんでいた。
 おしゃれのこと、趣味のこと、勉強のこと。話す話題はいくらでもある。心底楽しそうにしており、対人関係で思い悩んでいたあの姿が嘘のようだ。
 唯と律はそんな紬の様子を、不機嫌そうな顔で見つめている。
「なーんか、最近のムギちゃん。連れないよねー」
「あぁ。なんかつまんないよなぁ。他の子とばっかりたのしそーに」
「でもさ、でもさ。楽しそうだよねー。今までがそうだった、ってわけじゃないけど、なんていうか――イキイキしてる? みたいな感じ」
「あ。それ、あたしも思った。最近のムギ、つやつやしてるよなぁ。お肌も眉毛も。よぉーし唯! あの人だかりに突撃だー」
「がってんだー」

「……ムギ先輩、もう心配なさそうですね。一時はどうなるかと思いました」
「だな。やっぱり、か」
 そんな様相を教室の外から眺める二人。梓と澪だ。
 彼女たちは紬の周りに集まる女生徒の中で、もみくちゃにされる唯と律を見て笑っていた。
「そういえば。ムギ先輩が立ち直ったのって、先輩が連れ帰ってきてからでしたよね。何があったのか、教えてくださいよ」
「なーいーしょっ」
「いいじゃないですか、私にも教えて下さいよぉ」
「ダメだ。私とムギだけの秘密なんだから」
 澪はいたずらっぽく笑うと、背中で腕を組み、梓と逆の方向を向いた。猫じゃらしに夢中になる仔猫のように、彼女の周りを回る梓。
 傍目から見ると、無邪気な飼い猫とそれをじゃらす飼い主のようにも見える。

「あっ! 澪ちゃんが来てるよ」
「何!? 澪だって!?」
 だが、それがいけなかった。梓と共にじゃれているのが二組の面々に見付かってしまったのだ。
 ――やばいやばいやばいやばい。みんなめちゃくちゃこっち見てる。
 ――うわっ、こっち来てる。いや、いやいや、無理無理無理ッ!
 ――おい待てムギ! なんでお前まで私を掴むんだ! やめろ、やめろ! やめて……ください!

※※※

けいおん!!」放送開始直後あたりに書いた二次創作。そのブラッシュアップ版です。
 元が殆ど台詞で構成された雑なお話だったので、修正に相当苦労させられました。直ってるようで直ってないような箇所も多いのですが……。
 本当は律ちゃんの二次創作を書きたかったのですが、律ちゃんを主役に据えて面白い話を書くことが出来なかったので、ならば「私生活や過去に謎の多いムギを」と思い執筆しました。
 とか何とか言ってますが、結局は自分の書きたいことを澪やムギに代弁させているだけのような気がしないでもないという……。

 なお、前述の通り「けいおん!!」放送前に執筆した関係で、「大学生編」にて描かれた斉藤菫さん関連の記述やら設定は一切反映されておりません。
 構成やり直すべきだったのかなぁ……。
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